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最悪の右翼政権が登場しようとしている!         かけはし2006.9.11号

改憲・教基法改悪を前面に掲げた安倍の政権構想

「集団的自衛権」行使への踏み込みと恒久的派兵法案阻止へ


靖国参拝強行
と矛盾の拡大

 八月十五日午前七時四十一分、退任を前にした小泉純一郎首相は、ついに「敗戦記念日」当日の靖国参拝を強行した。われわれは、小泉首相の「8・15」靖国参拝を、アジアの民衆とともに怒りをこめて糾弾する。
 二〇〇一年の自民党総裁選で「8・15」参拝を公約した小泉は、この五年間は内外からの批判と折り合いをつけるために「8・15」当日の靖国参拝を回避してきた。この間、中国・韓国との外交関係の危機は、首脳会談の開催すら不可能になるまでに最悪の段階に到達していた。自民党内部や日本経団連などからも靖国参拝強行への異論や「A級戦犯分祀」論が拡大した。さらに昭和天皇裕仁が「A級戦犯合祀」に不快感を表明して自ら靖国参拝を行わなくなった経緯にふれた「富田メモ」が公表される事態に直面する中で、小泉は敢えて「8・15」参拝に踏み切ったのである。
 小泉の「8・15」参拝は、厳密な政治的計算や戦略的判断にもとづくものであったとは言えない。むしろ小泉は、彼特有の「ポピュリスト」的パフォーマンスの最後の舞台として「靖国」を選んだというべきであろう。しかし今回の参拝が、ポスト小泉の政治状況にもたらす影響は大きい。
 小泉の「8・15」参拝に対する中国、韓国両政府の反応は言葉での公式的な非難にもかかわらずきわめて自制的なものであった。中・韓両政府は、「ポスト小泉」の動向を注視しながら、小泉は相手にせず、当面、対日関係のこれ以上の悪化を避けたいという意向を持っているようである。中・韓両政府の側は、「ポスト小泉」の首相が在任期間中に一回だけ靖国参拝を行うことについては「黙認」するとの態度も報じられている。中・韓両政府のこうした態度は、次期首相となるだろう安倍官房長官への政治的牽制という性格を持っている。
 むしろ首相の「靖国参拝」がかもしだす東アジアの政治関係の不安定化と、「同盟国」日本の外交的イニシアティブの危機に不安感をつのらす声が、米国や欧州のメディアから発せられていることに特徴がある。他方、自民党や財界など日本の支配階級内部からも、「ポスト小泉」政権において「A級戦犯分祀」論や「靖国の非宗教法人化」、さらには新しい「国立戦没者追悼施設」建設論などが繰り返し浮上するだろう。明治国家以来の侵略と植民地支配を正当化するとともに、「大東亜戦争」を「自存自衛」のための戦争として賛美する「靖国イデオロギー」が、日米同盟にとっても、支配階級の構想する「東アジア共同体」論にとっても、本質的に矛盾することは自明の理だからである。それは日本帝国主義にとって抜き取ることのできないトゲである。

右翼テロを絶
対に許すな!


