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    かけはし2019年7月15日号

被害者への謝罪・補償を行え!


朝鮮植民地支配・「慰安婦」の苦痛・戦時強制労働

加害責任は全く問われないまま

南北の民衆と共に闘いぬこう

謝罪も補償もなされていない


 二〇一六年一〇月の国会で安倍首相は、一五年一二月の「慰安婦」問題での日韓合意に関連して、元「慰安婦」に対して「お詫びの手紙」を検討していないのかという野党からの質問に「そうした考えは毛頭ない」と発言して、韓国世論の猛烈な反発を受けたことがあった。安倍自公政府は、日本軍によって集団レイプされた元「慰安婦」の受けた屈辱や苦しみを真摯に受け止めて、心から謝罪する意思など「毛頭ない」ことが明らかになった。それは強制連行を伴った朝鮮人の元徴用工や元女子勤労挺身隊員や元軍属ら、人間としての尊厳を奪われ、差別され、屈辱を受けて、生存権を脅かされた人々に対しても同様の考えであることを明らかにするものであった。また朝鮮高校の授業料無償化からの排除政策は、安倍政権の排外主義的で差別主義的な性格を最も表現しているものだと言わなければならない。
 一九六五年六月二二日に東京の首相官邸で調印された「日韓基本条約および諸協定」は、日本帝国主義による朝鮮侵略と植民地支配に対する清算がまったくなされないままに、六一年五月一六日の軍事クーデターで権力を奪取したものの、引き続く経済危機と民衆反乱に直面していた朴軍事独裁政権救済策の一環であった。そして日韓の背後には、当時ベトナムへの全面的な軍事介入に乗り出した米帝国主義の意思が反映していた。朴独裁政権は米国の要請を受けて、六五年の一月一八日に韓国軍二〇〇〇人の南ベトナム派兵を決定した(韓国軍のベトナム派兵は延べ三二万人で、うち正規軍は六万人)。そして同時期に佐藤とジョンソンとの日米首脳会談が行われて、そこで佐藤首相は「ベトナム戦争への日本の協力と日韓条約の早期締結」を約束したのであった。そして二月二〇日にソウルで日韓条約および諸協定の仮調印が行われている。
 「財産および請求権に関する問題の解決ならびに経済協力に関する協定」では、日本帝国主義による朝鮮植民地支配への賠償として「一〇年間で無償三億ドルと有償二億ドルの供与。さらに三億ドル以上の民間借款を供与」して経済協力を行うものとした。これらの「賠償金」のほとんどは植民地支配の協力者や軍出身者らによる財閥企業育成に使われることになる。一九〇五年一一月一七日の日韓保護条約(ウルサ条約)から四一年間におよんだ植民地支配によって苦しめられた韓国民衆個々人は、まったくその賠償の恩恵を受けることはなかった。そうした経緯があるなかで昨年の一二月二〇日には、「六五年の日韓協定に基づく資金で、遺族らが受けるべき賠償を韓国政府が返還すべきだ」として、元徴用工の遺族ら一一〇三人が韓国政府を相手に、一人当たり約一〇〇〇万円の損害賠償を求めてソウル地裁に提訴している。

