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    かけはし2016.年5月2日号

グローバル資本主義の犯罪に怒りを


「タックスヘイブン」とパナマ文書

単なる「税金逃れ」ではない

「守秘義務」を振りかざす日本経団連

システムに深く
根ざした犯罪だ

 タックスヘイブン(租税回避地)に設立された法人を通じた巨額の「税金逃れ」を明らかにする文書が暴露され、国際的スキャンダルとなっている。昨年「南ドイツ新聞社」が入手した、一九七〇年代以来の一一五〇万件にものぼるパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」からの流出文書の情報を、国際調査報道ジャーナリスト協会(ICJJ)が共有し、分析を進めた結果の一部が明らかにされた。
 その結果、イギリスのキャメロン首相、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平主席の親族が関係する法人も、この巨額の税金逃れの一端を担っていることが明らかとなった。アイスランドのグンロイグソン首相は、妻と共有名義で英領バージン諸島に設立した会社を通じた資産課税逃れが暴露されて、辞任せざるを得なかった。キャメロン英首相も、EU残留の是非を問う国民投票を前にして苦しい立場に追い込まれており、プーチンや習近平は、このスキャンダル情報を自国の報道機関が伝えることを禁じている。
 ウクライナのポロシェンコ大統領や、パキスタンのナワズ・シャリフ首相の名前も上がっている。
 もちろん今回暴露された「資産隠し・課税逃れ」の情報は、大資本・大資産家たちの資産隠しや脱税のごく一部であることは言うまでもない。そうであったとしても、とりわけリーマンショック以後の資本主義システムのグローバルな危機の中で、大資本・大資産家たちが資産と利益を隠し、課税を逃れ、そのツケを賃下げ、搾取の強化、社会支出の大幅な削減という形で労働者民衆に負担を転化して、貧困と格差を拡大している事実を、この「パナマ文書」が示す不正のほんの一端から、われわれは見てとることができる。
 「ニューズウィーク」日本版四月一九日号は、リア・マグラス・グッドマンと安藤智彦署名の解説記事「世界を揺るがすパナマ文書の衝撃」で次のように述べた。
「パナマ文書はある意味で、ベールに包まれていた世界の富裕層の『常識』を公にしただけともいえるだろう。彼らの世界では、租税回避地を利用した資産運用は長年受け継がれてきた常套手段だ。国外への資産移転状況を毎年調査している税公正ネットワークは、二一兆〜三二兆ドルの私有財産が『世界各地の無税、あるいはきわめて低い税率の国や地域に秘密裏に置かれている』と指摘している」。
 そして税公正ネットワークのジョン・クリステンセン理事長の「世界のエリートたちが相応の負担をしていないために、一般市民は基本的なサービスを受けられず、さらなる税負担を強いられている」との言葉を紹介している。

被害者は99%
の民衆だ!


 「ニューズウィーク」日本版の同号は、「一番の被害者は途上国の人々」と題したエリザベス・ホイットマンとアレッサンドリア・マシの論評も掲載した。
 「被害者とは、持てる者たちの租税回避によって教育や医療サービスを受ける機会などを奪われた途上国の人たちだ」。
 「租税回避地に本拠地を置く会社がシエラレオネからダイヤモンドの原石を大量に輸出しているが、きちんと納税がされていない。……英領バージン諸島を拠点とするオクテア社は、昨年八月シエラレオネ東部にあるダイヤモンド鉱山の街コイドゥから七〇〇万ドル相当のダイヤモンドの原石を輸出している。しかし、オクテアがコイドゥに納税したという記録はない」「シエラレオネの輸出の九割は鉱物資源が占めているにもかかわらず、その輸出額に対する税収はせいぜい五%ほどだ」。
 すなわち、この「タックスヘイブン」問題の本質の一つが、帝国主義によって構造的に貧困を強制されてきた「南」の諸国の民衆に対する支配と搾取のあり方に存在するという指摘である。
 われわれは、「タックスヘイブン」の問題が、金持ちの税金逃れのスキャンダルであるかのように単純化して考えるべきではない。
 クリスチアン・シャバニューとロナン・バランの『タックス・ヘイブン』(邦訳:作品社刊、二〇〇七年)は述べている。
 「グローバル経済におけるタックスヘイブンの役割は、脱税やマネーロンダリングといった派生的現象よりも、はるかに大きなものである」「世界各国の大銀行は、少なくとも一五カ所ほどのタックスヘイブンに関わりを持っているが、それは単にそこで脱税を工作するためだけではない」。
 「タックスヘイブンは、まぎれもなく、これなくしては現代の経済的グローバリゼーションは機能しないであろう、支柱の一つなのである」。

世界の資本家
たちの共同宣言


 四月二一日、五月のG7伊勢志摩サミットに向けてG7の資本家団体(日本経団連、イタリア産業連盟、カナダ商工会議所、フランス経団連、全米商工会議所、英国産業連盟、ドイツ産業連盟、ビジネスヨーロッパ)は「B7東京サミット共同提言」を提出した。
 ここで注目すべきは、「公平で現代的な国際課税システムの確立」という項で、「各国は、不開示を含む守秘、一貫性、適正な利用こそが国別報告事項の入手および利用の前提であることを改めて認識するとともに、既にコミットしている通り紛争解決メカニズムを一層効率化することが重要である。協調を欠く行動(例えば国別報告事項の公開に関する欧州委員会提案)は、不可避的に納税者にとっての不確実性を高め、国境を跨ぐ貿易・投資を阻害する」と述べていることだ。
 これは経団連が「BEPSプロジェクト(税率の高い国から低い国へ所得を移し、納税額を抑える行為)を踏まえた今後の国際政治に関する提言」(四月一九日)の中で「日本の経済界は、欧州委員会による国別報告事項の一般公開に関する提案を懸念する。国別報告事項は企業の機密情報を含むものであり、最終報告書では、一般公開がなされぬよう、課税当局はあらゆる合理的な手段を講じるべきとされている。また国別報告事項の条約方式による交換は、各国において国別報告事項の守秘が担保されていることが前提となっている。このような国際合意は必ず遵守すべきである」と述べていることとの関係で見れば、その意味は明らかだろう。
 「B7サミット」の提言は、明らかに経団連などの意を受けて、「企業機密の守秘義務」の名において「公正な税制」への拒否を宣言したのである。それは大資本家、政治家らが一体となった「税逃れの犯罪」が、グローバルな資本主義経済システムの不可分の一部であると自認したことを意味している。日本経団連はそうした犯罪の国際的共謀者なのだ。

ATTACが
財務省前行動


 四月一七日、ATTACジャパンは、財務省前で「パナマ文書」問題をテーマに、大企業の税金逃れと貧困・格差、社会保障の切り捨てとの密接な関連を問う抗議行動を行った。
 「パナマ文書」問題を、貧困・格差、権利の侵害と戦争への危機を深刻化させる今日の資本主義システムの問題として主体的に論議していくことが求められている。    (平井純一)
 
 
 


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