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    かけはし2016.年2月29日号

問題は2つのマフィアによる国家の解体


メキシコ

電力労働者の抵抗の6年

新自由主義との対決を通して
国家を再生する民衆の統一を

ファブリス・トマス/フランク・ゴーディショウ


 TPP協定参加一二カ国の一つであり、自動車など日本の多国籍資本の重要進出先でもあるメキシコは、新自由主義の社会に対する破壊的作用が国家のある種の崩壊という深刻な段階に達している国だ。その困難な情勢の中で続いている民衆の闘いの一つが、私有化攻撃に対する電力労働者の頑強な抵抗だ。職を守る自らの直接的要求を超えて、民衆の政治的・社会的オルタナティブにも責任を引き受けようと挑む彼らの闘いについて貴重な情報を以下に紹介する。(「かけはし」編集部)

困難な情勢下で継続する挑戦


 フンベルト・モンテス・デ・オカルナは、メキシコ電力労組(SME)の対外関係書記であると共に、「新労働者連合(NCT)」世話人の一人だ。彼は二〇一五年一〇月に、メキシコシティーでフランク・ゴーディショウとファブリス・トーマスのインタビューを受けた。
 メキシコ電力労組はここ何年か、この国における社会運動と民衆運動の最前線に立ってきた。SMEは公共企業体であった中央電灯電力公社(LFC)の解体に反対する六年以上の闘争で、そしてこの企業には、新自由主義のカルデロン政権(国民行動党、PAN政権、カルデロンは二〇一二年まで大統領だった)がメキシコシティー首都圏の電力部門私有化を決定した当時、四万四〇〇〇人の従業員がいたのだが、社会、政治、司法のあらゆるレベルで諸々の動員を発展させてきた。二〇〇九年以来、この労組は多くの闘争に、特に私有化と労働法破壊に反対する闘争に参加してきた。
 メキシコの労働組合運動の中では近年例外的なその抵抗精神と動員能力はSMEに、電力労働者に限られた即自的要求を超えるある種の政治的責任を与えている。今日組合員(当公社労働者の四万四〇〇〇人のうち一万六〇〇〇人以上、他の労働者は、雇用契約の解除を機に労組から離れている)は、二重の任務に直面している。すなわち一方での、短期的には雇用問題での解決――そして六年にわたるレイオフと不安定な状況に終止符を打つ――策を見つけ出すこと、他方での、メキシコの労働者が今もっていない諸々のツール、新たな戦闘的で民主的な労組ナショナルセンター、および統一された反資本主義的政治組織、これらの建設を助けることだ。
 これらの目標は、特に二〇一四年九月のアヨツィナパ師範学校の四三人の学生の誘拐と行方不明によって幕が開いた政治的危機の後、メキシコの民衆が日々悲惨な状況にぶつかっている以上は、なおのこと重大なものとなっている。政治体制によってもくろまれたこの恐るべき抑圧の一周年に合わせて先頃組織された大動員は、この国を治めているカーストが、不可避的に民衆的な憤り、および真実と裁判という必須なものに直面させられることになる、ということを明らかにした。
 しかしこの動員は同時に、社会諸運動(および急進左翼)のかなりの分散状況をも明らかにすることになった。これらは、ペニャ・ニエト新自由主義政権(制度的革命党、PRIの政権、ペニャ・ニエトは現大統領)並びに暴力と全般化している腐敗に対する厳しい批判については一致しているとはいえ、代わりとなる政治的出口を明確にすることは今なおできていない。
 われわれはフンベルトと、これらの困難について語り合った。フンベルトは、長く活動を続けてきた労組活動家であり、メキシコと国際的な場面の双方でSMEの抵抗を体現する人物の一人だ。われわれは昨年一〇月、当該公社の集団的雇用契約の清算と引き換えに、いくつかの発電プラントを労働者協同組合の形態でSME管理下に置くという一つの協定が連邦政府との間で仕上げられたことを機会に、メキシコシティー中心にある当労組事務所の一つで会った。そうしたプラントの最初のものはプエブラ州北部のネクサカにある。そこは、メキシコシティーへの電力供給を担う最初のプラントが二〇世紀初めに生まれた場所だ。
 この解決策はフンベルトも認めるとおり、部分的で一時的なものにすぎない(現組合員のみが交渉された構想の中で仕事を見つけることが可能になるが、その構想にはもちろん、SMEにとって多くの不確実性と試練がある)。しかしそれは、六年にわたる頑強な抵抗の上での最初の勝利となるものであり、メキシコの労働運動にとっては希望のほのかな明かりとなるものだ。

