もどる

    かけはし2016.年4月11日号

抑圧も緊急援助も回答ではない


難民問題

声明:第四インターナショナル国際委員会

欧州の難民締め出し許さず
下からの国際主義を今こそ

 この声明はアムステルダムで行われていた第四インターナショナル国際委員会(IC)の場で、二〇一六年三月一日に満場一致で採択された。


一〇〇万人の人びとが昨年、飢餓や爆撃を逃れ、特に東地中海やバルカン諸地域を通ってEUの国境にたどり着いた。これは、欧州に向かう第二次世界大戦以後では最大の流れであり、この何十年かの世界レベルで、追い立てられ難民を申請する人びとの数として最大のものだ。そのおよそ半分はシリアから来ているが、そのシリアでは、五年間にわたる紛争が二五万人もの死者と五〇〇万人の難民を生み出し、人口の半数が国内に追い出されている。他の人々の出身地は、アフガニスタン、イラク、そしてその他のアジアやアフリカの諸国だ。その中には、特別の抑圧や暴力に苦しめられた数多くの女性がいる。
政治的権威者や影響力をもつメディアは現在の難民に関わる諸危機を、どこか分からないところから突如として現れている民衆の洪水として描いている。それはあたかも、明白な原因のない気象学上の現象であるかのようだ。そしてそこでは難民資格を求める人々が一つの脅威として、あるいは犠牲者として性格づけられ、そこに対してはあり得る対応は二つしかないとされている。その対応とは、暴力的な封じ込め、あるいは緊急援助だ。双方において難民は、諸権利や大望や諸々の要求をもつ主体としての地位を失い、単なる管理対象になっている。こうした対処法は問題をひたすら単純化するやり方であるだけではなく、この情勢に関わっている政治的主体のある者たちの利益にも奉仕するものだ。

1.諸権利の世界的危機

 公式的に語られていることとは逆に、実際の移民の流れは、本質的には人道的な危機を、あるいはそれだけではなく、また何よりも諸権利の危機をも、それゆえ政治的な危機をも構成している。それは具体的な諸原因とそれにかかわる諸責任を一体化した危機であり、そして危機にある世界的な資本主義システムを構成する他のより幅広い危機の一部であるものだ。それは以下にあげる三部分からも構成される諸権利の危機だ。すなわち、(1)としてそれは、移住を動機づけている、基本的諸権利に対する出身国における体系的な侵犯に関わり、(2)として、連続的な切り下げと最低限でよしとする手法の中での放棄という、国際的な難民申請システムの危機であり、(3)として、移動と定着の双方における、全体としての移民政策の危機だ。

2.現地のテロと帝国主義の介入

 排除に駆り立てる武力紛争がもつ内生的諸要素(シリアの場合は、アサド政権の皆殺し的抑圧とダーイシュの全体主義)以上に、帝国主義の介入、および外国の諸政府、国際的諸機関、多国籍諸企業の軍事的、経済的諸利害もまた、これら出身国の不安定性に対し責任がある。諸資源の略奪と自由貿易協定に込められた地政学的な諸利害が、飢餓、貧困、戦争、そして大量出国を生み出している。EUとそのメンバー諸国の場合は、それらの介入の諸結果が今、難民申請者の形をとってそのドアを叩いている最中だ。トルコのエルドアンとシリアのアサドは、他の大国との間で彼らの最良の利益を交渉する圧力の一形態並びに貨幣として、この避難民たちを利用している。その一方で民衆は、当該国と地域のエリート間の地政学的紛争のワナにとらわれている。

3.EUの耐え難い無責任

 EUは、私的金融機関を救出する、あるいは新自由主義的緊縮から歩み出そうと試みる政府に罰を与える、そうした野心的計画をすばやく示すが、その同じEUは今回の試練には、いくつかの空虚な声明、制度的な受動性、そしてEUの要塞化の強化をもって応じている。その一方EU諸国家は問題を、それがまるで熱々のジャガイモであるかのようにたらい回しにし、移民と避難民を禁止する法の制定に走っている。二〇一七年末までに落ち着き場所を得ると約束された一六万人のうち、さまざまなEUメンバー国に再配置されたのは、たった四〇〇人の人びとだけだった。前者の数字がたとえ達成されるとしても、本当に必要なものに比べればその数字は笑うほどにささやかなままだ。そして、EUよりも小さな人口で、僅かな経済的資源しかない国である、リビア、ヨルダン、イラク、エジプト、またトルコが迎え入れている四五〇万人のシリア人とは、対照が際立ったままだ。

