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    かけはし2017.年12月4日号

米国の介入主義と戦争政策を止める闘いを


東アジア

朝鮮半島危機

米国発の地政学的攻勢が地域を
不安定化、核軍拡の圧力に転化

ピエール・ルッセ

  北朝鮮をめぐり極度に高まった緊張が続いているが、ルッセ同志が、主には米・中関係を基軸に置き、この緊張をアジア全域における地政学的均衡の不安定化という脈絡の中で分析を試みている。いくつかの基礎的な事情の紹介など、欧州の読者を主要な対象にしていると思われるが、その視野の広さを含めて日本のわれわれにとっても考えるべき素材を提供している。以下に紹介する。(「かけはし」編集部)

地域の不安定な均衡に揺らぎ


 米国は、朝鮮半島の危機の中、東アジアでの攻勢に戻ってきた。中国に関する限り、一時的に主導権を失った。米帝国主義は、ゲームに勝利しているとはまったく言えないが、いくつか重要な得点を挙げ、特にその攻勢が引き起こしている核軍拡競争の加速化を理由に、その範囲はこの地域全体に――さらにそれを超えて――及んでいる。世界のこの部分では、地政学的力関係が恒常的に進展し続けている。
 アジア太平洋「枢軸」における米国の回帰はずいぶん前から知らされていたが、オバマの下では本当のところ行われてはいなかった。ドナルド・トランプはこの地域からの引き上げを開始し、交渉中だった自由貿易協定(環太平洋パートナーシップ―TPP)から撤退、こうして中国にこの戦場を明け渡した。そして中国は、いくつかの成功を含めて地域包括経済パートナーシップ(RCEP)を推進しつつある。
 ドナルド・トランプは、朝鮮半島危機の中で主導権を取った。今回は軍事のレベルにおいてであり、そこでは米国の優越性がもっとも圧倒的だ。彼の性格はごく軽く、毒舌的なツイッターと悪口という彼の流儀は穏当さを欠くと同時におろかしいものだ。しかしながらトランプと金正恩間のけたたましい争いも、当然だが重要な問題は隠しようがない。つまり、米国の攻勢は真剣であり、続き、底深い結果につながり始めつつある、ということだ。
 紛争含みの均衡という問題が東アジアで発展することになった。北京は南シナ海で、この海域の軍事占領と経済的重みに助けられて主導権を確保した。ワシントンは北部で、その軍事基地ネットワークと多少とも従属した同盟国(韓国、日本)に助けられて優位を確保した。ロシアは、シベリアの大国であるとはいえ、らち外に留められた。
 そのような均衡は一時的にすぎない可能性がある。ワシントンは南で、中国が築いた人工島すれすれに第七艦隊を派遣した。他方北では北京が、尖閣/釣魚台というちっぽけな岩礁に関する日本の主張に異議を突き付けるために、艦船や航空機を派遣し、それによって米国の決意を試した。この不安定な均衡は今、朝鮮半島問題に対する米国の干渉が一定の規模になっていることにより、しかしまたフィリピンにおけるペンタゴンからの起床ラッパによっても、壊されている。

