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    かけはし2016.年10月31日号

先住民運動と社会運動の接近


投稿

世界社会フォーラム(WSF)2016モントリオール報告(3)

多くの不平等と貧困が強制されている

寺本 勉(ATTAC関西)

北米先住民運動が積極的参加

 WSFモントリオールには、カナダ、アメリカの先住民運動から多くの代表が参加していた。この北米先住民運動の積極的参加は、今回のWSFの大きな特徴だったと言える。
ATTACケベック代表のクロードさんに「カナダなどの先住民が多く参加しているが、その背景には何があるのか?」と質問してみた。「従来は社会運動と先住民との間にはつながりはなかったのだが、最近になってこの状況は変わってきている。タールサンド採掘やパイプライン建設に反対する環境保護運動では、先住民がその先頭に立っている。二年前にはオタワで先住民の社会フォーラム(2014年8月に開かれた「民衆社会フォーラム」のこと)が開かれた。今回のWSFでは、先住民運動と社会運動とを近づけることも目的の一つだったが、先住民が積極的に参加することで、成功することができた」とのこと。
ATTACフランスのジャクリーヌさんからも「パイプライン建設問題のワークショップで、先住民運動と社会運動が近づきつつあると報告されていた」という話を聞いた。
カナダの先住民は自らを「ファースト・ネーションズ」と呼んでいる。ファースト・ネーションズの人口は約七〇万人だが、そのコミュニティでは、貧困、失業、若者の高い自殺率、鉱山開発による環境破壊の恐れなどの問題に直面している。ファースト・ネーションズの若者の自殺率は、非先住民族の若者より五〜七倍高いと言われており、実際はもっと問題が深刻であるとする推測もある。孤立、貧困、不十分な住居や医療や社会福祉、その他の基本的な施設の不足、植民地化によってもたらされた痛みと無力感などがこの原因として指摘されている。
しかし、こうした現実に対して、先住民自身による運動が拡がっている。たとえば、居住地における鉱山開発やパイプライン建設に対して、「アイドル・ノーモア」(様子見はもうやめよう)運動を開始し、水圧破砕(注)を用いたシェールガス採掘などに反対する闘いを展開してきた。そうした運動の拡がりを背景に、ファースト・ネーションズ代表は多くのワークショップや集約集会に参加し、自らの闘いについて発言していたのである。
(注)水に砂と化学薬品を混ぜ合わせ、掘削した穴に高圧で注入し、小さな割れ目を作り、天然ガスと石油を採掘するガス採掘法の一つ。その過程で、地下水を汚染し、地下水は有毒化学物質と危険なほど高レベルの放射能を含み、悪臭を放つようになる。

パイプライン建設反対デモを主導


ケベック州を通過して東海岸に達するパイプライン建設反対の闘いも、先住民が主導して展開されている。このパイプラインは、「トランスカナダ」社が進めている「エナジー・イースト・プロジェクト」(アルバータ州で生産されるサンド・オイルを東海岸に運ぼうとするもので、総延長は4500km)の一部で、ケベック州内では先住民居住地域を通過する。先住民は、環境保護団体などと連帯しながらこれまで反対運動を続けてきたのである。WSF開催中にも、パイプライン建設反対のデモが呼びかけられ、私たち日本からの参加者も加わった。デモ参加者約二〇〇人は、プラカードやバナー、さらにはパイプラインを模した長い管を持って市内をデモ行進した。デモの途中では、トロントの鉄鉱労働者のデモと遭遇し、お互いにエールの交換を行う場面もあった。最後に大通りの片側を占拠して、地面に寝そべった参加者の周囲をペイントするなどのパフォーマンスを繰り広げた。
私が驚いたのは(あくまで日本での感覚で「驚いた」のであって、恐らく他の参加者にとっては当然のことなのだろうが)、こうしたパフォーマンスによって、車の通行がストップしても、ドライバーが誰もクラクションを鳴らしたり、怒鳴ったりしないことだった。

