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    かけはし2016.年11月21日号

悲しむことなかれ 組織せよ!


米国

右翼の打倒に向けて

民衆の怒りとレイシズムの結合
左翼の建設迂回しては断てない

ソリダリティー運営委員会

  トランプを選出した一一月八日の米大統領選は世界に大きな衝撃を与えた。その意味と今後確実化する世界の加速的カオス化については、すでにさまざまに議論が始まっている。われわれ自身も予断のない検討が求められる。その一環として、以下に米ソリダリティーが結果判明直後に明らかにした声明を紹介する。合わせて深刻な人道的危機に苦しむ中東への影響を懸念するジルベール・アシュカルの短評を別掲する。米大統領選結果がつきつける問題と闘争の課題については、次号以降でも継続的に取り上げていく。(「かけはし」編集部)

レイシズム表現の根源こそ問題

 以下は米大統領選挙結果についての社会主義組織「ソリダリティー(連帯)」運営委員会の声明。「ソリダリティー」は米国における第四インターナショナルの支持組織。

 われわれは全世界の幾億の人びとと同様に、今朝目覚めて、ドナルド・トランプが米国大統領になったことにうろたえ、恐れおののいた。民主党やヒラリー・クリントンについてそれぞれがどのように考えていようと、投票した人の多数がトランプに投票したなどとは誰も信じたくなかった。トランプの勝利は、勢いを増しているポピュリスト右翼のグローバルなあり方であり、同じように予期されなかったイギリスの「ブレグジット(EU離脱)」投票の軌跡に従うものだった。トランプはマリーヌ・ルペン(フランス国民戦線の代表)のような欧州における右翼民族主義指導者たちの祝意を浴びている。
今回の選挙で生み出されたものは、部分的には明らかに白人優位主義の表現である。しかしそれだけではない。選挙でクリントンがほぼ間違いなく代償を支払わされることになった戦場である、斜陽化した鉄鋼業が広がる州(ラストベルト=赤さびたベルト地帯)では、二〇〇八年と二〇一二年の選挙でオバマは二〇一六年のクリントンよりも白人有権者の中で明らかに好成績を残した。それは、今回の投票結果が単純に白人有権者のレイシズムのためだという意見よりも、もっと複雑な事態を示すものだ。
支配階級の新自由主義の政治が、数十年にもわたって全国と全世界で勤労人民の生活とコミュニティーを荒廃させてきたことが事実なのであり、ヒラリー・クリントンは多くの人びとによって、支配階級のエスタブリッシュメントの権化として、正しくも見なされている。多くの白人にとって、そうしたことが生み出した恨みは、レイシスト的で外国人嫌いの怒りという形を取っているが、その根っこはもっと広いものであり、レイシストの逆襲に打ち勝つためには、左翼はこうした事態を引き起こした根源を正しく指し示さなければならない。

