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    かけはし2016.年2月8日号

「最終的不可逆的解決」反対


少女よ、泣くな―日本軍慰安婦被害者問題

市民の中で不服従の動き広がる

 慶尚南道巨済に慰安婦少女像がある。チョゴリ姿、短い髪、だがしっかりした眼差し、こぶしをギュッと握った両の手が、ソウル鍾路区駐韓大使館前の「いすに座った」少女像と違いがない。
 だが巨済の少女像は、その場で立ちあがっている。少女像を制作したキム・ウンソン、キム・ソギョン夫婦作家は「侵略戦争を美化し、慰安婦問題を何としてでも隠そうとする日本の振る舞いをいつまでも座して見てばかりはいられないという意味で(少女像が)その場で立ちあがった。(少女像は)侵略戦争に対する謝罪と反省のない日本の姿に不安がっている」と説明した。
 不幸にもキム氏の「不吉な予感」は適中した。韓日政府は2015年12月28日、外相会談を通じて「日本軍慰安婦被害者」問題の解決方案に合意した。特に今回の交渉が「最終的で不可逆的な解決」だということに両者が合意したという点において論難が増幅された。安倍総理が側近らに「今やすべてが終わった。もはや謝罪しない」だとか、「この事実をパク・クネ大統領との電話会談でも語った」という報道も出てきている。
 政府を除いた国内のメディアでは、被害者を排除して恥辱的な交渉をした、との評価が支配的だ。パク・クネ大統領は「韓日関係の改善と大乗的見地から今回の合意について被害者の方々と国民の皆さんにおかれても理解してくださることを願う」として安倍総理と口を合わせている。
 だが終わったわけではない。取り戻すことができないのは、政府が屈辱的な外交交渉を行ったという事実だけだ。日本軍慰安婦被害者ハルモニ(おばあさん)たちと、ハルモニらを支援している法曹界、学界、政界、これらの人々を応援している社会団体や市民たちは不服従の動きを示している。かかとを上げている少女像がこの地に安らかに足を下ろし踏みしめる時まで闘いは終わらないということ、これが最終的かつ不可逆的な事実だ。(「ハンギョレ21」編集部、取材ホン・ソッチェ、パク・スジン、チョン・ジンシク、ソン・ホジン記者、編集チョン・ウンジュ記者、デザイン・チャン・グワンソク)

被害者を無視した韓日政府


「日本政府の直接謝罪と法的賠償を手にする」としていたハン(恨)をとうとう晴らすことができないまま、この世を去った慰安婦ハルモニは192人だ。政府に登録された日本軍慰安婦被害者は238人、48人が残った。韓国政府は2015年12月28日、慰安婦問題をめぐって日本と「12・28合意」を終えた。
奇襲的になされた合意内容は、こうだ。慰安婦問題について日本政府は責任を痛感する。安倍晋三総理が謝罪表明をする。慰安婦被害者支援財団に日本政府が10億円(約97億ウォン)を出す…。
だが被害当事者の要求は無視された。韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)は2014年6月2日「第12次アジア連帯会議の日本政府に対する提案」で、日本政府と軍が女性たちを性奴隷とみなしたという点とともに、慰安婦制度が日本の国内法や国際法に違背する重大な人権侵害だったという事実と責任を認めよ、と要求してきた。
日本政府が被害者たちに直接謝罪と賠償を行い、日本国内の教科書に日本軍が「性奴隷」を通じて戦争犯罪をしでかした事実を記録し、被害者たちのための追悼事業などの措置も取れ、とした。今回の合意では見いだすことのできない数々だ。「韓国政府は100億ウォンのカネで魂を売った」という非難が出てくる由縁だ。