自由貿易・資源略奪主義との闘い

 WSFでの大きなテーマの一つが、TPPなど自由貿易協定との闘い、および多国籍企業による資源略奪主義との闘いだった。ATTACの国際ミーティングでも「自由貿易協定との闘いをどのようにすすめていくのか」が今後の戦略をめぐる討議の中心だった。この問題を議論する場として、「利潤よりも民衆と地球を」プログラムが用意されていた。「資源略奪主義」とは、英語のextractivismの訳だが、比較的新しい言い方で必ずしも確定した日本語訳があるとは言えないようだ。しかし、今回のWSFでは、いろんなワークショップでしきりに使われていた。
この「利潤よりも民衆と地球」プログラムには、「企業の力を取り除くために、自由貿易と資源略奪主義からの転換を」というサブテーマがつけられていて、CADTM(不当債務帳消し委員会)、フォーカス・オンザ・グローバルサウス、ATTACなど、数多くの国際的ネットワークや社会運動団体が名前を連ねている。討論の柱は「資源略奪主義および自由貿易投資協定との闘い」「多国籍企業の権力への挑戦」「気候正義を求める闘い」。参加したネットワークや団体が主催する一〇〇を超えるワークショップをはじめ、プログラムの主催による二回の戦略ミーティング、そして集約集会(コンバージェンス・アセンブリ)、グランド・カンファレンスを通して、国際的なネットワーク作りと具体的な行動予定を策定していくのが最終的な目標だった。
私が参加した「自由貿易協定」についてのワークショップでは、通訳体制が不備という条件もあって、内容が十分に理解できたとは言えないが、各パネラーが「TPPを含めて複数の多国間自由貿易協定が同時に進められようとしている」「そのことが『南』諸国の経済をより一層『北』に従属させ、新自由主義的グローバル経済に組み込んでいくだけでなく、南北双方の労働者や民衆の生活を直撃する」ことを訴えていた。
一二日夕刻にケベック大学モントリオール校で行われたプログラムの集約集会では、大教室には座れないほどの参加者が集まり、各団体からのアピールや具体的なアクションプランに耳を傾けていた。カナダ先住民代表をはじめ、世界各国の参加者から、多国籍企業による資源略奪、環境破壊の実態、自由貿易協定に反対するキャンペーン、各国における闘いの現場などについて、次々と発言があった。
今回のWSFでは、不十分な通訳のため内容理解が困難な場面が多かったが、この集約集会の同時通訳者は素晴らしく、内容がすっと頭に入っていった。従来の社会運動総会(今回は行われなかった)に代わるミニ社会運動総会という雰囲気を感じた。ただ、かつて社会運動総会で基調的な報告をしていたCADTMのエリック・トゥーサンの姿はなく、世代交代の印象も受けた。

気候正義実現に向けて


昨年一二月、パリで開かれたCOP21において、将来の気温上昇を二℃以内に抑えるというパリ協定が合意された。パリ協定は、一〇月六日現在、アメリカ、中国、EU、インドなどを含む七三カ国(排出量では58・8%)が批准し、一一月四日に発効することが決まっている。しかし、パリ協定の内容については、当初より環境NGOや社会運動団体から強い批判が出されていた。(「かけはし」2401・2合併号、2403号掲載の「COP21対抗アクションに参加して」参照)
WSFモントリオールにおいても、「気候変動とどう闘うのか」「気候正義(クライメート・ジャスティス)をいかに実現するのか」はもう一つの大きなテーマとなっていた。ワークショップや集約集会、グランド・カンファレンスにおいて「COP21を受けて、どのような方向で闘いを進めるのか」活発な議論が行われた。
私が参加した「気候正義と食料・水・土地に対する民衆の権利のための闘い」というワークショップでは、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの代表から、気候変動がもたらす影響の深刻さについてレポートがあった。その中で特に印象に残ったのは、アフリカの「パン・アフリカン気候正義連合」(HPを見ると、ケニアを拠点として、アフリカ各国の気候政策への提言活動などを行っているようだ)の代表の発言だった。
「アフリカが排出している温室効果ガスはごくわずかだが、気候変動の影響をもっとも蒙っているのはアフリカである。(パリ協定で努力目標とされた)一・五℃の気温上昇でも、アフリカ中西部では致命的な影響をもたらす。気温は四〇〜四五℃まで上昇し、農業が持続不可能となって、農村からの移民・難民問題が深刻化するだろう」「多国籍企業によってアフリカ農業は破壊されつつある。小農民から土地を奪い、水資源を独占して、農民による土地と水へのアクセスが困難になっている」「パリ協定はアフリカに死を強制するものだ。アフリカには生きる権利がある。アフリカの人々には土地と水にアクセスする権利がある」。
また、ペルーの代表は「多国籍企業による鉱山開発や大土地所有者による焼き払い=牧場・農場拡大によって、アマゾンの熱帯雨林が破壊されている。これにより、先住民の生活が破壊されているだけでなく、気候変動の要因の一つともなっている」「気温上昇により、すでにアマゾンの山々の雪が四〇%消失している。雪解け水を農業用水として用いている農民にとって死活問題」と気候変動の影響の深刻さを訴えていた。
一一日のグランド・カンファレンス「システムを変えよう!気候変動ではなく!」は、ナオミ・クラインが発言することもあってか、参加希望者がケベック大学モントリオール校の地下通路に長い列を作っていて、気候変動に対する関心の強さを見る思いだった。私は、列の長さを見て参加をあきらめたが、会場に入れない人もいたようだ。