左翼の空白が右翼へ道を開いた

 悲しむべきことに、共和党の既得権層はドナルド・トランプの右翼ポピュリズムに対して自らの党をコントロールすることができず、民主党は新自由主義のセンターに危険を侵して倍賭けした。民主党全国大会は、あらゆる手段でバーニー・サンダース――ポピュリストである彼はあらゆる世論調査でクリントンよりもよくトランプと対抗できるとされており、トランプが助長していたのと同様の経済的不安をかきたてていた――が候補として指名されないよう全力をつくした。
ほとんど誰もが良いとは感じない候補者のために非民主的な道を切り開いた民主党は、左派や有色人種からの投票を当然のことと想定した上で、大統領選で保守派の有権者の票を獲得しようと追求したのである。民主党全国大会は、共和党大会の予備選でトランプが勝利するよう促し、そうすることで大統領選挙の本番において民主党が、それほどレイシスト的ではない保守派の票を獲得して勝利することがたやすくなるとふんでいた証拠が存在する。
その一方で、緑の党――民主党よりも左に位置する最も目につくオルタナティブ――は大統領選で一%に満たない票しか獲得できなかったようである。この結果も、緑の党を左翼の党として建設しようと追求していた人びとにとって失望をもたらすものだった。その多くは五%の得票を目標にしていたが、実際の得票数は民主党の支持者あるいは無党派で、投票せず家から出なかった人びとや、さらに悪いことに船を飛び越えてトランプに投票した人の数よりも少なかった。
簡単に言えば、米国の政治の中で左翼は空白となっている。まともな分析のどれも、民主党の大統領候補選びには最善の場合でも人間の顔をした新自由主義以上の存在はいなかった、とは結論づけていない。あらゆる人口統計とすべての政治的領域で見られた大衆的不満を生み出したものは、まさにこうした政治なのである。「どいつも同じ」という気分を促し、解決への期待を低めたのは、解決策を提起しなかったためであり、あらゆる左翼オルタナティブの不在こそ、少なくとも選挙期間中は不満のはけ口が右翼の側に流れていくことを確実にさせてしまったのである。
われわれは、トランプに代表される白人至上主義とナショナリズムの極右的言説を打ち負かさなければならない。われわれの生命は、まさにその点にかかっている。しかし右翼を打ち負かす唯一の道は左翼の建設である。われわれは支配階級が選んだ候補者とかれらの新自由主義的課題を背後にして、より大きな統一を構築することでは、この闘いに勝利することはできない。何か悪いことへの恐怖から、この選挙でクリントンに勝利をもたらすに十分な多くの人びとを結集したとしても、あるいは彼女のような誰かのために二〇二〇年に同じことをしても、問題を先送りするだけで、右翼は強くなり続けるだろう。それではわれわれが勝利し、よりよい世界を作るために必要なパワーを築き上げることにはならない。
そうするためには組織化が必要である。地域レベルから始めて、選挙政治において意味ある介入手段を左翼に与える、真に独立した政治的パワーを作り上げることが必要だ。リッチモンド進歩連盟は、その一例だ。同連盟は昨日、カリフォルニア州リッチモンド市政府で多数を獲得する三つの選挙で勝利した(訳注:米国西部カリフォルニア州のリッチモンド市は、人口一〇万人。同名の東部バージニア州のリッチモンド市とは別)。それは草の根の選挙パワーがどのようなものかの例証だ(こうした活動に参加する一つの方法は、二〇一七年三月三日から五日までシカゴで開かれる左派選挙会議に参加することだ)。
マサチューセッツ州の州民投票で、教員組合が主導する運動がチャータースクール(公設民営校)の拡大を求める大量の資金を投入したキャンペーンを打ち負かしたことも、われわれが新自由主義的民営化に反対して組織化をする時、何ができるかの励ましとなる例である。

真に独立した政治的パワーを


われわれは、「黒人の命は大事」運動、ダコタ・アクセス・パイプラインに反対するスタンディング・ロック・スーと連帯する闘い(訳注:スー族などスタンディング・ロックのアメリカ先住民保留地を通る環境破壊の石油パイプライン計画に反対する運動)、移住民の権利擁護グループなど、トランプの構想や極右のトランプ支持者の暴力による被害を最もこうむりやすい人びとにパワーを与える闘いを支援する必要がある。
現場の一般活動家が先頭に立つ社会的公正を求める組合活動、さらには階級的連帯による労働者の団結を可能にし、白人労働者の中でのレイシスト的・右派的語りを打ち破る新しい刷新的形態での組織化を含めて斬新な労働者階級の組織を作り出すことも決定的に重要である。
最後に、われわれは革命的組織を作る必要がある。現在、世界でわれわれが直面している恐るべき諸力の配置の究極的な解決のためには、それを支え、その衝撃を形づくっている資本主義と白人優位主義、ならびに異性愛的家父長主義のシステムを打倒するほかない。社会主義組織なしに社会主義世界を勝ち取ることはできない。われわれは、それが「ソリダリティー」であろうと別のグループであろうと、革命組織を見いだし、参加し、その建設にかかわり、公正な世界のために闘っているすべての人びとを強く励ますものである。
現在、われわれすべてが次に何が来るのかについて恐れており、われわれすべてが、友人、家族、同志たちの感情的・肉体的健康を確保するようチェックする必要がある。しかしわれわれは、闘い、勝利することができる活気にあふれた反資本主義左翼の再建を明日まで待つ余裕はない。われわれは心の底から、今日、多くの人びとが語る言葉に同意する。悲しむことなかれ、組織せよ!