米国の強化された攻撃部隊展開

 経済制裁はこれまでのところ、北朝鮮指導部を屈服させるにはいたらず、体制の危機に道を開くことにもなっていない。ワシントンは一貫して、平壌の回復能力を過小評価してきた。一九五〇―五四年の朝鮮戦争の時期、米国は北を灰燼に帰し、多くの戦争犯罪に関わった。人びとはそれを忘れることはなかった。そして、非常な貧困の中で暮らしているとはいえ、何よりももう一つの破局的な攻撃を恐れている。
特権をもつ社会的エリートたちが出現し、独裁権力に社会的基盤――それは、計画経済の毛穴の中で発展する余地を市場関係に与えることにより膨張した――を提供しつつ、近代化を遂げた。エスノアイデンティティ民族主義は有効な思想的セメントになっている。完璧な予防弾圧が、体制それ自身内部でのオルタナティブの出現を不可能にしている。
以前の制裁が成功しなかったという事実はもちろん、明日破断線に達しない、ということを意味しているわけではない。これは、情勢の展開が提起している回答が「空白のままの」問題の一つだ。
二〇一七年八月五日に国連が採択した七回目の制裁は、輸出から生まれている一〇億ドル(八億五〇〇〇万ユーロ)の歳入をこの体制から取り上げることを狙いとしている。それは、外国企業と北朝鮮企業間の新たな合弁事業すべてを禁じ、今あるものにおける追加的投資すべてを止め、海外の北朝鮮労働者に関する定員を引き下げ、国連決議を侵犯する北朝鮮船舶についてあらゆる国の港からの出港を禁止し、平壌の外国貿易銀行の資産を凍結している。
二〇一七年九月一一日、石油とその派生製品についての部分的で累進的な禁輸(天然ガスに関しては完全な)を含んだ、新たな制裁セットが、国連安全保障理事会で採択された。今回は、北朝鮮企業との合弁事業は僅かを例外としてすべて禁止され、今あるものは、一二〇日以内に閉鎖されなければならない。ワシントンは銀行への処置も行おうとしている。
サイバー攻撃に関して言えば、オバマの下で、特に北朝鮮の核計画を妨害するために、電子戦争プログラムが起動させられた。結果として、一定数の「失敗」(不完全なミサイル発射その他)を説明可能となることはあり得る。しかしこれは、北朝鮮の能力開発における相当な前進を阻止することにはならなかった。
特に毎年韓国軍と共同で行われる大規模な海軍の機動演習を通して、ワシントンによる北朝鮮に対する軍事圧力は変わることなく維持されてきた。金正恩暗殺の権限をもつ韓国軍エリート部隊がつくられようとしている。済州島における水中基地建設、空中給油機、サードミサイル発射システムの展開、そして最終的に北朝鮮沿岸域の爆撃機による飛行をもって、この圧力は徐々に強化されてきた。それは、一九五〇年代以後で起きたことがないことだ。

韓国民衆の前進に対する重圧


米国が続行してきたこの多面的な攻勢は、北朝鮮体制から見て、その生き残りが核保有国という厄介者になる能力にかかっている、ということを確認させたにすぎなかった。北朝鮮は屈服しなかった。しかしながらワシントンの政策は、韓国、日本、中国、フィリピン、さらにより一般的にアジアの地政学的空間に、すでに果実を生み出している。
韓国は米国にとって、この地域システムの要石だ。しかしながら今年五月九日の選挙は、ドナルド・トランプにとっては極めて深刻な後退だった。その広がりと持続期間で注目に値する巨大な市民の決起、公共空間の占拠に続いて、前政権(往年の独裁を継承した極右)は選挙で打ち破られた。住民は、地域の軍事的緊張に対してよりも国内問題(汚職スキャンダル、抑圧、その他)にはるかに多くの重要性を与えた。米国の好戦的政策は彼らから見て、彼らのではなく、トランプのビジネスだった。
新大統領の文在寅はどちらかといえば、新自由主義の砲列とのつながりを断ち切ってはいない、しかし民族問題、つまり特に交渉の道による国の再統一に大きな重要性を置く、そのような韓国の重要な政治運動の中にいる(彼の党は「中道左翼」に分類されている)。文は韓国へのサードミサイル配置の加速に反対してきた。そして選挙後、平壌との対話開始を主唱した。これは金正恩からの手厳しい拒絶に会い、これが彼の外交的主導性に信用をまったく失わせる原因となった。これらの条件の中で、また核と軍事双方における金とトランプ間の挑発と対抗挑発というスパイラルに直面する中、彼は部分的に位置を戻している。
韓国国民の中では、米国の攻勢政策に対する敵意が深いところに残っているように見える。文大統領は、北朝鮮国民に対する八〇億ドルの人道支援を決定した。これは政治的な意味合いをもつサインだ。しかしながら、反戦運動にとっての行動条件は今、この五月に比べはるかに順調とは言えない状況にある。

