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    かけはし2016.年2月15日号

核能力の誇示と危機煽り戦略


オバマに向けた金正恩の「認定闘争」

「水素爆弾もどき」の実験可能性が大

  新年早々、北韓(北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国)が水素爆弾の実験を行ったと発表した。けれども韓米両国では水素爆弾の実験ではないとし、北韓の発表を否定する意見が支配的だ。水素爆弾の前段階である増幅核分裂爆弾だとの主張もある。また増幅核分裂弾だとしても、失敗したとの意見もある。
 このように北韓の発表に対して否定的なのは、北韓の水素爆弾の実験を事実として認める場合、北韓を核保有国として認めないわけにはいかないからだ。米国は北韓の水素爆弾実験以降、直ちに「北韓を核保有国として認めることはできない」と語ったのも、このような理由からだ。北韓の水素爆弾実験の発表には「北韓の核保有国としての地位認定」という問題が控えているのだ。

北韓地域では水爆実験は困難

 北韓は1月6日、水素爆弾の実験を発表するとともに「新たに開発された試験用水素爆弾の技術的諸要因が正確だということを完全に確定する小型化された水素弾の核実験」だと発表した。ここで注意してみるべきは「試験用水素弾」「小型化された水素弾核実験」「技術的諸要因が正確だということを完全に確定」という表現などだ。これらの用語を1つ1つ探ってみると、北韓は米国やソ連のようなやり方で水素爆弾の実験を行ったのではないものと思われる。
1950年代に米国やソ連が水素爆弾の実験を行った時は、その破壊力のゆえに太平洋、アラスカ、シベリア、北極海などで実施した。北韓のような狭い地域で、米国やソ連が行った水素爆弾の実験を行うのは難しい、という意味だ。従って北韓の水素爆弾実験は米国やソ連とは違った「水素爆弾もどき」の実験である可能性が大きい。従って地震の規模は小さくならざるをえない。
水素爆弾は核融合で発生する大規模エネルギーを武器として使用するものだ。核融合のためには高い圧力と1万度以上の高温が必要だ。これを可能にするのは、一般的に原子爆弾の原理として知られた核分裂だ。水素爆弾は核分裂で発生する熱と圧力によって核融合をさせ、核融合の過程で発生するエネルギーを武器として使用するのだ。核融合の際に発生するエネルギーが、核分裂の際に発生するエネルギーよりも千倍以上も大きいので、水素爆弾は原子爆弾よりももっと破壊的な武器となる。
今回の北韓の核実験は、このような一般的な水素爆弾の実験というよりは、核融合に必要な重水素と三重水素を少量活用して核融合のエネルギーを得る実験をした可能性が大きい。従って「小型化された実験用水素弾の技術的諸要因を確定した」と発表したのだ。
北韓が「水素爆弾もどき」の実験を行ったのだとしても、これを無視することはできない。北韓の水素爆弾製造技術が、それぐらい発展しているものであるからだ。イスラエルは核実験もしていないのに核保有国として認定されている。これを考慮すれば北韓は水素爆弾の実験によって核保有国としての能力を誇示しようとしたと見ることができる。今回の実験によって北韓は核保有国としての地位をさらに一層強調することができるようになった。
北韓は水素弾実験の成功を発表するとともに「核兵器は先制使用せず、また関連手段や技術を移転することもしない」と語った。これは北韓の核保有国宣言を超え、核国家としての役割を遂行していくということだ。

