英国
難民危機と左翼的離脱論
社会運動のつながり築こう
サブリナ・フック
|
ブレグジットをめぐる英国政治の混迷は一二月の総選挙へと帰着したが、それが混乱を解決するかどうかは未だ不透明だ。その中で左翼の立場から離脱を求める主張は、労働党の立場をあいまいにとどめる圧力の一つになっている。以下は移民問題の角度からその主張を批判している。(「かけはし」編集部)
八月一〇日、LeFT(離脱・闘争・変革)――左翼の立場からブレグジット(レグジット)を求めるキャンペーン――が、モーニングスター紙(英共産党機関紙)の支持者により始められた。LeFTはその創立声明で、EU離脱は要塞の欧州に込められた構造的レイシズムとUKが決裂することを意味するだろう、と主張している。このキャンペーンは、レイバーリストに寄せた記事で、「『四つの自由』からの決別」を是認した。
左翼の立場からのブレグジット論に従ってきた人々は、次の主張を気兼ねなく行うようになるだろう。つまり、移動の自由というEUの政策は主に、白人の欧州人移民を利するものであり、他方で、この大陸に向かう世界の南からの人々の移動は、移民管理によって制限される、と。
地中海は、この海を渡る難民が溺れるままにされる中で、死を呼ぶ暴力的な境界となった。EUの諸大国は、われわれの海岸に何とかたどり着く人々を引き受けるべき彼らの責任をめぐって争っている。確かなこととして、欧州の移民管理は構造的レイシズムと階級差別姿勢を支え、それは人々が自由に移動することを妨げている、と言うことができる。そしてこれは、EUの移民戦略と個々のメンバー諸国の国家政策両者の真実でもあるのだ。
英国がEU離脱を決定し、EUの対外境界防護体制への参加すべてを止めるならば、UKの左翼は、要塞の欧州が以前同様の作戦を続けている中で、彼らの国は直接巻き込まれていないと知ることで、安堵を感じることができるかもしれない。しかしもちろんこれは、難民と移民に対していかなる実質的な違いもつくらないだろう。
難民問題に関し
ごまかし不可能
要塞の欧州の解体はおそらく、左翼にとって最も複雑かつ野心的な政治的構想の一つだ。それは、多次元的なレベルで、つまり欧州市民の社会運動を動員すること、国民国家レベルでの政治的アプローチとEU諸機関に対するロビー活動を変えること、などを総合して取り組まれる場合にのみ成功を見ることができる。
強制的に追い立てられた住民数は、国連難民高等弁務官事務所によれば、一九九七年の三三九〇万人から跳ね上がり、二〇一六年に六五六〇万人に達した。この正真正銘の規模は、われわれの現在の世界秩序に対する完全な再考を欠いた何ものも公正と平等を届けることなどできない、ということを意味し、その事実から隠すものは何もない。資本主義が世界の北の利益のために、世界の南の労働者と資源の搾取に対する社会的、環境的、経済的諸条件を作り上げてきた以上、先の事実は、世界的貿易システムの抜本的な再構築という形に行き着かなければならない。
先の諸条件は、多くの場合難民の移動と移民の根源的原因だ。国際主義に真剣な英国の社会主義者はもはや、国民国家、移民管理、さらに国境を通して世界的に行使されている資本主義の力について、正直な話を避けてはならない。
自由移動の権利
こそ現実的回答
難民に関する現在の政策は、このシステムがどれほど目的に合っていないか――暴力的紛争、資本主義、気候変動の交叉を背景に――、を描き出している。政治家が難民申請者について語る場合、彼らは共通に、難民を戦争地帯から逃れている人びとに関係づけて考える。しかし戦争と暴力的紛争は、移民に対する動力の一つにすぎない。世界資本主義が生み出し、気候変動の衝撃により悪化させられた搾取的な経済的諸条件は、「難民危機」に燃料を注いでいる。
これらの経済的諸条件を理由に彼らの故国を離れるよう強いられた人々は、しばしば「経済移民」と言われる。そして政治家は、より良い職と生活条件を求めてここにやってくる人々は、戦争と迫害を逃れる人々と同じようには難民の権利を与えられるべきではない、との彼らの信念を隠し立てしない。これこそ、たとえば問題が難民の働く権利となる場合に政府がぐずぐずする理由だ。つまり彼らは、雇用の権利を緩めたくなく、経済移民に対し「努力要件」を作り上げる。
代わりにここに来て働く人々は、たとえば投資能力があるとして、あるいは労働力不足の職業リストにおいて職を満たす特別な熟練をもたらすとして、UK経済に価値あるものに貢献しなければならない。「最良で有望な」労働者に対するそのようなビザシステムは、これからの何十年間にわたる不可逆的な気候変動に影響を受けた人々の移動に安全なルートを与えるには不十分だろう。
開かれた国境――ビザや熟練の諸条件によって制限されない、自由に移動する権利――が、移民に安全な道を届ける現実主義的な唯一の回答だ。
各国政府こそが
難民抑圧の主役