 2016年11月9日

米国/中東

トランプの勝利

中東にとっての意味とは

ジルベール・アシュカル

 シリア人とパレスチナ人は難民へのドアが閉められることで最も苦しむ一方、米国・イスラエル関係は疑問に付される。

最初の犠牲者
はシリア民衆

 米国の新大統領ドナルド・トランプは、彼の対外政策一般、そしてとりわけ中東政策について、彼の国が海外に向けてその帝国的政策を一九世紀末に開始して以来、この職についた者の中で最も予測不可能な人物としてきわだった存在である。
トランプは自ら矛盾に満ちており、幾つかの問題に関して選挙期間中も立場や調子を変えていった。しかしここ数年の間、彼が執拗に繰り返してきた幾つかの重要なテーマから考えれば、彼が大統領の任期中、中東に関してこだわっているだろう問題点を推測できる。
彼の大統領への選出によって、最初に悪影響をこうむるのはシリア民衆となるだろう。米国へのドアはシリア難民に対して、キリスト教徒を例外として閉ざされてしまう。トランプのシリア難民に対するアジテーションは、つねにイスラム嫌悪(イスラモフォビア)を中心としているからだ。
シリアからの難民流出を完全に止めるために、トランプは国境に「安全地帯」を作ることを主張している。居場所を奪われたシリア人たちは、そこで難民として海外への出国を許されるのではなく、一つにまとめられる。彼はアラブ湾岸諸国がそのための費用を払えと叫んでいる。メキシコとアメリカの国境に彼が作れと言っている「壁」の費用をメキシコに払わせる、というのと同じだ。
トランプは第二に、ロシアの利害に協力することを基礎にロシア大統領ウラジミール・プーチンとの新たな友好・協力政策を出発させるだろう。これは中東において、シリアでのロシアの役割を積極的なものとして受け入れ、バシャル・アル・アサド政権を「より少ない悪」として受け入れることを含む。
それは論理的には、この地域における米国の同盟者に対して、シリアの武装反対派への支持をやめるよう求めることを含む。ワシントンはその時、モスクワとともに「和解」政権の「反対派」メンバーを含むシリアの「連合政府」の共同スポンサーとなる。それは「テロとの戦争」の名の下に米国がアサド政権と協力する道を開くことになる。

パレスチナ民衆
にも大きな重荷


プーチンとともに権力の座にある「強い政治家」を支持する政策を採ることによって、トランプは、エジプトのアブデル・ファタハ・エル・シシ大統領とトルコのレイップ・タイイップ・エルドワン大統領の双方とワシントンとの関係を改善しようと望むだろう。
彼は二人の男との間のフェンスを修繕し、二人をなだめすかして「テロリズム」に対する共同の努力を支持させることになる。それは二人の大統領がかれらの国で行っている「テロリズム」の定義を受け入れることになる。
トランプがオバマ政権によるイランとの間の核交渉を廃棄しイランを敵に回す用意を示した以上、彼はサウジアラビアを引き入れてワシントンが支援するアンカラ(トルコ)、カイロ(エジプト)、リヤド(サウジアラビア)のスンニ派トライアングルに加わらせるよう試みるかもしれない。
中東に向けたトランプのビジョンの原則的自己矛盾がここに存在する(彼の中国への敵対的スタンスは彼のグローバルビジョンの原則的自己矛盾なのだが)。それに打ち勝つにはモスクワ(ロシア政府)とアサド体制をテヘラン(イラン)との決裂に誘い込むことが必要である。
最後に、トランプの下でワシントンとの関係が大きく改善されるだろうもう一人の地域的「ストロングマン」がいる。イスラエル首相のベンジャミン・ネタニヤフである。こうしてトランプが大統領に選出されたことによるもう一つの直接的犠牲者は、パレスチナ民衆である。ネタニヤフは、二〇〇一年九月一一日の攻撃の後のアリエル・シャロン以来のどのイスラエル首相よりも、パレスチナ民衆への対処においてより多くのフリーハンドを与えられることになるだろうからである。
二〇一六年一一月一一日
(「インターナショナルビューポイント」ウェブ版二〇一六年一一月号)


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