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    かけはし2016.年7月18日号

まだ闘いは終わってません


「6・11密陽行政代執行」から2年

脱核・脱送電塔闘争中と「密陽ハルメの道歩き」

 「10年間やられてばかりだったが、あの日は実にひどかった、この上ないほどひどかった」。
2014年6月11日。慶尚南道密陽765kV送電線路反対闘争、10年間続いた戦争の終止符を打ちたかったパク・クネ政府と韓国電力は2000人余の警察と200人余の公務員、韓電職員を投入し、最後まで残った4つの穴蔵(団結小屋)を撤去した。山中で長くは2年、短くとも6カ月間、穴を掘って夜となく昼となく見張りを立て、互いを鉄鎖で縛っていた密陽の住民たちは、巨大な権力の前では一握りの砂にすぎなかった。ウィヤン集落のチョンイムチュル・ハルメ(ハルモニ=おばあさんの慶尚道方言)は1週間、踏んばれば全国の人々がこの事態を分かるだろうと思って、冷蔵庫にたっぷりの食料を準備した。けれども11日未明6時、東の空が白み始めるとその切々たる願いは満ち潮のように押し寄せてくる警察部隊によって一掃されてしまった。

15?、修羅の現場をたどりつつ

 密陽の住民らがそれほどに守ろうとしていた大地。送電塔の敷地、その上に数十年もたっていた松の木々は、住民たちが引っ張り出され団結小屋が撤去されるやいなや、韓電人夫の電気ノコによって切り倒された。「我々が下りていってから切ってもいいのではないのか。なんで今、切り倒すのか」。首に巻いた鉄鎖を切りに入って来る切断機にもひるまなかった心は、電気ノコの音に遂にくずおれてしまった。
だが警察は鼻高々だった。2015年1月、密陽警察署長だったキム・スファンは青瓦台22警察警護隊長に栄転した。警察官74人は密陽送電塔の鎮圧の功によって賞を受けた。また特進者14人中の10人が関連者だった。2014年の集会・デモ関連の有功表彰者の65%に達するとんでもない数値だった。「6・11密陽行政代執行」は密陽に加えられた国家暴力の極致だった。一方は人々が倒れて泣き、他方は最後の作戦後に記念撮影をする女子警官たちがいるという修羅の現場だった。
6月11日の1日だけで12人の住民と連帯者(支援)が緊急搬送された。行政代執行以降に抗うつ剤、神経安定剤、睡眠剤の処方を受けるために大邱の精神科の診察に通ってきた住民は50人に達する。68人の住民と支援が裁判を受けたし、あるいは進行中だ。送電塔は、すべて建った。国が最高圧の電気を流し始めた。密陽住民の胸の奥深い所まで傷はそっくり残った。
密陽のハルメたちがかつての闘いを懐古する時、話の初めはいつも山から始まる。裏山の工事現場を見て登っていったのに、なぜか反対側の山に下りてきた話。夜中の12時に出発して日が昇ってから工事の敷地に到着した話、工事を阻もうとして台風が近付いていた日にビニール一枚で山で踏んばった話。山で経験した10年の身を切る苦しみ、心労の数々にどうやったら思いを寄せることができようか。

