| 食糧価格高騰に高まる民衆の怒り かけはし2008.4.28号 |
読書案内『食糧争奪』柴田明夫著/日本経済新聞社刊/1800円+税
日本の食が世界から取り残される日 |
これでは暮らし
が成りたたない
「穀物急騰アジア圧迫」(朝日新聞、4月11日)という見出しで、穀物価格の上昇がアジア各国の貧困層を直撃している記事が掲載されていた。インドで、小麦やコメなどの価格はここ半年で一・五倍から二倍に高騰した。全人口の三割が貧困層というインドではこうした人は一日二回に食事を減らさざるをえないという。ベトナムでは、穀物上昇率が年率一二%を超え、賃上げを求めるストライキが多発している。三月末にナイキの靴を生産する台湾系企業で二万人がスト。日系企業の矢崎総業でも二千人がストに立ち上がった。
ベトナムやインドなどのコメ輸出国が輸出のコメを国内に回したため、コメの消費量の一五%を輸入に頼っているフィリピンでは一週間で二〇%もコメの値段が上がった。世界銀行のロバート・ゼーリック総裁は「穀物とエネルギー価格の上昇によって、現在三十三カ国が社会不安の危機にさらされている」と警鐘を鳴らした。
では、いったい世界の穀物市場はどうなっており、なぜ穀物高騰が起きているのか。それを知る上で本書『食糧争奪』(2007年刊)が参考になる。著者は丸紅経済研究所所長であり、元丸紅専務で一九八〇年代に経団連農政問題懇談会米部会長をしていた小島正興の考え方を支持しているという。著者が日本の食糧問題、農業問題の解決を経営者サイドからどうするかと捉えている点はもちろん支持できないことは最初に明らかにしておく。
穀物価格上昇
のメカニズム
著者は本書をまとめるにあたって、@一方的な見方ではなく、できるだけ多面的、専門的かつ歴史的に分析するA過去の分析にとどまることなく大胆な「予測」を行うことBそれにより、われわれはどう対応すればよいのか、その解決策を提示することである――としている。
世界の穀物は四十億トンと言われ、小麦、トウモロコシ、コメがそれぞれ六億トン、大豆の二億トンを加えると約半分になる。世界の食糧がいかに特定の穀物に依存しているのかが分かる。世界の代表的市場であるシカゴ穀物市場で小麦、トウモロコシ、大豆価格が二〇〇六年十月以降に急騰し始め、〇七年に入って一九九六年以来十年ぶりの水準となった。この動きは原油、鉄、非鉄、石炭などが〇六年に高騰し史上最高値を記録しているのと連動したものであった。
著者はその背景に、世界経済の成長の牽引力が、人口八億人弱の先進諸国から、人口三十億人のBRICs(ブラジル、ロシア、インド、チャイナ〈中国〉)に移ったことがあると指摘する。途上国での急速な経済成長は、同時に急速な所得上昇をもたらす。所得の向上は食生活を変え、量ばかりでなく質の変化を伴って食糧需要の増大を招く。この結果、本来再生可能資源の農産物が、有限資源の色彩を帯びてきた。そして、食糧生産に必要な水、土壌、地球環境といった資源も有限性を強めてきたからだ。
今後、世界では限られた食糧をめぐって、争奪戦が強まる可能性が高い。@国家間の争奪戦A市場間の争奪戦―ガソリンの代替財としてのバイオマス燃料。エネルギー市場と食糧市場が競合するB工業部門と農業部門での水と土の争奪戦。
グローバルな闘い
で規制の圧力を
目次を紹介しよう。第一章 マルサスの悪魔がやってくる―逼迫する食糧市場 第二章 飽食の時代とそのわな―「爆食」中国の幾何級数的インパクト 第三章 脅かされる大地―荒れ狂う環境と水不足の時代 第四章 高まる食卓への不安―食品に混入する「異物」 第五章 立ち遅れるなニッポン―争奪戦から取り残されないために
著者は「BRICs経済の発展が、九〇年代までの低価格時代に供給能力の増強が抑制されてきた原油市場で需給が逼迫し、投機マネーの流入と相まって価格の高騰を招くこととなった。……ここ数年のエネルギー・資源価格の高騰は、今後長期的に予想される本格的な価格上昇のほんの始まりにすぎないのかもしれない」と指摘する。
