もどる

    かけはし2017.年5月29日号

止めよう!改憲と一体の警察国家


共謀罪法案の衆院強行採決糾弾!

全力で廃案をかちとろう

ウソとごまかしの答弁


 安倍政権の意向を忠実に代弁する自民党・公明党・維新の会は、五月一九日午後、衆議院法務委員会で民衆監視と対テロ治安弾圧体制強化に向けた共謀罪(「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画」を処罰する罪)を新設する組織犯罪処罰法改正案を強行採決し、二三日に衆院本会議でも採決を強行した。
 なにがなんでも共謀罪制定強行というこの暴挙を断固糾弾する。言論の自由、結社の自由、通信の秘密、基本的人権破壊の共謀罪法案の制定を許さない。衆議院段階における国会内外にわたる反対運動の成果を引き継ぎ、参議院での共謀罪法案廃案に向けてともに闘っていこう。
 安倍政権は、グローバル派兵国家建設の一環である対テロ治安弾圧体制にむけ、二〇二〇年東京五輪のためのテロ対策と称して既遂罰が原則の法体系を破壊し、未遂でも罰することを可能にする共謀罪制定をねらっている。国内治安弾圧体制強化の着手は、天皇代替わり賛美の演出をステップに二〇二〇年を改憲達成の年と設定していることとセットなのである。安倍政権の野望を突き崩すために、あらためて衆議院段階での共謀罪法案の審議を検証しておく必要がある。
 法案は、「テロリズム集団その他の組織犯罪集団の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する」と明記し、共謀罪の対象を二七七罪(テロ犯罪一一〇罪、薬物関連二九罪、「人身に関する搾取」二八罪、「その他資金源」一〇一罪、「司法妨害」九罪)に適用するとした。
 政府は、共謀罪法案の犯罪の「構成要件を厳しくした」などと言っているが、法案には「組織犯罪者集団」の定義、テロの定義がないから、権力のデッチ上げストーリーに基づいて二人以上のグループを、市民団体、労働組合、サークルなどに適用すれば弾圧可能だ。例えば、労働組合を「組織的犯罪集団」と規定したうえで団体交渉を逮捕監禁罪、金融機関への抗議行動が強要罪、ビラ撒き・街頭宣伝が信用毀損や業務妨害罪として適用する危険性もありうる。
 さらに「テロリズム集団とその他」の「その他」の対象は、どこまでなのかという質問に対して金田法相は、「この言葉がある場合と、ない場合とで、犯罪の成立範囲が異なることはないが、一般の方々がテロ等準備罪の対象とはならないことを明確にするものだ」(衆議院法務委員会/四月一九日)と答えたが、これはとんでもないウソだ。官僚用語の代表的な文言である「その他」は、なんでもありのフリーハンド─無限大で適用を広げることができるのであり、ここにこそ最初から「一般の方々」が組み込まれているのである。
 この構成を土台にして適用団体、グループ、市民などへの日常的監視、調査を積み上げ警察の手前勝手な判断で「正当に活動する団体が犯罪を行う団体に一変したと認められる場合は、処罰の対象になる」と法務省は、安倍首相、金田法相などの「一般の市民は対象にならない」という見解を訂正したのである。

「犯罪」でっち上げ体系化


現実として公安政治警察は、過去・現在においても強引に「構成要件が成立」しているとして「犯罪」をデッチあげて、不当な家宅捜索、逮捕を行ってきた。法案には、権力の恣意的判断を制限する規定もないから無限大の弾圧が可能なのである。公安政治警察によるこれまでの数々の弾圧の「実績」を既成事実として追認し、共謀罪によって合法化していくことをねらっているのだ。
法案は、「犯行実行のための『資金や物品の取得、その他』を『準備行為』として構成要件に加える」と明記している。法務省は、「携帯品や外形的事情で区別される」などと誤魔化し続けたが、要するに基準がなく警察権力の一方的な認定によって弾圧が可能であることのだめ押しなのだ。
この居直りとして法務省の林真琴刑事局長は、法務委員会(四月二一日)で「準備行為が行われていない段階でも、テロ計画が実行される蓋然性があつて犯罪の嫌疑があり、捜査の必要性があると認められる場合、手段の相当性が認められる範囲で任意捜査を行うことが許される」と言い放った。日常的に「一般の人」も含めて監視していくことを認めた。
すでに公安政治警察の非合法の日常活動も含めて合法化させていくというのだ。この延長で「極左暴力集団や右翼は適用の対象となるのか」(民進・井出庸生)の質問に対して林は、「右翼が当たるのか、左翼は当たるのか、一概に答えるのは困難だ」と答弁しながら日常的な行動確認、追跡調査を重ねリスト・資料をデッチあげながら弾圧情勢のタイミングを見計らって弾圧強行を準備しているのだ。
「爆弾」事件関連弾圧で公安政治警察は、不当な家宅捜索によって押収した現金・貯金通帳を組織犯罪準備のための証拠として、構成要件の成立として作り上げてきた。また、日曜大工のための電動工具、大工工具、修繕のための部品類のたぐいも「爆弾製造」のための証拠としてこじつけてきた。
準備行為を立証するための強力な「武器」となる盗聴法などを拡大した改悪刑訴法の悪用が必至だ。
改悪盗聴法〈通信傍受法〉は、盗聴の対象犯罪を@銃器犯罪A薬物犯罪B集団密航C組織的殺人の四類型から傷害、詐欺、恐喝、窃盗などを含む一般犯罪にまで大幅に拡大してしまった。そのうえで通信事業者の常時立会制度を撤廃し、傍受対象通信を通信事業者等の施設において暗号化したデータを警察施設に送信し自動記録ができるようにしてしまった。盗聴の全データの記録は、事件とは関連がない会話も記録化するから、当然、プライバシーの侵害だ。記録データを開示することもなく、隠し続けるから侵害状況を立証することもできないのだ。共謀罪法案は、電話・メール・フェイスブック・ライン・盗撮・衛星利用測位システム(GPS)機器設置にいたるまで公然とプライバシー侵害の違法行為の合法化だ。しかも警察権力と法務省は、盗聴法の改悪として住居不法侵入を合法化させる室内盗聴法の制定も策動している。
法案には減刑規定(実行前に自首した者はその刑を減刑し、または免除する)があるが、これは準備行為を立証するための手段として使うだけではなく、司法取引とスパイ育成・捜査の奨励であり、えん罪事件の大量生産につながっていく。