「不可逆的なのは日本の戦争犯罪」

 2015年12月30日、1211回目の日本軍慰安婦問題解決のための定期水曜集会は、いつにもまして熱かった。冷気を含んだ雨が静かに降っていたこの日、一群の女子高生たちは抱きかかえた遺影をひとつひとつソウル鍾路区中学洞の駐韓日本大使館の方に回した。
写真の中のハルモニたちの視線は日本大使館を越え、青瓦台(大統領府)と政府庁舎の外交部(省)の建物にも及んだ。高校生らがハルモニらの声になり変わった。「不可逆的なのは日本の戦争犯罪だ」「日本軍慰安婦強制動員の事実を認め、法的賠償を行え」。同じ場で2015年にあの世に旅立った慰安婦9人の追悼祭が行われた。
1919年、全羅南道九札で生まれたチェ・ガプスン・ハルモニは15歳の時、家に押しよせた日本の巡警によってアボジ(父)の代わりに引っぱられて行った。全州から満州モッタン江まで引き回されながら慰安婦生活をした。チェ・ハルモニは12月5日、生を終えた。1925年慶尚南道宜寧で生まれたイ・ヒョスン・ハルモニは17歳の時から釜山、日本、台湾、中国、シンガポール、ベトナムで引っぱり回された。性奴隷を拒否するとムチでぶたれ拷問された。
1922年生まれのパク・ユニョン・ハルモニ、1925年生まれのキム・ダルソン・ハルモニ、1925年生まれのチェ・グムソン・ハルモニ、1932年生まれのキム・ヨニ・ハルモニ、1934年生まれのキム・ウェファン・ハルモニ、そして「パク・ハルモニ」とだけ呼ばれていたハルモニら9人が今年、この世を去った。
慰安婦被害者であるイ・ヨンス・ハルモニは「韓国政府が私らを2度も3度も殺している。天に旅立った他のハルモニたちに会わせる顔がない。最後まで闘ってハンを晴らす」と語った。88歳のハルモニは、また目頭を赤くした。
この日の午後6時からは「平和ナビ・ネットワーク」など青年・大学生団体所属の青年たちや市民50人が集まり、キャンドル集会を行った。マフラーを巻き、毛布をかけた少女像には誰かが傘をさしてやった。
平和ナビ・ネットワーク会員カン・スニクさん(20)は「交渉の結果を聞いて、自分の心はこれほど痛んでいるのに、ハルモニたちはましてやいかばかりかと思うとこの場を立ち去ることができない」と語った。カンさんはこの日の午前9時から翌朝7時まで、夜通しで少女像の傍らを離れなかった。特別な団体には所属しておらず、この日初めてこの場にやって来たチン・ソンジュさん(23)は「被害者である当事者に一言もなしに自分たちだけで交渉し、当事者たちが受け入れることのできない『謝罪』を述べたてている姿は、あまりにも白々しい」と語った。カンさんをはじめ30人余の青年たちは、徹夜のキャンドル籠城をした。2016年の最初の水曜集会の時まで毎日夕方にキャンドル文化祭も続けていく。
「最終的かつ不可逆的」という両国政府の立場とは違って、今回合意の効力をめぐる論難は依然、残っている。

条約は不法、協定は拘束力なし

 民主社会のための弁護士の会(民弁)は「12・28合意」の法的拘束力を問う手続きに入った。12月30日、民弁国際通商委員会は「今回の合意の際、韓国と日本が交換した書簡を公開せよ」という内容の情報公開請求を外交部(省)に出した。今回発表された内容が国際法上の「条約」なのか、「紳士協定」なのかを見極めるということだ。
ソン・ギホ弁護士(民弁国際通商委員長)は「ハンギョレ21」の取材に「条約ならば国際法上の効力を発揮することができるが、国会での批准手続きがなかった。批准なき条約は大統領を弾劾すべき事案だ。条約でなく単純な紳士協定であるならば法的強制性を持つことはできない。両国政府の言う『最終的かつ不可逆的な』要件が成立しない」と語った。
ソン弁護士はまた「政府が言っている『最終的かつ不可逆的合意』と言うのは、ハルモニたちが慰安婦被害問題に別途救済手続きを踏まないということだが、国民が国際法上、深刻な人権侵害を受けたことについて他の国から賠償を受ける権利は国家間の約束の締結によって終結する事案ではない」と指摘した。「このような権利を国家が放棄させたり、極端に制約することは可能ではない。慰安婦ハルモニたちが請求権を国家に委任したこともない。この協約によってハルモニたちの権利が消滅することはない」というのだ。
日本政府が今回の合意で国際法に則った国家犯罪の法的責任を明示していない点も問題点として指摘されている。国際連合人権理事会(UNHRC)と国際法律協会(ICJ)は1994年、日本軍慰安婦問題を「国家が組織的に女性に性的奴隷行為を強要した戦争犯罪」と判断した。これにより法的責任の認定とこれにふさわしい後続特別立法措置を日本政府に数回にわたって勧告した経過がある。