日本、フィリピンでも米国に利


一方で日本の右翼は好機をつかむことになった。政権にある軍国主義右翼は、憲法の平和条項をきっぱりと終わりにしたいと思っている。しかし民衆の多数はこの見直しには反対している。北朝鮮のミサイルは今、定期的に列島を飛び越えている(パニックを引き起こしてはいないが)。
安倍晋三首相は国会解散と新たな総選挙に打って出ることを決定した。両院で三分の二の多数を誇っている彼には、そうする必要はなかった。彼の計算は、新たな多数で二〇一八年に臨み、彼の支配を二〇二一年まで確実に続けるために(さらに、彼の妻にかけられた特恵供与スキャンダルから注意をそらすために)、現在の情勢を利用することだ。
安倍は、この早すぎる選挙の決定ではほとんどリスクを取っていない。野党は分裂している。唯一の危険は新政党、希望の党(東京都知事の小池百合子により始められたが、それはエマニュエル・マクロンの事例を参照している!)から来ていた。安倍晋三は素早く行動することで、この党に根を下ろす時間を与えない状況を確保しようとしている。
東京がこの地域におけるワシントンの主要な同盟国(最大の軍事基地を置いている)ということと、しかしある意味で潜在的な競合大国でもあるということから、日本と米国の関係は複雑だ。しかしながら今のところ安倍晋三は、ドナルド・トランプを支持し続け、平壌との対話を試みることはどんなものも無益だろうと語っている。
フィリピンでは二〇一六年に選出されたロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、バラク・オバマを侮辱しつつ、この群島に対する米国の支配を激しく非難してきた。彼は中国への接近へと動き(投資能力を注意深く見つつ)、さらにロシアに機会の窓を開けた。
南部のミンダナオ島の危機はワシントンに、君は同盟相手をシャツのように変えることはできない、ということを完全に思い起こさせる好機を与えることになった。五月、ムスリムの都市であるマラウィで政府軍とジハーディストのイスラム勢力間の激しい戦闘が勃発、大きな人道危機を引き起こし、ドゥテルテにミンダナオ島全体に戒厳令を発動する機会を与えた。忍びやかな戦争状態は今なお持続している。
米国はフィリピン軍に、現在も有効な防衛協定にしたがって多面的な援助――諸々の武器、監視ドローンの操縦、戦術情報、現場での軍事「顧問」その他、またフィリピン軍の将校は米国の軍事学校に派遣されている――を与えてきた。それらはどれも、中国もロシアも今できないことだ。
ドゥテルテ政権には、独裁の特徴がある(「麻薬との戦争」を名目とした死者は一年でおそらく一万三〇〇〇人になる)。その将来は不確実なままだ。いずれにしろ米国は、フィリピン群島が南シナ海――北京がその支配的影響力を固めたいと思っている海域――で戦略的な位置を占める中、その前植民地における存在感をまさにあらためて確証することになっている。この事実をこの地域の他の諸国が見損なうことはないだろう。

朝鮮半島をめぐる中国の苦境


北京は今のところ、朝鮮半島の問題で主導権を発揮することができない。中国は今この情勢に悩まされている。中国は国連安保理では、平壌に対する制裁強化に向け、ロシア同様採択支持に追い込まれてきた。こうして、中国にある、あるいは北朝鮮企業が参加する北朝鮮の経済法人すべては解体されることになるだろう。
中国の平壌政権に対する影響力はゼロではないとしても非常に小さい。これははっきりさせられなければならない。そして北朝鮮がもし崩壊することになれば、中国は一日でその国境に米軍基地を見ることになるかもしれない。それは悪夢にほかならない。
中国人の発信力を持つ何人かは、国際メディアを通して警報ベルを鳴らし続けている。彼らの議論は単純だ。つまり、韓国は北よりもはるかに重要だ。平壌はワシントンとの対決に敗北するだろう。北京は、北朝鮮の体制が公然たる危機に入った場合の介入計画を、ワシントンと早急に交渉しなければならない。そうしなければ中国はゲームの外に置かれ、危機への対応がただ米国の利益のためだけのものになるだろう、などとだ。
問題は、この種の交渉にも最低限の信頼感を必要とする、ということだ。そしてそれは存在していない。またそれはおそらく、日の当たる場を必要としている台頭中の大国と、その傑出した地位を手放すつもりのない既成の大国(米国)の間では存在し得ない。加えてワシントンは、国家間連携の固いネットワークに依拠できるが、他方北京は、ロシアや戦略的重みを欠いた諸国との脆く時間限定的協定にもとづいてのみ、それに対抗する可能性がはじめて生まれるのだ。
中国は、他の地域や他の場所で、国際的主導性に向けた強力な能力を保持している。しかしながら朝鮮半島問題で前にあるのは、二つのまずい選択肢だ。つまり、平壌の体制の政策が何であろうとこの体制の持ちこたえ能力に賭けるか、それとも中国が弱い立場にある中で、米国の譲歩を期待するか、ということだ。これまでのところ、第三の道の切り開き方を北京が見つけ出したようには見えない。

