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    かけはし2017.年11月6日号

巨大都市の食を支える


投稿

芝浦と場見学会に参加して

受け継がれる技術と仕事への誇り

清掃・人権交流会が企画

秋谷静雄


 一〇月一二日、「清掃・人権交流会」主催の「芝浦と場見学・交流会2017」が開催され参加した。「芝浦と場」とは東京都中央卸売市場食肉市場を指す。清掃労働者への差別事件をきっかけに本交流会が発足。狭山現地調査をはじめ、被差別部落のフィールドワークなどに、毎年取り組んできた。私が参加している地域運動のメーリングリストでこの日の行動を知り、仲間とともにすぐに申し込んだ。

事前学習会
も開催
見学は一〇月一〇日、一二日の二日間で行われ、都合のいい日を選ぶ。実施日に先立つ一〇月五日には、東京飯田橋のSK会館で参加者向けの事前学習会も開催された。
学習会では「全芝浦と場労組」の仲間からスライドを使ってのレクチャーを受けた。「屠畜とは何か」に始まり、仏教伝来以降の「食肉禁制」や「殺生禁止令」、さらに現在の食肉の流通など広範なテーマを、組合員の講師は駆け足で解説した。
一二日午前八時。さわやかな晴天に恵まれたJR品川駅港南口の集合場所には、すでに二〇人を超える人々が集まっていた。清掃労組退職者会の押田五郎さんが両日の見学を先導する。参加者の出欠確認の後、一行は市場へ向かって歩き出した。八時一五分にはセンタービル内の会議室で、上長からの挨拶があった。
九時。使い捨てのマスクと帽子、白衣が支給され、参加者は大動物(牛)から回る班と小動物(豚)から回る二つの班に分けられた。全員に名刺サイズの受信機とイヤホンが配られ動作を点検。先導する職員のマイク付きヘッドセットから音声の電波が飛ぶ仕組みだ。

リズミカル
な流れ作業
棟内の廊下を延々と歩く。やがて長靴に履き替えヘルメットをかぶる。まるで原発労働者のような重装備だ。他者の表情は分からない。最後に個室で二人ずつエアーシャワーを浴びる。これらすべては衛生上の措置である。行く先の所々に長靴を漬ける消毒槽も設置されている。
牛から剥がされた原皮が集まる一階の屋外エリアで、最初の説明を受ける。イヤホンからくっきりと解説が聞こえてくると、「なるほどこの機器なしには周囲の騒音で人の声はほとんど聞こえないのだ」と痛感。ここから二班の行き先が分かれる。私は牛から見るグループだ。
どういう事情だか順路が多少入れ替わり、肉がすでにシャックル(吊金具)にかけられ、?皮が進む工程からの見学となった。黒毛に包まれた巨大な胴体がメリーゴーランドのように足から逆さに吊るされ、ゴンドラのような立ち台に立つ労働者の技で、見慣れた枝肉に変わっていく。職人たちは各々、自分がナイフを入れやすい高さに床を瞬時に上下させ、目にもとまらぬ速さで隣の労働者へと渡していく。右手にナイフ、左手にヤスリを持ち、切るたびにナイフを熱湯で消毒、頻繁に刃を研いでいる。切れ味がいいほうが力を使わなくて済むからだ。実にリズミカルな動きである。

緊張の第一現場へ

 床には血液や脂肪分の混じる水が常に流れ続け、頭の上には肉の塊が移動している。作業所内は部分冷房による熱気と、独特の臭気に覆われている。見学者がボンヤリしていると、滑って転倒したり肉に頭をぶつけたりする。緊張の連続である。
豚のラインでは、いくらか現場の空気に慣れてきた。体そのものの大きさもあるし、切り取られた豚足や顔面など、豚は牛よりも身近な存在だからだろうか。鳴き声は牛より騒がしいのだが。
さて現場回りの最後に、牛の打額(銃撃)を行う第一工程に移動した。細い通路に誘導された牛は、ノッキングペンを打たれると失神して倒れ、右側の金属板を押し開けて傾斜を転げ落ちる。すかさず「のど刺し」による放血が始まり、「頭半落とし・食道結紮」へと進む。私が今回の見学でぜひ見たかったのがこの最初の工程であり、生きた牛を数秒で絶命させる技であった。
午前中の現場見学が終わると、始まりと逆の流れで消毒・脱衣し、約一時間半の昼休憩。敷地内の民間食堂は満員だったが、見学者同士で席を譲り合って昼飯を終えた。見学の拠点となった六階会議室の隣には、一般来場者向けの展示室「お肉の情報館」がある。ここだけは事前連絡不要で誰でも入館することができるのだが、開館は平日のみだ。
豚のセリの
様子を見学
午後は数少ない女性の職員の案内で、豚のセリの様子を上部通路からガラス越しに俯瞰した。会議室のような空間の壁に大型液晶パネルが掛けられ、上場番号、重量、種別性別、格付、出荷県等が表示される。速いテンポでキログラム当たりの単価がせり上がっていく。「成立」を示す赤表示の直後に買受人番号が表示される。業者はリモコンが置かれた机に座って掲示板を見つめているが、中にはセリそっちのけでスマホ画面を見て操作している人も。テレビで見た威勢のいい掛け声や独特の指の動きなどはなく、なんだか拍子抜けしてしまう。一行は会議室に戻ると、一般見学者向けのDVDを鑑賞した。
午後二時からは、同室で二班に分かれて交流会。一班につき労組組合員二人と司会者が付く。二日間の参加者のほとんどが清掃労組各支部の組合員で占められ、他には、狭山事件に取り組む住民の会や解放同盟都連、解放書店、都内K市市議の姿もあった。