4.排外主義のあらゆる形態とEU要塞化の打倒

 EUの対応は、壁の建設、警察による弾圧の強化、そして体系的な追放の実行、そしてもっとも基本的な諸権利を剥奪された避難民に対する集中キャンプへの収容に絞られている。これらの方策はまた、国境管理の中に新たなすきま的事業領域を見出した私企業に対し、巨額の利益を生み出してもいる。基本的権利の切り落とし、移民に対する汚名着せの強化(この手段に対してはいくつかの場合フェミニズムの議論を利用しながら)、そして「一定の権利をもつ難民」と「不法移民」との間に分断を作ろうとするもくろみは、レイシズム的憎悪表現の高まりを正統化し力づける制度的排外主義の一戦略となっている。レイシズム、民族主義的同一性主張、そして国境閉鎖は、EUのドアを今日再び叩きつつある昔の空想物語だ。諸政党と諸機構は、急進的右翼の台頭を止め、怖れと憎悪の独占を盗み取ろうとする彼らの意図において、EUのすべてに対し似たような抑圧政策を適用しつつある。そしていわゆるテロ対抗政策の場合と同じく、この難民危機は、全労働者階級の諸権利と自由を攻撃する口実として役立っている。

5.避難民であれ移民であれ、非合法な人間など一人としていない

 一定の移民に対し政治的難民資格を申請し獲得することを認める法と国際条約の保護は、彼らの到着と諸権利を守るために用いられる主要な論拠にされてはならない。国際的規範の自由主義的基準は、避難所を要求することに対し限定された根拠しか規定せず――社会的、経済的理由、あるいは気候に関連した理由を排除して――、同時にそれらは「公式に認定された」政治的紛争の一覧に制限を加えている。飢餓、悲惨、また諸資源の不足は、爆弾と同じほど、あるいはそれ以上の人びとを殺しているのだ。多国籍資本の経済戦争は、毎年何百万人もの人びとを追い立てている。経済的避難民と気候難民は、難民資格をもつ類型と見なされるべきであり、いずれであれ移民することは、それを動機づける経済的理由、あるいは政治的理由すべてから離れた一つの権利である。

