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    かけはし2016.年9月26日号

成長途上の運動との結合に向け
変革に向けた幅広い綱領開発へ


ロシア

プーチン体制VS左翼(下)

ロシア社会主義運動
(RSD)

体制は先のない現状維持に終始

4.プーチン体制のエリートは明らかに、国民経済を救出するための長期計画をもはやもっていない。取られている「対危機方策」はむしろ、たとえば原油価格の自然な上昇が生まれるまで、社会的現状を維持することを狙いにしている。ロシアエリートの見境のないシニシズムは、市場を救う「市場の見えない手」に対する神秘主義的な信仰を劇的なやり方で伴っている。それは多かれ少なかれ、暴騰する原油価格が真の運命的贈り物であるかのように見えた、二〇〇〇年代初期と同じだ。二〇一四年一二月、「暗黒の木曜日」(その時ルーブルは一五%急落した)直後ウラジミール・プーチンはそれゆえまったく心から「成長は、特に対外経済環境が変化する以上、不可避だ」と言明したのだ。
「メガプロジェクト」の論理――資源と官僚的機構に焦点を合わせて、個人の責任と期限を切った時間制限を伴った優先計画(たとえば、ソチ冬季オリンピック、併合したクリミアの統合、ヴォストークニー〔東方〕宇宙施設の建設、その他)――は、プーチニズムの特性を示す特徴だ。二〇〇〇年代中頃以後定期的に始められた巨大建物の諸計画、および巨大投資予算の要求が、ありあまる石油の利益を社会的に向ける方法として提案された。つまり、あらゆる構想には、職の創出とインフラ投資が含まれている。そしてその投資は前向きな経済効果を意味するはずだった。
事実そうした大規模な工事の利益は、国家発注と銀行の保証を受ける大会社には生じている。しかし創出された「職」に関しては、それらはすぐさま労働者にとってのいわばワナであることが分かった。労働者たちは、彼らの雇用主と官僚的な国家機構からの圧力の下で、彼らの権利を守ることができないのだ(それは、ソチオリンピック施設やヴォストークニー宇宙施設の建設期間中にだまされ続けた労働者によって、特にどぎついやり方で見えるものとなってきた)。
つまり、原油歳入を人民の便益に向け再配分する一つの手段としてロシア国家がもち出した、メガプロジェクトという構想は、実際には住民を犠牲に一握りのエリートをあっという間に富ませる道具であることが結局分かっている。それでも宣伝屋たちは今なお、これらのプロジェクトの「成功」(彼らの主なスポンサー、ロシア連邦大統領の権威のおかげによる)に注意を集めようと、そしてそれらにしつこくまとわりつく混乱を無視させようと努力している。こうして、政府のこの「対危機」行動は主に、二〇一八年のウラジミール・プーチン再選をあらゆるコストで確実にする、という切望によって決定されている。しかし、それで次に何がくるのか? 今のところ、それを気にかけている者はほんのわずかだ。
同時に、もう一つの論理、新自由主義が、先のすべての背後にはっきり現れている。つまり、社会的規範と労働力コストを抜本的に引き下げる「構造改革」推進のために、経済不況と住民の貧困化を利用する論理だ。こうして、国立銀行、ヴネシュコノムバンクの専門家による評価によれば、不完全なインフレスライドと住民の所得の継続的下落は、二〇一七―二〇一八年には利潤総計が賃金総計を上回る、そしてこの国は再び投資家を引きつける国になる、ということを意味することになる。
鉄道やロシア最大の銀行であるスベルバンクといった大きな国有資産のあり得る私有化に関する討論は、これに関係している。今年三月にモスクワで会合したIMFと世界銀行の合同使節団が、経済制裁の継続と共に、ロシア政府の「対危機」路線についてその真価を大いに認めたことは、偶然の一致ではまったくない。大統領経済評議会に対するアレクセイ・クドリンの先頃の指名は、こうした流れの一部だ。

