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    かけはし2017.年8月28日号

ウルトラ新自由主義の突進への総反抗を


フランス

大統領権限使った支配との対決

鉄の手袋の下に隠された脆さ撃つ統一された民衆的決起へ

レオン・クレミュー



 欧州を覆う政治的・社会的不確実性の一つの中心であるフランスは、今年の大統領選と国民議会選におけるマクロン新党のとりあえずの成功により新たな安定に向かうのだろうか。少なくとも欧州の支配階級はそう期待している。「右でも左でもない」を標榜したマクロン新党の成功は、日本の政治評論家の一部でも、小池新党と重ね合わせつつ期待をもって受け取られているように見える。しかしその行方には、前途に控える労働者民衆との衝突を含んで大きな不確実性が潜んでいる。以下では、その衝突を見据えた急進的左翼の挑戦課題と合わせて、フランスの政治が抱える問題が論じられている。(「かけはし」編集部)

外形的安定の底にある深い不信


フランスとEUの支配階級は、フランスの選挙サイクルが出した結果にそろって安堵のため息をついた。フランスの政治的代表システムは、二〇一七年はじめに完全に荒廃を示していたが、今やこの国は、強力な国家と国民議会における絶対多数で装備された、ウルトラ新自由主義の大統領を結論とすることになった。
その道は、ブルジョア支配の政治的体系の再安定化に通じているように見える。そしてわれわれは、雇用主組織であるMEDEF(フランス経団連)が求める社会的攻撃、および民主的諸権利に対するいくつかの底深い挑戦に関し、本物の加速化を目撃しつつある。
国民議会は、政府が指令(議会の討論と決定なしに、政府が直接発布する法的価値をもつ文書)を通してものごとを進めることを可能にする法を早急に票決する予定になっている。九月からの雇用法修正をスピードアップするためだ。他方、非常事態を永続化するために、新たな治安法も票決されるだろう。それは知事と内務相に途方もない権力を与えるものであり、彼らはもはや、捜査手続きや事情聴取を始め、デモを禁止し、人びとを軟禁下に置いたり投獄するにあたって、裁判所の決定を必要としないだろう。
この外見に隠れたいくつかの現象を考慮に入れる必要がある。
第一は、政治指導部の底深い信用失墜だ。それが社会党(PS)の混乱と共和党(LR)の深い危機を導くことになったのだが、それは、マクロン選出によって消されることにはなっていない。この信用失墜は、大統領選第二ラウンドと議会選における極めて高い棄権率に、具体的に映し出された。大統領選第二ラウンドでは、四〇〇万の白票に加えて一二〇〇万人が棄権した。他方議会選の一回目では棄権率が五一・二九%となり、第五共和制下ではこれまで見たことのないレベルであったが、第二回目ではそれが五七・三六%にもなった。
こうして大統領選一回目では、棄権と白票を合わせれば一一五〇万となった。他方マクロンは登録有権者の一八・一九%あるいは八六〇万人の支持者を獲得したが、二〇一二年のオランドよりも一六〇万票少なく、二〇〇七年のサルコジより三〇〇万票近く少なかった。LREM(共和国前進、マクロンが発足させた運動)とMODEM(民主運動)の候補者たちは、議会選一回目では得票率が一五・四〇%だった。
代表性と政治指導部の正統性に関わる危機は依然として現存している。PSの崩壊とLRの危機がマクロンに勝利を与え、LREMの勝利を可能にした。しかしこの勝利も、先に見た現実が頑強に続いていることを隠すものにはなりようがない。

人工的多数と速攻的攻撃の狙い


精密に検討した場合では、二つの現象が強調されてきた。

▼第一に、議会選挙における関心の欠如の高まり。そこでは、比例代表制の不在と二回の単記投票制が、人が選択する候補者に投票する本当の可能性はない、ということを意味している。▼この投票タイプは、相対多数政党に信じがたいボーナスを与える。すなわちLREMは、絶対得票率一三・四四%(相対得票率二八・二一%)をもって、国民議会で五三・三七%の議席を獲得した。これと対照的に国民戦線は、マリーヌ・ルペンが大統領選二回戦に進出し、その一回目では得票率一六・一四%を受けながら、国民議会では一・三%の議席を占めたにすぎなかった。