「2度とできない工事」

 去る6月11日(土)、密陽765kV送電塔反対対策委員会(密陽対策委)は行政代執行から2年を迎え、「密陽ハルメの道歩き」を行った。150人余の支援者たちが山道を再び登った。「ハルメ・チーム」と「ハルベ(おじいさん)チーム」の歩みは9時間、15?の道のりの間、ご老人たちの「家」に、時には送電塔の下へと続いた。
住民らは西瓜を用意して支援者たちを待っていた。徒歩中に立ち寄ったヨンフェ集落では2年間、「子どもの本・市民連帯」の会員らと共に活動してきたパヌチル(針仕事)工房が準備した「ハルメの顔刺しゅう」のプログラムを進め、ピョンパッ集落ではご老人たちにクンジョル(女性最高のお辞儀)を捧げた。密陽送電塔闘争を全国に知らせた故イ・チウご老体の焼身現場に着いた時、支援者たちは遺影の前でささやかな追悼会も行った。
101番、126番送電塔の下では「森の中の小さな音楽会」が開かれた。ハルメたちは2年前に松の木が切り倒されたその場所で〈密陽に生きる〉(5月の春・刊、2014年)に載った密陽ハルメたちの声を直接朗読した。すると作業場学校の学生らの合唱が木々の間に広がった。
「この世の中は燃える森/だが逃げ去りはしない/我らが集める水滴の1つ1つが/この世の中の森と集落を少しずつよみがえさせることができるのならば」。
夕方6時、トゴク貯水池の堤防には400人余の参加者と住民らが集まった。住民らは「家」を掃除し食事を準備した。ハルメ合唱団を結成して数カ月間、歌の練習をした。最も厳しかったあの日、その日に繰り広げられる宴にはスンデ(腸づめ)とクッパプ(汁飯)が出てきて、心温まる手紙や密陽によって覚醒された人々の誓いや励ましが行き交った。
密陽のハルメ・ハルベは一歩ずつ勝利している。6月12日には、最も古くなった核発電所(原発)古里1号機の閉鎖が決定した。5月27日、産業通商資源部(省)電気委員会では「新蔚珍へ新京畿新規765kV路線」を放棄するとの内容の第7次長期送電線設備計画案が決定された。765kV架空送電線路を500kV HVDC(超高圧直流送電)を転換するとの計画も含まれた。1兆5千億ウォンと推定されていた事業費が今回の決定によって3〜4倍さらにかかることとなり、送電線の電磁波や景観公害ははるかに少なくなることとなった。これは韓電や政府関係者たちが共に認めているように、密陽送電塔闘争の結果だ。チョ・ファニク韓電社長は2013年5月、密陽送電塔の現場を訪れた時、住民たちを前にして「密陽の事態を経験しつつ、韓電が765kV事業を再び行うことはできないだろうとの判断をした」と発言したという。
もちろん新蔚珍核発電所と江原道東海地域の民間火力発電所の大規模増設計画自体が廃棄されたわけではない。新京畿変電所の住民らの闘争も続けられざるをえない。だがあの難攻不落の城のようだった韓国電力が765kV送電塔を放棄することに密陽住民らの闘争が大きな役割を果たしたということは否定できない。
「もう闘いは終わりましたか。送電塔はすべて建ちましたか」。
密陽に久しぶりに再び接した人々の最初の質問だ。なけなしの時間を割いて全国各地を回りながら「脱核、脱送電塔運動にまい進し、痛みの現場ごとに連帯している密陽住民にとっては少なからず胸の痛む言葉だ。
集落の共同体破壊の主犯である韓電は密陽から去ったけれども隣人間の傷みは消えてはいない。プブク面のある賛成住民が反対住民らの集落会館の部屋を訪れ「765kVの電気は全部、流れているし、すべて終わったことではないか。終わったのならすべて店仕舞いしていかなくちゃ、なんで今もこうやって残っているのか」という話を何のためらいもなくする。集落会館の部屋を修理したハルモニは反論する。「誰が終わったと言っているのですか。まだ終わってはいません。電気がそのまま流れれば、その下で暮らすことはできません。汚いカネ200万ウォンをふところにして、終わったというのですか。我々は終わっていません。まだ合意していません。4つの面の300人の住民らが合意せずに残っています」。

新古里5号、6号機承認論議中

 プグク面ウィヤン集落で暮らしているチョン・イムチュル・ハルモニの1週間は月曜日の朝8時、密陽市庁前で始まる。4つの面の住民らが1人デモを始めてから18カ月が過ぎた。ピケットには密陽市の責任ある謝罪と住民の財産・健康被害の実態調査機構構成の要求が盛り込まれている。
援農をした人々もひっきりなしにやってくる。単純にご老人らの手助けをしていくだけではない。彼らはハルメ、ハルベに密陽闘争の思いを聞き、自分の目で現場を経験し、わが国のエネルギー問題の矛盾、チグハグを確認する。密陽対策委は「脱核・脱送電塔教育院(仮称)」という形式で密陽のハルメ・ハルベたちの生きている話と闘争の記憶を「脱核・脱送電塔のエネルギー転換教育」の場に変える計画だ。密陽対策委はスペースを用意し、教育プログラムを組むなど、具体的な準備に取りかかる予定だ。
4つの面の送電塔反対住民らは、毎週1回ずつ集まる。第1、第3週はハルメ合唱団は練習がある。地区地区を回って間食の材料を準備してきて、歌を練習する。住民らが集まってストレスを解消する時間だ。第2、第4の土曜日には支援者と共に集まるキャンドル文化祭が開かれる。この日には前週の闘争状況を共有し、今後の計画を立てる住民会議も行われる。
朝っぱらからソウルに向かうことも再び始まった。5月12日から光化門KTビル13階にある原子力安全委員会で、密陽の運命をかけた会議が開かれているからだ。新古里5号、6号機の建設承認を決定する件だ。すでに8基の核発電所が密集した世界最大規模の核発電団地に、設計寿命が60年にもなる新規核発電所をさらに2基建設するという計画だ。建設が承認されれば、古里地域は世界で唯一、10基の核発電所が密集した地域になる。
密陽対策委は新古里5、6号機を阻止することが、密陽に流れる電気を断つことだと語る。密陽に流れる電気がなくなるということは密陽の送電塔が必要のない古い鉄の固まりになる、という意味だ。電気が余っている。今も電力設備の運営予備率は平日でも30%前後になるほどに多くの発電所が稼働している。政府の電気需要の増加予測は完璧に間違った。そうしつつ、各地で核発電所や火力発電所を新たに作るという。このとんでもないシステムをどうするのか。密陽のハルメ、ハルベたちだけが再びこの荷をすべて背負い込み、果てしのない闘争の道に踏みこまなければならないのか。

