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    かけはし2016.年3月7日号

怒れる民衆がエリートの筋書きを破壊中


米国

大統領選キャンペーン

政治革命求めるエネルギーを
消散から救い出す議論めざす

ソリダリティー運営委員会

 バーニー・サンダースキャンペーンは政治の空を切り裂く稲妻のように広がり続けている。アイオワ州党員集会におけるクリントンとのデッドヒートとニューハンプシャーにおける圧勝を経て、エスタブリッシュメントに対する彼の挑戦はもはや、いわゆる「リアルポリティクス」の世界での面白い出し物にすぎないと無視されるわけにはいかなくなっている。

くっきり表れた政治的分岐


 今回は、異常な社会的諸危機の只中で、特異な選挙の年へと変わろうとしている。企業の支配階級を代弁する形で民主党と共和党を支配している党のエスタブリッシュメントたちはこの台本に対する支配を失っている――少なくとも一時的に――。
 評論家たちは、サンダースとトランプを、勤労階級の怒りといらだちに対応している対照的な「ポピュリストのアウトサイダー」と描くことを好んでいる。しかし、バーニー・サンダースが社会的連帯の諸伝統およびわが社会が直面している惨害の解決に対する共有された責任に訴えている一方で、トランプは、「他者」――ムスリムたち、移民たち、さらに他の便利な標的たち――をスケープゴートにするという最悪の本能に訴えているのだ。少しも驚くことではないが、あからさまな白人優位主義者たちや「民族主義者たち」はトランプのキャンペーンを、レイシズムと憎悪という彼らの政治にとっての始まりと見ている。
 対照的に、サンダースキャンペーンに燃料を注いでいる若者と勤労階級のエネルギーは、全員に共通の医療保険制度、社会保障の拡張、公立大学授業料の無料化、最低賃金一五ドル、そしてウォールストリートや「必要以上に大きすぎる」諸銀行に反対する「政治革命」、これらを求める彼の綱領の底深い誘因力を描き出している。このすべては、米国が右に向かう大規模な民衆的転回の最中にあるわけではない、ということを示唆している。

若者と勤労階級が主体となって

 はじめて投票する若者たちのアイオワでの参加者数は、権威筋を呆然とさせた。民主党側では、いくつかの評価によれば、サンダース支持のために参加した者が八〇%に達した(おそらく、もっと小さいとはいえそれでも相当な規模で若者たちは、特に大学構内で、共和党党員集会にも姿を現した――おそらく両側で似た理由から、彼らの未来が職の不安定と破滅的な債務という泥沼はまっていることを見ながら)。あらゆる人びとはニューハンプシャー予備選の夜までに、若者たちは、グロリア・スタイネム(ラジカルフェミニスト、女性行動連盟の創立者:訳者)やマデレーン・オルブライト(第六四代国務長官、米国初の女性国務長官:訳者)の、クリントン支持という彼らの「義務」に関する調子はずれの要求をものともせずに、若い女性たちを含んで圧倒的にサンダースに投票しつつあった、ということを悟った。
勤労階級の米国人の中では、「バーニー支持労働者」もまたその強さを示しつつある。一定数の労組が、彼らの組合員たちがどういう感情をもつ可能性があるかを知るために時間をかけたり、手間をかけたりすることなく、早々とクリントン承認にはまり込んだ中で、AFL―CIO(米国最大の労組ナショナルセンター:訳者)は、部分的には確実に労働者の重要な部分内部での親サンダース感情を理由として、まだそうはしていない。全米自動車労組(UAW)は、組合が労組員資格を調査中と語り、組合代表のデニス・ウィリアムスはそれを「紛糾含み」と表現している。シカゴでのレーバーノーツ(戦闘的な労働運動をめざす労働運動活動家の組織:訳者)大会開会を飾る四月一日の「バーニー支持労働者」全国集会は、わくわくするようなできごとになりそうだ!

