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    かけはし2016.年11月7日号

大手資本統合の背景を問う


石油産業労働者へのインタビュー

経営危機の進行と再編・合理化

 JX(国内1位)と東燃ゼネラル石油(3位)、出光興産(2位)と昭和シェル石油(4位)が二〇一七年の四月に経営統合に向けて動きを加速している。JXの合併で売上高は一一兆円を超え、トヨタにつぐガリバー企業になる。規模拡大をテコに原油や物品の共同調達や生産調整で三年以内に一〇〇〇億円の経費削減、さらに全国一一カ所にある製油所の統廃合に踏みこむという。石油業界で何が起きているのか石油産業労働者に聞いた。(編集部)

石油需要の大幅な減小

 経産省によると、二〇一五年度の国内の石油需要は一億八〇〇〇万キロリットルで、ピーク時の一九九九年より三割減。今後も年平均一・六%減ると予測している。自動車は台数自体は変わりないが、小型化・燃費がよくなっていて、ガソリンの需要がずっと減っている。今後さらにハイブリッド車が増え電気自動車もバッテリー改良で本格化する。暖房灯油に代わって電力を使うようになりこちらも減っている。発電に、重油に代わり、LNG(天然ガス)やCO2上問題があるが石炭が主になっている。
そんなこんなで石油需要が減って、精製設備などが余って一〇年ぐらい前は六〇%台の非効率運転に落ちていた。このままでは共倒れになると、経済産業省に業界が泣きついて、過剰設備削減が上から命じられた。そもそも、エネルギー産業は国の規制が強い。石油では、各社ごとに生産枠が決まり、その報告を経済産業省にする仕組みがあった。それでも段々と自由化の流れがずっと来ていたのだが、最近の動きは逆行だ。
政府は二〇〇九年、第一次エネルギー供給構造高度化法を制定した。二〇一〇年に、「重質油分解装置」の装備率アップについて、二〇一四年三月を期限に設定した。目標達成のためには、石油精製能力全体を下げるか、高度分解による精製能力を上げるかの二つの方法があるが、需要減少で厳しい経営の石油元売り各社は事実上、プラントの破棄を求められた。その結果、国内全体で一日四八〇万バレルの生産能力を三八〇万バレルに減らした。いま、第二次高度化法で来年三月末までに四〇万バレル減らし三四〇万バレルになるが、需要減から第三次も取りざたされている。
原油処理から製品になるまでのことを簡単に説明すると常圧蒸留装置で温めた原油を大きなタワーで分留する。一番軽いのがLPG、それからナフサ、軽油、一番重いのが重油。これを脱硫し製品にする。重油はそのままでは利益が出ないので二次設備で高温、高圧、水素添加をしてガソリンや軽油に変える。「高度化法」はこの二次設備の割合を増やすものだ。
ガソリンスタンドはどんどん減っている。一〇年前に六万店舗ぐらいあったのがいまは三万五〇〇〇ぐらいなっている。元売りはガソリンスタンドにその看板を掲げているが、社有設備もあるがほとんどは特約店デイーラー所有だ。それとは別に、プライベート・ブランドの安売り量販店がある。元売りの余剰品か業者間転売(業転)を扱っている。
元売りは七〇日間の義務があり、原油の価格が下がると在庫損する。逆に値上がりしても、ゆっくりしか価格を上げられない。原油が一時、一バレル一〇〇ドルまで上がり現在は四〇ドルまで下がっている。石油業界は二年間ぐらい利益が出ない状況が続いている。そのため電力や新規事業に参入している。
中国経済が失速し、過剰設備が日本以上なので、今後は作ってどんどん輸出、安売りしてくる。そういう問題もある。
一〇年前、一三社あった元売りが五社になって、来年JXと東燃ゼネラル、出光興産と昭和シェルが経営統合すると寡占化してきたのはこういう流れだ。しかし、出光の創業家が合併に反対して延期になったが、どうするんだろうね。

原油市場の投機的性格


――世界のオイルメジャーと国内元売りの再編の関係は?