5.強調すべき重要点は、危機の深まりと炭化水素価格の下落という全体関係の中での、国家歳入の新たな源泉探しが、経済のさらなる軍事化に導き、結果として攻撃的な対外政策に導くだろう、ということだ。過去二、三年、兵器生産への大規模な投資は、政府が大きな優先性を与えるものの一つとなってきた。その中で二〇一六年の軍事予算は、GDPの四%に達した(前年から〇・八%上昇)。
その対外政策の目標に加えて、シリアへの介入は、最新の軍事的イノベーションを宣伝するという任務をはっきり満たすことになった。こうして、その結果の一つは、ロシアの爆撃機と軍用ヘリコプターに対する、総額七〇億ドルとなるインド、アルジェリア、その他の国による発注となった。
ウクライナにおける「ハイブリッドな」侵攻とシリアにおける軍事作戦双方とも、地政学的ゲームと西側に対しロシアの地位を確立する戦闘にだけ関係しているわけではないのだ。それらは、ロシア資本主義の政治システムと経済システム全体の諸々の危機、より深くさえなっている危機に直接結びついている。行われている軍事主義的選択は、国内での政権の正統性強化を可能にしている――エリート内部に加え住民全体の中で――。

政治的表現不在の中、散発的抗議

6.「愛国主義の総意」における主な構成要素の一つは、最近まで、あらゆる政治的、また社会的不満に対する犯罪視だった。二〇一四年はじめ以後政府系メディアを満たしてきた大量の反ウクライナ宣伝は首尾一貫して、大規模な抗議行動が混沌と貧困化の不可避性と結びつく、と強調してきた。「無益さ」という古典的な保守的議論(注一)、それによれば、大衆の望みを満たすことは結局は社会的状況の悪化にいたるだけとされるのだが、その議論がはじめから使われてきた。
同じ主張の別の側面は、あらゆる紛争に外国の特性を認めそれを厳しく非難することだ。つまりそれらの背後には、情勢を不安定化させようとの、そして最終的には国の民族的独立に破局的結末を及ぼす体制変革に導く、そうした外国勢力の野心が隠されている、と。あらゆるストライキと社会運動は、「新たなマイダン組織化」のもくろみと直接に呼ばれた。
加えて、クレムリンの新たな「ポストクリミア」という表現が、当地国家ビジネスの頭目たちの地位を固めてきた。権力確保のために彼らに必要だったことは、あらゆる政治的競合相手を、破壊分子である革命的勢力の代理人と弾劾することだけとなった。われわれが観察できることとして、こうした宣伝定式が強さを失い始めるのは、ようやく二〇一五年末にかけてにすぎない。
危機と政府の「危機対処」路線のさまざまな表れに関係した諸々の抗議は、数を増しつつある。とはいえそれらはなお、それら自身のオルタナティブな綱領の定式化からも、全国レベルでの協調行動からもはるかに隔たっている。
そこでもっとも意味をもったものは、二〇一五年一一月に始まったタンクローリー運転手の抗議行動だった(注二)。政府ははじめから曖昧さのない立場を取った。つまり、この問題に関して譲歩の意志はない、課税水準にはどのような形であれ変更はない、と。強力な政治的圧力が、それだけではなく困難な状況において彼らの抗議を協調させることのできる強力なタンクローリー運転手組織の不在も加わって、この運動を次第次第の縮小に導いた。
二〇一五年以後、労働者による抗議行動の数が増大してきた。雇用の削減、賃金カット、あるいは遅配に反対する、自然発生的行動、あるいは独立組合が組織する行動などだ。こうして、抗議行動数は昨年、二〇一四年比で四〇%増えた。様々なストライキ(一日ストライキ、あるいは作業速度の引き落とし)に参加した者たちの中には、生産部門大企業の労働者、公務部門労働者(病院、自治体の従業員)、サービス部門で働く者たち、あるいは兵器工場の労働者までいる。
この中で、「愛国主義的総意」に加わっている野党、KPRFと「公正ロシア」は、現在までのこれら必死の諸行動に参加した人々の方向感覚喪失に、かつて以上に大きな役割を果たしている。強力な組織で、闘いに立ち上がる人々の戦闘に取りかかることを決意したものはまったくない。それゆえ彼らは政治的仲介者を捜す。資源をもち、それゆえ明白にこのシステムの一部であり、彼らの要求が知れ渡ることを可能にする者たちだ。
次のことを見ることがすでに可能だ。すなわち、一九九〇年代のロシア「共産主義者」にとっては常習的なことだった、「安全弁」となるこの機能が、クレムリンによってその後一層追求され、喜劇的オペラの議会に向けた選挙キャンペーンの論理に組織的に組み込まれている、ということだ。
その一部としての自由主義的反対派は、通常は制度的政治システムの外部に置かれ、急進的民主化に対する必要性を力説しているのだが、社会的怒りを掲げることからは今も離れている。これは第一に、その政治的伝統と社会的本性に由来する。
ミハイル・カシャノヴァやアレクセイ・ナヴァルニーといった指導者たちは、エリツィン時代の「自由主義改革」にならって、変革への鍵は一定数の大中規模資本部門で不満が成長することにある、と考えている。加えてカシャノヴァ――政治亡命者のホドルコフスキー同様――は、未来の「自由なロシア」で、プーチン派既得権益者の「自由主義的翼」の代表者たちと共同で仕事をする可能性を認めている。後者は、前金融相のアレクセイ・クドリン、中央銀行現総裁のエルヴィラ・ナビウリナ、スベルバンク経営者のゲルマン・グレフといった者たちだ。
腐敗した役人の「清め」に対する要求とシステムの民主化に対する要求は、急進的自由主義反対派にとっては、「構造改革」並びに西側との衝突を終わらせることの必要性を認めることと密接に組になっている。個人体制(プーチンの)の解体はむしろ、現在のエリートとの協力という形によるトップの変更という形態をとるべき、彼らはこう考えているように見える。その一方彼らは、議会外の街頭行動を圧力の二次的要素と見なしている。