野党、韓日合意の無効宣言

 このために挺対協をはじめとする慰安婦関連団体、これらと連帯している市民・社会団体、それに学界や政界まで力を合わせて政府の不当な合意に不服従で対抗する用意している。
挺対協は1月6日、会談無効化のための100億ウォン募金汎市民運動を展開することにした。ユン・ミヒャン挺対協常任代表は12月30日、自らのフェイスブックに「20万人が5万ウォンずつ拠出すれば100億ウォンになる。市民自らが財団を作り、会談を無効化しよう」と提案した。挺対協はまた米国、ヨーロッパ、アジアと連帯する「世界行動連帯組織」を構成し、政府協約の無効化に乗り出すという立場だ。日本が神経質的に嫌がっている「慰安婦少女像」を世界各地に拡散させる運動も推進する。ユン代表は「全国に平和の碑を作るネットワークを構築し、全国を回って水曜集会のリレー開催を行う」と語った。
ナヌメチプ(分かち合いの家、ハルモニたちが共同で暮らしている)、南海女性会、挺身隊ハルモニと共にする市民の会、日本軍「慰安婦」ハルモニと共にする市民の会など、慰安婦関連の諸団体も「今回の合意は日本軍慰安婦問題についての被害者たちの、そして国民の願いを徹底して裏切った外交的談合」であるとし、慰安婦ハルモニたちと肩を組んだ。
政治圏では(従来の新政治民主連合が改称した)ト・ブロ民主党(共に民主党、ト民主)が「12・28合意」の根本的無効を宣言した。ムン・ジェイン、ト民主代表は「この合意に反対するとともに、国会の同意がなかったので無効であることを宣言する」と語った。韓日間の再交渉と屈辱的合意を主導したユン・ビョンセ外交部長官の解任も追求している。ト民主は慰安婦問題の再交渉を追求する決議案を党論として採択した。正義党も声明を通じて「日本軍慰安婦被害者たちが数十年が過ぎた今日まで望んでいるのは、ただただ法的責任と公式の謝罪」だと明らかにした。
市民社会団体や学界の動きも注目される。民主化のための全国教授協議会(民教協)は今回の合意を「被害当事者である慰安婦ハルモニたちの苦痛は誰も解決しないままでなされた両政府の野合」だと規定し、12・28合意の過程公開とパク・クネ大統領の謝罪を要求した。歴史正義実践連帯は市民団体と連係して「韓日慰安婦合意無効化1千万署名運動」を準備している。ハン・サンクォン常任共同代表(トクソン女子大・史学科教授)は「2016年の総選挙と連係し、今回の合意に賛成している国会議員候補たちに対する落選運動を拡大していくであろう。20代国会が開かれるやいなや今回の協定を無効化するとの約束もかちとっていく」と語った。

交渉はひそひそ、被害者は排除


国際社会では、国際アムネスティが今回の合意を「政治的取り引き」と規定した。庄司洋加アムネスティ東アジア調査官は「日本軍性奴隷制によって苦しめられた数万人の女性たちの正義具現に終止符を打たなくてはならない」と語った。彼は「生存者たちの要求が今回の交渉で捨て値で売り渡されてはならない。性奴隷制の生存者たちがハルモニたちに行った犯罪について政府から完全かつ全的謝罪を受ける時まで、正義回復に向けた闘いは継続されるであろう」と付け加えた。(「ハンギョレ21」第1094号、16年1月11日付)
※「ハンギョレ21」は「12・28韓日慰安婦合意」に不服従する読者たちの参加を待っています。今回の合意に反対する理由を書いて送ってくだされば、その中から選んで他の読者たちに紹介します。慰安婦ハルモニを後援することを望む読者たちの連絡を待っています。forchis@hani.co.kr


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