伝わる仕事へ
のプライド
参加者は順番に自己紹介し、この日の感想や質問を挙げる。内容はどれも似通っている。質問ではケガや事故の頻度、労災の問題、一人前の職員になるにはどれくらいかかるか。定着率、離職率。自分の担当からの異動について。また、自分の仕事をどう子供に伝えているかなどが出された。
回答にあたった組合員からは、異口同音に仕事へのプライドと楽しさが語られた。動物たちは一つとして同じ個体はない。毎日が修行であり、それによって確実に自分の技術が磨かれていく歓びと達成感がある。一〇年続ければ、どの工程に立っても、それなりに作業がこなせるようになるという。事故やけがについては、支部間で情報交換し、手袋や着衣を変えるなど、改善に努めてきた。
現在話題になっている築地市場は、テレビなどのメディアに取り上げられることが多く、認知度がかなり高いが、この食肉市場についてはほとんど知られていない。地域との交流やテレビ取材への諾否などの質問も出された。

差別との闘い
を通じて
と場労組では、品川区内の小学校の見学受け入れを続けているが、実現したのは三分の一校に過ぎないという。テレビの取材などについても、差別と偏見の問題に絡み、製作者サイドには「番組作りの難しさ」「寝た子を起こすな」といった忌避的な感覚があるのだろうと推測された。
熟練工としてのプライドや仲間同士の一体感が強いことから、「女人禁制の男職場」というイメージがついてまわる。現場では極少数だが女性の労働者も見かけた。女性の新規採用も含め、ある参加者がこの点をただすと、「施設じたいが古くトイレや浴室などが男性中心に作られていること」、「筋力勝負の仕事なので、やはり女性はどうなのか」という旨の返答があった。
巨大都市東京の食を支える品川市場。「高品質・安全・新鮮」を掲げ、「芝浦ブランド」として食肉生産を続けてきた。だがこの仕事に対する社会の偏見や差別は根強い。

見学ができ
なくなる?
一九七一年に結成された同労組は、東京都の差別行政、とりわけ内蔵業者、内蔵労働者に対する『ただ働き』の強要と闘い、ストライキを通じて権利を勝ち取ってきた。だがゴミ袋への落書き、ネットへの書き込みなど、姿かたちを変えた悪質な職業差別はなくならない。それどころか安倍一強政治の下で、不遇な境遇の人々の自己中心的で屈折したストレスが、攻撃的な形となって社会的弱者へと向かうという循環がある。それは未だに断ち切られてはいない。
実際の作業に触れる見学会は平日に行なわれるものだが、年休を取ってでも駆けつける意義があると実感した。学ぶべきことがとても多いのだ。ただし人権をめぐる現状から施設内の撮影は一切禁止。これは厳しく念を押されるルールだ。
大規模だが古い芝浦と場は、今後衛生上の管理がより一層厳しく強化されると予想されている。そうなると部外者が解体の現場に立ち会うことは極めて難しくなるという。ぜひとも、一度は見ておくべき労働現場である。

10.19

総選挙終盤戦の「19日行動」

野党共闘の前進かちとろう

安倍改憲を絶対阻止する闘いへ


一二〇〇人が
国会前アピール
 一〇月一九日、総選挙で終盤の激戦が展開されている中、冷雨をついて「総がかり行動実行委」は、午後六時半から恒例の国会前「一九日行動」に取り組んだ。議員会館前での集会には悪条件にもかかわらず一二〇〇人の労働者・市民が参加した。
 菱山奈帆子さんのシュプレヒコールで始まった集会では、参院民進党の江崎孝さんと共産党参院議員の山添拓さんが発言。安倍政権による改憲のための解散・総選挙に野党共闘の力で勝ち抜こうと訴えた」。
 総がかり行動実行委を代表して高田健さんがあいさつ。高田さんは臨時国会召集前の九月二〇日に「安倍九条改憲NO!市民アクション」として七項目の政策合意にもとづく申し入れを野党党首に提出したことを報告。しかしそれから数日後に、前原民進党代表が民進党を解党して「希望の党」に合流することになった裏切りを厳しく批判した。
 高田さんは「しかし、その後、『希望の党』合流に反対する議員たちが、立憲民主党を立ち上げた。二〇一五年以来の野党共闘の積み上げはムダではなかった」と語り、「二〇一五年の共闘は続いている。残りの時間は少ないけれど、野党共闘の勝利のために頑張ろう」と呼びかけた。
 連帯のあいさつを行った立憲デモクラシーの会の西谷修さん(立教大特任教授)は、「今まで鳥と呼ばれていたものをサルと呼ぶことにするなどと主張するこの政権を、一刻も早く倒そう」と訴えた。
 続いて「全国市民アクション」発起人の香山リカさん(精神科医)、憲法学者の清水雅彦さん(日体大教授)もあいさつ。元目黒区議の宮本なおみさんは、友人の高齢女性といっしょに三人で、毎週「安倍改憲を許さない三〇〇〇万人署名」に取り組んでいることを報告した。反応はとても良いようだ。
 最後に、憲法共同センターの森本駿一事務局長が、三〇〇〇万署名の達成、一一月三日の国会包囲行動、一一月一九日の国会前行動など当面する行動を紹介した。
 安倍自民党は、総選挙後改憲スケジュールの加速化に踏み込むだろう。全力で改憲を阻止し、安倍政権打倒へ!       (K)


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