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    かけはし2016.年6月6日号

残留し反民衆のEUに闘い挑む


英国

国民投票で右翼に敗北を

右翼が主導するEU離脱は
労働者民衆抑圧への道開く

テリー・コンウェイ


 EU離脱を問う英国での国民投票が迫っている。EUの反民主主義的本性があらわになる中、労働者民衆のEUに対する反感も、欧州規模で並々ならないものになっている。しかし同時にそこには、特にイスラム嫌悪を軸とした右翼による毒々しい排外主義の扇動を伴うEU離脱要求も顕著に高まっている。左翼には、現実的・実践的対応に対する熟慮が要求されている。今回の英国における国民投票は、右翼による排外主義的主導が特に際立ち、左翼の対応は一層重く問われる。英国の同志たちは「もう一つの欧州は可能だ」(AEIP)と名付けられた残留キャンペーンを展開し、右翼のもくろみを打ち砕くために全力を挙げている。以下では、その対応に対する考え方、そして左翼の一部による離脱キャンペーンに対する批判が簡潔に述べられている。(「かけはし」編集部)

異なった立場からの残留と離脱


英国で、EUに残るのか否かに関する国民投票が六月二三日に行われる予定だ。それを行うとする決定は、保守党のデイビッド・キャメロン首相が行った、彼自身の党内の右翼EU懐疑派をなだめようともくろんだ譲歩だった。予想されたようにそれは、反動の浮かれ騒ぎになろうとしている。
国民投票キャンペーンは、ジェレミー・コービンの労働党がおおむねうまく切り抜けた五月五日の地方選後に本格化した。前ロンドン市長のボリス・ジョンソンを含むブレグジット(英国離脱を意味する略語:訳者)支持論者は、深く外国人嫌悪かつレイシズムのやり方で、移民問題に焦点を絞っている。
彼らは、英国のEU離脱からは「第三次世界大戦」という結果が生じ得る、と主張したキャメロンの度はずれた発言後に、世論調査で前進した。それにすぐさま続いた英国離脱の経済的諸結末に関するクリスチーヌ・ラガルド(IMF現専務理事:訳者)のコメントも例とする、こうした類の破局煽りは、ブレグジットにとっては好機となった。離脱票決はあり得ないこととは見えていない。
この問題で深く分裂しているのは保守派だけではなく、左翼もまた割れている。
残留に向けては左翼のキャンペーン――「もう一つの欧州は可能だ」と呼ばれている――があり、そこには、統一左翼、緑の党、さらに陰の財務相のジョン・マクドネルを含む労働党左派が含まれている。「ソーシャリスト・レジスタンス」はこのキャンペーンを支持している。AEIPは今、この問題を考えるための、英国中の公開集会という大規模なツアーの組織化に取りかかろうとしている。AEIPは、キャメロンのキャンペーン(キャメロン自身は、彼の党の右翼と対立して残留を求めるキャンペーンを主導している:訳者)とはまったく異なった基礎に立って残留することを支持している。つまり、社会的欧州、民衆の欧州を求め、もっと大きな民主主義を強調している。左翼の消防士組合もまた、五月の全国大会で、欧州変革のためにEUに留まるという立場を議決した。
労働党に向けてジェレミー・コービンが提起している立場も非常に似かよっている。コービンは、AEIPに参加する三人が彼と共に演壇にいた五月二一日の労働党集会で力強い発言を行った。彼はそこで、彼の砲火をキャメロン政府に向けたのだ。
スコットランド民族党は残留投票を支持しているが、しかしそれはEU熱烈支持の立場からだ。

左翼の離脱主張は独りよがりだ

 離脱派としては、「左翼離脱キャンペーン」――英国共産党、社会主義労働者党(SWP)、またいくつかのより小さなグループが支持――があり、それは「レグジット」として知られている。一方「労働者国際社会主義者党のための委員会」は自身の離脱キャンペーンを行っている。
急進左翼に共鳴する者たちの多数が離脱を、その一点を支持していることはおそらく事実だ。もちろん彼らは、自身を外国人嫌悪派から引き離そうとしている。しかしそれらの主張は、外国人嫌悪派によってかき消されている。
深く懸念を呼ぶことだが、レグジットを求める何人かの唱道者は、仮に離脱票決となった場合の英国に暮らすEU諸国民の立場を、ほとんど重要性をもたないとして無視してきた。SWPはブレグジットを求める彼らの主張の中で、間違った主張をしている。「英国にいる外国の国民のほぼ三分の二は、EU外の出身であり、彼らに影響は及ばないだろう」と。事実を言えば、英国に暮らす非英国市民の多数は、EU諸国出身なのだ(注)。
しかし数に関する議論以上に、ここにある全議論は独りよがりに満ちている。英国に暮らすEU国民は、彼らの立場が危険にさらされていると感じている。そして、主流のブレグジットキャンペーンの背後にあるレイシズムの勢いを前提とした時、彼らの成功は移民すべて――そして彼らの外見、名前、あるいは宗教的実践が二一世紀において「英国的」であるとされている反動的な神話に一致していないがゆえに、当然のように移民とされている者たち――に対しその状況を悪化させると思われる。
離脱を支持する何人かの左翼の唱道者が焦点を当ててきたもう一つの問題は、TTIP(環大西洋パートナーシップ)の問題、そして特にこの反動的な協定が「英国全国保健サービス」(NHS)に及ぼす影響だ。もちろん、英国におけるキャンペーンは例としてのドイツにおける規模のような何らかのレベルに達したことはなかったとはいえ、TTIPに反対することは絶対的に正しい。しかし現実は、TTIPは世界中に行き渡っている一連の自由貿易協定の一つということであり、右翼の英国はブレグジットの後、そうした諸協定の一部となるよう、やかましく求めていると思われる、ということだ。

