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    かけはし2021年1月1日号

寿都町、神恵内村民の闘い


核のゴミ捨て場にするな

「文献調査」開始に抗議

【札幌】11月17日、通産省は両町村で実施するとした原子力発電環境整備機構(NUMO)の事業計画変更を認可し、文献調査が開始されることになった。これにより両町村には最大20億円の交付金が国から支給される。

住民団体、町議会
「リコール」へ


寿都町臨時町議会(定数9)は11月13日の本会議で、応募の是非を問う住民投票条例案を否決した。採決は議長を除く8人で行われたが可否同数となり、議長裁決で否決。議長は否決理由について「町長の政治的判断を尊重すべきで、今は住民投票をするべきではない」と説明。
それに対して条例制定を直接請求した「子どもたちに核のゴミのない寿都を!町民の会」(町民の会)は応募撤回の町議会決議や住民投票実現を目指すことにし、議会のリコールを目的とした新たな住民団体を年内に設立、年明けにもリコールの署名集めを始めることを決めた。「町民の会」は反対署名を約800人分集めた経験がある。
町議会の解散請求には、町内の有権者(9月1日現在で2515人)の3分の1の署名(約840人)を1カ月以内に集めなければならない。署名が集まれば、解散の賛否を問う住民投票が行われ、賛成が過半数となれば町議会は解散し、町議選が行われる。

子どもたちも「説
明不足」と指摘


認可当日、神恵内村のPTA連合会が、国やNUMOを招いて非公開の小中学生向けの勉強会を開いた。子どもたちから「説明が足りない」、「反対の人もいたのにどうして受け入れたのか」と、約20人の小中学生が、NUMOや経済産業省資源エネルギー庁の職員、村長に次々と厳しい質問を浴びせた。
国やNUMOの説明員は認可について参加者に一切説明しなかったという。認可を説明しないということは批判を受けそうなことは情報公開しない、従って調査も信用できないというということだ。

「対話の場」と
いう住民対策


NUMOは両町村役場と共に、住民の意見を聞く「対話の場」を年内にも立ち上げる。参加メンバーは自治体が選ぶことになっていて、寿都町は商工会や漁協などの産業団体の代表に加えて、公募で選ばれた住民など合わせて20人程度。会合は非公開。
NUMOは文献調査を「処分事業の理解を深めてもらう対話活動の一環」と位置付け、調査の進捗状況を説明し、地域産業に与える効果やリスクも幅広く示すという。交付金や支援制度についても情報提供し、地域振興への貢献を強調。知事と市町村長の意見に反して次の概要調査には進まないことも明記した。
東洋町での失敗を教訓に、「文献調査は処分場選定に直結しない」との説明も新たに追加し、反対派の反発を抑え、事業を進めようとしている。
しかし、「対話」と称して、NUMOと経済産業省が二人三脚で、ひたすら政策の支持を得ようとする一方的な説得・懐柔政策になるだろう。

広がる核抜き条例
制定の動き


寿都町に隣接する黒松内町、蘭越町、島牧村が核のごみの持ち込みを拒否する条例の成立を目指している。黒松内町の条例案は来春にも可決される見通し。蘭越町は来年2月以降の町議会に条例案を提出する。島牧村でも12月中に同様の条例制定が確実な情勢で、寿都町を包囲するように3町村が概要調査に進むことを牽制している。
また、神恵内村に隣接する積丹町と古平町でも同様の動きがある。積丹町は来年の3月に条例案を提出。古平町は核のゴミの持ち込みを拒否する意見書が12月の町議会で可決される見通し。
寿都町でも一部の町議が核抜き条例の制定を目指して、12月の町議会に提出する方針。「町民の会」も町議会に条例制定の要望書を提出する。
「核抜き条例」は、道と浦河町、美瑛町、幌延町、小樽市議会でも制定されている。

「核のごみ考える」北海道会議設立へ


他にも様々な反対の動きがあり、市民ネットワーク北海道や生活クラブ生協北海道など道内5つの市民団体は11月13日、反対署名45万2263筆分を道知事宛てに提出。
さらに、道内外の大学退官者らでつくる「行動する市民科学者の会・北海道」は、パンフレットを製作。地層処分は管理技術が未確立で、埋設から10数年後に放射性廃棄物が漏れ出す恐れがあるなどとし、地層処分を急がず地上で保管して技術の進歩を待つべきだと指摘している。

