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ある「国際問題評論家」の嘆き             かけはし2004.03.15号

「反グローバリゼーションは日本を素通りした?」

たまには日本のデモにも参加してみませんか

 岩波の雑誌『世界』に、北沢洋子(国際問題評論家。「世界」の筆者紹介から)の「世界は地の底から揺れている――世界社会フォーラム報告――シアトルからムンバイまで」と題する文章が掲載されている。内容は、九九年十二月のシアトルWTO閣僚会議阻止闘争の画期的勝利を突破口に、ポルトアレグレからムンバイまでの世界社会フォーラムを媒介としながら全世界に広がった反グローバリゼーション運動を、紹介したものである。
 内容は反グローバリゼーション運動のめざしてきたもの、その構成要素、その到達点と現状などが手際よくまとめられており、紹介記事としては実に良くできている。昨年二月十五日、全世界がつながった空前のイラク反戦デモが、この反グローバリゼーション運動の政治的帰結だったということも強調されている。

 しかし最後まで読んできてびっくりしてしまった。彼女はこう書いている。
 「世界を揺るがしている反グローバリゼーションのデモ、世界を一周したイラク反戦デモの波、そして、マンモスの世界社会フォーラムは、すべてインターネットによって組織されている。しかし、このインターネットは、なぜか日本を素通りしている」
 「日本では、グロバリゼーションに反対するデモはない。労組は、米国のAFL・CIOのような役割を果たしていない。昨年二月十五日、イラク戦争を支持したすべての国で起こったイラク反戦デモの波は東京には達しなかった。フランスでは、カンクン直前にWTOに反対する三十五万人の市民が集まり、大企業主導のグロバリゼーションについて議論した。しかし、日本では、反WTOのデモや集会は開かれなかった」。
 そして彼女は「なぜ、日本はこのように世界の現状に取り残されているのだろうか。なぜ日本の市民社会はおとなしいのだろうか」と嘆いている。「このような目を覆うような悲惨な現状を変えるために……今からでも遅くはない。日本中で議論を巻き起こそう」。これが彼女の結語である。

 これは、日本で反グローバリゼーション運動やイラク反戦運動を作り出そうと奮闘してきた人々の努力に、ツバを吐きかけるような暴論である。
 「かけはし」読者にいまさら言う必要もないことだが、反グローバリゼーション運動の世界的なシンボルの一人になっているフランス農民連盟の活動家ジョゼ・ボベを招いて、〇二年十月に東京、大阪、京都、新潟、福岡、三里塚で開かれた交流集会には、合計二千人以上が参加した。
 〇三年二月に東京で開かれたWTO非公式閣僚会議に反対する行動では、シンポジウムに五百人が集まり、日比谷野外音楽堂で開かれた集会とデモには、韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、スリランカ、アメリカ、カナダの農民団体代表も含め、一万人が参加した。もちろんマスコミも報道した。
 十月には北沢が高く評価するブラジルのMST(土地なき農民運動)代表を招いた交流集会も開かれた。ATTACジャパンや脱WTO草の根キャンペーンなどと並んで、北沢自身が古参メンバーの一人であるPARC(アジア太平洋資料センター)も、集会を呼びかけた団体の一つだった。
 世界社会フォーラム(WSF)にも第二回からは日本から代表団が参加し、ATTACジャパンのセミナーなども開かれるようになっている。カンクンのWTO閣僚会議粉砕闘争にも、日本から多数の代表団が参加し、ともにスクラムを組み、世界の仲間と勝利の感激を味わった。今年のムンバイWSFには、日本から数百人が参加し、いくつものセミナーやデモも行っている。北沢は、ムンバイで日本からの参加者とはだれとも会わず、来ていることさえ知らなかったのだろうか。

 二月十五日のイラク反戦世界同時行動には、東京・渋谷で五千人、大阪で千五百人が集まった。東京の五千人は、社共や大労組から独立した市民運動だけのものとしては、この十数年にない結集だった。これを突破口として、三月八日の日比谷に四万人、三月二十一日の東京・芝公園に五万人と、七〇年代以来の大規模な反戦デモが行われた。東京や大阪にとどまらず、全国各地でこの間にない規模で集会やデモが繰り返された。
 もちろん、世界でも最も労働運動や社会運動の力が大きく後退してしまった日本では、反グローバリゼーション運動も反戦運動もヨーロッパやラテンアメリカと比べて規模は比べ物にならないくらい小さいし、先鋭さも欠けるかもしれない。しかし、ようやく始まったし、始めることができたのである。

 世界中を駆け回っていたので知らなかった? まさかまさか。北沢が「議論を巻き起こそう」と言うのなら、まず日本でも始まったこのような運動に参加し、「議論」してみるべきではないだろうか。ひねくれるのもちょっと度が過ぎている。
 二月に発売された「三月号」であるにもかかわらず、日本での運動の「悲惨な状況」を嘆いているにもかかわらず、インターネットで世界中で呼びかけられている三月二十日の世界同時イラク反戦デモへの結集を、北沢はなぜか呼びかけようとはしていない。
 仲間たちは、もちろんインターネットも駆使して、日比谷公園一帯に十万人を集めてイラクからの占領軍撤退を呼びかけようと奮闘している。このインターネットは、「なぜか北沢のパソコンを素通りしてしまった」ようである。
 北沢さん、まず三月二十日の行動に参加して「議論を巻き起こし」たらどうでしょう。日本でイラク反戦を闘う仲間とともに、ぜひ一緒にスクラムを組みましょう。
(3月1日 松本龍雄)


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