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    かけはし2016.年10月24日号

揺れる大地の上に建つ原発


地震直後の月城・古里原発訪問記

M5・8観測以来最大規模の慶州地震

 2016年9月12日、夕刻7時44分、慶尚北道慶州で、とんでもない規模の地震が発生した。慶州にあるマンションの9階に暮らしている私は「ゴーッ〜」というものすごい音とともに居間の大きな窓が前後に大きく揺れるのを感じた。震動は約10秒ほど続いた。震動の後にも「ガタッ、ガタッ」という気分の悪い音が聞こえてきた。ぼうっとして座っていて、少したってから初めて「これが地震なんだな、私は今ホンモノの地震を経験しているんだな」という思いに至った。

無我夢中で飛び出した


すぐさまTVのスイッチを入れた。関連ニュースが出てると思ったが、これについて言及しているチャンネルはなかった。これほど大きな地震が来たのに災難を知らせる文字速報もなかった。まるで何事もないかのように静かだった。
10分ほど過ぎた後になって、やっと国民安全処から地震が発生したとの文字メッセージがあり、TVにも地震が発生したとの速報が出始めた。M5・1の地震が慶州の南南西11 kmの地点で発生したというものだ。携帯電話を取り出して位置を測定してみると慶州南山近くの内南面あたりと思われた。
私は月城原子力発電所(原発)の状態が気になった。そうこうしていた時に突然、2度目の地震がやってきた。前の地震よりも強度がはるかに大きかった。音も大きく、窓ガラスの揺れもはるかに大きかった。最初の地震の時は驚き、あわてた感じだったが、2度目の地震の時は、何よりも恐ろしいという思いがした。居間の大きな窓ガラスが前後に大きく揺さぶられた。「私の方に倒れてくるかも知れない」という思いがした。
約10秒の震動と、その後の10秒ほどのものすごい音が過ぎた直後、マンションの建物の床が揺れる感じを受けた。まるで車酔いをしているように、めまいがした。我知らず、あたふたと服をまとっていた。階段を駆け下り、建物の外に出てきた。生まれて初めて体験する地震への恐怖感だった。
外に出てみるとマンションの住民らが三々五々集まり、地震について話をし、家族に電話していた。電話、メール、カカオトーク(メッセージアプリ)が不通だということを、その時に分かった。電話やメールはすぐに再開されたが、カカオトークは、しばらくの間は不通だった。テレグラム(メッセージアプリ)は切れておらず、使用可能だった。
外に出てきた後、近所を歩き回りながら隣人たちの経験談を聞いた。棚の上から物が落ちたぐらいは、ほとんどどの家でも起こったことだった。外に出てはきたものの、いつ家に戻るべきか見当がつかなかった。町内の放送に耳を傾けた。1時間が過ぎたのに町内の放送では、まだ家には入らず、広い場所で待機せよと言っていた。しばらくは町内をのそりのそりと歩いていたが、TV放送を確認しなくてはと思って家に戻った。地震を感じて外に飛びだしてから2時間ほど経過した後だった。

活性断層vs活動性断層

 家に戻ってみると、最初の地震のときに落ちたのは時計だけではなく、寝室のスタンドも倒れていたし、バス・ルームの床に立てておいたシャンプー立ても倒れていた。飾り棚の中の物は、ほとんど倒れていた。2度目の地震はM5・8、慶州から南南西方向8kmの地点で発生した。地震観測が始まった1978年以降、最も強力な規模だ。去る7月5日に蔚山沖合で発生した地震規模はM5・0だった。そして2カ月ほど経過した9月12日に、それぞれM5・1、M5・8の地震が慶州で発生した。
今回の慶州の震央地は2つとも梁山断層が通っている場所だ。梁山断層は長さが170kmに達するが、現在まで発見された南韓(朝鮮半島南部)の断層のうちで最も長い。これまで国内の地質学者たちは、原発に近い所に位置する梁山断層が活性断層なのかを巡って激烈に論争した。原子力界は地質学界とは違って、「活動性断層」という新しい概念で原子力の安全性を評価していた。
活性断層と活動性断層は言葉は似ているものの、定義は互いに異なる。地質学界が言う活性断層とは「180万年以内に1回以上、動いた断層」を意味する。地質学界は活性断層において地震が再三にわたって発生する可能性が高いと評価する。だが原子力界が言う活動性断層は、その定義が「50万年以内に2回以上、動くが3万5千年以内に1回以上、動いた断層」だと定義する。活性断層よりももっと狭い意味なのだ。
原子力界は、これまで梁山断層は活動性断層ではないので、この断層の近くに原発があっても問題ないとの立場だった。私は今回の地震が起きた所は梁山断層が通っている場所だという事実を想起しつつ万が一、今回の地震が梁山断層で発生したと認定されれば原子力界としては、これまでの主張、つまり「梁山断層は活動性断層ではないので周辺の原発の安全性に問題はない」との主張が力を失う可能性があると考えた。今後、今回の地震の震央地が梁山断層なのか、そうでないのかを巡って厳しい論争が展開されるだろうとの思いも脳裏をかすめた。