 しかし対中・対韓関係の正常化と「靖国」に折り合いをつけようとする支配階級主流のもくろみは、安倍に体現される「復古」的色彩を濃厚に持った国家主義イデオロギーの台頭による挑戦を受けている。明らかに北朝鮮・金正日軍事独裁体制が引き起こした「拉致」問題や「ミサイル発射」によってかきたてられ、小泉の「8・15」参拝が勢いづかせた「嫌中・嫌韓」の排外主義的機運とそれは衝突せざるをえない。
 「8・15」靖国参拝後の世論調査によれば、小泉の参拝支持が批判派を上回っている(毎日新聞8月17日、賛成50%、反対46%)。これは7月に行った世論調査の「賛成36%、反対54%」と比較して、既成事実を容認する傾向が伸長していることの現れである。とりわけ20歳代の支持が54%に達し、70歳以上と60歳代に次ぐ高率であることが注目される。これもまた小泉政治五年間の新自由主義構造改革がもたらした二極分化型階級社会の否定的影響を深刻にこうむっている青年世代の中に、排外主義的国家主義の影響が相当程度浸透していることを物語っている。
 自民党内で「リベラル」の立場から小泉政治を批判する急先鋒だった加藤紘一の鶴岡市の自宅が右翼によって放火された。自民党執行部からこの右翼テロに対する明確な批判が出されていないことは、きわめて危険なシグナルである。加藤宅放火テロを小泉が批判したのは中央アジア諸国歴訪当日にあたる八月二十八日になってからであった。しかも小泉は、首相の靖国参拝がナショナリズムを煽っているのではないか、という記者の質問に対して「そんなことはない。マスコミが靖国問題を取り上げ、よその国からの批判を煽り立てていることが一因だ」という趣旨の居直りを行った。つまりマスコミが「靖国」で騒ぐからテロが起きた、というとてつもない暴言である。
 こうした中で、靖国に「合祀」されている韓国人・台湾原住民の戦没者遺家族の「合祀取り下げ要求」を支持する韓・台・沖・日共同の「平和の灯を!ヤスクニの闇へ」キャンドル行動が、天皇主義右翼の執拗な妨害をはねのけ、五日間連続で大きな成功を収めたことは民衆運動の側にとって特筆すべき成果であった。それは靖国の排外主義的国家主義に対して東アジアの国際主義で立ち向かう大衆的取り組みであった。この成果を、ブッシュの戦争戦略に一体化した日本の「戦争国家」化と東アジアの新自由主義的グローバリゼーションにもとづく統合の深まりの中で、東アジア労農市民の共同の闘いを作りだすための主体的基盤にしていく必要がある。

安倍政権を支
える右翼人脈


 九月二十日に投票が行われる「ポスト小泉」の自民党総裁選は、「小泉改革の継承」をうたい、小泉以上に極右国家主義の政治思想でこり固まった安倍晋三の「独走」となっている。九月二十六日から十二月前半までを会期とする秋の臨時国会は、今後のポスト小泉政権の行方を問う重大な対決の場となるだろう。たとえば通常国会から持ち越されて「継続審議」となっている改憲手続き法案や、教育基本法改悪案が秋の臨時国会で成立しなければ、改憲の政治日程に大きな遅れが生じることになるだろうと予測されている。
 二〇〇七年は四月統一地方選と七月参院選を抱えた「選挙イヤー」であり、この日程をかいくぐって改憲法案や教育基本法改悪案を強行成立させることはかなりの困難が予想されるからである。そして七月参院選で前回の小泉ブームで伸長した自民党が現有議席を維持することは、ほぼ不可能だからである。それは安倍政権の安定度にも黄色信号が灯ることを意味する。
 もちろんわれわれは、小泉「構造改革」政治が自民党の旧来の「派閥構造」=利益配分・調整型の支配構造を大きく変化させたことを過小評価すべきではない。とりわけ若手議員を中心とする派閥横断型による安倍支持派の拡大は、「派閥抗争」型の内紛が自民党内に再発する余地を狭めているというべきだろう。
 安倍は、小泉から受け継いだ新自由主義の「優勝劣敗」「自己責任」路線と、小泉以上に純化した排外主義・国家主義イデオロギーを特徴としている。安倍のブレーンは、中西輝政(京大教授)、八木秀次(高崎経大教授)、西岡力(東京基督教大教授)、島田洋一(福井県立大教授)、岡崎久彦(元駐タイ大使)、屋山太郎(評論家)など、『正論』・『諸君!』・「新しい歴史教科書をつくる会」・「日本会議」につらなる純然たる極右国家主義の「日本版ネオコン」ともいうべき狭いサークルである。
 そして、安倍の政権構想は憲法・教育基本法の改悪を前面に出したものであり、昨年十月に発表された自民党憲法草案をさらに書き換えようとする意向だとされている。すなわち「前文」を「歴史・伝統」など伝統的国家主義の理念を補強したものとし、集団的自衛権を明記するなど、極右主義を前面に押し立てた文字通り「戦争国家憲法」としての本質を打ち出した「第二次草案」を作るというのだ。安倍は「集団的自衛権の発動」を違憲とした旧来の政府解釈を変更した上で、「国際平和協力法案」=海外派兵恒久化法案の策定を急ぎ、その上にたって本格的な「戦争国家憲法」を作り上げようとする構想を描いている。
 しかし安倍には、小泉タイプのパフォーマンス型・大衆煽動型の強力なリーダーシップを発揮することはできないと考えられる。これは安倍政権の大きな弱点であり、安倍が長期安定体制を確立することは容易ではない。小沢・民主党の動向ともからめて、安倍政権の動揺が新しい政党再編の始まりになることも予想される。

