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    かけはし2016.年9月19日号

絶対止めよう憲法24条改悪


9.2

24条を変えさせないキャンペーン キックオフ

新自由主義と家族主義の結合を撃つ

平等にもとづく共同・連帯へ

伝統的「家族」観と24条

 九月二日、東京・四谷の上智大学で「二四条を変えさせないキャンペーン キックオフシンポジウム」が開催された。このシンポには教室を一杯にする二〇〇人以上が参加した。うち約五分の三が女性だったろうか。
 憲法二四条は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならない。A配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」とうたっている。この二四条には[家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等]という項目名が付されている。
 ところが自民党が野党時代の二〇一二年四月二七日に発表した「日本国憲法改正草案」では「両性の合意のみ」の「のみ」が削除され、その前に「家族」の規定が新しく設けられた。「家族制度」を前提にして婚姻があるということだ。
 「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」とされている。「家族」観の押し付けによるジェンダーや性的マイノリティーの権利の侵害である。
 この家族イデオロギーは、二〇一二年一二月総選挙で安倍総裁の下、自民党が民主党から政権を奪還した時の公約にもハッキリと表現されることになった。「民主党の進める『夫婦別姓』・『人権委員会設置法案』・『外国人地方参政権』に反対し、地域社会と家族の絆、わが国のかたちを守ります」という「リベラル的改革論」への憎悪に満ちた主張がそれである。
 さる七月参院選で自民党をはじめとした改憲勢力は、衆参両院で三分の二を超える議席を確保することになった。改憲へのプログラムがいよいよ具体化することになる。そのための突破口は「緊急事態条項」であろうと考えられるが、同時に自民党や改憲キャンペーンの尖兵となっている日本会議が目の敵にしているのが、個人の尊厳と男女平等を宣言した二四条であることも軽視できない。
 「二四条変えさせないキャンペーン」呼びかけ文は述べている。
 「二四条は、女性に対する抑圧や差別を制度的に生み出した大日本帝国時代の民法上のイエ制度の廃止をもたらしましたが、その意義はそれだけにとどまるものではありません。家族内ではびこってきた様々な形態のジェンダー差別やジェンダーに基づく暴力を根絶するための憲法上の重要な根拠条文として、大きな意義があります」「私たち二四条キャンペーン実行委員会は、個人の尊厳に基づく個人主義を否定し、ジェンダー役割を固定化し、伝統的家族観やイエ制度の復活を掲げ、異性愛主義と性差別を強固にする自民党改憲草案に反対します」。

女性の人権を敵視する主張


 最初に講演に立ったのは若手(一九八〇年生まれ)の憲法学者である木村草太さん(首都大学東京・大学院教授)。木村さんは、現憲法の成立過程を検証しながら、現憲法の婚姻に関する規定である「両性の合意のみにおいて成立し」という項目が、明治民法の「家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ為スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス」(第七百五十条)という規定を覆したことに意味がある、と語り、それは「同性婚」を否定したものではないと語った。また昨年一二月の「夫婦別姓強制違憲訴訟」において「夫婦は、婚姻の際に定めることに従い、夫又は妻の氏を称する」(民法七五〇条)の規定が、「氏名変更を強制されない自由」の侵害、「男性と女性の間の氏変更についての不平等」であり違憲、として訴えた原告・弁護団の主張が、多数意見によって退けられた問題について、「弁護団の方針の誤り」と述べ、木村さんに続いて講演した作家の北原みのりさんとのやりとりとなった。
 次に熊川元一さん(大学非常勤講師)が『正論』などに掲載された「日本会議」など極右派の「家族」論、「二四条」批判について紹介した。
 「子供がつくれなくても実子がもてるということになれば、同性婚を認める論理にもつながってきます」(八木秀次『正論』二〇一四年三月号)。「伝統的な家族観を支持する夫婦のほうがそうでない夫婦よりも出生意欲が高い。また二〇〇〇年代以降、日本人の家族意識は伝統回帰の傾向にある。こうした流れに乗って『責任を伴わない行き過ぎた自由』を排して積極的な出生政策を実行すべき。選択的夫婦別姓は出生率を大きく低下させる危険」(加藤彰彦『正論』二〇一五年一二月号)。「教科書では中絶を女性の自己決定権、基本的人権という言葉で正当化するのです。何という浅はかなエゴイズムなのだろうか」(『正論』二〇一四年八月号、山谷えり子)。「そういう(個人主義の)風潮に歯止めがかからないから、今日、わが国では、単身世帯が増加し、離婚率も高まり、少子化も進行しているのだと思います」(『正論』二〇一四年八月号、百地章)。
 二四条改憲論の背後にある「家族」観は、女性の人権を徹底的に敵視する主張に支えられている。能川さんは、どこから憲法を変えるのかということを考えた場合、「緊急事態」からではなく「二四条」からという可能性も否定できない、と語った。
 清末愛砂さん(室蘭工大大学院教員)は「新自由主義と家族主義の結合」というテーマで報告。清末さんは、憲法九条と一三条(すべて国民は、個人として尊重される)、そして二四条、二五条(すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する)の一体性を強調し、新自由主義と家族主義の結合による福祉切り捨ての手段として二四条改悪が企図されていることに注意を促した。彼女の主張は九条の文脈から二四条を評価するべきというもの。

さまざまな課題を交差させる


 つづいて各分野で活動している女性たちの報告が行われ「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子さんは介護保険制度について、当初は「介護の社会化」から出発したものが、今や「介護は家族の責任」という風潮が強まり、「かわいそう論」でないと社会保障ができないあり方に注意を促した。弁護士の打越さく良さんはDV(ドメスティック・バイオレンス)訴訟に取り組んできた経験から、男女の平等が全く根付いていない現実を訴えた。
 大橋由香子さん(フリーライター、SOSHIREN女(わたし)のからだから)は、「うむうまないは女の自由」という「堕胎罪」反対運動にもかかわらず、原則的に中絶が禁止され、「優生保護法」による「不良な子孫の出生を防止する」という観点からのみ中絶が許容されている実態を批判した。戒能民江さん(お茶の水女子大名誉教授)は、DV防止法の成立後も調停委員などの専門家の中にも、DVは差別や人権の問題ではないと考えている人がいることに注意を喚起した。
 桜井大子さん(女性と天皇制研究会)は、天皇制における伝統としての家父長制や、「家族国家」という考え方への批判が、ますます必要とされる現実に注意を促した。藤田裕喜さん(レインボー・アクション)は、極右政治家の一人である稲田朋美防衛相が「すべての人にチャンスを与える社会を」と訴えて、レインボーパレードを積極的に評価していることも指摘した。これは極右が単純に家父長制的・差別的「男女役割分担」に染め抜かれているだけではないことを示すものだ。
 最後に三浦まりさん(上智大教授)が閉会のあいさつを行い、安倍政権の改憲戦略を阻む活動の中で二四条改憲に反対するキャンペーンを着実に発展させていくよう呼びかけた。共に学び、共に闘おう。(K)


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