今回の離脱支持はなぜ間違いか

 これらが、今回の国民投票で離脱投票を支持することは大きな間違い、また離脱票決は英国さらにそれを超えて極めて深刻な諸結果をもたらす、と「ソーシャリスト・レジスタンス」が考える理由のいくつかだ。
これは、われわれがEUを何らかの点で弁護するからではない。事実としてわれわれは、EUについてレグジット支持者が語っていることのほとんどに同意する。EUは、彼らの労働力をもっと有効に搾取し、新自由主義の課題を徹底的に進めるそうしたメンバー諸国を助けるために設計された、反労働者階級の構築物だ。われわれにそれについての曖昧さはない。
EUの本当の顔は、新自由主義の設定課題を名目に住民が貧困化されたギリシャで、EUが果たしてきた――そしてその路線を踏み外す他の国すべてに対し同じことを行うことになる――その役割だ。
事実としてわれわれは、原則的に、EU離脱を支持する立場にある。しかしそれは、その環境とその結末がどうなろうとわれわれが離脱を支持する、ということを意味するものではないのだ!
今回の提案は、たとえば緊縮を強要するEUから離れて自由になるために左翼政府が提案する離脱ではなく、ただ右翼的な外国人嫌悪という結果となりかねない、まさにそこに向けた計画の一部としての離脱提案なのだ。
レグジットキャンペーンは、離脱はキャメロンを敗北させる一方法だ、と論じている。問題は、ボリス・ジョンソンのようなもっと甲高い声を上げる右翼の者たちですらその翼の中にいるということだ。
離脱票決はコービン―労働党政府という結果になるだろう、との考えはまったく信じがたい。しかしそれがレグジット派が暗に示していることなのだ。これは悲惨なレベルになるほどの楽観主義を身にまとっている。右翼の勝利が左翼の前進という結果を残した時があったのだろうか?
レグジットキャンペーンにとっての問題は、売りものに出されているレグジットはない、ということだ。売りものに出されている離脱はただ一つであり、それは強硬な右翼によって率いられ、その結末は、政治情勢を右へと押しやる惨害となるだろう。それはレイシズムと反移民諸政策の承認と理解され(またそう主張され)るだろう。それはここだけではなく欧州のどこででも右翼を押し上げるだろう。
今回の国民投票にまつわる諸条件の下での離脱は、労働者階級の闘争を前進させるというよりもむしろ後退させるだろう。
それは、世論調査における拮抗を前提として非常に危険な情勢だ。こうした諸条件の下での離脱を支持する投票を考えている左翼の人びとは、ここ英国と欧州中の双方で右翼とレイシストを強化することになる道を進むことについて、再考しなければならない。

▼筆者は、「インターナショナルビューポイント」編集者の一人であり、第四インターナショナル英国支部である「ソーシャリスト・レジスタンス」の指導的メンバー。
0「二〇一四年に対する最新数字(同年一二月集計)は、非英国国籍の英国住民数が五三〇万人だったということを示した。これは、APS(非営利組織である米国物理協会)によって記録された現英国居住人口の八%を占め、二〇〇四年以後二四〇万人の増加があったことを示している。合計して二四〇万人がEU外諸国の国籍であり、二九〇万人はEU域内諸国の国籍である」。全国統計局公表の「移民統計季報:二〇一六年二月」中の第四章、「英国への移民」参照。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年五月号)  

ブラジル

再び民衆意思への敵意

前途はまったく未定

ミシェル・レビ

 はっきり言おう。選挙で選ばれた大統領のディルマ・ルセフの解任をもってブラジルで起きたばかりのことは、クーデターだ。合法性をかたった、「憲法に則った」、「制度上の」、あるいは議会手続きに従った一揆、あなたがどう呼びたかろうと、しかしそれはまったく同じくクーデターなのだ。