著者の指摘は間違ってはいるとまではいえないだろうが、ITバブル崩壊後、全世界の投機マネーがアメリカの不動産投機=サブプライムローンに対して向かってバブルを作り、それが崩壊すると、余った投機マネーは原油市場や穀物市場に流れ、価格の上昇を起こしていることの重要性を見逃してはならない。さらに「世界的な穀物価格の上昇について、先進国では、中国やインドなどの新興市場による需要の急増が値上がりの『主犯』とされがちだ。だが、ネルー大学(インド)のアルン・クマール教授は『原油急騰は、米国が作り出した中東の不安定な情勢による影響が大きく、それが穀物急騰にも影響している。インド国内についていえば、経済自由化に舵を切った九一年以来、農業分野への投資をおろそかにしてきた影響も大きい』と話す」(朝日新聞、4月11日)。
アメリカ帝国主義のアフガン・イラク戦争という政治的な侵略行為が世界経済に及ぼしているマイナスの要因もきちんと把握しておく必要がある。
日本でも昨年からガソリンや穀物輸入価格の急上昇で、あらゆる物価が上昇し、庶民の生活を直撃している。暫定税率期限切れでのガソリンの値下げが政治攻防の焦点にもなっている。グローバルな経済・政治の動きを的確に把握し、投機マネーの規制、穀物・原油メジャーの価格急騰を規制しなければならない。G8との闘いもこの一環である。アジア、全世界との貧しく飢えにさらされる人々の連帯を。 (滝)
G8サミットで拡大する監視社会
民主主義と人権を破壊する
弾圧体制に異議申し立てを
強まる外国人
への入国管理
七月に開催されるG8洞爺湖サミットを焦点にして、警察当局は「テロリストの潜入」や「過激な反グローバリゼーション運動の破壊活動」を騒ぎたて、メディアを使ってこれ見よがしの「警備訓練」を繰り返している。市民の監視、集会・デモの規制、外国人の入国管理の強化などの人権破壊状況が深刻化している。
メディアで大々的に報道されたイタリアの思想家アントニオ・ネグリの事実上の「入国拒否」だけではなく、G8を問う連絡会「国際調整会議」に参加しようとした韓国の活動家がいったんは成田の入管で入国を拒否された件(彼女はいったん帰国した後、二日後に入国が認められたが)や、小樽港でドイツ人活動家が入国を拒否された件は、「G8サミットの成功」を口実に、不当きわまる弾圧が強化されていることを示す事例だ。
弁護士ネット
ワークを結成
四月十二日、一矢の会、盗聴法に反対する市民連絡会、ネットワーク反監視プロジェクト、反住基ネット連絡会、フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)、プライバシーアクションが共催し、「G8サミットで拡大する監視社会」をテーマにした集会が、東京・千駄ヶ谷の全郵政会館で行われた。
最初に、前日「サミット人権監視弁護士ネットワーク」を結成した海渡雄一弁護士が発言。海渡弁護士は「外国人が入国しようとして入管で止められた時、どういう措置が取れるのか。北海道がクローズアップされているが、全国で閣僚会議開催される以上、問題は北海道だけではなく、全国、とりわけ東京が人権の『主戦場』になる。人が自由に入国し、自由に発言できるために活動したい。今日のテーマと立川などでのビラ入れ弾圧などは同一のテーマだ。一人一人の尊厳を守るための闘いだ」と訴えた。
続いてプライバシーアクション札幌の新田真澄さんが、札幌市内だけで八千台以上設置されている防犯カメラをめぐる市の「ガイドライン」などについて報告した。自由人権協会の旗手明さんは、外国人監視の強化が入国時と共に在留外国人の管理とセットで進んでおり、それが個人単位から世帯単位に広がっていること、導入された日本版US│VISITという入国時の指紋・写真撮影の強制も「テロ対策」への有効性は何ら証明されていないことなどについて紹介した。
一矢の会の浜島望さんは、Nシステムという自動車のナンバー識別システムを通じて車による移動の監視が強化され、一部には運転手の顔写真もキャッチされているのではないか、との情報も紹介した。日本消費者連盟の吉村英二さんは、街頭の監視カメラに顔形状判別システムが導入されようとしており、東京では石原都政の五輪招致を見据えた「東京再起動」=再開発計画の中に監視カメラの設置が組み込まれていることについて語った。