EU離脱に対する労働党内で最も著名な支持者の何人かは、開かれた国境に反対し、移動の自由と東欧からの移民を、労働者の搾取と賃金下落に結び付けてきた。よりリベラルな移民体制を唱導したいと思っているいかなるレグジット運動にとっても、「気候難民」を受け容れることは、またこの運動が燃料を注いできた反移民労働者の話を断ち切ることは、これからも難しいだろう。
国民国家の利益が連帯を基礎とする共通の政治的回答を発展させる望みに打ち勝つ限り、要塞の欧州が優勢となるだろう。レグジット派の何人かが別のことを主張しているとはいえ、EUの移民政策決定は、国民国家の民主的に説明責任を課された代表者から完全に切断されて、真空の中で行われているわけではないのだ。
ダブリン協定(移民管理に関するEU協定:訳者)改良という失敗した試みは、EU内部での難民配分というよりも、むしろもっと厳しい対外国境管理に向け、各国政府がどれほど圧力をかけることができたか、を示した。EUがその存在を止めることになったとしても、難民受け容れに敵対的な、あるいはその意志のないEU諸国家は、地中海の前線と本土上の両者で、なおも彼らの国境を防護するだろう。難民は、自らについて責任があると考えないさまざまな国民国家間でたらい回しされるだろう。
欧州的連帯追求
が不可欠の回答
難民に対する政治的対応はしばしば寒々としたものとなってきたものの、市民社会の運動はかすかな希望を差し出している。ボランティア主導の海上救出活動が示していることは、要塞の欧州に対する反対派が、訴追の脅迫を前に直接行動をとる用意ができているということだ。ドイツでは、「ゼーブリュッケ(海の橋渡し)」運動が、要塞の欧州と海上救出の犯罪化に反対し、難民に対し移住する道の確保を求めて、数千人の大衆的デモを組織した。それと並んでいくつかの地方議会は、海上で救出された人々に対し「安全な港」となるための、また自発的な海上救出活動を支持して精力的にキャンペーンするための動議をいくつか採択した。
われわれの焦点は、本国における反移民右翼ポピュリスト政党と対決して闘争中のわが同志たちを支援しつつ、要塞の欧州に反対の圧力をかけているわがEUの左翼諸政党とEUレベルで協力するために、また市民社会の連帯の諸条件を作り上げるために、これらの社会運動とのつながりを築き上げることに置かれなければならない。
ある人たちは、これはユートピア主義だ、と主張するかもしれない。しかしわれわれが仲違いという政治的な一時期を経験している中で、左翼が変革に向けてこの機会を掴むことができなければ、他の者がそうするだろう。身を引き、一国として孤立した解決策を追い求めるというよりも、英国の社会主義者が欧州左翼の未来に関わり、大志を抱く上で、今以上の時は決してなかった。(二〇一九年八月一三日、レイバーリストより)
▼筆者はレイバーリスト記者。(「インターナショナルビューポイント」二〇一九年一〇月号)
イラク
南半部で民衆が決起
怒りの風が吹いている
ジョセフ・ダヘル
大規模な新たな大衆的決起がイラクを揺さぶっている。抗議に立ち上がった人々は、経済的かつ社会的な諸困難、腐敗、支配的なブルジョアジー、さらに宗派的な利害にとらわれている諸政党を厳しく非難している。
運動は、主にバクダッドと国の南部に影響を広げつつある。他方、二〇〇三年以来の多重的な軍事紛争、およびモスルにおける対イスラム国戦争の中における大きな破壊に苦しんできた、イラククルディスタンとスンニ派住民が多数の地域は、今のところそこから免れている。
抗議行動参加者の圧倒的多数は、イスラム化の諸過程および社会生活と政治生活の宗派主義化を糾弾し続け、市民の地位と包括的な市民権を求めている。革命の諸過程の有名なスローガン、「人民は体制の転落を心から求めている」が、再び多くのデモで聞こえるようになった。
この抗議運動はさらに、腐敗、失業、また長期に続く電力や飲料水不足の国における公共サービスの弱体化、をも糾弾している。破壊的な新自由主義諸政策を前にする社会的公正と経済的再配分を求めるこれらの要求は、宗派的利害を軸にした政治システムの終焉を求める要求から切り離すことはできない。実際先のシステムが、コミュニティのアイデンティティ――宗教、民族、あるいは宗派――を基礎に政治的な代表を決定しているのだ。
抗議行動参加者はまた、「イラン、イラン、出て行け、出ていけ」と叫びを上げつつ、この国におけるイランの役割をも糾弾している。実際にテヘランは、イスラム原理主義のシーア派運動とその武装民兵に対する支援を通じて、二〇〇三年の米国の侵略以来、イラクにおける大きな政治的影響力を確保してきた。この国における諸々の抗議の結果として、テヘランはイラクとの国境に沿う監視システムをも配置してきた。
イラク政府は暴力的な諸決起に応じ、「サボタージュ実行者」および「正体不明の狙撃者」と抗議行動参加者に罪を着せつつ、一〇月一日から同六日の間に一〇〇人以上の民衆を殺害し、六〇〇〇人以上の人々を負傷させた。同時にバクダッドは一〇月六日、抗議行動参加者の要求に対する対応として、住宅支援から失業青年に対する手当支払い、また一〇万戸の住宅建設まで広がる一連の社会的諸方策を公表した。