逆風下での一時的な政治的解決

――本題に入る前にわれわれとしては、SMEがこの間闘ってきたこの長期の闘争の中で、あなたたちにとっては何が鍵となる決定的なものだったのかを知りたい。

 この六年を通してわれわれにとって第一の目的は、わが労組の死を回避することだった。その死は、新自由主義大統領のフェリペ・カルデロンの真実の目的だったのであり、彼は、一〇〇年の歴史をもつ歴史ある労組であるわれわれの組織を終わりにしたいと思っていた。われわれの第二の目的はわれわれの職を維持することだった。第三は、エネルギー部門の私有化に反対する闘いを継続することだった。この私有化が、この部門の私有化を拒否した一〇年と少なくとも二回の私有化に関する憲法改定の敗北を経て、われわれの集団的な大量解雇――四万四〇〇〇人の労働者の解雇――に結果した理由の一つなのだ。

――あなた方の組合を生き長らえさせることに関し、現在続いている交渉はどういうものか?

 最初に言わなければならないことだが、われわれが到達した解決案はわれわれにとって「部分的かつ一時的」なものだ。つまりわれわれは、二〇〇九年一〇月にわれわれから取り上げられたものの一〇〇%を取り戻すことができているわけではない。われわれの闘争にもっと長期の展望を与えると思われる明確な支えを法的なレベルでわれわれが得ていないという意味で、先の解決案は一つの政治的な解決案なのだ。
もう一つの本質的な要素は、メキシコでの労働者階級の情勢が極めて困難だということ、力関係が全面的に不利だということだ。中央政府は、新自由主義モデルをさらに悪いものにする全一連の諸々の構造改革を強要している最中であり、協調した社会運動、あるいは短期的にこの情勢を逆転する代わりとなる政策は見える形としてはまったくない。
それゆえわれわれは、われわれの職と以前はあった労働協約を部分的に回復する余地をわれわれに与える、そうした一種の政治解決を見つけ出すことを迫られている。一万六五九九人の労働者は六年間無収入であった以上、これらの労働者の再雇用を獲得することはなおのこと極めて重要なことだ。

職の確保に向け挑戦はらむ道筋

――あなたたちは非常に困難な諸条件の中で今も抵抗を続けているが……。

 その通りだ。われわれは不安定な諸条件の中で生きている。それは、家族崩壊状況、病、死、さらに自殺まで、もっと悪くなろうとしている。しかし抵抗の中核は残っており、それはメキシコ国家に対決するこの正面戦というあらゆる試練を生き延びてきた。
立法機関では、当該企業解体命令に反対の議論に介入することをやめ、最高裁に責任を転嫁するという共謀が成立してきた。そしてその最高裁は、この解体に、またわれわれが一つの法廷から与えられていた保護手段に対する無効宣告に、関与させられた。しかしその最高裁はわれわれの勝利を認め、労働者の再雇用と未払い賃金を徴収する彼らの権利に基づく、一つの法的解決策を差し出した。われわれの抵抗は、全国レベルと国際的なレベルでわれわれを支援してきた社会的諸組織の連帯をもとに終結に向け進むことができた。

――あなたたちは、SMEメンバーである一定数の労働者を復職させることになる一つの協同組合を作り出すだろう。あなたたち自身を具体的にはどのように組織することになるのか?