日常的な監視
と情報収集体制
G8メディアネットワーク(札幌)の木村さんは、昨年のドイツG8サミットでは、有事でも災害救援支援でもないのに艦船、戦闘機、戦車・装甲車をふくめて二千四百五十人の軍隊が動員され、上空からの監視などデモの弾圧体制が敷かれたことを紹介した。この時、トルネード戦闘機が超低空飛行で、威嚇・写真撮影・監視などの活動を行っていたとされる。軍の装甲車はキャンピングカーを監視し、さらにデモ隊への弾圧にも動員されていた。
すでにG8対抗行動に関連した集会、デモ、会議などには公安警察が張りつき、日常的な情報収集が進められている。G8サミットは民主主義と人権破壊のイベントでもある。こうした不当な治安監視・弾圧体制に抗議の声を上げよう。(K)
コラム
「サムライ」を撮る「黒沢組」
三月中旬から藤田まこと主演の映画「明日への遺言」が上映されている。だが先日「NHKラジオ深夜便」で、監督である小泉尭史の話を聞くまでこの映画が大岡昇平の「ながい旅」の映画化だということを知らなかった。
アジア・太平洋戦争に召集された大岡昇平はフィリピンのミンドロ島に配属され、一九四五年一月に米軍の捕虜となり、その年の十二月に復員する。この時の体験をもとに戦後「俘虜記」「レイテ戦記」などを書き、戦争の悲惨さと「戦争と人間」の問題を鋭く問い、「戦争文学」として一躍脚光を浴びた。「ながい旅」もその流れの中に位置するのだが、他の作品と違うのは軍人を「立派な人物」として描いていることである。かつて「ながい旅」を読んだ時にびっくりしたと同時に違和感を持ったことを思い出した。
原作「ながい旅」は、東海軍管区司令官であった岡田賢(たすく)陸軍中将の、国内で唯一のBC級戦犯横浜裁判の記録をもとに書かれている。彼は米軍機搭乗員殺害事件の責任を問われ処刑されたが、部下の責任を一人でかぶり東京裁判では取り上げられなかった米軍の無差別爆撃を真っ向から追及した気骨ある「サムライ」として扱われている。
大岡は本文の第一章にあたる「責任」の項で、「私は昭和43年『レイテ戦記』執筆中、軍人は上級になるほど政治的になり、ずるくなるが、軍司令官クラスには立派な人物がいることを知った」と最大限の敬意を与えている。BC級裁判は戦場・戦争中の具体的行為を裁くものであるから、東京裁判やニュルンベルク裁判のように第二次世界大戦における日本の戦争行為や戦争の政治的性格には全く触れられていない。また岡田は一九三八年の中国侵略の際に毒ガス作戦を指揮しているが、横浜裁判の起訴状には取り上げられていないので、本文の中でも一切触れられていない。つまり、大岡昇平は「部下の責任を一人でかぶり」「裁判の中でアメリカの犯罪を追及する立派な軍人」としてのみ最初から最後まで描きあげている。それは大岡の価値観ではあるが、ある種歪められた歴史認識、歴史の偽造といえる。
小泉尭史はラジオ放送の中で「ほとんどのシーンが裁判の場面なので、舞台経験が豊かで顔で役を演ずることができる藤田さんに初めからお願いするつもりでした。完成したものを見るとこの選択は良かったと思います」と話し、「(主人公の岡田は)私たちの誇りであり、希望」であると何度も繰り返した。小泉は原作を忠実に映画化しただけではなく、彼自身もまた大岡と同様に「岡田」に対して敬意と共感を持って描いたのである。
小泉は長い間「巨匠」黒沢明の下で助監督を続け、黒沢明が亡くなるといわゆる「黒沢組」を率いて「雨上がる」「博士の愛した数式」などの話題作を手掛けていたので、多少リベラルな映画人かと期待していたがその右翼的体質にがっかりである。小泉もまた黒沢明と同じように「サムライ」を撮りたかったのであり、「雨上がる」「明日への遺言」を並べるとそれは明白である。「黒沢組」を率いるということはそういうことなのだと妙に納得した。いずれ映評という形で再度取り上げたい。 (武)
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