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    かけはし2016.年10月24日号

何か信じられないような行動もあり得る


ポーランド

ラゼム党女性活動家 生々しく語る

「黒い抗議」と女性ストライキ
政治に転換点もたらす可能性も


 先週号でも伝えたが、ポーランドの右翼と政権党のPiSが強行しようとしたほぼ全面的な中絶禁止法案の採択は、本会議採決という土壇場で覆された。選挙の大勝を拠り所に強権政策の連発に乗りだしたPiSにとっては思わぬ失態となった。以下に紹介するポーランドのラゼム党女性活動家に対するインタビューは、その予想外の事態をつくり出した巨大な女性の決起をめぐるさまざまな問題を論じている。このインタビューは、巨大な決起となった一〇月三日の行動前夜に行われたものだが、ここで興味深いことは、インタビューに答えた活動家自身も法案否決に関しては悲観的だったことだ。その点で、事態は、彼女たちも言っているように、信じられないような形で進んでいる、ということになる。政治の不安定さ、一見強固に見える支配の底に潜む脆弱性、という世界の現状を照らす一つの現れとしても、注目に値する。(「かけはし」編集部)
 あらゆる場合に対する中絶禁止の提案に反対して、大抗議がポーランドで起きた。月曜日(一〇月三日)、ポーランドの女性は、彼女たちの生殖に関する基本的な権利を守るための全国規模のストライキに参加しようとしている。博士課程研究の一部として、ポーランドからの移民労働者を調査しているマーク・ブルグフェルドは、フェミニスト活動家でロンドンのラゼム党運営委員会で活動しているアレクサンドラ・ウォルケ、およびワルシャワのラゼム党メンバーであり雑誌の編集も行っている哲学者のミコラジュ・ラタジュクザクと対話した。

群を抜いた史上最大の女性決起

――提案された中絶法案がポーランドの女性に対し意味することは何ですか?

アレクサンドラ:この新法が実行される場合、それは、それに伴う生命と健康への脅威、を考慮することなく女性に出産を強制するだろう。女性は、多くの場合大きな苦痛の中ですぐさまその生命が終わることになる、重篤な障がいを持った胎児の出産を強制されるだろう。その提案はまた、それが引き起こす心理的かつ肉体的苦しみを考慮することなく、性的暴力の犠牲者にも出産を強制するだろう。これはさらに、妊娠には生物学的に成熟していない未成年の犠牲者にも悪影響を与えるだろう。
この提案は、妊娠中の女性を含んで、妊娠を将来にわたってあきらめる人々に対して、最高五年の投獄刑を持ち込むと思われる。その刑罰は、女性の生命に対する「直接の脅威」を阻止するとして認められる中絶の場合は、免除となるだろう。しかしながら「直接の脅威」の定義は、ガンのような慢性の疾病を排除することになりそうだ。そしてその治療は、妊娠期間は止められると思われる。
流産した女性は、その諸環境が当局から疑わしいと見られた場合、公式の尋問によって追加的なストレスにさらされるだろう。もちろんこの変更は、レイプと性的攻撃に対する報告の割合に影響を及ぼすだろう。

――この中絶法案に反対する今回の運動は、どのように始まりましたか? また政治に似ているものは何かありますか?

アレクサンドラ: 遡れば、右翼のシンクタンク、オルド・イウリスが三月から四月にかけて中絶の権利を縮小する提案を行った時に、それが大きな女性の運動に火をつけた。そしてそれは、他にも多くのことがあるが、一つのグループ、「女の子から女の子へ」、の創出へと結果した。今回の運動は、女性の権利に焦点を当てた運動としては、ポーランドにかつてあったものと比べて、群を抜いて最大となっている。
この運動はまったく「十分に」政治的であるように見える。たとえばそれは、中絶を必要とするかもしれない女性側だけの問題ではない、という事実を無視することはない。
ミコラジュ:「黒い抗議」キャンペーンと黒い月曜ストライキは、議会で審議中の新しい中絶禁止法案に反対する行動だ。反対の請願は巨大なものになった。「女性を救え」というイニシアチブは、市民立法プロジェクトの下で二一万五〇〇〇人以上の署名を集めた。しかしこのプロジェクトははじめは議会から拒否された。おそらく間違いないことだが、一九九三年以後定位置を確保してきた現行中絶法の自由化要求に対する支持の波は、相当なものだ。

――このすべてにおいて、カトリック教会の役割はどのようなものですか?