 われわれに関する限り、政府には一つの債務がある。つまり、協約に記載され、労働者に帰属する将来向け基金からのカネが、解体中の企業の義務となっている。事実上この企業は、これらの額を労働者に払わずに企業の解体を宣言しないという可能性がある。われわれはそのように、つまり、これらの総計を現金で払う代わりに、LFCに帰属していた一四の水力発電所の経営をわれわれが認められ、さらに土地と建物とインフラと一体となった一セットの発電センターも今後与えられるように、それらが労働者自身で管理されるように、交渉してきた。

必要な政治的ツールとは何か


――政治的レベルであなたたちは何年も、民衆階級の断片化を克服するための一つの政治的ツールを創出する必要を力説してきた。それゆえあなたたちは、労働者・民衆組織(OPT)の創出を訴えてきた。現在にいたるまでこのOPTの発展はつつましいままにとどまっている。ペニャ・ニエト政権が崩壊しつつあり、底辺にある者に対して残忍な暴力が国中で広がろうとしているこの時に、この組織が前にしている挑戦とはどういうものか?

 われわれの闘いは主要に職の防衛を求める闘争だった。しかしその闘いは、エネルギーの私有化に反対する、政府と対決する、大衆的な社会闘争へと転換させられてきた。そしてわれわれは一つの全国的な政治闘争を作り上げた。これこそが、闘争中の労働者を政治的に代表したいとの熱望を抱く、そして一セットの社会諸運動並びに左翼の政治諸潮流と接合された一つの組織として、OPTの創出を求めた理由だ。
OPTの目的は社会的解放のために闘うことであり、そして社会的解放が意味するものは、反資本主義的展望における、権力関係と経済関係のわが国での底深い変革だ。OPTは、あらゆる天然資源だけではなく、われわれ人間をも絞り尽くしているこの新自由主義的カーストを終わりにするために、戦略的な諸力の蓄積に貢献したいと願っている。

――戦術レベルでだが、政府との関係における、また次の大統領選挙との関係におけるOPTの立場はどういうものか?

 二〇一二年(前回の大統領選の年:訳者)を前に、われわれの組織建設の始まり当時、われわれは「政党証明書」(だれが選挙に挑むことができるかを決定するメキシコの選挙管理機関が発行する)を得ようと挑んだ。しかしわれわれは、メキシコで制度化されているこの機構を通じて拒絶された。この機構は、選挙政治の闘いの中における一つの階級による階級的立場の表現を妨害しているのだ。その後ちょうど一年前、一つの大事件が起こった。それが、アヨツィナパ師範学校の四三人の学生に起きた誘拐と行方不明だ。
われわれは現在下部組合員の中で、選挙を通じた政治闘争に参加することの実行可能性に関し討論を行っている。われわれは、メキシコ国家はすでに底深く加速度的な解体の過程に入っている、それは、アヨツィナパのわれわれの同志たちに起きた行方不明、当地の当局と警察と軍の責任を照らし出している一つのドラマによって、目立つ形で表現されていると確信している。
それは、犯罪組織とメキシコ国家、新自由主義的政治階級さらに制度的な諸政党(これらはまさにしばしば麻薬カルテルから資金を受け取っている)の間の、現にある結びつきを示す証拠だ。これら二つのマフィア、つまり政治的マフィアと犯罪組織の間には相互の交流があるのだ。それこそが、前回選挙でわれわれが棄権、無効投票、そして場に応じた選挙運動の積極的ボイコットを呼びかけた理由だ。

社会運動の分散の克服に向け

――四三人の行方不明が象徴するこの恐るべき情勢によってわれわれは、メキシコの暴力は麻薬カルテルから来ているだけではなく、同時に民衆諸階級と社会諸組織の指導者たちに対する広範に広がる暴力もある、ということを知るにいたっている。毎年の死者の数は恐るべきものだ。この錯綜した諸関連の中であなたは社会運動の情勢をどう見ているのだろうか?