それでも事態は変わらない

 しかしながら、あらゆる興奮と初期の勢いにもかかわらず、民主党エスタブリッシュメントの九九%は、民主的社会主義者を公言する者が選出されることはない、と確信している。そして一%は完全に、共和党の卑劣漢の群れから現れる可能性のあるものという観点から、彼がまさに選出されるかもしれない、ということを恐れている。
今後の南部諸州と大規模州の予備選では、アフリカ系米国人とラティーノの有権者を含んで、型にはまった予測よりもサンダースが善戦する、とわれわれは推測している。サンダース外しの努力という点で民主党指導部がどこまで進むかは、今後の二、三ヵ月で試されるだろう。
彼の立候補は党に対するいわば資本として現れている。それは、ヒラリー・クリントンに対する熱気という点で目立って冷めている――そうであることはあまりにも理解できることだが!――若い民衆と勤労階級の民衆を、党に引き込むことによるものだ。しかし党指導部が、サンダースをどけるための彼らが得意とする汚い諸戦術に深く入り込めば、「団結」に向けたこの展望は、打撃を受ける可能性がある。そうした戦術としてはたとえば、あからさまな人種を対象とした中傷、赤狩り、あるいはクリントン指名を固めるために非選出特別代議員(指名党大会代議員には、上下院議員など、相当数の指名投票先を拘束されない代議員枠がある:訳者)に依拠すること、などがあるのだ。
そしてこうした手法は、必要となれば確実に利用可能だ。さらに最後の防衛線は、純粋の危機アジリ――「サンダース指名は右翼の共和党員にホワイトハウスを投げ与えることになる」という実際上もまがいものである嘘――となるだろう。
しかし予備選の結果がどうであれ、「百万長者階級」あるいはオキュパイ運動が一%と呼んだ者たち――企業資本家階級――と対決する政治革命は、最終的にはそれらの階級によって所有され、支配されている一政党の枠内では起こらないだろう。指名過程から発する騒々しい物音や怒りが何であれ、企業の米国、諸金融機関、ウォールストリート、またヘッジファンドは、民主党が無害な支配力としてとどまることを確実にすることができる。
それらは、ビル・クリントンやバラク・オバマの下で、間に挟まったジョージ・W・ブッシュの下でそうだったと同じく、繁栄を謳歌した。そして熱を帯びた政治キャンペーンの言説も、サンダースが力を込めて表現したような、「議会を統制しているのはウォールストリートだ」という現実を変えることはないだろう。わかりやすい事実は、ウォールストリートは民主党をも統制しているということであり、まさにそれこそが、バーニー・サンダース自身何十年間も政治的無所属として活動してきた理由なのだ。

運動参加者内部の議論が課題に

 サンダース・バーン≠ニ彼がとらえたエネルギーは、この運動が民主党から自立して自身を表現し継続する一つの手段を見出さないとすれば、ジェシー・ジャクソンの一九八八年における「虹」の挑戦が悲劇的にたどった……と同じく、幻滅と挫折感の中で残念なほどに消散することになりそうだ。その手段がどのような形をとる可能性があるかは予想できないが、その可能性は唯一参加した活動家たちから現れるものだ。
このエネルギーは、ジル・ステイン(緑の党候補者:訳者)のキャンペーンのような自立した政治の方向に、あるいはさらに新たな党の方向に向かう可能性はあるのだろうか? 何千人というサンダース支援者は、バーニーのように、本当に社会主義者であるとの結論に達し、何らかの適切な諸々の結論を引き出し始める、というようなことはあり得るのだろうか? それは、われわれソリダリティーが潜在的な「次の左翼」と呼んだものの一構成要素となる可能性はあるのだろうか?
これらは、何十万人という「バーンを感じ」つつある民衆内部の議論に向け答えが空白のまま残されている問題だ。ソリダリティーは、社会主義的左翼の立場をとる他の人々同様、その探索の一部になりたいと思っている。(二〇一六年二月一一日)

▼ソリダリティー運営委員会(二〇一五年以前は政治委員会)は、米国ソリダリティーの常設的指導機関。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年二月号) 

ポルトガル

大統領選で右派勝利

緊縮打破に向けた
社会的決起課題に

ジョアオ・カマルゴ

 社会党政権が成立し、その下で緊縮政策の部分的手直しが始まっているポルトガルでは、一月二四日に大統領選挙が行われ、右派の社会民主党が推す候補者が当選を決めた。この選挙がどういうものだったか、そしてこの結果を受けて左翼が直面する任務について、反緊縮運動を闘ってきた活動家が伝えている。以下に紹介する。(「かけはし」編集部)
 今週の大統領選挙は、この国で過去一〇年もっとも有名なTVコメンテーターであったマルセロ・レベロ・ソウサが共和国大統領に選出されたことによって、左翼にとっては一つの敗北となった。二人の分派候補者(親左翼と親右翼の、つまり左翼が議会内で支える現社会党政府支持とそれへの反対の)に分裂した社会党は、合計で二七・八%を得た。共産党が支援した候補者は三・九五%を超えることができず、一方左翼ブロックが支援した候補者、マリサ・マチアス議員は、一〇・一%に達し第三位に着け、大統領選挙ではこれまでで最良の結果となった。

