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    かけはし2016.年2月22日号

「日韓合意」は解決への道か?


2.5 日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

「謝罪・補償」にはほど遠い

外務省申し入れと緊急シンポジウム


韓国政府に「丸
投げ」する外務省
 二月五日、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動が主催して、「緊急シンポジウム 日本軍『慰安婦』問題 日韓政府間『合意』は解決になるのか?」が、一二時半から衆院第一議員会館大会議室で開催された。
 院内集会に先だって、外務省に対して午前一〇時半から申し入れ行動が行われた。外務省からは地域政策課の鈴木氏と東北アジア課の松本氏が対応。外務省側は「被害者が受け入れられる合意だけが解決策という思いには共感する」と述べつつ、「日韓条約五〇年の年に、日本軍『慰安婦』問題を解決したいという両国の政治的意思を反映したもの」と「合意」について説明した。つまり被害者の思いを反映したものではないという意味だ。外務省側はさらに、韓国政府が被害者の思いを反映しようとする努力に協力したい、と述べたという。つまり韓国政府に「丸投げ」という態度なのだ。
 さらに「一〇億円支出」以外の施策はどういうものか、という質問については「日韓両政府が協力し合って財団をどうするか決めていく。日本が支出する一〇億円の中には財団をつくる費用も含まれる。個人補償はその中にふくまれない。一〇億円は財団に渡すカネであって個人に渡すものではない」と答えた。韓国政府は「個人補償もふくむ」と説明しているが、という問いには外務省側は返答できなかった、という。仮に財団設立が阻止されたらどうするのか、という問いには「会談では、そういう事態については話さなかった」とのこと。
 結局のところ被害者対策は韓国政府に「丸投げ」というのが日本政府の対応である。また台湾の日本軍「慰安婦」被害者についてはどうか、という問いに外務省側は「担当ではないからわからない」とのこと。こうした外務省側の無責任きわまる姿勢に、参加者たちは厳しく批判した。

これでは解決
策たりえない
「アクティブ・ミュージアム『女たちの戦争と平和』資料館」の渡辺美奈さんがファシリテーターを務めた参院議員会館でのシンポジウムでは、まず金昌禄(キム・チャンノク)さん(慶北大学法学専門大学院教授)が「日本軍『慰安婦』問題に関する『2015年合意』の問題点」と題して報告した。
金・チャンノクさんは今回の「日韓合意」が米国の世界戦略、日本政府の歴史歪曲、そして韓国政府の同調という枠組みの中で行われ、その背景には安倍政権と韓国の朴クネ政権の「同調性」という問題が横たわっている、と指摘。「二〇一五年合意」が、一九九六年に内閣総理大臣名義で被害者に出された「おわびの手紙」とほぼ同一の内容であること、「強制性」が認められておらず一九九三年の河野談話からも後退していること、「真相究明」や「歴史教育」に触れられていないこと、「安倍総理のお詫び」が電話を通じた岸田外相の「代読」というかたちで表現されたこと、「不可逆的」解決という言葉が、韓国側に「蒸し返すな」「被害者は自制せよ」という形で使われていることを糾弾した。そして「二〇一五年合意」は、日本軍「慰安婦」問題解決のための努力の歴史に照らして、そもそも解決策たりえないものだと批判した。

国際社会の要
請にも無関心
次に「不正義への合意〜国際基準に照らして『合意』を読み解く」と題して阿部浩己さん(神奈川大学大学院教授)が報告。
阿部さんは「日韓合意」について「『慰安婦』問題は、二国間の外交問題に収斂されるようなものではなく、いまや女性の人権がかかわる普遍的な課題であり、さらには二〇世紀が積み残した人種主義・植民地主義の克服の問題として位置づけられるようになっている。そうした認識論的枠組みの根源的転換に対する理解と想像力があまりにも欠けている」と厳しく批判した。
阿部さんはさらに強調した。「今般の合意に至る過程で、人権にかかる国際法の規範的実情が両国間でどのように考慮されたのかは、控えめにいってもまったくもって不透明である。より正確に言えば、当事者たちの声にも国際社会からの要請にもまともな関心が払われず、なにもかもが不透明なままに差し出されたのが日韓の合意なるものではなかったのか」「安倍首相による『心からのおわびと反省の気持ち』にしても、当事者に対してではなく、朴大統領に向けて、それも電話会談の場で伝えられたのだという。これはいったいぜんたい謝罪といっていいものか」。