参院で廃案に追い込もう

 安倍政権は、共謀罪制定の根拠として「国際組織犯罪防止条約は、昨年一一月現在で約一八〇カ国・地域が締結。主要七カ国(G7)で未締結は日本だけだが、これの締結には共謀罪の整備が不可欠だ」と言ってきた。
国際組織犯罪防止条約は、二〇〇〇年の国連総会で採択され、日本政府が一二月に署名し、〇三年五月、国会で批准を承認したことにより、国内法整備のためとして組織犯罪処罰法の中に共謀罪新設を打ち出した。そもそも国際組織犯罪条約はテロ対策の条約ではなくマフィアなどの越境的犯罪集団の犯罪を防止するための条約だ。国連立法ガイドの「第五 目的」には「国の法的伝統を生かしていけばいい」と明記している。また、日本政府は国連のテロ関係主要一三条約をすべて批准している。しかもハイジャック法、爆発物取締法、放火、化学兵器使用、サリン、特定秘密法、私戦予備及び陰謀、内乱予備罪・内乱陰謀罪など「予備」、「陰謀」、「準備」の段階で取り締まることができる法律が存在している。
だが林局長は「多くの罪に予備罪を設けるだけでは条約の締結は困難だと考えている」(法務委員会/二月一日)と答弁しているが、すでにある法律との関連で説明することもせず、ただ「困難」を繰り返すだけだ。明らかに共謀罪を新たに立法する根拠は消滅しているのだ。
以上のように共謀罪法案の欠陥、あいまいさ、人権侵害に満ちた法案であることは明らかだ。審議をすればするほどそのことが証明されてしまった。金田法相らのマンガ的な答弁がそのことを自ら立証したのだ。しかし、安倍政権と与党は、衆院法務委員会と衆院本会議で強行採決し、審議を参院へと強引に押し進めた。
朝日新聞の全国世論調査(五月一三日〜一四日)では共謀罪を今国会で成立させる「必要がある」(一八%)、「必要はない」(六四%)、法案に「賛成」(三八%)、「反対」(三八%)だった。また、法案の内容について「よく知っている」(二%)、「ある程度知っている」(三五%)、「あまり知らない」(四七%)、「全く知らない」(一六%)だった。
つまり同時に反対運動の広がりによって共謀罪を今国会で成立させる「必要はない」が六四%に到達したということだ。しかし、法案の賛成・反対が三八%と並んでいるところに参議院段階での運動の課題も明らかにしている。安倍政権の野望と共謀罪制定はセットであり、そのためにはウソで固め、論点ずらし、不誠実対応の繰り返しによって衆議院段階で三〇時間審議を確保したことによって強行採決にふみきったように、参議院段階でも同様な戦術によって三〇時間をラインとして強行採決に踏み込むということだ。共謀罪法案をめぐつて安倍政権は追い詰められており、あせりに満ちているからこそ、なんとしてでも今国会で制定しなければならないのである。衆議院段階で明らかとなった法案の欠陥、政府答弁のウソと矛盾を浮き彫りにし、強行採決に踏み出せない局面に迫っていかなければならない。共謀罪の危険性をさらに暴きだし、国会内外にわたって廃案に向けて取り組みを押し進めよう。  (遠山裕樹)




もどる

Back