いっそう進む
底辺への競争


 小泉政権の頂点を画した昨年の「9・11」総選挙での小泉・自民党の圧勝以後、小泉政権五年間の新自由主義的「構造改革」の矛盾がクローズアップされてきた。「格差社会」「下流社会」などの用語が広く流通し、ITバブルやマネーゲームの寵児であった堀江や村上が叩き落とされるとともに、年収一〇〇万円台の「ワーキングプアー」、すでに全労働力の三〇%を超えた無権利の非正規・不安定雇用労働の悲惨な現実がマスメディアでも大きく報道されている。「連合」などの既成労組指導部や支配階級の一部からも、「格差社会」問題を、社会の不安定化の要因として解決のための取り組みを強化する声が上がっている。安倍の「再チャレンジ」構想は、新自由主義的競争万能社会を前提として、その枠組みの中に「格差社会」への不満を吸収しようとする方針であり、それを「家族の再生」や「愛国心」教育などの国家主義・伝統的共同体主義イデオロギーで枠付けしようとするものである。
 この二極分化社会に対する闘争的批判は、いまだ個別的にしか表現されていない。しかしその矛盾が、「ポスト小泉」政権の不安定性を不断に再生産する最大の要因となることは明白である。「ホワイトカラー・エグゼンプション」などの労働法制の改悪問題は、正規労働者をふくめた旧来の労資関係の根本的転換であり、格差と競争の新自由主義的イデオロギーへの労働者の動員を完成させ、「底辺への競争」を加速する攻撃である。
 われわれは改憲に向かう政治日程の煮詰まりと、九条改憲阻止を軸にした中・長期的な共同戦線の拡大をともに担いながら、新自由主義的「構造改革」に対する労働者・市民の運動的批判を大きな流れとしていくために全力を上げなければならない。フランスのCPE反対闘争の勝利は、その模範の一つとなった。一九九〇年代半ば移行の失業者の運動、移民労働者の運動、住宅の権利を求める運動、ATTACをはじめとした反グローバリズムの社会運動と、新しい労働者運動の結合の蓄積が、この勝利の基盤であった。
 一つ一つの反撃の芽を社会的につないでいくことを通じて、グローバルな「平和・人権・公正・民主主義」の立場から、オルタナティブで国際的な反資本主義の流れを作り上げようとする一貫した努力がますます要求されているのである。