女性の人権問題
にまるで無理解
三人目の李娜榮(イ・ナヨン)さん(韓国・中央大学社会学科教授)は「日本軍『慰安婦』運動の意義と『合意』後の運動状況」について報告。韓国政府と日本政府は相互に責任を放棄し、仮面を投げ捨て「最終的・不可逆的」に未来を再び「植民地化」しようとしている、と糾弾した。そしてこの「日韓合意」は、日本が「不道徳な国家」であることを再確認するものであり、朴クネ政権は「国益の名の下に当事者の意思を踏みにじった」と厳しい批判を行った。李さんは、さらに韓国の日本軍「慰安婦」問題が、民族主義的な主張から、二〇〇〇年代以後「戦時性暴力」「平和と女性の人権問題」に発展していった意義についても報告した。

当事者の求める
「謝罪と補償」を
討論の中では、韓国外交部は「話を聞くことができた当事者の女性一八人のうち一四人が『合意』に肯定的評価をしている」と発表したが、生存者中「肯定的評価」をしたのは二人だけだということも報告された。「財団」の金の使い道として、日本政府は「賠償ではない」としているが、韓国は「賠償」と言いたがっている、という意見も出された。
また李さんは、今回の日韓合意に関して朴裕河『帝国の慰安婦』での論点が利用されている、とも語った。さらに今回の日韓「合意」が「条約」的拘束力を持たない、きわめてあいまいな非拘束的「合意」であることや、国際的に確立した用語である「性奴隷制」を日本政府は一貫して「不適切」だとして拒否していることも批判された。
今回の日韓合意なるものが、当事者の求めている誠実な「謝罪と補償」とはほど遠いことは明白であり、その実現のために討論し、行動することが今こそ求められている。    (K)

抗議声明

被害者不在の日韓「合意」は解決ではない

〜「提言」の実現を求める〜

 政府と政府同士話し合ったことをおばあさんたちに一言の相談もせずに自分たちで妥結したということは、一体何の理由で妥結したというのか、どう考えても納得がいかない。お互い平和のために(解決)するのであれば、このように気に障るようにするのではなく、ちゃんとして欲しい。〔金福童(キム・ボットン)ハルモニ〕

 「『慰安婦』ハルモニたちのために」という考えがないようだ。天国に逝かれたハルモニたちに対し、面目がない。金で解決しようとするのであれば受け取らない。日本が真に罪を認定し、 法的な賠償と公式の謝罪をさせるために、私は最後まで闘います。〔李容洙(イ・ヨンス)ハルモニ〕

 これがどれだけ不当かわかりますか。今後、私たちの声を聞く耳を持ってほしい。〔李玉善(イ・オクソン)ハルモニ〕

 二〇一五年一二月二八日、日本と韓国の政府は日本軍「慰安婦」問題の「妥結」をめざして外相会談を行い、「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」と発表しました。直後から、韓国の「慰安婦」被害者たちは怒りの声をあげました。解決を一番待ち望んでいる被害者たちが、「このようなことで終止符は打てない」と繰り返し訴えているのです。
加害国の市民である私たちも、心より日本軍「慰安婦」問題の解決を願っています。しかし、「今回のような被害者不在では解決できない」「この『合意』では解決できない」と考えます。
二〇一四年六月、八カ国から被害者と支援者が参加した第一二回日本軍「慰安婦」問題解決のためのアジア連帯会議で採択された「日本政府への提言」は、被害者たちが求めてきた「法的解決」の中身を解き明かしたものです。「提言」では、この問題の解決とは、日本政府が加害の事実と責任を認め、謝罪・賠償・真相究明・再発防止の措置を取るということが被害当事者に示された時、初めて「その第一歩を踏み出すことができる」と明らかにしており、その実現を求め、すでに日本政府に届けています。
私たちは、次の理由で、「日韓『合意』は解決ではない」と考えます。従って、日本政府に、「今回の『合意』で、この問題に『終止符』を打つことはできない。『提言』の実現こそが解決への道すじである」と強く訴え、「提言」の実現を求めます。