右派の大統領選
出にTVが貢献


 ポルトガル共和国の新大統領は、法学教授、著名なTVコメンテーター、そして社会民主党(前政権与党で右翼の自由主義的保守派)のかつての指導者として右翼が支援するマルセロ・レベロ・ソウサとなる。彼は、以前の独裁に直接つながっている――マルセロ・カエターノ(独裁者のサラザール死後体制を引き継いだ)の養子であり、当時の植民地相の息子――人物だ。また、日曜日夜毎週行う政治的コメントを一〇年続けた結果、型にはまらない親しみのある人物として知られている。
 彼の立候補は、トロイカの干渉下で前政権を構成した二つの親緊縮政党から支持された。そして彼は五二%を得票した。投票率は四八・八四%だったが、これはこれまで行われたポルトガル大統領選第一回投票では最低であり、マルセロはこれまでで最小の得票数で選出された大統領である。
 この選挙に対するメディア、つまりTVの影響力は卓越したものだった。そこに伴ったものは、十分な吟味をまったくと言ってよいほどほとんど行わないまま公園をぶらつく候補者を取り上げるものだったり、日々の雑仕事を追いかけるレポーターをしたがえた彼個人を基礎に置くキャンペーンだった。

社会党の不団結
と共産党の不振

 左翼の候補者たちは、この幅広い知名度をもつ人物の第一回投票での勝利を阻止できなかった。社会党はどの候補者も公然とは支持しなかった。というのも、元党首であるマリア・デ・ベレムが首相であるアントニオ・コスタの現指導部に反対したからだ。そしてコスタは、無所属でリスボン大学元学部長のサンパイオ・ダ・ノボアを支持するつもりになっていた。結果としてこの党は、より左翼に傾いた分派(サンパイオ・ダ・ノボア支持)と右翼の分派の間で割れた。そして後者は、それによって社会党が権力を握っている、政権をめぐる左翼諸政党との議会協定に反対している(そしてこの分派はマリア・デ・ベレムを支持した)。
結果的に社会党現指導部は選挙には敗北したが、サンパイオ・ダ・ノボアが二二・九%を得票し、マリア・デ・ベレムが四・二四%以上にはならなかったがゆえに、党内の争いには勝利した。社会党内部の政権をめぐる決定に対する反対派は大きく敗北した。
共産党は、議会内で左翼(共産党、左翼ブロック、緑の党)が支持する政権という可能性が推進力を増しつつあったその時に合わせて、そのアイデンティティと独立性を確認する一つのやり方として、左翼ブロックの後塵を拝した総選挙(この党の得票率は左翼ブロックの一〇・一九%に対して八・二五%だった)直後に、大統領選候補者を発表した。マデイラ諸島における社会運動活動家として知られたエドガル・シルバが選ばれたが、その選挙はうまくいかなかった。この候補者は、党内でしか通らない言葉から自身を引き離すことができないまま、党の組織力に大きく依存し、共産党が支援したこれまでの大統領選候補者の中では最悪の、僅か三・九五%の得票に終わった。
この結果は、政府の新しい現実、および左翼ブロックの台頭に今なお合わせようと試み続けているこの党の内部に影響を及ぼすだろう。厳格な正統主義が、今判明している結果と一体となっている現実に直面するだろう。

左翼ブロックに
反攻主導の重責


左翼の中では最終的に左翼ブロックが、三九歳のマリサ・マチアス議員が一〇・一%を得票することで、もっとも妥当な結果となった。この得票率はある程度、党の選挙基盤の安定化に等しい(それは、党の前回選挙に近い結果だった)。マチアスは、重要な諸問題、すなわち緊縮を終わりにしEUとその諸条約に異義を突き付ける必要性をキャンペーンに持ち込み、BANIFの銀行破綻(一月二五日号参照)に関する最新の財政投入救出策に反対することで、関連の諸論争の中では印象を残す候補者だった(つまり、全候補者間の最後の論争で彼女は、社会党員候補者、マリア・デ・ベレムの、議員に対する終身補助金への支持を粉砕することができた)。この結果に対しては、彼女の民衆的な背景と街頭と集会における親しみやすさもまた重要な要素だった。
彼女は、左翼ブロックが支援した候補者の中ではこれまでで最良の結果を達成した(この党がこれまで得た結果は、二〇〇一年に三%、二〇〇六年に五・三%であり、二〇一一年は多党相乗りだった)候補者であり、四七万九〇〇〇票という形でこれまでで最多得票の女性大統領候補者だった。
この全般的な結果は、共和国新大統領の反緊縮政権支持という点における信頼性が低い以上、悪いものだ。最初のうちは彼が中立的立場をとるということが予想できる。しかし、EU委員会と欧州中央銀行との予想された衝突をもって、ポルトガル政府の決定にとって情勢は表面的に今や悪化している。そうであるとしても、社会党内部の意見対立は決定的に緊張を低め、より結束を高めた左翼ブロックからの圧力もまた、健全な影響力を発揮するかもしれない。緊縮の唱道者たちが今や彼らの鍵を握るプレーヤーの一人を大統領職に就けることになった以上、短期的には社会的動員が必要とされるだろう。(「インターナショナルビューポイント」一月号) 


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