対テロ戦略は
破綻している


 小泉政治の五年間は、二〇〇一年「9・11」を契機としたブッシュの「対テロ」先制攻撃戦争の拡大に、日本帝国主義が率先してすりより、自衛隊が米軍の指揮下にグローバル戦争に実戦部隊として参加するプロセスでもあった。二〇〇一年の「対テロ特措法」による海上自衛隊のインド洋・アラビア海への派遣と、アフガニスタン多国籍軍への支援、二〇〇三年の「イラク特措法」による陸上・航空自衛隊のイラク派兵は、戦地への本格的な海外派兵であった。そしてこの枠組みの中で二〇〇三年には「武力攻撃事態対処法」、二〇〇四年には「国民保護法制」が成立し、「戦争国家」としての法的基盤が現行憲法の恣意的解釈の上に基本的に成立することになったのである。この流れに沿って憲法改悪の政治日程がテンポを早めていった。二〇〇五年十一月には「自民党新憲法草案」が自民党結党五十年を期して党大会で採択された。
 こうした戦争国家体制と憲法改悪のプロセスは、言うまでもなく「新段階の日米同盟」という「米軍・自衛隊再編」、すなわち米軍のグローバル戦争と戦略的に一体化した自衛隊の世界規模の動員に対応したものである。それは米英での「反テロ」法と連動した警察による「監視社会」化、ビラ入れ弾圧などに示される言論の自由の侵害を伴っている。安倍が総裁選に向けて打ち出した日本版NSC(国家安全保障会議)構想は、「対テロ」戦略に裏打ちされた強権主義的支配秩序の導入の基軸をなすものである。
 しかしいま米軍の「対テロ」先制攻撃戦略は、アフガンでもイラクでも破綻を深めている。それはイスラム諸国の「民主化」といううたい文句とは裏腹に、これら諸国の内戦状態を泥沼的段階にまで押し広げた。米軍はイラクやアフガニスタンに占領軍を釘付けにせざるをえず、米軍の市民に対する無差別の大量虐殺、拷問・虐待などの戦争犯罪・人権侵害はイスラム諸国の反米感情を増幅させた。そして、アメリカ本国をはじめ全世界で「戦争・占領」即時中止の声を広げることになった。
 中東におけるアメリカ帝国主義の代理人であるイスラエルは、「テロリスト撲滅」を口実にパレスチナやレバノンを侵略したが、レバノンでは抵抗運動の反撃によって大きな敗北をこうむらざるをえなかった。
 これらの事態は、ブッシュの戦争と一体化した自衛隊の海外派兵・「米軍・自衛隊再編」という「日米同盟の新段階」に対する闘いを、グローバルな反戦運動の重要な課題として作り上げていく任務をわれわれに提起している。「米軍・自衛隊再編」=「日米ロードマップ」は、基地の負担をいっそう強制される沖縄、岩国、神奈川など各米軍基地の地元で、自治体当局をふくむ住民の拒否に直面している。
 今秋の臨時国会に向けて、改憲手続き法案、教育基本法改悪案、共謀罪法案、防衛省設置法案などの一連の「継続審議」法案の成立を阻む闘いとともに、沖縄をはじめとした全国の反基地・反「米軍再編」の闘争を担い、米軍再編関連法案や自衛隊海外派兵恒常化法案などへの反対キャンペーンをいっそう強化しよう。

オルタナティ
ブ左翼の形成


 反戦運動と反グローバリゼーション運動の結合を通じた新しい運動構造の形成は、われわれが主張するオルタナティブな新しい左翼政治勢力の共通の基盤である。
 新しい左翼政治勢力は、「ポスト小泉」政権=安倍政権の、憲法改悪に向かう新自由主義と排外主義的国家主義の政治全体に対する鮮明な対決軸を掲げたねばり強い共同闘争の蓄積によって現実のものとなるだろう。
 新自由主義と憲法改悪を共通の基盤とする自民・民主のブルジョア二大政党構造へのオルタナティブの構築は、選挙、労働運動、地域市民運動などの分野での柔軟な共同戦線を必要とする。しかしわれわれはその中で、新自由主義的プロジェクトへの批判に意識的に取り組まなければならない。新自由主義と極端な右翼国家主義をふりかざした安倍政権の正体は、日々あらわになっている。同時にその弱点も浮き彫りになりつつある。今秋、「ポスト小泉」=安倍政権に対する第一波の反撃の波を作りだそう。その中で新しい左翼政治勢力に向けた意識的な努力を共同して積み上げよう。     (平井純一) 


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