相次ぐ賠償命令

 安倍政権を含む日本の歴代政権は、賠償や補償の問題は日韓条約と協定で「完全かつ最終的に解決した」という立場をとってきた。しかし「慰安婦」問題をめぐって日韓合意によって設立された財団に対し、安倍政権は一人当たり一〇〇〇万円の補償を行うとして総額一〇億円の基金を拠出したのであった。現在その財団は韓国の女性家族省の通知によって残務処理を残すだけの解散状態にあるが、「すべて解決済み」とする立場でありながら「お金を出した」ということは大きな矛盾を発生させた。それは「解決されていない」ことを認めたということになるのである。「慰安婦」問題をめぐって韓国と国際世論は、安倍政権は「歴史修正主義だ」とする圧力を形成して、決定的な風穴を開けたということができる。高齢化や生活難などの理由から基金を受け取らざるを得なかった人たちも少なからず出たが、一六年一二月に元「慰安婦」と遺族ら二〇人が、日本政府に対して約三億円の損害賠償を求めてソウル地裁に訴訟を起こしていた。安倍政権は訴状の受け取りを拒否してきたのだが、今年の五月九日に審理開始手続きの効力が発生し、ソウル地裁が弁論期日を指定すれば審理が始まる。安倍政権は「主権免除」(国家が外国での裁判を免除される)を理由に裁判には応じない方針だ。
元徴用工の賠償請求訴訟で昨年の一〇月三〇日の韓国最高裁の判決内容は「原告が求める損害賠償は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配などに直結する日本企業の反人道的不法行為を前提として請求する慰謝料であり、原告が求める慰謝料請求権は請求権協定の適用対象に含まれていたとみるのは難しい」とするものであった。そして原告四人に対して一人当たり約一〇〇〇万円の賠償を行うように日本製鉄に命じたのである。一一月二九日にも最高裁は三菱重工を相手取ったそれぞれ五人の二件でも被告の上告を棄却して確定判決を出した。ここでも一人当たり約八〇〇〜一一〇〇万円の賠償を命じている。
その後も一二月五日には光州高裁で三菱重工の控訴が棄却されて、元女子勤労挺身隊員と遺族七人に一人当たり約六五〇万円の賠償を命じた。六月二六日にはソウル高裁が日本製鉄の控訴を棄却し、元徴用工七人に一人当たり約一〇〇〇万円の支払いを命じた。翌二七日には同高裁が三菱重工の控訴を棄却して、元徴用工一四人の遺族ら六〇人に一人当たり約九〇〇万円の支払いを命じた。被告はいずれも上告している。また最高裁での確定判決後に新たな訴訟が次々と起こされている。
四月四日には日本企業四社(三菱重工・日本製鉄・不二越・日本コークス工業)を相手取って三一人、八件の訴訟があった。四月二九日には五七人が日本企業九社(三菱重工・日本製鉄・不二越・日本コークス工業・三菱マテリアル・住友ホールディング・JX金属・西松建設・日立造船)に対する訴訟を光州地裁で起こした。
これらの訴訟を受けた光州地裁は「昨年一〇月三〇日の確定判決を基準として、三年以内であれば損害賠償請求ができる」という判断を示した。今後、追加訴訟が相次ぐのは明らかだ。弁護団によると光州周辺だけでも五三七件の申請を受け付けて、証拠書類がそろった原告から追加訴訟に入るとしている。また支援団体は、国家記録院が名簿を保管している「国外強制動員犠牲者法」に基づく数万人分の被害認定者に対して、日本企業に対する裁判請求権があることを知らせて、追加訴訟を促す措置を取ることを明らかにしている。

安倍政権の居直り

 こうした動きと連動した形で一月二四日、ソウル地検は元徴用工訴訟の最高裁判決を遅らせたとして、朴クネ前政権で最高裁のトップだったヤン・スンテ前長官を職権乱用容疑などで逮捕している。しかしこの地検の動きは、文在寅政権が今後、最高裁の確定判決内容を無視して日本との政治決着ができない状況を作り出したということもできる。文在寅政権は「下手に動けない」状態にあるのだ。それを端的に示したのが五月一五日の李洛淵(イ・ナギョン)首相による発言だった。彼は「司法手続きが進むなかで政府が対策を立てるのは限界があるというのが結論だ」「行政府が前面に出て何かするのは、これまでの経験からみて成功しない」と語った。また「政府は司法判断に介入できない」とする従来からの見解を示してきた康京和(カン・ギョンファ)外相はG20開催直前の六月一九日になって、日本側に「被告の日本企業を含む日韓企業が出資する財団を創設し、原告に慰謝料を払う『和解案』を日本政府が受け入れれば、日韓請求権に基づく二国間協議に応じる用意がある」と発表した。しかし「韓国政府に賠償の肩代わりを要求」している安倍政権は、この提案を「国内向けの案だ」として一蹴したのであった。
すでに確定している三件の原告と弁護団は、日本製鉄と三菱重工に対して誠意のある対応と協議を求めて本社を訪問してきたが、すべて無視されて門前払いされてきた。それは安倍政権が「協議に応じるな」という指示を出しているからだ。自国の文在寅政権は動いてくれないし、日本企業からは無視されるという状況が続くなかで原告と弁護団は、やむにやまれぬ思いで韓国国内にある当該日本企業の資産の差し押さえや現金化に向けた手続きを進めている。
大邱地裁は一月八日、日本製鉄の関連会社であるリサイクル会社PNRの株式差し押さえを認める決定を出した。三月二二日には大田地裁が約八〇〇〇万円相当にあたる三菱重工の商標権と特許権の差し押さえを認めた。また上告中で判決が確定していない不二越に対しても三月一五日、蔚山地裁は関連会社である大成NACHI油圧工業株七四〇〇万円相当の差し押さえを認めている。早ければ八月中にも賠償金の差し押さえ手続きが完了して、売却されて現金化される可能性が出てきた。こうした動きに対して安倍政権は六月二一日になって、「差し押さえられた日本企業の資産が売却された場合、対抗措置とは別に韓国政府に賠償を求める」という方針を決定した。その根拠としているのが〇一年に国連で採決された「国際法違反行為に関する国家の損害賠償義務」だ。
しかし日本が過去の侵略戦争と植民地支配に対してまともな補償を行ってこなかったことは「世界の常識」であり、「慰安婦」問題をめぐっても国際世論が日本政府に対する圧力として形成されてきた。安倍政権は「日韓条約と協定」の締結をその根拠とするのであろうが、当時の軍事独裁政権と比較して比べものにならないほどの「民主主義的な社会」を築き上げてきた韓国の司法判断を否定するだけの国際的な支持を安倍政権が得られるのかは疑問である。多分賛成するのはトランプ政権と、日本との利害関係に縛られたいくつかの「非民主的国家」にすぎないだろう。