死をはらむ金正恩の合理性


朝鮮半島危機における米帝国主義の歴史的責任は明白だ。一九五〇―一九五三年の戦争は、民主主義の防衛とは何の関係もなかった(南の親米政権は独裁政権だった)。あるいは民衆の自己決定とも無関係だった。つまりそれは、毛体制との対抗、そして本物の朝鮮革命の勝利を回避する、という問題だった。ワシントンは変わることなく、北朝鮮が内向き(「鎖国王国」)になっていた時ですら、平壌との和平協定に署名することを拒否してきた。それゆえ戦争状態は、上述したまさに実体的意味合いをもって維持されてきた。
過去(特にクリントンの下で)、限定的外交合意(たとえば核開発計画凍結のためのエネルギー援助)がその効果のなさ――しかしワシントンは多かれ少なかれすぐさまその尊重をやめた――を示してきた。今年多くの識者が声を上げ、平壌との交渉を始めるようドナルド・トランプをせかしたが、聞き入れられなかった。朝鮮半島危機は、米国が東アジアで主導権を取り戻すこと、米軍部がその予算の増額を要求すること、またトランプが国内問題で彼が抱える諸々のやっかいごとを忘れること、を可能にしている。なぜそれを自ら捨てることがあろうか?
北朝鮮は実際に脅威にさらされ、この脅しは今実行されている。イラクのサダム・フセインあるいはリビアのカダフィの運命を前提とした時、米国は核保有国しか尊重しないとの結論を金正恩がもつにいたったのは、論理にかなっている。多くの専門家が指摘してきたように、平壌の選択には合理性がある。しかしわれわれはその時、どのような合理性について話しているのだろうか?
金正恩は、強者に対する弱者の側から核抑止の概念をあらためて解釈してきた。彼には、韓国や日本を対象とした「抑止」で満足できた可能性もあっただろう。しかし彼は今米国に直接脅威を与えると主張している。大陸間弾道ミサイル、爆発技術、あるいは弾頭の大きさの分野で達成された進歩にもかかわらず、彼は依然目標から遠く隔たったところにいる。他方で彼は、全般的な軍拡競争の復活(迎撃ミサイルを含んで)に力を貸している。そしてそれは、米国の卓越性を永続的に復位させ、世界中に毒のある結末を波及させるのだ。
金正恩は核のエスカレーションを選択する中で、もう一つの道、すなわち、米国の好戦的政策に反対し平和を求めるこの地域の民衆の熱望に訴える道、を拒絶した。しかしながらこのオルタナティブな選択はあり得たのであり、単に「原則における」正しさではなかった。
証拠を挙げれば、米国内のトランプの脆弱さは言うまでもなく、韓国における復古主義右翼の打倒と文在寅の選出、あるいは日本の平和主義の深さをもつ強さがある。パキスタン、インドからフィリピンまで、反核と反戦の運動は存在している。それらは、朝鮮半島の危機に対して、アジアをまたぐ結集点を見つけ出していた可能性もある。これは、南アジア、東南アジアそして東アジアの運動を動員することがたやすいことではなく、各々の地域にはそれ自身の歴史があるからには、一つの貴重な好機なのだ。
国連では、今年一二二ヵ国が核兵器禁止条約を採択した。これらすべての闘争は今も継続中だ。しかしそれらは、平壌の政策で弱められている。
金正恩の政策がもつ合理性は、彼の独裁的、王朝的、エスノ民族主義的体制の性格を基礎にしている。国際的連帯に訴える、反帝国主義の民衆運動の発展を推し進める、幅広い外交的連携を構築する、また米国の国内的分裂を利用する、こうした考えそのものが、この体制にとっては明らかに「根本的に」縁遠い。
われわれは、米国の介入主義を糾弾し、その戦争政策の中止を要求し、即時的脱エスカレーションを迫り、米軍事基地の解体と米軍部隊の撤退を求めて闘わなければならない。これを行うために金正恩を帝国主義に対する抵抗のヒーローとして描く必要はないのだ!