 メキシコの社会運動は大きな試練に直面している。本当のこととして、略奪、抑圧、確立された諸権利に対する挑戦、民主的な自由に関する諸制限、こうしたものに反対する行動は大量にある。しかしそれは分散した抵抗だ。これらは、全国的な文脈では孤立したままの地域的なあるいは地方的な運動であり、それゆえこの抵抗を接合することが重大な挑戦なのだ。
いくつかの現在の歩みは、アヨツィナパのための決起から現れた全国人民大会や全国民衆会議の建設を例として、この方向に進みつつある。先の大会は、明らかに依然基礎として残っている要求、つまり行方不明の学生たちは生きて戻されなければならないとの要求を軸に配置された、九項目の綱領を採択した。しかし私は、まさに全体の統一達成を助けるような、他の諸問題を含めるために要求の範囲を広げることも必要だ、と考えている。
最も難しいもう一つの目的は、全国的な政治的オルタナティブを提供することによる抵抗の社会的基盤の拡張だ。われわれは、わが国における政治的危機を前にして鮮明な立場を必要としている。われわれは組織をもたないこれらの抵抗を組織する必要がある。
新自由主義的諸政権の安定性に寄与している、選挙運動以外の要素の一つは、民衆に対する政治・文化的、イデオロギー的支配だ。メディアの役割は圧倒的だ。情報遮断と民衆的な諸組織に対する政治的支配は途方もない。これが集団的決起を妨げ、討論のための空間を狭め、新しい層の闘争への参入を遅らせている。そうであっても、これらすべての勢力を権力のための政治闘争にわれわれが集中させることがなければ、われわれには、これら新自由主義者たちを取り除く上で多くの困難が残るだろう。

実体あるオルタナティブを追求


――その上で一つの質問だが、「下部からそして左から」現れたサパティスタは、一九九四年から反抗的な尊厳を大いに示してきた先住民の抵抗という一構想を具体化した。そして「頂点にあり中道左派寄り」のどこかには、マヌエル・ロペス・オブラドール(元首都圏政府首班)のモレナ(民族刷新運動)組織を軸とした選挙構想がある。近年左翼に関する討論を結晶化してきたこれら二つの極の間で、あなたは政治情勢をどう特性付けようと思っているか?

 われわれに関する限りここまでのところ、われわれの構想は第三の選択肢だ。しかしわれわれは、われわれのサパティスタの同志たちとの間では良好な関係を築いている。つまりわれわれはこれまで距離のあった時期と友好関係再開の時期を経験してきたが、すべてとは言わないが多くの考え方を共有している。
モレナの場合は、鮮明な展望を備えた体系化された政治運動であると言うことはできない。それはむしろ、この国の救出を目標とした、しかしモレナを社会的で民衆的な諸闘争に関わらせることなしにそうすることを目標とした、半ば救世主的構想に基づく、一人のカウディージョ(スペイン語で頭領を意味する:訳者)、マヌエル・ロペス・オブラドールを中心とした運動だ。
われわれが欲していることは、実体あるオルタナティブ、新自由主義と対決して闘うオルタナティブ、わが国の社会的で政治的な闘争の中で労働者によって果たされなければならない役割を基礎とした反資本主義的オルタナティブ、それを構築することだ。

▼フランク・ゴーディショウは、政治学博士でありラテンアメリカに関するいくつかの文献の著者。フランス/ラテンアメリカ協会の共同代表であり、ラテンアメリカに関するウェブサイトの編集委員会に参加するとともに、NPAのラテンアメリカ作業グループの一員でもある。
▼ファブリス・トマスは、PRS第一回代議員委員会でLCR(当時の第四インターナショナルフランス支部)を代表した。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年二月号) 


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