結論は現政治システム解体要求


7.「愛国主義的総意」の野党や自由主義的なそれのどちらの一部でもない急進左翼は、社会的抗議というまだ組織的にも政治的にも構造化されていない、この成長途上にある運動との結合を見つけ出さなければならない。しかしながら問題は、この急進左翼が今日自ら下降状態にあることだ。セルゲイ・ウダルツォフやアレクセイ・ガスカロフのような運動の著名なスポークスパーソンのうち何人かは今も獄中にいる。ウクライナのできごともまた、左翼の中に深い分裂を導いた。その一部は事実上、ロシアの介入を支持したのだ。
われわれはこの情勢の中で、その起源がエリツィンとプーチンの私有化にある、現行財産関係の是正を求める要求を基礎とした、変革に向けた幅広い綱領の開発を始めなければならない。上記是正の必然的結論は、一九九三年のウルトラ大統領制憲法が生み出した政治システム全体を解体する要求となる。そしてこの憲法は、ある種の議会制共和国で置き換えられなければならない。
そのような綱領は、政治的民主主義の価値を、一つのツールとしてではなく、社会的平等を求める大望の首尾一貫した現実化にとって本質をなす、人民の権力の基本的原理として認めることを確実にしなければならない。
深まる危機と「愛国主義の総意」という魔術の恒常的な弱体化は、民主的で社会主義的な諸政策を推進する上で新たな好機を提供する。現情勢の展開における左翼の行動の諸戦術は、ここに提起されている分析と示された戦略的目標を基礎に構築されなければならないだろう。(二〇一六年五月八、九日、モスクワ)

注一)この議論は、社会的動乱の効果に対する選択された観察を基礎にしている。たとえば、ウクライナの革命後に権力が再び一握りの反民衆的エリートによって握られたことを理由に、こうしたことが将来の反乱すべてで繰り返されることになるだろうと。こうしたやり方で、社会的変革をめざす挑戦すべては、無意味であり、有害ですらある、と言明されている。変革の無益さを明らかにするために事例は常に、復古に終わっている革命から取られる。社会変革の肯定的な結果に言及されることは決してない(RSD発行の決議付録文書参照)。
注二)これは、二〇一五年一一月一五日から一二トン以上の車両に課された、一qあたり三・七三ルーブルに設定された走行距離税に反対する運動。ロシア語の「プラティト・ザ・トヌ」の略語である「プラト」として知られるこの税金は、プーチンの友人の息子であるイゴール・ローテンベルグとロシアの全国企業ノロステック(九〇万人を雇用)によって設立された企業体によって集められる。この企業体は二九〇億ルーブルを投資し、そのうち二七〇億ルーブルは、プーチンに近い人々が経営する公的銀行のガズプロムバンクが供与する借り入れだ。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年八月号)  

 


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