6.国際的対応

 テロ、気候変動、またグローバル資本主義の作用から逃げ出している人びとに対する民衆階級間の忠誠、民衆間の連帯という国際的義務、これの代わりとなることができる拘束力ある国際条約も、共有された責任もまったく存在しない。人間の尊厳といのちは、私企業の利益よりも、どのような選挙狙いの計算よりも、どのような立法よりも価値がある。
この理由からICは、二〇一六年二月二七日から三月二日まで開かれた会議において、国境を打ち破ろうとする難民と移民の闘争並びに自己組織化、そして彼らと連帯する社会的決起を支持し、行動と動員を引き受けることを決定し、以下にあげる政治的目標を提案する。
a)帝国主義と戦争に反対する決起と街頭行動を進めることによる、住民の強制的大量追い立ての主張に対する糾弾。
b)制限的移民政策に反対する政治的オルタナティブの発展に向けた、また連帯を示すあらゆるデモへの参加とその推進。
c)抑圧、特に国境管理の軍事化に代わる、移民受け入れに向けたより多くの資金振り向けの要求。
d)EURODAC(難民申請者や非正規越境者識別を目的としたEU規模の指紋データベース)やEUROSUR(EU対外国境管理改善を目的に構築された情報交換枠組み)、また秘密情報機関などの特定システムの姿をとった、移民迫害に向けたあらゆる仕組みを終わりにする要求。
e)ダブリンV(EU加盟国といくつかの非加盟国における難民申請処理を、どこの国が受け持つかについて規定した規約)の無効化の要求、および現在の時代と諸環境にもっと合うようにするための、ジュネーブ条約(戦争犠牲者の保護や捕虜に対する人道的処遇などを定めている)の見直しの要求。
f)フロンテックス(欧州対外国境管理協力機関)廃止、および救出と人道援助部隊の創出に向けた強力な主張。
g)諸々の国境の紛争地点や移動国内に釘付けにされている避難民のために、特別な回廊を開き、特別入国ビザを与えることを求める強力な主張。
h)移民流入の管理におけるEUの制度的障壁を克服する、メンバー諸国間での相互協力の仕組みを創出することの唱導。
i)書類をもたない者すべての適正化、および「家族一体化指令」(家族呼び寄せの権利・条件を規定している――つまり制限している――EU指令)の無効化の要求。
j)レイシズムとファシズムに反対する闘争の全政治行動への統合。
k)極右に反対する政治的、思想的、文化的闘争に中心的優先性を置くこと。保守主義に対決する対抗文化的ヘゲモニーの課題設定を通して、またレイシズムの犠牲者と結合された諸動員とイニシアティブを通じて公共空間を取り戻すことを追求する文化間交流を通して、極右の台頭に対決すること。
l)民主主義は、すべての男と女がそれに参加し、また代表されている条件でのみ完成を見るだろう。それゆえ、市民権を実体化するために、あらゆる選挙で移民の投票権を支持して闘うこと。
m)国籍獲得の手段として血統を権利とすることを排し、誕生地のみを基礎とする国籍のために闘うこと。
n)移民資格を唯一の理由として勾留されている人びとの人権と人間的尊厳の尊重という大義の下に、EUとその周辺における拘留センターを閉鎖し、追放を終わりにすることを要求すること。
o)「家族の一体化と帰還に関する指令」の無効化、および労働と「人種」の諸指令の変更のために闘うこと。
p)特にポストコロニアルの「脱植民地主義」諸研究を通して知識と専門技術の生産を「脱植民地主義化する」ために、そして何よりも、レイシズム、特定的にはロマ嫌悪、アフリカ嫌悪、イスラム嫌悪の図式化された形態に関する研究と考察をさらに進めるために、全体としての社会に、特に学問世界に挑戦する論争および批判的思考を通して貢献すること。
q)学校と学問世界の課題の中でさまざまな交流と文化間交流を推し進め、文化的多様性を尊重し考えを深めるために、学校の教科と教科書に対する改革を要求すること。
r)最後に、言語と文化の保全に向けた一つの手段というだけではなく、学校コミュニティ内部での相違の社会化と相互作用に向けたツールとしても、出身国の言語教育を支持して動員すること。

 これらの動員は、諸権利を取り戻すために、移民と難民の自己組織化に中心的役割を与えなければならない。そして、われわれがいくつかの欧州諸国ですでに経験してきたように、彼らと連帯する社会的決起によって支えられなければならない。
諸々の境界は商品と資本のためには低められているがその一方で、民衆のためには以前よりもさらに高い壁が築かれている。市場原理主義と民族主義的排外主義は、諸境界、諸権利の大量破壊に対する本物の武器、民族的憎悪の飼育場に満ちた要塞化されたEUを強化するために歩を並べている。しかしその面前で、抵抗と底辺にある者たちとの連帯は、民衆だけが民衆に役立つことができ、もう一つの欧州は可能であることをあらためてはっきり示しつつ継続する。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年三月号)

声明:第四インターナショナル国際委員会

解決どころか問題さらに悪化

2016年3月1日


自由貿易協定と
いう名の蟻地獄
強盗団が犠牲者から奪い取るように秘密裏に、そして非民主主義的やり方で――。金融機関と多国籍企業を所有しているエリートたちは、新しい「自由貿易協定」の実施に向けて進んでいる。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)、新サービス貿易協定(TISA)がそれだ。
以前の場合――欧州連合(EU)を生み出した諸条約や北米自由貿易協定が強制された時――と同様に、支配階級はこうしたイニシアティブを、「貧困をなくし、富と繁栄を増進させる」魔法の定式であるかのように提示している。自由貿易協定のバランスシートが「魔物の誘い」に惑わされて、それを待ち望んだ人びとにとって次のようなものであることは疑いない。
多国籍企業による現存各国家の合法性と主権の侵害、企業と国家の間の紛争を解決する「民間」法廷の設立、国家が依然として保持している公共サービス(教育、保健、交通、水道)の民営化と商品化、ソーシャル・ネットワークにおける表現の自由を消滅させる通信コミュニケーションの規制緩和、自営農民・家族農業の解体とモノカルチャーや遺伝子組み換え作物や殺虫剤の拡大、環境保護法よりもどん欲の優先、都市と農村の人びとの生活・労働条件のいっそうの悪化、そして新しい移民のうねりの促進。
新しいルールはそうしたことを許容するものだ。
もしこうした条約が実際に世界貿易を拡張していたのだとすれば、なぜ三〇億人以上の人口、すなわち世界の総人口の三分の一以上を占める諸国が全体としてはじき落とされているのか。こうした新しい規制の本当の意味には二重の要素がある。西側帝国主義諸国の影響圏内にある「他の国」のプレゼンスを制限すること、かれらの多国籍企業のために最大限の利益を保障することである。

