|
新自由主義「成長戦略」と日米韓臨戦体制を撃つ共同の闘いを!
|
「平成の開国」とは何か?
菅直人首相は一月二四日に召集された第一七七通常国会の冒頭に施政方針演説を行った。
菅首相は施政方針演説のはじめに、彼の「国づくりの理念」として「平成の開国」、「最小不幸社会の実現」、「不条理をただす政治」の三つを掲げた。彼は「世界中が、新しい時代を生き抜くにはどうすればよいか模索」している、「日本だけが経済の閉塞、社会の不安にもがいているわけにはいかない」として、「内向きの姿勢や従来の固定観念から脱却」することを訴え、「勢いを増すアジアの成長を我が国に取り込み、国際社会と繁栄を共にする新しい公式を見付け出す」と宣言した。そのために最初に打ち出されたのが「平成の開国」というキャッチフレーズである。
「明治の開国」、「戦後の開国」に続く「平成の開国」とは何か。それは「包括的な経済連携」の推進に向けた「貿易・投資の自由化、人材交流の円滑化」という新自由主義的グローバリゼーションに基づく「成長戦略」にあくまでしがみつこうとするものに他ならない。菅は「この一〇年、二国間や地域内の経済連携の急増という流れには大きく乗り遅れてしまいました」との危機感から、「包括的経済連携」(EPA)推進合意を昨年のインド、ペルーから、今年はオーストラリア、韓国、EU、モンゴルとの間でEPA協定交渉の再開、立ち上げを行い、さらに米国などとの協議の上で貿易・投資などについての完全な関税や非関税障壁を含むあらゆる規制の撤廃を前提とする「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)交渉参加について六月までに「結論を出す」と語った。
これは事実上のTPP参加宣言である。すでに菅内閣は消極論を押し切り、その方向に大きく舵を切って進んでいる。しかし、おもに農業関係団体からのTPPへの反発が強力になされているために、例外なき全面的自由化であるTPPとは異なり当面農産物の全面自由化については棚上げすることも可能なEPAを先行させて時間稼ぎをするという意図も見えている。
菅内閣にとって「平成の開国」という全面的な貿易・投資の自由化、市場開放・規制撤廃は、バブル崩壊以後の日本経済と社会の「失われた二〇年」からの反転をはかり、二〇〇八年の世界的な金融・経済・財政危機に直撃された資本主義経済の歴史的危機の中で、その出口を新自由主義的な「成長戦略」に託そうとする財界=大ブルジョアジーの意向に全面的に沿ったものである。
生活と環境破壊するTPP
EPA、TPPの推進を掲げた菅内閣の「平成の開国」、「新成長戦略」は、「法人実効税率の五%削減」に端的に示される露骨な大企業優遇税制を背景に、世界資本主義の新たな成長センターとしてのアジア市場に向けた国家を上げた取り組みとして強調されている。
菅の施政方針演説は述べている。
「鉄道や水、原子力などのパッケージ型海外展開、ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)の供給源確保は、閣僚による働きかけで前進しています。私自らベトナムの首相に働きかけた結果、原子力発電施設の海外進出が初めて実現します。米国、韓国、シンガポールとのオープンスカイ(航空自由化)協定にも合意しました。こうした行動に産業界も呼応し、一〇年後の設備投資を約一〇〇兆円とする目標が示されました。新事業と雇用を創造する野心的な提案を歓迎します」。
GDPにおいて日本を追い越し世界第二位となった中国のアジア諸国への猛然たる経済的進出に完全に取り残されることに危機感をつのらせている日本の支配階級は、ETA・TPPを突破口に軍事面だけでなく経済・貿易においてもアメリカの傘に入ることを通じて発展するアジア市場に生き残りの道を見いだそうとしており、グローバルな日米同盟とTPP参加は表裏一体の関係にある。
TPPによって日本の農業が壊滅的な打撃をこうむり、農水省の試算でも日本の食料自給率は現在の約四〇%から一四%にまで激減するとされている。しかしそれは決して農民だけの問題ではない。TPPに代表される新成長戦略が、輸出国・輸入国の農業のあり方、環境と食の安全、環境、社会システム、生活基盤、雇用、労働条件を破壊し、貧困と飢餓、人権破壊などなどを引き起こし、人びとをいっそうの不安定の中で「底辺への競争」に駆り立てることは、この間の新自由主義グローバル化が何を引き起こしたかによって鮮明ではないか。
TPP推進は、まさに労働者や農民の犠牲の上に「南」の資源を収奪し、農業生産をアグリビジネス資本の利益によって輸出用に特化させ、原発や水ビジネスで人びとの生活を破壊する大資本の投資を保障していくための生き残り戦略なのである。
