桜井建男さん(空港はいらない静岡県民の会・事務局長)に聞く
収入は2億円、支出は33億円
「空港しがみつき」を許さず廃港へ
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赤字は16億円
と強弁する当局
昨年一二月一五日に、「空港はいらない静岡県民の会」は、川勝静岡県知事に公開質問状を出した。なぜかというと一一月一七日県議会決算特別委員会が発表した「新たに空港施設の減価償却費を営業費用に加える企業会計手法で計算した静岡空港の二〇〇九年度収支」はあまりにも一方的であるだけではなく、あいまいな部分が多過ぎるからだ。
それによると開港から一〇カ月の空港施設単体の収支は一六億一七三万円の計上赤字となっている。収支で見ると営業収益は二億一八九五万円(着陸料などの収入が一億八一〇四万円、土地建物の貸し付け料三七九〇万円)で、営業費用は一六億
一四一四万円(滑走路や建物など固定資産の減価償却費九億二三八万円、人件費など四〇七四万円など)となっている。「地方管理の空港で国に準じた収支の公表をしたのは、秋田、富山に次いで三番目」、今まで石川前知事は赤字は五億円くらい、川勝知事も七億円くらいと言ってきたのだから計上損益「一六億円の赤字」と一見極めて「正直な報告」と思える。それに減価償却費まで計算されている。
だが「公開質問状」でも指摘したがこの決算はあくまで「空港本体」=空港施設単体だけの決算で「平成二一年度主要な施策の成果及び予算の執行実績についての説明書」を見ると@空港経営課一七億三二三〇円A空港地域連携課三億七三〇二万円B観光政策課・観光振興課三億五三二九万円C国際課三五四二万円D交通政策課四二九万円E空港利用政策課八億五五万円となっている。つまり空港関連事業を含めた県財政からの支出は、三二億九八八五万円にも達している。さらに「シャトルバス運行」や「団体利用」などへの補助金はどのような扱いになっているのか全く不明であり、FDAに対する四億円の無利子融資の返済条件はどうなっているのか一切触れられていない。FDAの親会社である鈴与グループの役員に前静岡県知事の石川が天下っていることを見ると、返済は完全に棚上げされていることは明白だ。また関連事業に関わる人件費は各課に振り分けられ、三三億円の中には含まれていないだろうと推測できる。
決算では詳細に触れられていないが、静岡県が空港建設のために借り入れたカネの残額は二二〇億円であり、利息だけで年間三億一〇〇〇万円にもなる。仮に今回計上された減価償却費九億二〇〇〇万円にそれが含まれているとしても元金の返済は六億円にしかならない。単純に計算しても借入金を返済し終わるのに三六〜四〇年もかかる。静岡空港は年間二億円の収入に対して最低でも三三億円も支出している計算になる。県は決算報告の際に「一六億円の赤字は県民一人当たり四二三円の負担に過ぎない」とうそ吹いたが、実際は県民一人当たり一〇〇〇円近い負担が強制されているのだ。来年度静岡県の税収入は四〇〇億円も不足すると報じられているが、その一割が無駄な「空港」に投入される額に充当する。
便数維持のため
一層の資金投入
この決算が報告されると地元の静岡新聞などは「減価償却費は営業収益の四倍超に上る。着陸料を主な収入源とする現行制度では静岡空港の黒字化は極めて難しい状況にあることを示している」と同情した上で、県の交通基盤部の「同様の会計は文化施設や有料道路、港湾などにも適用できるが、大半は赤字となる可能性が高い」という発言を掲載し、「こうした会計手法が公共施設にとって適切かどうかも含め、費用対効果の議論に一石を投じている」と述べている。これは明らかに論理のすり替えである。問題は「費用対効果」と「会計方式」にあるのではなく、圧倒的多くの県民が反対しているのに県がゼネコンや金融機関と手を結んで「空港建設」という形で血税をばら撒き続けてきたという事実である。それも地元で農業を営む人たちの土地を強制収用という暴力でさん奪し、豊かな自然環境を破壊しながら。つまり「必要のない空港、無駄な空港」建設の問題なのだ。
県知事に就任した時、川勝は「空港の見直し」を主張していたが、九月の県議会では自民党県議の質問に答えて「着陸料や空港施設使用料など運航コスト軽減につながる就航支援策の検討に入った。地方間航空ネットワークを拡充し、利便性向上に努めたい」と「着陸料引き下げ」で航空会社と便数の減少をくいとめると発言している。