自由貿易制限が
危機の源、の嘘
現在、資本主義がこうむっている危機は、「自由貿易」を実現する諸条件に限定が課されているなどということで引き起こされたわけではない。
少数者の手中への富の過剰な集中(国際協力団体オックスファムによれば、現在、六二の家族が残りの九九%が所有するのと同じ額のものを持っている)、労働者階級の購買力の大幅な減少、グローバルな規模での巨額に上る債務の重荷(二〇一四年の統計では二〇〇〇億ドル)、架空資本の異常なまでの拡大――こうしたことが生産能力の相対的過剰を引き起こし、二〇〇八年よりもさらに深刻な、新たなリセッションを回避する国家の能力を減退させたのである。
米国ならびにその同盟国(西欧、日本、その衛星国)と中国との、経済的利益をめぐる矛盾の拡大――それは部分的にはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)として知られる諸国との間の矛盾をも形成するが――は、こうした新しい条約を、それぞれの国の超国家企業の力を強化し、可能な限りの民営化を促進し、そうした動きと対立する完全雇用や人間的・社会的・エコロジー保全法制を廃棄するはずみにさせていくことになる。
世界の労働者階級は、国民的政治の狭い領域に閉じ込められることはできない。われわれはこうした諸矛盾を注意深く追跡し、帝国主義的盗賊どもの対外政策のセットのあらゆる秘密を習得し、世界の労働者階級や人間性の利益と完全に相いれない、見せかけの利害に自ら引きずられることを許してはならない。中国、ロシア、米国や欧州諸国の支配階級は、われわれの共通の敵である。これは国家間の闘いではなく階級闘争であり、われわれは多国籍企業や軍事化に反対して、世界のすべての人びとに手を差し伸べる。

最後の決定権を
もつ者は民衆だ
われわれは、こうした「商業的条約」の創設に全面的に反対して、グローバルな規模ですべての労働者の生活条件・労働条件の改善にもとづくオルタナティブな政策を促進する。労働組合活動と集団的交渉の実践の自由を回復し、経済の戦略的部門を再国有化する。巨額の資産と投機的資本への強力な進歩的課税を行う。移住の自由のために国境を開放する(合法的でない人などいない)。すべての不快で、不法で、正統性のない、持続不可能な公的債務を否認する。労働の領域と人権の擁護において国際的協定の適用を求める。そしてさまざまな国家グループの間の現存する不均衡を計算に入れた国際的貿易を育成する。
第四インターナショナル――すべての大陸にいるそのメンバーはこうした条約の批准に反対する運動の一部分を構成している――は、二〇一六年二月二一日にスペインにおいて、欧州大陸のさまざまなラディカル左派政治勢力によって採択されたようなイニシアティブを歓迎する。それは民衆の社会的統合のためのオルタナティブなプログラムを発展させ、きたる二〇一六年五月二八日(土曜日)に計画されているような広範な動員を実現することを目指している。
こうしたタイプのイニシアティブを世界レベルに拡大すべきであり、大陸を結んだ統一した動員が調整されるべきだ。こうした条約の批准は、決して不可避のものではない。世界の民衆が、最後の決定権を持っているのだ。

【訂正】本紙前号(4月4日付)1面上から5段目右から19行目の「長崎原発」を「長崎原爆」に、6面最下段左から4行目の「DEA」を「DEA(国際主義労働者左翼)」に、8面上から9段目左から21行目の「沿道」を「遠藤」に訂正します。



もどる

Back