「知事反対なら外れる」 経産相、道に書面


経済産業省は、概要調査に進む際は「知事や当該市町村長が反対であれば選定プロセスから外れる」と明記した梶山経産相名の回答文書を道に送付した。9月の寿都町長宛て文書では、知事や市町村長の意見に反し概要調査に進まないとしたが、選定プロセスから外れるとの表現はなかった。
ただ、同省資源エネルギー庁は、選定プロセスから外れた後でも、知事や市町村長の意向が賛成に変わり、概要調査に必要なデータがそろえば「調査を再開させる可能性もある」としている。
このほか「調査期間中、北海道に廃棄物は一切持ち込まない」「文献調査の計画、進捗状況、結果について説明会を開催するなど丁寧な説明を行う」などと記載。風評被害防止に向け「責任を持って正確な情報を発信していく」とした。
しかし、原子力規制委員会が処分場の立地や施設の安全性を審査するための「規制基準」はまだない。基準策定に着手する時期も未定だ。従って、安全性に対する第三者の客観的な基準がないまま、NUMOによる選定が進められ、事業者の有利なようにデータが解釈されるだろう。

「核のごみ」イギリスから返還再開へ


「核のごみ」の日本への返還を、日本原燃などが2021年度に再開する方向で調整に入った。六ケ所村にある高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターが今年8月に原子力規制委員会の審査に合格したためで、再開すれば5年ぶりとなる。
日本では、原発で使い終わった核燃料からプルトニウムを取り出して再び原発で利用しようとする「核燃料サイクル政策」を、1950年代から掲げてきたが、商業用の再処理工場が建設されていない状況だったため、東京電力など国内の電力10社は、施設を持つフランスとイギリスに、合わせて、およそ7100トンの使用済み核燃料の再処理を委託した。
再処理をすると「核のごみ」が残りこれも日本に返還される契約で、六ケ所村で受け入れているが、福島の原発事故のあと、施設は新しい規制基準の審査を受けるため、16年から返還を中断していた。
「核のごみ」のフランスからの返還は1995年から始まり、2007年までに1310本を受け入れ、終了した。
また、イギリスからの返還は2010年から始まり、2016年までに520本が運ばれていて、日本原燃の施設では、今後、イギリスに残るおよそ380本を受け入れることになっている。

潜在的核保有国への可能性

 経産省は「エネルギー資源に乏しい日本で、資源を有効活用するため全量再処理が必要」と強調。日本原燃は2022年に六ケ所村で再処理工場の稼働を目指す。
しかし、実際には、MOX燃料の使い道は限られる。利用を想定した高速増殖炉の「もんじゅ」がトラブル続きで廃炉が決定。原子力規制委員会の新規制基準下で、MOX燃料を使える通常の原発は4基しか再稼働していない。
さらに、使用済みMOX燃料の再処理方法も、国が研究中だが、実用化のめどは立っておらず、最終的な処分方法も未定。高速増殖炉の技術がなく、MOX燃料も再処理できない。
一方、使用済み核燃料をそのまま地中に埋める「直接処分」の場合、再処理するより大きな最終処分場が必要になるが、重大事故が起き得る地上の再処理工場より、地下に埋設する「直接処分」の方がリスクは低い。
世界における再処理工場の現状を見ると、アメリカ合衆国のハンフォード、イギリスのセラフィールドは稼働停止、唯一稼働中なのはフランスのラ・アーグのみ(六ヶ所村再処理工場はここのクローンと呼ばれている)。民事と軍事の区別のない、いずれの施設も今なお放射能による深刻な健康被害、環境汚染を引き起こしている(注1)。
再処理工場が稼働すれば、核兵器の原料にもなるプルトニウムの保有量が増えるにも関わらず、なぜ国は再処理に固執し続けているのか。
1958年、原子炉建設を推し進めた岸内閣の狙いは核兵器保有の潜在的可能性を高めることによって、国際的発言力を高め、更には核兵器保有も視野に入れていた(注2)。69年の外交政策企画委員会(外務省の非公式組織)による「我が国の外交政策大綱」では「当面、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保有」するべきだと記述され、岸の構想を継承している。
また2002年、小泉内閣においては「法理論的に言えば、専守防衛を守るなら(核兵器)を持ってはいけないという理屈にはならない」と再確認している。
将来的な核兵器保有の可能性を開けておくことと、この間の日本学術会議に対する政権への異論封じ、恫喝は無縁ではない。研究成果を民生と軍事の両面で使う「デュアルユース」の道を開こうとしているのだ。
「直接処分」をせず、より多くのコストと危険の伴う再処理をすることは、アジアの諸国に多大な緊張をもたらし、危険に映るだろう。
核燃料サイクルは「核のごみ」の最終処分地がなければ完成しない。すなわち寿都町と神恵内村の処分場選定を阻止することが、国の原子力の平和利用という虚妄を打ち砕く重大な一歩になる。 (白石実)

【参考文献】(注1)原子力の人類学・内山田康(注2)福島の原発事故をめぐって・山本義隆



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