1.「合意」は、被害者を無視した。

 日本軍「慰安婦」問題は、一九九〇年代の初めから、被害者一人ひとりが苦しみの中から名乗り出て、長年、尊厳を取り戻すために闘い、被害者自らが明らかにしてきた問題です。被害者たちの当然の権利と、四半世紀もの間求めてきた要求を、政府間で勝手に「終止符を打つ」ことは断じて許されません。
会談後、岸田外相は「日米韓の安全保障協力も前進する素地ができた」と述べています。 本来なら被害者のために行われるべきことが、日本政府にとっては昨年の「戦争法」強行制定の延長線上に位置づけられて行われたのです。

2.「合意」は、アジア連帯会議の「日本政府への提言」を踏みにじった。

 「日本政府への提言」は、まず、「@日本政府および軍が軍の施設として「慰安所」を立案・設置し管理・統制したこと。A女性たちが本人たちの意に反して、 「慰安婦・性奴隷」にされ、「慰安所」等において強制的な状況の下におかれたこと。 B日本軍の性暴力に遭った植民地、占領地、日本の女性たちの被害にはそれぞれに異なる態様があり、かつ被害が甚大であったこと、そして現在もその被害が続いているということ。C当時の様々な国内法・国際法に違反する重大な人権侵害であったこと」を歴史的な事実として認めたうえで、国の責任を認めるよう、日本政府に求めています。
しかし、今回の「合意」は、これらの事実に何一つ言及していません。正確な事実認定という前提のない「責任」言及は、被害者が求めてきた法的責任を認めたことにはなり得ません。
また、被害者たちは「二度とこのようなことが繰り返されないように」と強く求めていますが、「合意」は、「提言」が求めている真相究明や再発防止の措置にも触れていません。
これでは、生存している被害者たちのみならず、無念のうちに亡くなっていった被害者たちの名誉回復もできないどころか、再び傷を深くえぐる行為であり、あまりに不誠実な態度です。

3.「合意」は、日本政府が取るべき責任を韓国政府になすりつけた。

 日本政府は、一〇億円を拠出して「元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」としていますが、具体的な財団の設立と運営は、韓国政府に押しつけました。さらに、 ソウルの日本大使館前の「平和の碑(少女像の正式名称)」は、「関連団体との協議」を 通じた「適切な解決」を、韓国政府に約束させました。この碑は、この問題の解決を求めて被害者や支援者たちが行っている水曜デモ一〇〇〇回を記念して建てられたもので、日本政府が口出しするのは見当違いです。本来加害国が果たすべき責任を被害国になすりつけて、今や問題解決の鍵を握るのは韓国政府であるかのような構図を、日本政府は作り出しています。
また、日本政府の立場は、一〇億円は「賠償金ではない」「法的責任は、日韓請求権協定で解決済みということに変わりはない」と明言しているように、「合意」前と何ら変わっていません。
このような日本政府の態度は、日本の市民をも辱めるものです。

4.加害国が被害国に「最終的かつ不可逆的解決」を押しつけた「合意」は、それゆえなおさら「最終的解決」とはなり得ない。

 想像を超えるほどの甚大な人権侵害に遭って、生涯を苦しみの中で生きてきた被害者の心を癒す道のりは、当然のことながら、決してたやすいものではありません。被害者が納得するまで、加害者は謝罪の姿勢を持ち続け、必要な取組みを行うことが求められます。そうして初めて、加害者は罪の自覚を深め、二度と犯さないことを自分のものにすることができます。
安倍首相も、昨年八月に出した談話で、「それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません」と述べています。
にもかかわらず、今回、日韓の政府間で勝手に「最終的かつ不可逆的解決」を宣言しました。このことは重大な過ちであると言えます。しかも、加害国は、そのことを被害国に押し付ける立場にはありません。今回の「合意」は、それゆえなおさら「最終的解決」とはなり得ず、加害国の傲慢で、誤った姿勢を再び浮き彫りにするものでしかありません。
日本軍「慰安婦」被害者は、韓国だけでなく、日本・朝鮮民主主義人民共和国・台湾・中国・フィリピン・インドネシア等のアジア・太平洋の広い地域の国々やオランダにもいます。
名乗り出ることができないまま亡くなった被害者も、一体どれほどの人数に達するでしょうか。
今回の日韓政府の「合意」は解決ではありません。日本政府における解決とは、「提言」を実現することです。
加害国が本来果たすべき責任を果たして解決するよう、私たちは強く要求します。

二〇一六年一月一八日

日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

 


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