不公正・不条理の再生産
菅首相の施政方針がうたっている「国づくりの理念」の第二は「最小不幸社会の実現」である。菅はこの中で「失業、病気、貧困、災害、犯罪」などの「不幸」を列挙し、「社会保障の充実」を約束している。しかしその前に立ちはだかる困難が深刻極まる財政危機であり、この危機を解決するためには「国民の皆様に、ある程度の負担をお願いすることは避けられない」。そこで「今年六月までに社会保障改革の全体像とともに、必要な財源を確保するための消費税を含む税制抜本改革の基本方針を示します」と語っている。端的に言えば消費税率大幅値上げの宣言である。
大資本のために法人税率を引き下げ、さまざまの企業優遇税制を温存したまま、一言で言えば税の社会的不公正や所得の不公正な配分のあり方に手をつけないまま、財政危機の解決を低所得層に不利な消費税率の大幅引き上げによって実現しようという大衆収奪路線がそこには貫かれている。財政危機の深まりは、同時に大企業の利潤のかつてないほどの蓄積と労働者の実質賃金の一貫した低下を伴って進行した。大企業への税が引き下げられる一方で、さまざまの社会支出は切り下げられた。労働者民衆の所得低下に社会保障の切り捨てが加重され、貧困率は急速に上昇した。
菅の施政方針演説を貫く根本理念は、昨年六月に首相となって最初の所信表明演説で述べた「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」の論理に示されているように、社会保障は「強い経済」すなわち「成長戦略」の従属変数だとするものである。しかし今日の資本主義経済の危機そのものが数字の上での「成長」の派生効果として雇用・賃金が上昇に転じ、社会福祉も実現されるという主張が全くの虚偽であることを明らかにしている。
菅は「国づくりの理念」の第三として「不条理をただす政治」を挙げた。彼は施政方針演説の中で「『無縁社会』や『孤族』と言われるように、社会から孤立する人が増えています」と述べ、こうした社会的孤立の問題に取り組み、「社会的包摂戦略」を進めるとも語っている。しかしそうした社会的孤立を加速したものこそ小泉・竹中の新自由主義的「構造改革」戦略だったのであり、それがもたらした貧困・格差・社会的排除と孤立の深刻化こそ二〇〇九年総選挙における民主党の地滑り的勝利の最大要因だった。「平成の開国」という大企業のための「成長戦略」を掲げて事実上小泉戦略を再現しようとしている菅内閣の路線は、この「不条理」と社会的排除・孤立化を再生産する結果しかもたらさない。
必要なことは「成長戦略」ではなく、資本の利害と対決し平和・公正・人権・環境・民主主義のために政治・社会・経済システムの根本的変革に挑戦しようとする労働者民衆の闘いであることをわれわれは改めて確認しなければならない。
「新日米同盟宣言」に反撃を
菅首相の施政方針演説は、外交・安全保障政策の項で「日米同盟の深化」を第一に掲げ、「日米同盟は、我が国の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず世界にとっても安定と繁栄のための共有財産です」と打ち出した。そして「今年前半に予定される私の訪米時に、二一世紀の日米関係のビジョンを示したいと思います」と、一九九六年五月の「日米安保共同宣言」に替わる新「日米同盟宣言」の発表を公言した。
沖縄に関しては「負担軽減」の甘言を幾つも積み重ねつつ、「普天間飛行場の移設問題については、昨年五月の日米同盟を踏まえ、沖縄の皆様には誠心誠意説明し、理解を求めながら、危険性の一刻も早い除去に向け最優先で取り組みます」と、事実上、辺野古新基地建設の既定方針を微塵だに変更しない居直りの姿勢を確認したのである。
注目すべきは、鳩山前内閣の看板のひとつだった「対等な日米関係」という言葉が、昨年六月の菅首相の最初の所信表明演説と同様に完全に消え失せ、「アジア太平洋諸国関係」の項においても、昨年六月にはお題目的に残っていた「東アジア共同体」という理念が、もはや言葉としてもなくなってしまったことである。
菅演説では中国との「戦略的互恵関係」について言及しつつ「同時に中国には、国際社会の責任ある一員として建設的な役割りを果たすよう求めます」とのあいまいな言い方にとどめている。しかし昨年一二月の「防衛計画の大綱」にふれながら、「新大綱に沿って、即応性や機動性等を備え、高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力の構築に取り組み、いかなる危機にも迅速に対応する体制を整備します。その際、南西諸島、島しょ部における対応能力を強化します」と強調していることは、明らかに「尖閣諸島」問題を通じて緊張を深めた中国との関係、あるいは朝鮮民主主義人民共和国との関係で、日米・日米韓の軍事同盟関係を実戦的に強化する方針を再確認したものである。