原発周辺の土地は売れず

 地質学界と原子力界の論争はそれとして、私は2つの質問と向かうことになった。わが国で今後どれほど強い地震が来るのか、わが国の各原発がどれほど強い地震に耐えられるのか。結局、今回の地震を契機として我々は2つの質問に対する答えを手にしなければならない。
このような考えをしながら、倒れた品々を立て直していると、「共に民主党」から「あす月城と古里の原発を訪問する予定なので時間を作ってくれ」との連絡を受けた。幸いにも講義のない日なので同行すると約束した。その日の夜はあれこれの思いでほとんど眠れなかった。
翌日、私は「共に民主党」の国会議員たちと共に月城原発に向かった。原発を訪れる前に、月城原発の前でテントを張り2年以上も籠城中の住民たちを訪ねた。「月城原発移住対策委」と自らを命名した住民たちは、月城原発の近くに暮らしていて、がん発生などの健康問題や財産権の侵害で月城原発に自分たちの移住を要求していた。
これらの人々の言うところによれば、原発ドームの建物が見える場所は土地や建物が取り引きされないので大きな財産権侵害を受けているという。また原発周辺には他の地域よりも甲状腺がんなど健康問題が多く発生しているので、移住費用を原発側が負担すべきだと言うのだ。共に民主党の議員らは移住対策委の住民たちに手助けする方法を探してみるという慰労の言葉を残して月城原発に向かった。
我々は月城原発で原子力発電所の運営会社である韓国水力原子力(韓水原)側のブリーフィングを聞くことができた。その内容は以下の通りだ。「月城原子力本部は地震によってA級非常状態を宣言し、これに伴い全職員が徹夜の非常勤務を行った。点検の結果、冷却水の漏れなど原発の安全に問題点を発見することはできなかった。原発ごとに設置された地震計は手動停止の要件である0・1g以下と記録されたが、安全のために月城1、2、3、4号機を手動停止させて精密診断を進めているところだ」。

韓水原職員から笑みが消えた

 このブリーフィングについての各議員と韓水原職員との質疑応答は以下の通り。

 ――原発ごとに測定されている地震値、つまり最大地盤加速度が大きな違いを示しているが、その理由は何か。
答え 原発が位置する地盤によって測定値が異なる。地盤が堅固であれば測定値は低くなる。
――原子力安全委員会(原安委)が測定した地震値と韓水原が測定した地震値が互いに異なった理由は何か。なぜ原安委の測定結果は手動停止基準の0・1gを上回っているのに韓水原の測定値はこの基準を下回っているのか。
答え 原安委の測定機器と韓水原の測定機器の位置が異なる。少しずつの違いが生じざるをえない。
――同じ敷地に6つの原発が存在しているのに、なぜ新月城1、2号機は停止させず月城1、2、3、4号機だけを停止させたのか。ひょっとして重水炉原発だからか、あるいは老朽原発だからそう処置したのか。
答え 6基の原発に対する測定値のうち、精密調査の結果0・1gを上回っているのは月城1号機だけだった。だが保守にアプローチするために近くの2、3、4号機も手動停止し、精密検査をしているのに、老朽原発だから、あるいは重水炉だからではない。
――2回目の地震が発生した後、3時間が経過してからやっと4つの原発の手動停止を決定した理由は何か。
答え 地盤加速度の測定値は、ほとんど同時的に実現される。この測定値が0・1gにきわめて近かったし、原安委の測定値が0・1gを上回り地震波動に対する精密分析をしたが、この分析に時間がかかったのだ。
――地震の震央地は梁山断層だが、今回の地震によってこの断層は活性断層であることが立証されたのではないのか。
答え 質問に答えるには専門的分析が必要だ。