ミコラジュ:ポーランドのカトリック教会は、はっきりした立場をもっていない。ポーランド司教団は当初、新中絶法案をおおっぴらに支持し、教会のすぐそばでの禁止支持署名集めを容認した。しかし今日、その同じ司教団は、中絶を行ったからといって女性は処罰されてはならない、と言明している。教会を突き動かしているものが何かを言うことは難しい。一つあげるとすれば、彼らが人々
――特に若者たち――が教会に背を向けることを恐れている、ということかもしれない。

政治光景中の断層線、白日の下に

――このストライキは他の社会運動にエネルギーを注ぎこむ可能性はありますか? あるいはこれは、シングルイッシューのキャンペーンだろうか?

ミコラジュ:現在の抗議運動が公式には新中絶禁止法案反対に向けられていることは明らかだ。しかし、黒い衣装を着込んだ自身の写真を投稿したり、彼女たちの支持をオンラインで示している多くの女性たちと他の諸個人は、選択の権利について語り合っている。
大きな問題は、審議中の中絶禁止法案反対のキャンペーンがこれから新たな社会運動に変わるか、それとも現存の諸運動を助けることになるか、だ。この運動は、「女性を救え」イニシアチブが提出した市民プロジェクトに対する拒否にもかかわらず、ポーランドにおける中絶法の自由化を求める戦闘の継続に行き着くだろうか? これらはこれから明らかになる諸問題だ。

――この抗議運動におけるラゼムの役割はどのようなものとしてあったのですか?

アレクサンドラ:ラゼム党は党としてこのイニシアチブを支援している。しかしながらわれわれは、そのエネルギーと諸活動を、現場に根付いた諸活動を組織する方向に向けようと挑んでいる。それは、欠勤にするために仕事をしない一日をとることの問題だけではない。
ミコラジュ:諸々の社会運動とラゼムだけではなく諸政党との関係に関し、重要な問題が一つある。黒い抗議はラゼム党によって始められた。月曜ストライキは、ポーランドにおける法の支配と市民的諸権利を求めるキャンペーンである「民主主義防衛のための委員会」、KODと連携している諸個人によって宣言された。
KODは野党の諸政党から公然と支持されているが、それらの議員グループの何人かは、新中絶法案に支持投票を行い、「女性を救え」イニシアチブが提出した市民立法プロジェクトを拒否した。またKODを支持する一野党のEU議会議員たちは、信念をもってであろうとそうでなかろうと、EU議会で、ポーランドにおける女性の状況を討論するよう求めた請願に、あえて反対する投票まで行った。
諸々の社会運動と諸政党、それに市民イニシアチブの間の関係がどのように見えているかは、それが現在の抗議行動のことになると、完全にはっきりしているわけではない。しかしこの運動はすでに、中絶論争の中であなたはどこに立っているのか、という問題がポーランドの政治光景における最も重大な断層線となる、ということを白日の下に引き出している。それ以上に、議会外反対派と諸政党――特にラゼム――間の関係が、この問題を基礎として再交渉されることになるだろう。

――労働組合の中でどこかはこの運動を支持したのですか?

ミコラジュ:このキャンペーンで活動的な労働組合は、小さいものの極めて戦闘的な「労働者のイニシアチブ」だ。この組合は、労働者の自律性を求めて闘っている。また不安定雇用の労働者、経済特区の労働者、さらに大労組が代表をもっていない他の労働者を組織している。女性労働者の権利という主題は現在のキャンペーンには存在していないとはいえ、「労働者のイニシアチブ」の同志たちは、資本主義的社会関係の再生産における女性の体に対する支配について、極めて意識的だ。彼らは月曜ストライキを公然と支援している。

ロンドンでも数々の支援の動き

――この進行中の運動を支援するために、あなたたちはロンドンで何を行ってきたのですか?