新防衛大綱は、明らかに自公政権当時よりも、「専守防衛」の「基盤的防衛力」構想の放棄、「武器輸出三原則」の緩和、集団的自衛権行使の容認、海外派兵の恒常化・派兵恒久法制定への動きなど、米軍と従属的に一体化し、韓国、オーストラリアとの軍事協力など大きく一歩踏み込んだものになっている。
われわれは中国との対抗的関係におけるTPPへの参加、あるいは日米同盟の「深化」路線など、菅民主党政権下において中国の政治・経済・軍事的影響力を意識した米国への依存が強まっていることに注意する必要がある。
根本的変革こそ必要だ
菅直人首相の施政方針演説は、「衆参ねじれ国会」と小沢問題を軸にした民主党内の路線的対立の激化の中で、菅内閣がますます自民党、公明党などの旧政権与党と政策的に寸分違わない路線を採用していることを示した。
とりわけTPPや消費税率引き上げを中心にした「税制・社会保障一体改革」問題について、菅の施政方針演説は自民、公明両党との政策的同一性についてわざわざふれ、「議論」を呼びかけるものになっている。
一七七通常国会は二〇一一年度予算と同関連法案をめぐり、自民党、公明党が対立姿勢を強め、予算案が成立しても同関連法案の成立がおぼつかない状況も予測される。自民党は菅内閣に対して「解散・総選挙」に追い込む姿勢を鮮明にし、公明党も当初は予算関連法案の成立に柔軟な立場を取っていたが、その後容易には法案成立に協力しない方針に転じている。こうして袋小路に陥った菅内閣は、かりに予算関連法案が成立せず予算の執行が困難に陥った場合、さらに四月地方選で民主党が予想通りの大敗を喫した場合には、首相交替あるいは解散に追い込まれる可能性も浮上するだろう。
しかし自公両党にとってのネックは、TPP・消費税・日米同盟など財界も支援する菅政権の基本政策において、ほとんどの点で菅政権への対案を持てないところにある。激しい非難の応酬の背後での政策上の一致というこの現実は、グローバルな資本主義の危機に対応した議会政治の機能不全を余すところなく明らかにしている。
この現実を変える道は、労働者・市民自身の運動によってのみ切り開かれる。四月地方選、沖縄の反基地闘争に呼応する闘い、TPP批判のキャンペーンなど一連の行動を繰り広げ、流動する政治・社会の中で根本的な変革のための討論と運動を意識的に作り出していこう。 (平井純一)
拡大する北アフリカの民衆決起
ムバラク体制打倒せよ
エジプト民衆と連帯を
チュニジアの民衆革命の炎は、中東の大国エジプトに波及した。前大統領サダトの暗殺後三〇年以上にわたって非常事態宣言を継続し、治安警察による独裁体制を敷いてきたムバラク政権に対する民衆の怒りが一挙に爆発した。一月二五日から始まった、言論の自由を求め、腐敗追放・ムバラク独裁打倒を掲げたデモは全国に波及した。ムバラクは自由と権利、民主主義を求める民衆の怒りのうねりに対し、徹底的な弾圧で応え、一月三〇日までの死者は一五〇人以上に達している。
一月二八日には首都カイロ、アレクサンドリア、スエズなどの大都市をはじめ各地で警察部隊との衝突、道路やバリケードの封鎖、与党関係ビルの占拠、焼き討ちが行われた。発動された夜間外出禁止令は効果を持たなかった。ムバラクによって動員さされた軍の一部は民衆の側についた。
ムバラクは、全閣僚の更迭を発表して内閣改造を強行したが、自らは辞任せず大統領の座にとどまるとのテレビ演説を行った。それは民衆の怒りの火に油を注ぐだけだった。ムバラクはネットを遮断し、アルジャジーラなどのメディアのエジプト国内での活動をも禁止しているが、その運命はもはや風前のともしびである。
ムバラクは一月二九日、三〇年の統治において初めて副大統領を任命し、側近で軍出身の情報長官オマル・スレイマンをその職につけ「後継者」としたが、権力機構の崩壊が始まっている。
ムバラク体制は米国にとって「中東和平」戦略の最大の支えだった。イスラエルによるパレスチナ占領の恒久化はエジプト・ムバラク政権の協力抜きには不可能だった。米国のエジプトへの軍事援助額はイラク、イスラエルへの援助に次いで世界第三位である。ムバラク政権の崩壊は、帝国主義とイスラエルにとって深刻な打撃である。それは新自由主義と軍事主義が一体となったグローバル資本の新たな植民地主義への労働者・民衆の抵抗によるものであり、チュニジア民衆の革命運動への大きな支援でもある。
ムバラク独裁政権打倒をめざす、エジプト民衆との連帯を! 北アフリカに広がる民主・社会革命の勝利を! 帝国主義・イスラエルの介入を許すな!(詳報次号 一月三一日 K)
|