 このような内容の質疑応答をした後、一行は古里原発に向かった。釜山・機張郡に位置する古里原子力本部前で、我々は横断幕を掲げて記者会見を行った。横断幕には「歴代最大のM5・8地震に伴った古里原発緊急現場点検、国民の安全が最優先です。新古里5、6号機など新規の原発建設即時中止!」と書かれていた。野党議員たちは地震への憂慮と共に原発の個数を減らしてエネルギーの転換をすべきであり、このためにまず老朽原発を閉鎖し、新古里5、6号機など新規の原発建設を中断すべきだ、と主張した。
記者会見後、古里原発を訪れて月城原発の時と同様のブリーフィングに続く質疑応答を実施し、地震計を実査した。地震計は原発建屋の内部にあり、ここでも関連した質疑応答があった。
月城原発と古里原発を訪問しつつ、私がいつもと違うと感じた点は韓水原職員たちの緊張感だった。私はこれらの方々がこのように真面目で緊張したのを見たことないは、これまでなかった。特に、これまでは地震について質問を受けると韓水原の側はほほえみを浮かべながら余裕ある姿勢で答えてきた。その日は完全に態度が違っていた。おそらくこれまでM5・0以上の地震は来ないという経験に基づいた漠然たる信仰にも似た信頼が崩れ去ったからではないだろうかと思われた。もちろん今回の地震を経験したわが国民すべてが共有している感覚だろうけれども、原発勤務者の衝撃は一層大きかったのではなかろうかと思われる。

すべての原発にストレス・テストを

 月城原発と古里原発への訪問を終えた後、今後に残された課題を考えてみた。確実な諸事実をまず列挙してみよう。
第1に、観測史上最大規模の地震が原発の近くで発生した。韓水原はこれまで公式のブログなどを通じてM5・0程度が韓(朝鮮)半島で発生し得る最大の地震だと広報してきたが、それよりもはるかに大きな規模の地震が原発の近くで発生したことだ。
第2に、万が一この地震が梁山断層で発生したのであれば、これまでに発見された国内の断層の中で最も長く大きな規模の断層が、原子力界が定義している「活動性断層」に該当することになる。断層の長さが長ければ長いほど大地震の可能性がある、と判断される。
第3に、国内の各原発がどのぐらい大きな地震に耐えられるのか評価する必要がある。日本・福島の核事故以降、数多くのヨーロッパ諸国は自国内のすべての原発を対象として、地震などの強い衝撃に原発がどれほど耐えられるのか、いわゆる「ストレス・テスト」を進めた。韓国もまたすべての原発に対してストレス・テストを行うと約束しはしたが、現在までのところは寿命の延長を実施した古里1号機と月城1号機についてのみ行っただけだ。ストレス・テストを行った月城1号機の場合、民間検証団と韓水原側の専門家たちとの間に地震の評価方法や結果などについて論難があった。この論難が解決されないまま、月城1号機の寿命延長が決定されてしまった。今こそすべての原発にストレス・テストを「キチンと」やる必要が生じた。
史上かつてない強震に直面した状況で今後、政府や原子力界は以下の2つの質問に答えを出さなければならないだろう。第1に、韓国で発生し得る最大の地震はどのぐらいなのか。第2に、国内の原発はどの程度の地震にまで耐えることができるのか。2つの質問に対する答えなしに原子力の安全を語ることはできなくなった。(「ハンギョレ21」第1130号、16年10月3日付、キム・イッチュン東国大医学部教授/原子力安全委員会委員)

朝鮮半島通信

▲韓国の朝鮮日報が九月に実施した世論調査によると、朴槿恵大統領の国政遂行に対する支持率は三八.一%だった。昨年一二月の四八.一%、今年三月の四六.九%に比べ大きく低下した。
▲九月三〇日の朝鮮中央通信の報道によると、金正恩朝鮮労働党委員長が平壌の竜岳山泉水工場を視察した。
▲韓国国防省は九月三〇日、米最新鋭ミサイル防衛システム「最終段階高高度地域防衛(THAAD)」の配備先を、韓国南部・慶尚北道キョンサンプクト・星州ソンジュ郡の韓国軍基地から、郡内でより周辺に人家が少ない韓国ロッテグループのゴルフ場に変更すると発表した。
▲韓国の朴槿恵大統領は一〇月一日、「国軍の日」の記念式典で演説し、朝鮮民主主義人民共和国(以下、「朝鮮」)の政権運営を「反人道的」と非難したうえで、「いつでも韓国の自由な地へ来てほしい」と呼びかけた。朴大統領が朝鮮の住民に向けて直接的な表現で脱出を呼びかけるのは初めて。
▲それに対して朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は一〇月三日、「恐怖政治だ、人権じゅうりんだとわれわれの最高指導者を侮辱しながら、脱北を扇動する『狂った』たわ言だ」と非難した。



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