「反韓国」排外主義を許すな

安倍政権はG20が閉幕し、七月四日の参議院選挙告示を直前に控えた七月一日、徴用工問題での日本企業資産売却の動きに対する対抗的な報復措置を発表した。それは韓国はもはや安全保障上の友好国(ホワイト国)ではないとして、「戦略的な物資」に対する輸出手続きの優遇措置の対象から韓国を外すことを八月中にも確定するというものである。現在日本が指定しているホワイト国は二七カ国だ(欧州二一・北米二・オセアニア二・アルゼンチン・韓国)。そして手始めにその対象としたのが半導体生産過程で不可欠な素材三品目だった。半導体の生産はサムスン電子が世界第一位であり、SKハイニックスは世界第三位であり、半導体は韓国資本主義を牽引する中核的な産業である。安倍政権による措置は禁輸ではなくて、優遇措置から外し経産省の「許可制」にすることによる韓国企業に対する圧迫効果を狙ったものだ。もちろん輸出する側の日本企業への圧迫は韓国企業以上だろう。措置は七月四日から実施される。安倍政権の当面の狙いは、日本企業資産の「売却と現金化」の阻止にある。
今回の措置で対象となったのは、半導体の製造過程で使用される洗浄剤のフッ化水素と、回路形成に必要な感光剤(レジスト)と、テレビやスマホのディスプレーパネルに使われて、薄膜化して半導体生産にも使用される超耐熱性プラスチックのフッ化ポリイミドだ。韓国貿易協会によると今年の一〜五月の日本からの輸入は、フッ化水素が三〇億円で全体シェアの四三・九%、感光剤が一一〇億円で同九一・九%、フッ化ポリイミドが一三億円で同九三・七%だった。いずれも禁輸措置とされているわけではないが、現時点で日本以外へと代替措置がとれないのが感光剤だ。
「素材で日本勢が存在感を示すのが、露光で使うフォトレジスト(感光剤)だ。JSR・東京応化工業・信越化学工業・住友化学・富士フィルムHDの五社で世界シェアの九割を占める。感光剤には転写する回路パターンの複雑化・微細化のために高い解像度が求められる。また感光剤のなかに不純物が入れば、転写回路パターンに傷がつく。これらの要望に応えるべく材料選定・配合や不純物管理が求められる。簡単には後発企業が参入できない」(「エコノミスト」一八年七/一〇号)。
文在寅政権は日本との交渉は長引くと判断していて今後、WTOへの提訴や素材・部品などの国産化に向けて毎年約一〇〇〇億円規模の資金の投入を決めた。また文在寅政権は日本企業資産の「売却と現金化」を留まらせようとはするだろうが、「司法判断に介入しない」立場を表明していることから、安倍政権による報復を受けて立つしかない。韓国世論もWTO提訴支持が四五・五%、報復すべきが二四・四%であり、文在寅はこの世論を無視することはできないだろう。
元徴用工などへの賠償の発生は、戦後日本が朝鮮侵略と植民地支配に対する心からの謝罪と十分な補償を行ってこなかったことが原因である。元「慰安婦」や遺族による日本政府を相手取った賠償請求訴訟と合わせて、被害者の訴えを支持し、日本政府と当該日本企業が早急に賠償の支払いに応じるよう求めていかなければならない。
また日本政府が自らの主張を正当化させる根拠としてきた「日韓条約と諸協定」は、冷戦とベトナム戦争のもとで米帝国主義の意を受けて、朴軍事独裁政権救済策の一環として交わされたものであり破棄される必要がある。そこには植民地支配に対する謝罪もなく、「韓国政府を朝鮮における唯一の合法政府と認める」とされていて、朝鮮民主主義人民共和国への敵視政策と南北分断固定化を正当化しようとする意志が込められている。日朝国交正常化と合わせて、新たな友好的で相互平等的な日韓・日朝の関係を作り上げてゆくことが求められている。
安倍政権によって強化されようとしている反韓国の排外主義キャンペーンと対決しながら、韓国労働者民衆との連帯を強めていこう。
 (高松竜二)








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