アジアを貫くグレートゲーム

 中央(あるいは中東)アジア、南アジア、東南アジア、東アジア……ムスリム世界、インド世界、また中華世界……、アジアは歴史的に一つの実体として存在はしていない。例外は、特に二〇世紀以後、その国境が朝鮮半島からカザフスタンまで広がっている中国を理由としてだけであっても、地政学的な意味だ。米中の競合はあらゆる大陸とあらゆる分野で徹底的に行われている最中だが、それはアジアで特別な濃さを帯びている。
ソ連邦の内部破裂以後、連携関係のまったくすごい反転が起きることになった。昨日はワシントンと北京が、モスクワが後押しするニューデリーに対して、イスラマバードを共同で支持した。今日では米国がインドに傾いている。中国の方はともかく、海洋への特権的通路を与える「回廊」の建設に関連した大きな投資と一体的に、パキスタンでの地歩を確保し続けている。
南アジアでは、米・中の覇権争いに加えて、スリランカからネパールやアフガニスタンにおよぶ、中・印競合が決定的だ。インド、中国、米国は今、近頃外国からの投資に開かれたビルマで、直接に競合している。
東南アジアは、中国から後押しを受ける国々(ラオス、カンボジア、ブルネイ)やタイやその他の国の間の、中国の圧力の下での諸分裂により外交的に麻痺させられている。たとえばベトナムは北京に強く反対している。マレーシアとシンガポールは、世界市場のすきま市場を占めているが、中国からの経済的圧力の下に置かれている。そして巨大なインドネシアは、今なお冷戦のイデオロギー的時代に生きている。
アジアにおける地政学的均衡は一層不安定になっている。中国は、ここまでのところ大陸の東で主導権を失ったとしても、南や西へは大規模な拡張構想を発進させることになった。つまり、二つの新たな「シルクロード」(アジアと欧州を結んだ極めて古くからの交易ルートにある種なぞらえて)の開発だ。それは、アフリカと中東に向かう海路、そしてカザフスタンと東欧に向かう陸路となっている。この構想は、まだその最初の段階にあり、それが実際に始まるかどうかを知るには早過ぎる。しかしそれは、習近平の野心のレベルを象徴している。

核兵器廃絶求め今こそ決起を

 われわれは今、二つの矛盾した運動を目撃しつつある。一方で、核軍拡競争が再び始まることになった。中国内への朝鮮半島危機の衝撃はそれを明らかに示している。その時まで北京は、ミサイルと弾頭の相対的に限定された数の保有でも、公認の核保有国という閉鎖的クラブの一員であること、そして強者に対し弱者の側から(邪悪な)抑止力ドクトリンを適用することを可能にする、と考えていた。
韓国におけるサード迎撃ミサイルシステムの展開はゲームを変えることになった。そのレーダーの探知範囲は中国領土の大きな部分におよんでいる。そして朝鮮半島北部だけではなく、現存の兵器配置の大きな部分まで効力を消す。北京はしたがって、海洋に分散配置される戦略潜水艦隊(ロシアのように)を獲得しなければならない。中国はこれを行うために、その潜水艦を近代化し、スクリュー音を小さくし、指令システムを変え、その弾頭を小さくし、などのことを行わなければならない。このすべては自明というわけではないが、原則における決定は行われたように見える。
北朝鮮の事例はまた、核拡散が公式の保有国を超えて続いていることも示している(追加としてすでに、イスラエル、パキスタン、インド……があり、明日は日本だろうか?)。その兵器が存在するならば、いつの日か使われるだろう。それは一つの確実性だ。米国やフランスはそれを考え続けている。世界に及ぶ主な核の脅威は、平壌やそのちっぽけな武器庫から来ているのではなく、現代の超大国、ワシントンから来ている。知りたければ、トランプの語ることを聞けばよい。
対抗する流れは、核兵器禁止条約の国連における今年七月の採択によって表現されている。それは今日諸国の批准と署名に扉を開いたが、諸大国からはボイコットされた。フランスではこの条約について聞いた者は誰かいただろうか? フランスの核に関する総意がこのニュースを殺すことになった。いくつかの国(日本、インド、パキスタン、そして他のいくつか)を例外に、最良でも原則に関する請願の方を志向しつつ、急進左翼はこの廃絶運動に力を入れてこなかった。
朝鮮半島の危機は、われわれの側における良心の検証にとって一つの機会、死命を制する課題に関する真剣な政治的注力に向けた前兆、になる可能性を秘めている。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年一一月号)   



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