 こうしてこの選挙過程の直後この制度的システムは、政治支配の危機に対し人工的で一時的な解決を可能にしている。他方でおびただしい他の欧州諸国では、混沌とした情勢が続いている。
この大統領と彼の多数派を賛美する、まれにしか見られないタイプのメディアキャンペーンにもかかわらず、諸々の事実には対処しがたいものがある。つまり、マクロン―フィリップという大統領の新しい組に対して、若者の中でも民衆諸階級の中でも忠誠心はまったくない。
新大統領はこの現実を決して無視してはいない。逆に、それ以前の大統領任期から諸教訓が引き出されている。ちなみにそこではオランドとバルスが、強力な民衆決起、前例のないレベルの不信、そして主要な構想に議会多数を一体的に確保する不能性、に遭遇した。
マクロンは、明らかに同じ障害にぶつかる危険を犯す一連のウルトラ新自由主義改革を、大急ぎで実施したいと思っている。
確かに彼は、二八九票の絶対多数という、国民議会における明らかに非常に強力な安定性に依拠できる。LREMの議会グループは、三一四人の議員を確保し、フランソワ・ベイルーのMODEM内のその連携相手は、四七人を確保している。今回の選挙に続く危機はまたLRをも、「レス・コンストラクティフス」として知られる新たなグループに導く混乱状態に陥らせた。このグループは、UDI(民主独立連合)の中道主義者とLRという名札で選出された何人かの議員を結集、合わせて三五人を数える。

大統領権限突出への制度転換も

 しかし現在の絵柄は今後の月々で変わる可能性があるだろう。こうしてマクロンは、雇用基準の新たな解体に関する法制定に対し議会から白紙委任を得ることを含め、指令のシステムを利用するだろう。
さらに彼は、この体制の大統領制的特性を深めることになる制度改革を導入したいとも思っている。マクロンはこの意味で、大統領制、および幕僚トップとしての彼の機能の君主制的側面で役割を演じるある種のシンボル操作を強めてきた。たとえば、彼の選出後、司令官車でシャンゼリゼを進んだこと、またプーチンをベルサイユで迎えたことなどだ。さらに彼は、米大統領制をモデルとして使い、「米大統領年頭教書」タイプの基調方針演説のために、議事堂に上下両院メンバーを召集した。
こうしたシンボルで勝負をかけるということは部分的に、大統領の強力なイメージを、オランドの下で深く腐食されたそのイメージを、取り戻す試みだ。しかしそのイメージの背後には実体もあるのだ。
エマニュエル・マクロンは、正統な自由主義、国家の再配分諸機能へのもっと深い異議突き付けを結び付けるシステムに向かうフランスの移行を加速したいと思っている。彼は、強力な執行権力と民主的な諸権利のさらなる腐食と一体化した、社会的保護(健康保険、年金、失業手当)の全システムに対する攻撃の加速を欲している。その中で彼のふるまいは、ニコラス・サルコジのそれ以上に明白ですらある階級的嘲りを表に出している。
証拠として、緊縮という彼の社会政策と社会的諸権利への挑戦にはらまれた攻撃的本性は、サルコジやオランドの下で現実となった以上の民衆的支持はいかなる意味でも生み出さないだろう。加えて、マクロンの全目標は、制度的障害や社会的諸決起からの過大な圧力に対する恐れなしに、高速で前進することでもあるのだ。
それゆえわれわれは、これらの諸方針が表現する転換点を過小評価してはならない。LREMは、古い伝統的な諸政党に取って代わっただけではなかった。つまりその目標は、制度の諸機能という分野で一定数の規則を変えることでもあるのだ。マクロンは、第五共和制の諸制度によって形作られた。そしてその強力な国家がもつ諸規則を際立たせることになるだろう。
国際的なレベルではマクロンは、アフリカや中東における進行中の軍事介入を強化するだろう。その中でフランスとドイツの指導者は、九月のドイツ総選挙後に、EU再編を加速化する共同の攻勢を再開するよう期待される可能性がある。

既成勢力の議会での周辺化


この国家改造を前に二つの伝統的政党は深い危機の中にある。臨床的に見て社会党は死んでいる。LREMは、その支持者の優に半分と、その基盤を構成する地方の名士の似たような比率を引き受けた。PSの議会代表(今は新左翼と呼ばれている)は、この党が以前の議会に確保していた数の一〇分の一、三一人にまで引き下げられた。PS指導部はほぼ全員がふるい落とされた。
二つの遠心的傾向が働いている。マニュエル・バルスが事前に形をつけていたそれは、当面何らかの区別された政治構想を確定しないまま、どうにかして自身を大統領多数派に統合しようとしている。他はブノワ・アモンが率いるものであり、彼は新たな「七月一日運動」を作り出すことにより、不屈のフランスとメランションを選んだ社会党支持者の二五%を取り戻すために、反新自由主義を土台に「古典的な」社会民主主義の党を再確立しようとしている。この構想は今のところ完全に想像上のものだ。PSの指導部機構は完全に麻痺状態にあり、オランド/バルスのPSが以前占めていた場はマクロンとLREMが占めている。
それが意味することは、新自由主義的社会民主主義のページがフランスで完全にめくられた、ということではない。LREMは、その指導者は極めて高度な連帯というイメージを映し出しているとしても、非常に脆い政治組織だ。それは党ではなく、被選出の指導機関をもたず、議会グループと地方のスポークスパーソンは異質的な混成体だ。その将来に関する限り、いくつかの仮説が前に進められる可能性はある。しかし高度にあり得ることは、マクロンが彼の現在の動きに対する障害にぶつかる場合、何らかの種類の社会民主主義潮流が再構成される、ということだ。
ものごとはある程度までLRとの関係ではもっと単純だ。われわれが言えることとして、この党の機構は、フィヨンのエピソードとジュペ支持者の首相としての権力到達に強く揺さぶられ、流動状態にある。しかしこの党はそれを受け、その「保守的な」翼とより反動的な部分の間で分断されている。ここで再びマクロンが、ブルジョアのものごとに対する新自由主義的管理という領域を占め、LRの指導者たちには、当面政治的空間がほとんどない。
最後に国民戦線(FN)は、大統領選におけるその大きな成功にも関わらず、一つの分かれ道に達した。それは議会会派を形成することができなかった(議員数の条件がある:訳者)。こうして議会闘争の分野では周辺化されている。
しかしながらこの党は、時は彼らの側にあり、緊縮政策というマクロンの五年後には政治的危機がもっと大きくなっているだろう、と考えることができる。民衆層の反動的有権者内部で成功裏に進んでいるFNの根付きもまた、伝統的右翼の危機からの利益を追求するよう、この党を駆り立てる可能性がある。大統領選に向けてデュポンアニャンとの間で実現したような連携政策に向けた開放性と党名変更というマリーヌ・ルペンの構想も、LRのもっとも右翼的な層を誘い込むことを追求するものだ。いずれであれ、ネオファシスト指導者たちをその真髄に抱えるFNは、労働者運動にとってまさにかつてと同じ大きな危険だ。