アレクサンドラ:今年の早い時期の四月に、ラゼム・ロンドンのわれわれは、ポーランド大使館の前で一つのデモを共同で組織した。そこには四〇〇人以上がやって来た。それは、ここ何十年かでは英国における最大のポーランド民衆のデモだった。これまでにそれに匹敵できたものは極右の抗議行動だけだった。
当座親選択イニシアチブとロンドンの女性グループは、ここロンドンでの抗議行動を組織し続けてきた。この週末、進行中のものが多くある。われわれは、個人として諸々の企画に参加し続けるだろう。個人としての理由は、それらが「全国女性ストライキ」を支持しているからだが、その行動をラゼムは、結果を気にせずに仕事をしない日を一日とることのできる者が全員ではないがゆえに、批判しているからだ。労組の保護を利用する機会の不在、加えて仕事をしない一日をとることができないことは、特に貧しい人々や不安定な仕事についている人たち、さらに医療などの一定の産業部門の労働者たちに影響を及ぼすことになるだろう。

重要な点は若者と女性の政治化

――このストライキの背後で鍵を握る主体は誰ですか?

アレクサンドラ:それは、オルド・イウリスの提案が先週議会の委員会を押し通された後で結集した諸個人だ。
諸々の声明や宣言によれば彼らは、一九七五年にアイスランドで起きたことを再びつくり出したいと思っている。しかし、アイスランドでのストライキとこの月曜日にポーランドで起きようとしているそれとの決定的な違いは、アイスランドの労働組合が様々にストライキの組織化に関与した、ということだ。これは、ポーランドの「全国女性ストライキ」の場合にあてはまることではない。こうして、看護士のような多くの公的部門の労働者は参加しないだろう。
ミコラジュ:鍵を握る主体の一つは若者たちとなった。彼らの政治化に光を当てることが重要だ。近年の選挙で若者たちは、現政権党の「法と正義(PiS)」を含む保守政党に圧倒的に票を投じた。また右翼運動に加わりもした。その諸々の理由の一つは、それがあったとしたら高校生と大学生を左翼のイニシアチブと政治に関わるよう動員したはずの、何らかのオルタナティブや政治的シンボルの不在であるかもしれない。こうした背景の中で、黒い抗議は大きな転換点となる可能性がある。
独立したウェブサイトの分析は、ラゼムによって始められた黒い抗議のキャンペーンが、政党によって始められた最大かつもっとも効果的なインターネットを基盤にしたキャンペーンとなったことを示している。諸々の評価は、それが届いた範囲がソーシャルメディア単独で一〇〇〇万人にまで達したことを示唆している。

――このストライキと抗議運動は、もしかしてこの法案を打ち破ることができるだろうか?

ミコラジュ:うまくいけばこの結果は、ポーランドの若い女性と男性の中での政治的意識をより大きくし、中絶に関する議論に関し、自由主義的領域(ある種「文化的問題」としての)から左翼政治の管轄域(「社会的課題」としての)への、支配的影響力の転換となるだろう。
アレクサンドラ:このストライキが法案を敗北させることになるか、あるいは有効なものになるかは、難しい問題だ。実際に何が起きるかを予測するのは難しい。有り体に言って、この運動はすでに非常な人気を博し、ソーシャルメディア上で巨大な影響力をつくり出した。何千人もが参加中であり、それ以上が関心をもち、それを共有し続けている。
それが現場レベルで効果を発揮するならば、それは何か信じられないような諸々の行動になる可能性もある。しかし私としても残念なのだが私は、この運動が法案の通過を実際に止めることになる、ということには疑いをもっている。むしろそれは、法案自身の何らかの変更に導くかもしれない。たとえば彼らは、女性の生命が直接の危険にある場合の中絶利用について、その可能性を維持するかもしれない(そして、「直接の危険」の定義は変わるかもしれない)。これはこれで重要なことだ!
(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年一〇月号)



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