二〇一五年以後イラクは、繰り返される民衆的抗議を経験してきた。この抗議の風は、イラク社会の広範な部分の、特に若者内部の、根本的な変革を要求する決意を示している。
▼筆者は、シリア系スイス人の研究者かつ活動家。アレッポ出身者の彼はシリアのバース党体制に対する断固とした敵対者であり、世俗的で社会主義のシリア建設への貢献を目的とするウエブサイト「シリア・フリーダム・フォーエヴァー」を維持している。(「インターナショナルビューポイント」二〇一九年一〇月号)
スリランカ
大統領選挙と左翼の役割
方向に大差はない既成政党ノー
労働者階級による政治運動を
レフト・ヴォイス
一一月一六日に予定されている今回の大統領選挙をめぐって、人々の中で対話が起きている。ラニル・ウィクラマシンハ首相が率いる新民主主義戦線(NDF)とマヒンダ・ラージャパクサ前大統領が率いるスリランカ人民党(SLLP)―人民戦線(PP)が、中心的陣営として選挙戦に登場してきている。人民解放戦線(JVP)主導の全国人民の力(NPP)連合の候補者および市民社会の諸組織を代表する候補者や個人としての候補者など三〇人以上がこの選挙に立候補している。
この選挙の主な相違点は、二人の候補者が、自分たちの基本理念や政策について討論を始めるのではなく、個人的イメージを強調しているという点にある。NDFのサジット・プレマダーサとSLLPのゴタバヤ・ラージャパクサの二人とも、オルタナティブなプログラムを提案するのではなく、過去の実績やそれぞれの家族的背景をもとに自らへの投票を訴えてきたのである(サジット・プレマダーサはラナシンハ・プレマダーサ元大統領の息子であり、ゴタバヤ・ラージャパクサはマヒンダ・ラージャパクサ前大統領の弟である)。
NDF、PP、NPP、さらに他の候補者のほとんどによって提起されているビジョンは、ほとんど同じプラットフォームの上にあり、プレゼンテーションの違いほどには違いは大きくない。全員が、資本家階級によって過去数十年にわたって遂行されてきた新自由主義政策が成功していないことを認めている。また、全員が、汚職のない、東アジアモデルないしは東南アジアモデルの実行が、現在の危機に対するオルタナティブであると主張する。
マヒンダとゴータバヤ陣営は、自分たちの発展モデルは愛国主義と安全保障に基礎をおいていると述べている。これは人々を規律ある市民へと変えようとするシンガポールあるいはマレーシアのモデルだ。NDFは同じモデルを共有しているが、社会保障というレトリックを使っている。NPPは汚職のない正直な政府を提唱するが、同じモデルに基づいている。
アジアの発展モデルと新自由主義的プログラムとの間には、ほんの少しの違いしかない。海外からの投資、グローバル市場をターゲットにした生産、生産性向上のための労働者への圧力、労働者の権利の制限、抑圧的で反民主的な法律の実行などに基づく経済発展は、新自由主義に対するオルタナティブと称するものの際立った特徴である。民主的スローガンや国内問題、憲法改革が現在の政治討論の中に存在していない状況では、われわれは来るべき独裁の残忍さを予見することができる。
今日のもっとも悲しむべき事実は、資本家からさまざまな攻撃を受けてきた労働者階級がこれらの候補者の周りに結集していることである。知識人の中には、スリランカには秩序ある社会を打ち立てることができる軍事的支配が必要だと信じる者もいる。左翼が、資本主義的展望から独立した自らの大衆政党を建設できてこなかったことは悲劇的である。労働者が資本家政党を支持することをやめさせることができるのは、労働者階級による政治運動だけである。
四つの極左政党が、自らのイメージを上げるために、今回の大統領選挙に自らの候補者を立候補させた。その中には、社会主義前線党(FSP:JVPから分裂した左翼政党)、統一社会党(USP:CWI労働者インターナショナルにむけた委員会スリランカ支部)、社会主義平等党(第四インターナショナル国際委員会の加盟組織)が含まれる。社会主義の展望を持つこれらの政治組織が左翼の単一共同候補を提唱することができなかったのは悲しむべきことである。これはスリランカ左翼の分裂とセクト主義という現実を示すものだ。このことは労働者民衆が左翼の力に頼ることができないだろうということを意味している。
レフト・ヴォイスがFSPの政策の多くに賛成するのは難しいことではない。しかし、いくつかの重要な点について、批判的な相違点がある。たとえば、FSPの展望や行動の多くが支持できる一方で、どうしてFSPがタミール民族問題の原則的な解決策を避け続けているのか、われわれには理解できない。USPは基本的原則を掲げて立候補しているが、労働者階級のリーダーシップや資本主義によって創り出された新たな困難を無視している。
以上のことに基づいて、レフト・ヴォイスは、FSPのドゥミンダ・ナガムワまたはUSPのシリスンガ・ジャヤスリヤに投票することを呼びかける。
|