統一的決起の枠組み構築が課題

 急進左翼にとっての今後の全問題は、マクロンの諸計画に対決する対抗と決起の能力にある。この抵抗を発進させるための支点は社会運動内では極めて幅広い。
この大統領の正統性に関し、労組運動指導部内部には今も一つの論争がある。それが、これまで見てきた諸決定に異議を突き付けることを困難にしている。間違った考えがもち出されている。それは、反対する前に政府の決定の具体的結果を待つ必要がある、大統領と政府は今なお、民衆層や若者の中で幅広い支持に恵まれている、というものだ。少なくとも「労働者の力」(労組ナショナルセンターの一つ:訳者)の指導部はこの立場を主張し、労組指導部はより全体として、選挙期間とその後、立場の明示を低く維持してきた。
これにもかかわらず、数々の地方のデモがすでに進行中だ。戦線を軸に結集している戦闘的労組活動家はこうして、CGTの諸支部と共に、またソリデールの支持の下に、選挙直後に決起した。多くの地域では、本物の労組間共闘が設立されている。CGTは問題の指令に関して九月一二日に一日ストライキを呼びかけた。民主的諸権利への攻撃、および非常事態の条項を永続化させようとのもくろみに反対して、多くの抗議行動も起きた。
しかしすべての者は、この政府による挑戦はこれまでとは違う性格をもっているということ、またマクロンの攻撃を阻止し彼の政府を不安定化するために必要とされるものは、二〇一六年春のエルコムリ法反対運動のそれよりももっと強力な決起だ、ということを分かっている。
これを行う諸勢力は存在し、若者と民衆諸層内部の憤激は、新大統領によって静められるようにこの国を描くメディアキャンペーンによっても、消されてはいない。しかし必要なことは、提起されたすべての問題に関し、統一された決起というつながりの中にそれらを結集する能力だ。
政治的レベルでは、不屈のフランス(FI)が、共産党(PCF)議員(PSの崩壊がPCF議員一一人の選出、およびフランス海外領土議員の支持に基づき議会会派の形勢に余地を与えた)と共に議会野党の空間を占めている。
しかしいくつかの問題が未解決のままに残されている。不屈のフランスの成功の土台にはPSの崩壊があったが、その将来は今なお不確実なままだ。メランションは左翼戦線に穴を開けてそれを沈め、PCFとの選挙連携をもすべて壊した。彼はそうであっても、PS支持者の少なくとも二五%を引きつけた。その上FIは、大統領選と議会選キャンペーン期間中、社会運動内の活動家大多数をも引きつけた。しかしそれは、新しい政党ではなく、一連の分野におけるメランションの熱のこもった愛国主義的姿勢にはふれないまでも、それを構成する多様な部分間の民主的な論争の場ですらない。
現在の挑戦課題を満たすことができる一つの政治的勢力を構成するために、革命的諸組織と社会運動内に存在する反資本主義派を組織化するという問題は、提起されたままに留められている。今後の時期に必要とされることは、社会問題に関する、また市民的自由の防衛における、警察の暴力並びに移民に関するフランスとEUの諸政策に対決する、統一した決起に向けた枠組みの建設となるだろう。これらに表されたものが、革命派、また第一に反資本主義新党(NPA)にとっての重要な任務だ。
疑いのないことだが、マクロンのフランスが非常に長期間平穏を回復することなどないだろう。

▼筆者は労組連合のソリデール、および反資本主義新党(フランスNPA)の活動家であり、第四インターナショナル執行ビューローメンバー。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年八月号)   




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