レイシズムと闘う教員組合

 もう一つ、私が参加したワークショップを紹介したい。一〇日午後に行われたアメリカとドイツの教員組合が主催する「学校と社会におけるレイシズムとの闘い」である。
ドイツからは、GEW(教育・科学組合)が、学校における反レイシズムのネットワーク=「レイシズムのない学校」について報告した。このネットワークは一九九六年に創立され、当初からGEWがサポートしてきた。ドイツ全体で二〇〇〇以上の学校が加入し、一五〇万人の生徒を組織している。各学校で構成員(教員だけでなく生徒も含めて)の七〇%以上が加入に賛成すれば加入でき、加入した学校では、バナーを掲示して、レイシズムを許さない決意を広く知らせるようにしている。ドイツでは、実際にはほとんど移民はいない東ドイツでレイシズムが強いとのことで、根拠のない移民に対する恐れや自らの生活の不安がそのような感情を抱かせているそうだ。
また、アメリカでは二大教員組合の一つである全米教員協会(AFT)が人種平等タスクチームを作り活発なキャンペーンを展開している。こうしたとりくみは、日本でも学ぶ必要があると強く感じた。(つづく)

コラム

インターネットの功罪

 右島一朗「かけはし」前編集長が南アルプスで滑落死したのは二〇〇四年八月八日であった。もう一二年になる。そして今年の八月一一日、従弟がスイスの山で二〇〇〇mも滑落して突然亡くなった。享年五七歳。六〇代後半になるとこのようなことは誰にでも起こることなのだろうか。なかなか気分的に元気がでないことが多いこの頃である。
 最近、何となくフェイスブックに参加した。そうしたら、知り合いが何人も紹介され、それに参加するとその人たちが写真や文章で身近で起こっていること、政治的なことなどを次々に発信している。
 新潟の中山均さんは知事選の動きを事細かく報告している。そのがんばりと広がりが手に取るように分かる。今後の国政にも大きな影響を与える大事な選挙だ。韓国の闘う労働運動の様子を翻訳して紹介する人、労働運動を担っている友人は日々起こる労働現場や資本・政府の動きを、沖縄出身者は高江・辺野古の闘い、そして沖縄の食習慣や仲間たちのこと。栃木の出版社の仲間は旅のこと食べ物のこと。驚いたのは長年ベトナムで生活していたUさんが日本に戻ってきていること。彼はベトナムの様子を写真入りで詳しく報告していてすばらしいものだ。
 インターネットはこうして人々に連帯や勇気を与える情報を発信できる便利なツールではあるが、悪用すればとんでもない差別を生みだすことになる。今年の二月、Mは復刻版「全国部落調査」の出版予告をウェブサイトにアップした。これを知った部落解放同盟中央本部がMと面談し、同和地区Wiki等の閉鎖要請を行ったが、Mはこれを拒否。三月二二日、部落解放同盟と被差別部落出身者五人が復刻版の出版差止め請求を提訴し、三月二八日、裁判所は第一次仮処分決定。出版の差止め、製品等の執行官保管を命じた。四月に本訴。七月間接強制決定。Mに対し違反行為一日あたり一〇万円の支払いを命じる。現在も本訴で争われている。
 一九七五年、大企業が被差別部落の所在地や主な職業をリストアップした『部落地名総鑑』を秘密裏に購入し、従業員の採用にあたってその情報を参照していた事件。各地で糾弾闘争が取り組まれ、この書籍は行政がすべて回収し焼却された。今回のMの出版行為は『部落地名総鑑』事件の再来であり、極めて悪質な行為である。
 インターネット上では差別表現が氾濫している。@書き込みの匿名性A誰でも投稿できるという普遍性B転載・保存の容易性などによるとされる。フェイスブックで次々と友達を紹介してくるがこれは明らかに個人情報が本人の知らない間に管理者によって抜き取られて監視・管理されていることだ。監視社会が張り巡らされている。新潟知事選で柏崎・刈羽原発再稼働反対の米山候補当確の選挙速報に万歳をした(10月16日)。 (滝)



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