そして一一月の決算後、県当局と川勝知事が空港の収支改善として打ち出したのが、@着陸回数を増やすため、駐機場拡張などの追加投資A需要が見込める路線での航空機大型化の働き掛けB空港周辺の未利用県有地の活用を挙げ、「重要な社会資本として空港機能の強化を図る」方向であった。この論理は「着陸料引き下げ」と同じで「さらに多くの税金を投入して空港を維持」するということだ。
ここには就任時の「空港建設の見直し」のかけらもない。あるのは旧来の自民党と同様に完全に資本・大企業に取り込まれた県政の姿そのものだ。川勝知事は静岡財界が進める「空港を核に史跡や公園など既存の観光資源を生かして空港の魅力を高める――ティーガーデンシティ構想」にまで全面的に賛同するあり様だ。それは菅民主党政権が財界の押し進める「新成長戦略」に合流し、一方で法人税減税を行い他方で消費税増税を目論むのとまるっきり同じである。腐敗したゆ着構造は空港建設だけにとどまらず、かつて石川県政と大企業が一体となって進めてきた「公共事業」全般に及んでいる。「第二東名」を例にあげるとそれぞれ結ばれる神奈川県側、愛知県側では全く工事が進んでいないばかりか土地の収用もほとんど進んでいない。それにもかかわらず静岡県は毎年工事費が予算計上され、どこにも繋がらない高速道路が「完成」に向かって工事されている始末である。その経費は空港建設の比ではない。ここに行政の体質が凝縮して表現されている。
FDA小松便
赤字のため撤退
「空港しがみつき」方針とさらなる血税投入の道を選択した川勝知事の「生き残り戦略」は年間利用者を二〇一三年度には七〇万人に増加させるというものだ。〇九年度実績は定期便八路線、チャーター便一六路線一五八便、利用者五三万人であるが、これを一三年度までにチャーター便を二〇路線二〇〇便に増やし、台湾路線をチャーター便から定期便に昇格させる。これによって年間の客席数を約一〇七万席とし、平均搭乗率を六五%にできれば七〇万人は達成できると見込んでいる。
しかしこれはどこから見ても「絵に描いた餅」でしかない。県の発表によると国内線の搭乗率は五五・九%、国際線は韓国・ソウル線が「好調」で六〇・八%である。「好調」で六〇%しかないのだから、六五%がいかに大変な数字か分かる。フジドリームエアラインズ(FDA)は七六人乗りの小型ジェット機であるがその小型機の搭乗率も小松便三四・一%、札幌便七八%、福岡便五三%、熊本便四六%、鹿児島便五三・九%、に過ぎない。かろうじて全日空(ANA)の札幌便六九・八%、沖縄便七五%。だが「御祝儀ツアー・搭乗」期間が終わり、札幌便はこの間各月二五〇〇人〜三九〇〇人の減、福岡便も各月四八〇〇人〜七六〇〇人減となっている。札幌・福岡便の減少は一番利用して欲しいビジネス客が、便数が少なくアクセスが悪いのでは利用できないという事実だ。これでは羽田や中部の方がはかるに利便性が高い。
さらに今年の三月でFDAは小松便から撤退することを発表した。FDAは静岡―小松の年間移動者を三〇万人と見積もって一日二往復で就航させたが好調時で四五・二%、一日一往復に減らした結果逆に搭乗率はこの三カ月で平均二八%に減った。移動人口三〇万人と見込んだが東海北陸自動車道の完成、高速道路料金の値下げなどで移動人口が分散した結果だと言われるが、FDAは「赤字」を理由に撤退を決めたのだ。この結果、県は一日一便の年間一五〇〇万円の着陸料を失う。
さらにFDAの最大搭乗率をほこった札幌便も一一月より松本空港経由札幌行に替わった。この結果、FDA新規路線の松本便は搭乗率三五%、利用者一六九〇人で、うち松本経由で静岡―札幌間を利用したのはわずか一カ月で七六一人に過ぎない。午前中に静岡を出発しても夕方札幌着では利用する人が少なくなるのは当然だ。「東京―札幌間、日帰り出張」さえ「あり」の時代にこの不便な便を使用するビジネスマンがいないのは当然だ。松本空港を経由しない便に戻すと松本空港は日航(JAL)が撤退し一日一本の定期便もなくなる。まさに日本の航空行政の破綻が深く貫徹している。
さらにFDAは熊本便、鹿児島便を静岡空港から愛知県の小牧に移す計画を持っているとマスコミが伝えている。静岡県と港湾事業でゆ着しながら発展してきた鈴与グループでさえ五機の小型ジェット機の赤字は重くなっているのは明白だ。五機の小型機で松本も小牧もという構想は「伸び過ぎたゴム」であり、いつ切れるかわからない状況に突入していたといえる。
航空行政の破産
日航と地方空港