寡頭支配層の新
たな奪権の戦略


腐敗事件の中で大量に汚れた議員たち(その六〇%という数字が引き合いに出されてきた)――下院議員と上院議員――が、会計不正、公的会計における赤字を満たすための調整を口実とした、ブラジル大統領のルセフ・ディルマに対する解任を求める手続きを確定した。しかし先の会計操作は、これ以前のブラジル政権すべてが行っていた日常的行為だったのだ! 確かに、労働者党(PT)執行委員の何人かは国営石油会社ペトロブラスに関わる腐敗スキャンダルに巻き込まれている。しかしディルマはそうではない。
事実として、反大統領キャンペーンを率いてきた右翼の下院議員たちは、腐敗、マネーロンダリング、パナマにおける脱税、その他で告発された、下院議長のエドアルド・クニャ(先頃職務停止とされた)を筆頭に、先の事件でもっとも汚れた者たちを含んでいる。
合法的クーデターという行為は、ラテンアメリカの寡頭支配層の新たな戦略になっているように見える。それは、ホンジュラスとパラグアイ――報道がしばしば「バナナ共和国」として扱っている諸国――でテストにかけられ、左翼に位置する(極めて穏健な)大統領を排除する上で有効であることが証明された。今やそれが、大陸的広がりをもつ一国に適用されるにいたっている。
人はディルマに対したくさんの批判を行い得る。確かに彼女は、彼女の選挙公約を守らず、銀行家、産業経営者、また大土地所有者に莫大な譲歩を行った。政治的・社会的左翼は昨年、経済政策と社会政策における変更を要求し続けてきた。しかし、ブラジルの神権を持つ寡頭支配層――金融、産業、農業の資本家エリート――は、もっと多くの譲歩にも満足しない。彼らは全面的な権力を欲しているのだ。彼らが欲しているのはもはや、交渉することではなく、彼らの信頼する腹心の友を通じて直接統治することであり、近年の僅かばかりの社会的達成成果を取り消すことだ。

最初の悲劇と
二度目の喜劇


マルクスはヘーゲルを引用しつつ、『ルイ・ボナパルトのブリュメール一八日』で、歴史的できごとはそれ自身を繰り返す、一回目は悲劇として、二度目は喜劇として、と書いた。これはブラジルに完全に当てはまる。一九六四年の軍事クーデターは、数百人の死と拷問にかけられた数千人を犠牲にして、ブラジルを二〇年の軍事独裁体制に投げ込んだ悲劇だった。二〇一六年五月の議会によるクーデターは、喜劇、あるいは悲喜劇だ。そこでわれわれが見ているものは、「会計不正」を根拠として、五四〇〇万人によって民主的に選出された一人の大統領を打倒する、反動的かつ悪名とどろく腐敗した議員たちの徒党だ。
右翼のこの政党連合を主に構成する要素は、「三つのB」として知られる議会ブロックだ。そして三つのBとは、「銃弾」(軍事警察、死の部隊、また他の私兵に関係するメンバー)、「ビーフ」(牛を飼育する大土地所有者)、そして「バイブル」(ネオ原理主義者のペンテコステ派〈精霊感応を通じた神の存在の直接的個人体験に強調点を置くプロテスタントの一部:訳者〉だが、ホモ嫌悪であり、女性蔑視である)だ。中で、ディルマ解任のもっとも熱烈な支持者は、ジャイロ・ボルソナロ下院議員だった。彼は、彼の票を軍事独裁の将校たちに、特に拷問執行人として知られたウストラ大佐に捧げた。ウストラの犠牲者の中には、当時(一九七〇年代初期)武装抵抗グループの活動家であった、ルセフ・ディルマが含まれていたのだ。そこにはまた、ジャーナリストであり革命家であった私の友人、エドアルド・メルリーノも含まれ、彼は拷問の中一九七一年、二一歳の若さで死亡した。

民衆の最後の言
葉はこれからだ


彼の追随者によって職に着けられた新大統領のミカエル・テメルは、自分自身いくつかの事件に関与しているが、まだ再審理の対象にはなっていない。ブラジル人は先頃の調査の中で、テメルに大統領として投票する意志を聞かれたが、支持の意向を見せたのは二%にすぎなかった。
一九六四年には、「自由のために~と家族と共に」とのいくつかの大デモがジョアン・グランデール大統領に対するクーデターに向け土俵を準備した。今回は報道によって扇動された新たな「愛国的」群集が、ディルマ解任を、またいくつかの場合には軍政の復帰を求めるために動員されることになった。中産階級出の白人民衆(ブラジル人の多数は、黒人と混血だ)から主に構成されたこれらの群集は、メディアによって、これは「腐敗との戦闘」をめぐるものだ、と説かれてきた。
一九六四年の悲劇と二〇一六年の喜劇が共通して抱え込んでいるものは、民主主義に対する憎しみだ。この二つのエピソードは、ブラジルの支配階級がもつ民主主義と民衆の意志に対する底深い侮蔑を赤裸々にしている。「合法的」クーデターは、ホンジュラスやパラグアイにおけるように、争いを最小限にしたまま進むだろうか? それはそれほど確かではない。民衆の諸階級、諸々の社会運動、そして反乱する若者たちは、彼らの最後の言葉をまだ発してはいないのだ。

▼筆者は、ブラジル出身の哲学者であり社会学者。フランス反資本主義新党と第四インターナショナルのメンバーでもある。アムステルダムのIIREの研究員並びに科学研究フランス全国評議会(CNRS)の元研究責任者である彼には多数の著作がある。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年五月号) 

 


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