 オイルメジャーは四社でエクソンモービル(アメリカ)、ロイヤルダッチシェル(イギリス・オランダ)、シェブロン(アメリカ)、BP(イギリス)。これ以外に産油国のアラコムなど国営会社がある。七〇年代以降、かつてほどオイルメジャーが原油埋蔵量を占有してはいない。日本では儲からないと、EMは撤退し、RDSが昭和シェル株を出光に売却しようとしている。その意味ではメジャー撤退が寡占化を促進させた。オイルメジャーは生産する資源の比率でみれば、従来の石油から液化天然ガス(LNG)にシフトしている。

――日本が原油利用量を減らしているが世界的も同じことが起きているのか。アメリカはシェール「革命」によって、最大の原油輸入国から輸出国になった。中国は経済成長によって、原油輸入国になった。ここ何年か、世界的な原油安が起こっています。その原因はなんですか。産油国であるサウジアラビアやロシア経済が減速している。イランが核開発をめぐって国際的な経済制裁を受けていたが、核開発の中止によって、経済制裁が解除され原油輸出を始めるという動きもあるが。イラクの混乱と原油輸出問題、アラブの春によりカダフィ・リビア政権の崩壊による原油輸出の混乱などの要因も不安定要素だが。また、ベネズエラではチャベス大統領の死、原油輸出の減退が政権危機に発展している。ブラジルも海底油田開発が行き詰まり、経済成長が失速し、ルセフ大統領が弾劾にあい、辞めざるをえなかった。原油生産と政権危機が続いている。

 日本は石油使用量が減っているが中国やインド、そしてアメリカなど大量に石油を使っている。アメリカのシェールガス・オイル、イランやイラクの輸出再開の影響もあるだろう、原油生産の方が供給過剰になって価格が下がっている。ただし、一バレル百ドルが適正か? 投機的に原油市場が成り立っている、それが問題だ。
深海開発はすごくカネがかかる。一バレル七〇ドルぐらいないと採算が合わないようだ。ブラジルのリオデジャネイロ沖の掘削では三〇〇〇メートルと深い。掘るのも大変だが設備を維持するのも大変だ。だからうくまいかないのじゃないかな。
シェールガスは環境に対するマイナスの影響もあり、それ程長期的に目途が経っていない。メジャーはほとんど手をつけていない。石油の埋蔵量は有限だが、様々な掘削法や探査の進歩によって、変な話だが埋蔵量は減らないんだ。

安全性低下の重大性


――石油製品はガソリン以外、繊維やプラスチックなどいろいろな製品に使われているがそちらの方かどうなっているのか。

 ガソリンで売るだけでは利益が出ない。そのため、ガソリンのベースであるナフサから、ベンゼンやペットボトルになるパラキシレン、自動車や家電などに広く使われるエチレン、プロピレンなどを作っている。石油会社が石油化学もやっている。市況を見ながら増産したり減産調整している。

――大手が合併すれば製油所の再編・合理化が進みますね。

 そうですね。過剰設備の適正化だから、致し方ないわけで、それをどうソフトランデイングさせるかが組合の見せ場だろう。元売りの労働者はそんなに多くはない。大きい製油所でも一〇〇〇人ぐらい。工事業者など構内に働く人が同数かな。タンクローリーは別会社、ガソリンスタンド、船で原油を運ぶ人も含めると石油の関連労働者って、一〇〇万人を超えているだろうが。
石油産業の構造改革で問題なのは、雇用減もあるが、安全だ。プラントの老朽化と保全費削減、熟練労働者の退職、単純労働に伴う労働の疎外、効率運転一辺倒の雰囲気など。労働組合が出る場は多いのだが……

――二〇一一年三・一一東日本大地震の時、千葉のガスタンクが爆発しましたが災害時の安全問題はどうですか。

 千葉のコスモ石油のLPGタンクが倒れ、配管を破りそこから火災が発生し爆発した。隣接した低温タンクに延焼したらそれこそ、火の玉となり大惨事になった。あれはコスモ石油のミスだと聞いている。定期的に球形タンクは検査しなければならない。検査して溶接をやり直したりして、安全で大丈夫となる。OKが出れば水を抜いて使用する。LPGというのは比重が〇・五。水は一・〇で重い。コスモは検査が終わっても一カ月水を張ったままにしたようだ。そこで地震が起こり、倒れてしまいLPGの入っている配管を壊して火災を発生させた。普通は一日で水をぬく。

石油産業労働組合はいま

――石油産業における労働組合はどうなっていますか。

 JEC 連合(正式名称:日本化学エネルギー産業労働組合連合会)という連合系組合があるが会社に対抗して、労働者を守るために運動をするというような組合ではない。組合としての存在感はない。一方、カタカナ三労組と言われた「闘う組合」も定年退職者が相次いで、現役の組合員は極少数になった。ただしゼネ石労組だけは、関係会社の組合の組織化をし、千葉にある子会社がその後TGに企業合併して、千葉にある子会社がその後TGに企業合併して、三桁の組織になっている。産業内労組として可能性があるのはこれしか見当たらない。
ちなみに、昔の組合員は、今でもネットワークを作り、労働分野や沖縄をはじめ、さまざまな課題で闘っている。



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