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    かけはし2017.年7月10日号

未来を指導者だけに預けるな


米国

トランプ、パリ協定、多国間協調の崩壊

ドロシー・グレース・ゲレッロ


世界秩序の要が
世界秩序を壊す

 問題は、すでに弱いものとなった気候協定とプロセスに関するトランプのがらくただけではない。まさに起こったことは、世界秩序の要が世界秩序を壊しつつある、ということだ。
国連パリ気候協定からの撤退は、ドナルド・トランプが行った選挙キャンペーンの一〇〇を超える約束の一つだ。米国は今、その約束を果たすことによって、この協定に署名しなかった二カ国だけのニカラグアとシリアに加わった。ニカラグアは、気候変動に対する無関心、あるいはその否認のゆえに署名しなかったわけではなく、その理由は正反対だった。ニカラグアの決定は、その協定は気候危機に取り組むには不十分、という評価を基礎にしていた。シリアは内戦、および米欧の制裁の最中にある。
トランプのパリ協定撤退という決定は、否定しようもないほどに誤りであり、狭量であり、無責任そして破壊的だ。世界中の懸念を深める人々がぞっとし、世界の指導者たちが現米政権による気候否認論の正常化を強く非難し続けていることは正しい。しかし、国連パリ協定に関する重要な事実をも思い起こそう。そしてこれが世界の指導者としての米国の地位をどのように脅かすかを注視しよう。

以前から米国は
気候への敵対者


グローバルサウス内のクライメートジャスティス運動活動家は、米国内の多くと共に、米国はトランプ選出以前ですら「気候の指導者」であることからはまったくはるかにかけ離れている、ということを分かっている。この米国は、歴史的に最大の温室効果ガス排出国であり、世界の炭素排出のほぼ三分の一に関し源だ。それにもかかわらず、米国は京都議定書を弱体化し、プロセスに込められた大望を水で薄め、あるいはそれを引き下げるために、他の富裕な諸国と共に、気候交渉の中で首尾一貫してその力を利用してきた。このプロセスに関する全体的な気候の政治と市場メカニズムは、気候を利益の種にする者たち、あるいは世界企業と富裕な諸国を利してきた。
パリ協定に法的拘束はなく、それは、協定序文中のより野心的な一・五度Cは言うに及ばず、世界の平均大気温度上昇を二度C以下に抑えるというすでに弱められた目標に達するためでさえ、なされるべきことにはるかに不足したものになっている。国際気候体制はグローバルサウスの従属を永続化し、そこから出ている多くの解決策は、よく言っても問題の規模には見合わず、はっきり言えば偽の解決策だ。二〇一五年協定における貢献としていったんは行う意志を示したことを米国はもうやらない、とその他の世界に告げることは、最高度の無責任と横柄さだ。

破局的な気候
災害はすでに


国連気候プロセスは、気候変動に対する世界的に拘束力があり、適切な解決策を押し出すという期待をもってそこに参加した数多くの発展途上諸国にとって、挫折感を募らすものになった。温室効果ガスの現水準にまったくほとんど寄与しなかった貧しく脆弱な諸国は、すでに恐ろしく破局的な気候関連の惨害を経験しつつある。
パプアニューギニアのカートレット諸島の人々は、すでに立ち退きに追い込まれ、最初の気候難民になった。一方、サブサハラアフリカの多くの国の農民は、すでに耕作が難しくなっていることを見出しつつあり、彼らの生計のつてをなくそうとしている。フィリピンのような島嶼諸国には、厳しい嵐が頻度を増して来襲している。多くの都市は、海面上昇の高まりに沈む可能性を前にしている。米国でさえ洪水から免れてはいない。

自信欠いた超大
国はまさに危険


気候の戦線におけるトランプの行動は、気候体制を決定的に攪乱している。しかしながら地球の生態系均衡が依存しているのは、現在あるがままのプロセスでも、パリ協定の成功でもないのだ。トランプの行動にはらまれたより大きな意味合いは、今や世界が米国をどのように見るべきかに関している。
良かれ悪しかれ、世界は問題解決における米国の指導性をあおぎ見ている。それは、現在の世界的な経済、政治、金融、そして気候に関する諸体制の要石だ。気候協定から退出するという、トランプの目先だけの間違った情報に基づく思考は、骨身を削って構築されてきた世界秩序そのものを粉々に砕く攻撃的行為だ。米国は、世界でもっとも豊かな経済超大国としてのその地位を失うという不安の中で、島国根性の中に後退しようとしている。
自信を欠いた超大国はいわば危険な超大国だ。外交は、力の調和的な使用と倫理的な信頼性に関わっている。米国は、トランプの大統領職の下に指導に必要なその信頼性を急速に失いつつある。トランプの行為は、人間の運命に対する彼の全面的な軽視をあらわにしている。気候変動に関する事実を理解し諸々の科学的発見を受け入れることに対する彼の拒絶は、彼の諸限界と弱点をはっきりさせている。
気候変動に関するパリ協定からの米国の撤退に対する非難のコーラスで欧州の指導者たちに加わることを早々に拒否したことで、テレサ・メイは強く批判された。一方でドイツ、フランス、イタリアの指導者たちは彼らのより強い考えを共同で表明した。
諸々の社会運動やクライメートジャスティスの活動家たちにとって、米国の協定放棄は失望を呼ぶものだが、この衛星上の人間の未来は指導者たちだけにかかっているわけではない、という理解についての統一もまたある。米国内でも、大規模な抗議行動はすでに起きつつあり、科学界もすでに、科学に対する彼らの大統領が示す敬意の欠如を集団的に批判することになった。予想されることだが、さまざまな諸国における大衆的な抗議が、トランプに対する反対を、またオルタナティブを提起するより重要な努力をも、表し続けるだろう。(「グローバルジャスティス・ナウ」より)

▼筆者は「グローバルジャスティス・ナウ」向けに寄稿している。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年六月号)




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