欲しい「核保有国の地位」

 北韓の核保有国としての地位問題は、米国の認定だけが残っているというわけだ。今後、米国と北韓の関係は核保有国としての認定の有無が争点となるだろう。国際社会において公式的に「核保有国としての地位」を持った国は核拡散禁止条約(NPT)が認定した米国、ロシア、中国、英国、フランスの5つの核保有国だけだ。インド、パキスタン、イスラエルはNPT体制の外で核兵器を開発したけれども、核保有国として「黙認」されている国々だ。国際社会には公式的核保有国と非公式的核保有国など、8つの核保有国が存在しているのだ。
核を保有してはいないけれども核の技術や核燃料を有している日本のような国々は「ムントク(あがりかまち、入り口)国家」と言う。核保有一歩直前状態にある国という意味だ。北韓は核兵器を保有した国でありながら、核保有国として認定されない国に該当する。
核保有国として認定されるということは核廃棄の圧力を受けないということだ。核兵器を保有した状態で核兵器の削減や、核技術や物質の移転を統制する義務を帯びるだけだ。核兵器の合法的保有や核兵器の保有を黙認された状態で、核国家として国際社会で待遇を受けることになるのだ。
国際社会において核拡散防止の先頭に立っている国は米国だ。NPTが認めた5カ国以外に、別の国々が核保有国として認定されることのできる基準は国際法には存在しない。NPT条約第9条は、1967年以前に核兵器を保有していた5カ国だけを核保有国として認定している。
1967年以降に核保有国として認定される方法は国際社会の黙認だけだ。核拡散防止の先頭に立っている米国の黙認が必要だ。米国は国際社会において核兵器保有国家の鑑別士の役割をしている。インド、パキスタン、イスラエルはすべて米国の黙認を得て核保有国になった。米国の黙認を受けることになれば、核兵器の実験をしたり核兵器を保有したからといって制裁を受けない。
インドの場合、2006年「米国・インド核協定」を通じて核保有国として認定された。インドは1998年に核実験を行い核保有国宣言をした。米国はこれを認めず、インドに制裁を加えた。けれども2001年の9・11テロ以降、米国として対テロ戦争遂行のためインドの支援が必要だった。また、中国の浮上をけん制するためにもインドとの協力が必要だった。ジョージ・ブッシュ米国大統領はインドとの核協定を通じて、NPTではない別の条約によって核保有を認定する最初の事例を作った。

核開発は南北韓の対決を深化


インドの核実験以降、パキスタンは直ちに核保有を宣言して1998年に核実験を断行した。米国はパキスタンに対して初めには制裁を加えた。けれども対テロ戦争においてパキスタンが直面している地政学的価値のゆえに、結局はパキスタンの核保有を認定することとなった。バラク・オバマ政府はパキスタンに対して毎年、数十億ドルの軍事支援と経済支援をしつつ、パキスタンの核保有を黙認したのだ。
パキスタンは非拡散のために努力する国家ではない。むしろ北韓に核を拡散させた国として疑われている。また米国はパキスタンの場合、インドのような民主主義国家だと言ってはいない。
イスラエルは1973年以降、核兵器を開発してきたものとして知られてきた。けれどもイスラエルは核保有を宣言してもいないし、核実験をしてもいない。それにもかかわらずイスラエルは核保有国として認定されている。これはイスラエルの核開発の過程からして米国やフランスの協力・支援があったからだ。つまり、イスラエルは核開発しているときから核保有国として認定された、一種の「いながらにしての核保有国」だと言うことができる。
北韓は既に核保有国宣言をしたものの、米国はこれを認定していない。北韓はインドやパキスタンと違って地政学的に米国に戦略的価値のある国ではない。イスラエルのように米国と特殊な関係もない。米国が核協定をしたイランのように石油が豊富な国でもない。
従って北韓が採った「認定闘争」のやり方は、まさに核能力の誇示と危機煽りだ。けれども韓(朝鮮)半島は分断状態であるがゆえに、北韓のこのような認定闘争は北韓を孤立させ、韓半島の軍事的緊張を高めつつ南北韓の対決を深化するだけだ。
北韓は1月6日、水素爆弾の実験を発表する説明の大部分を米国に対する非難で埋めつくした。米国が北韓に対する敵対視政策を繰り広げているがゆえに核兵器を保有するというのだ。北韓は米国から核保有国の地位を認定され、それに伴う措置として経済支援、核軍縮交渉、北・米国交などを推進しようとする構想を持っているだろう。けれども北韓の脅しを韓米日三角軍事協力強化と対中国けん制に活用してきた米国としては、北韓の核保有を認定することはできない。