すでに述べたように国際線の平均搭乗率は六〇%を超えている。この「好調さ」を支えたのは、第一に開港時に県と静岡財界が全力をあげて組織した「ふじのくに3776友好訪中団」であり、第二は上海万博のチャーター便であった。中国人観光客が「秋葉原、銀座、富士山」と行き先をあげるのも救いになっているというマスコミの言説も当たらずとも遠からずだ。そして第三は「格安切符」のソウル便だ。一〇月でみると大韓航空が六八・七%、アシアナ航空が六三・一%となっている。
だが国際線に追い風となった「開港御祝儀ツアー」も上海万博も終わり、七月をピークに八月から国際線の利用者数が減り始めている。「県民の会」が集約したところでは、静岡空港全体で見ると八月は三六七六人減、九月は五〇六〇人減、一〇月は一四八八人減、一一月は六三四七人減で、国内線の減少を国際線の利用者数では埋めきれない状況になっている。川勝知事が七〇万人構想を発表した時期と並行して、逆に静岡空港の利用者数は減り続けている。
昨年春、国交省成長戦略会議はアジアの国際空港競争からの立ち遅れを取り戻すため羽田、成田空港の一体的運用と羽田の国際化を打ち出した。この中心は両空港での発着陸を七五万回に増やすことと、安全を軽視する格安航空会社(LCC)の乗り入れを容認したことだ。すでに羽田空港には一二月よりアジア最大のLCCであるマレーシア・エアアジアXが乗り入れている。すでにANAもLCCを子会社として作る計画を打ち上げ、スカイマークもLCC構想を持っていることを発表している。
この間、地方空港の国際便を支えたのが「格安」のチャーター便だった。しかし今国交省は羽田・成田空港のハブ化構想を打ち出し、地方空港の屋台骨であった「チャーター便」を実質的に切り落とそうとし始めている。川勝知事の七〇万人構想は、同じ民主党政権の空港政策によって破産の道を突きつけられたともいえる。航空行政の破綻の一方の軸が日航(JAL)だとすれば、他方の軸が地方空港の行き詰まりとして表現され始めた。
松本、茨城、静岡、福島など首都圏を取り囲む空港はますます利用者数減が進行するだろう。しかしどの空港も自発的に廃港にはならないから「生き延びよう」とより多額の血税投入を要求することは明白である。特に静岡の県議会は再び知事オール与党化している。無力な議会の動向に屈することなく、それをはね返す闘いが必要だ。川勝知事はリニア新幹線が開通すれば東海道新幹線運用に余裕が生まれると見立て「新交通網プラン」や「新時代の物流戦略」なるものを打ち上げ「空港駅」構想を提起している。しかし、リニア新幹線の完成は二〇年も先の話しであり、JR自身が一部に利用が限られる駅は「公共の物としてふさわしくない」と建設には否定的である。結局のところ「空港駅」も、空港反対の声を抑えようとする策動でしかない。
廃港に向けた
闘いこそ必要
闘う側は三年に及ぶ収用裁決取消訴訟の中で、県の収用手続きと裁決の不当理由を詳細に明らかにし、土地収用を行った工事事務所の所長、収用委員会、土地所有者の三人を証人として採用させることができた。とくに先日の結審では弁護団から阿部弁護士、原告団からは大井さんが明確な要点と意志内容を陳述した。四月二二日の判決では、裁判所は取消し判決を出さないまでも、一定の間違いは認めるだろう。さらに制限表面内では今も竹が伸び続けており、伐採しようとすれば地権者の許可が必要になる。私たちはこうした場面をとらえ何回も違法開港、強制収用の不当性を訴えて闘っていくつもりです。
同時に毎年三三億円以上も投入し二億円しか収入がない「無駄な空港」の問題、さらにあたかも一六億円しか赤字がないようにごまかしている川勝県政の欺まんを追及していく。県民の血税を食い続ける空港はいらないと声を挙げ続けることがますます重要だ。沼津駅の高架化に反対する闘いをはじめ、静岡県内には多くの闘いがある。これらの闘いも今まで以上に一つに結集させ川勝県政を追いつめていかなければならない。このための今年最初の闘いは統一地方選だ。
国交省の押し進めた航空行政の破綻は全国で反空港闘争を生み出した。三里塚を中心とする全国の反空港の闘いをを押し進めている人たちと一層連帯を強めるとともに、国鉄の大量解雇にも匹敵する攻撃をかけられている日航(JAL)の労働者を支援しともに闘っていきたい。
今年は静岡空港に反対してきた私たちの闘いも大きな節目になる。どうかご支援をよろしくお願いします。
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