「鉄の塊を切り取ってしまえ」


「密陽ハルメの道歩き」の催しが終わり、その翌日にマレ・ハルモニ(89)宅にあいさつに行った。ハルモニは昨年6月11日からちょっとやせた。密陽の闘い真っただ中の時期にハルモニは、若者が2時間かけて登ってくる山をまるっきり半日を費やして登ってきたものだった。ハルモニは何度も繰り返して語られていた。
「あの険しい道を、小学校5年の子が越えてきた。5年の子が越えてきた。どうしてくれようか。私が死んでいなくなったとしても、あのスウェッティ(スウェットンイ=鉄の塊の慶尚道方言)ピネッピリップラ(ぺオネボリョラ=切り取ってしまえ、同)、ピネッピリップラ。学生ががんばって、あそこをピネッピリップラ」。(「ハンギョレ21」第1117号、16年6月27日付、ナム・オジン/密陽765kV送電塔反対対策委員会・活動家)

 

【お知らせ】以前「韓国はいま」のページで「朝鮮半島日誌」という欄をつくって掲載していましたが筆者の都合により、休載しました。朝鮮半島をめぐる情勢は、韓国・米国が対北朝鮮への軍事圧力を増し、北朝鮮も核爆弾の実験、核ミサイルの実践配備に向けた軍事体制を強化しています。米韓両政府による地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD=サード)の配備には中国が激しく反発しています。一方、日本の安倍政権は戦争法成立させ、参院選で改憲派が三分の二以上になったのを受け、九条改憲に向け具体的な動きを開始しようしています。東アジアにおけるこうした動きを民衆の側から止めるにはどうしたらいいのかを考えるためにも、朝鮮半島で何が起こっているのか明らかにする必要があります。新たに「朝鮮半島日誌」を始めます。(編集部)

朝鮮半島日誌

▲6月29日に朝鮮民主主義共和国(以下、北朝鮮)で開催された最高人民会議第13期第4回会議において、金正恩労働党委員長が国家最高位であり、新しい国家機構である国務委員会の委員長に就任した。
▲金正恩朝鮮労働党委員長の妹である金与正朝鮮労働党中央委員会宣伝扇動部副部長が、29日に開催された最高人民会議に代議員として出席。金副部長の代議員就任が確認されたのは今回が初めて。
▲6月29日、韓国・ソウル市の中心部に元慰安婦を追悼する公園の起工式が行われた。韓国政府は元慰安婦を支援するための財団の設立を進めているが、今回の公園造成はソウル市が支援している。
▲韓国の朝鮮日報は7月1日、リ・ジュンギュ駐日韓国大使の声明を引用し、年内の朴槿恵大統領の就任以来初の訪日の予定について報道した。
▲7月1日、韓国が先進債権国会議の「パリクラブ」に加盟した。韓国は21番目の正加盟国となった。
▲北朝鮮人民軍板門店代表部は7月5日、韓国が軍事境界線地域で対北心理戦をはじめとする挑発行為を繰り広げているとする公開状を発表した。
▲米国政府は7月6日、金正恩労働党委員長を、人権問題に関する金融制裁対象に指定した。
▲ソウルの検察は7月7日、韓国の大手財閥ロッテグループの創業者、重光武雄氏の長女の辛英子氏を背任の疑いで逮捕した。
▲米韓両政府は7月8日、地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD=サード)を在韓米軍に配備することを決めたと発表した。
▲北朝鮮の女性勤労者団体である「朝鮮民主女性同盟」中央委員会のスポークスマンは7月9日、今年四月に発生した「北朝鮮のレストラン従業員13人が集団脱北した」とされる事件をめぐり、朴槿恵政権を糾弾する談話を発表した。北朝鮮はこの事件について韓国政府による北朝鮮公民の拉致事件であると主張している。
▲韓国軍の合同参謀本部は7月9日、北朝鮮が9日昼前に日本海でSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルとみられるミサイル一発を発射した、と発表した。

 

 


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