オバマの「戦略的忍耐」の失敗か

 北韓はミサイル能力の向上と追加的な核心点として核能力を引き続き発展させていくだろう。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)実験も継続するだろう。米国に実質的脅威となるということを認識させようということが北韓の意図だ。
このような北韓の意図が持続される場合、結局オバマ政府の対北政策である「戦略的忍耐」が失敗に帰結せざるをえない。そうなる場合、対中国けん制が核心であるオバマのアジア回帰政策も冷静に評価されることになるだろう。既に米国内では「戦略的忍耐」を失敗と評価する専門家が増えている。
2016年は米国の大統領選挙がある年だ。北韓が2016年の冒頭に水素爆弾の実験をしたのは米国の大統領選挙を狙った一種の「ノイズ・マーケッティング」だ。2017年に発足する米国の新政府は民主党であれ共和党であれ、北韓の核能力強化を放置してきたオバマの「戦略的忍耐」を再評価せざるをえない。結局、韓半島の緊張は当分の間、持続されざるを得ない。北韓の核を廃棄するための6者会談が2008年に中断されて以降、北核廃棄と韓半島の平和のための余りにも多くの時間を浪費してしまった結果だ。(「ハンギョレ21」第1095号、16年1月18日付、キム・チャンス/コリア研究院院長)

北韓核開発関連日誌(日付、進行過程、内容の順)

1985年12月12日 北韓、核拡散禁止条約(NPT)加入。国際原子力機構(IAEA)安全措置協定は、1992年4月に発効。
1993年2月6日 IAEA、北韓の核行動に疑心事項発見。少なくとも3回、プルトニウム抽出および再処理施設確認。
同年3月12日 北韓NPT脱退宣言。国連理事会に提出。
1994年10月21日 ジュネーブ合意文締結。寧辺原子炉施設凍結と米国の軽水炉2基、重油50万t供給。
2002年11月21日 米中央情報部(CIA)、北核報告書公開。北、核兵器1〜2基保有および追加製造作業。
同年12月12日 北韓核凍結解除宣言。北・核施設封印・監視カメラ除去。
2005年2月10日 北韓、核兵器保有宣言。北韓、6者会談参加無期限中断を発表。
同年9月19日 第4次6者会談で9・19共同声明。北、核兵器および現存する核計画放棄、NPT・IAEAが軽水炉提供問題論議。
2006年7月5日 北韓、ミサイル発射実験強行。テポドン2号など7基。
同年10月9日 北韓、1次核実験実施。国連、北韓の資産凍結および金融取引中断対北決議案採択(10月14日)。
2007年10月3日 6者会談ですべての核施設不能化および核プログラム申告合意。北、核物質・技術・ノーハウの移転しないと再確認。
2008年6月27日 寧辺原子炉冷却塔爆破。5MWe原子炉不能化措置。
同年12月11日 第6次6者会談首席代表会議の交渉決裂。北韓の検証方式合意に失敗。
2009年4月5日 北韓、長距離ロケット発射。光明星2号発射。
同年5月25日 北核、2次核実験実施。豊渓里核実験場でマグニチュード4・5の地震波。
同年6月12日 国連、対北決議案採択。ミサイル財源凍結含む金融取引禁止など。
2012年12月12日 北韓長距離ロケット発射。銀河3号発射に成功。
2013年1月22日 国連、対北決議案採択。北、韓半島の非核化放棄などの脅し。
同年2月12日 北韓、3次核実験実施。豊渓里核実験場でマグニチュード4・9の地震波。
2016年1月6日 北韓、4次核実験実施。「初の水素弾実験に成功」と発表。

 



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