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    かけはし2016.年2月8日号

破綻必至のアベノミクス


第170通常国会

安倍「施政方針演説」を批判する

資本攻勢に反撃する共同の闘いを

「挑戦」というキーワード

 一月二二日、安倍首相は第一七〇通常国会の施政方針演説を行った。その内容は昨年の「戦争法」国会後に打ち出した「アベノミクス・第二ステージ」に沿った、新しい「成長戦略」にそのほとんどを費やすものだった。
 演説は「1 はじめに」、「2 地方創生への挑戦」、「3 一億総活躍への挑戦」、「4 よりよい世界への挑戦」、「5 終わりに」の五章構成から成っているが、「はじめに」と「終わりに」以外の章のタイトルはすべて「〜への挑戦」で統一されている。大体、「挑戦」という言葉は、内容のあいまいさ、空疎さを「積極性」イメージを押し出すことでごまかすために多用されることが多いのだが、今回の安倍演説もその典型だ。この「挑戦」という言葉が各章のタイトルに使われた三つ以外に「ラグビー日本チームの世界への『挑戦』」をふくめて本文の一八カ所で使用されている。
 昨年九月、無投票で自民党総裁に再選された安倍が両院議員総会で打ち出した「アベノミクス・第二ステージ」の「新三本の矢」とは、@希望を打ち出す強い経済――GDP六〇〇兆円の達成A「夢をつむぐ子育て支援」――「希望出生率1・8」B「安心につながる社会保障」――「介護離職ゼロ」「生涯現役社会」というスローガンだった。
 われわれがすでに紹介したように@のGDP六〇〇兆円の達成という目標は、内閣府の試算によれば「名目三%、実質二%」成長を五年間続ければ、東京五輪が開催される二〇二〇年にはGDP五九四兆円となる、ということから導き出されている(本紙二〇一五年一〇月一二日号、「新『三本の矢』のまやかし」)。しかし日銀は一月二九日の金融政策決定会合において政策委員九人のうち「五対四」という一票差で初の「マイナス金利政策」を導入した。その結果、実質二%というインフレ目標が達成される時期は二〇一七年に先送りとなり、二〇二〇年の東京五輪の年にGDP六〇〇兆円達成という「新三本の矢」の第一目標は、早くも破綻を運命づけられることになった。
 今年になってから顕著になった中国経済への不安感、原油価格低落による資源輸出国経済の低迷は、「アベノミクス・第二ステージ」への展望の非現実性を露わにしている。二〇一三年から日銀が進めてきた「異次元」の金融緩和政策なるものの転換が強制されることになった。

TPPは何をもたらすか

 安倍施政方針演説の第二項目に上がったのは「地方創生への挑戦」である。この「地方創生」の核心に据えられているのは「人口八億人、GDP三〇〇〇兆円以上」の国々を包含するとうたわれた「TPPの誕生」だ。安倍演説によればTPPによって「我が国のGDPを一四兆円押し上げ、八〇万人もの新しい雇用を生み出します」と宣伝されている。
安倍演説は「朝早く起き、額に汗して草を引き、精魂込めて作物をこしらえてきた、農家の皆さんの手間ひまが、真っ当に評価されるようになる、それがTPPです」と甘言を弄してだまそうとする。
しかしその舌の根も乾かないうちに「意欲ある担い手への農地集約を加速します。農地集積バンクに貸し付けられた農地への固定資産税を半減する一方、耕作放棄地への課税を強化します。大規模化、大区画化を進め、国際競争力を強化してまいります」と述べている。「大規模化、大区画化」で「国際競争力を強化する」主体は一体だれなのか。
本紙では訴えてきた。「……TPPの本質は市場開放と国内保護の綱引きにあるのではなく、外圧を利用して国内における構造改革を一挙に進めようとする明確な意図が働いているという点にある」「……われわれはTPP反対の闘いの中で日本の農民の闘いと連帯しなければならない。それは、同時に、TPPを利用して、『攻めの農業』の名の下に農民を切り捨て、国内農業を企業・大規模農業法人に開放しようとする日本の政府と財界の政策に対する闘いでもある」(小林秀史「TPP『大筋合意』は新自由主義クーデター破綻の第1幕」、本紙二〇一五年一〇月一九日号)。
この点についてPARC(アジア太平洋資料センター)事務局長の内田聖子さんも、次のように指摘する。
「『攻めの農業』に関してもその未来は政府がいうほどバラ色ではない。……安倍首相は『大筋合意』直後の記者会見で、『日本茶にかかる二〇%もの他国の関税がゼロになる。静岡や鹿児島が世界有数の茶所と呼ばれる日も近いかもしれない』と、交渉の成果を誇らしげに語った。しかし実際には、TPP参加国のうち日本茶の主な輸出先である米国やシンガポールなど七カ国は、すでに茶にかかる関税はゼロである。一方、日本はTPP発効後、茶の輸入制限を五年かけて撤廃する。農家や日本茶の輸出に取り組む関係者からは『日本茶輸出に追い風どころか、輸入が増える可能性がある』と疑問の声が上がっている」(『世界』二〇一五年一二月号、内田「市民社会の価値とTPP」)。
こうして「地方創生への挑戦」として名づけられた施政方針演説の第二節は、大資本のイニシアティブの下での新自由主義の制覇による地場産業・自営農業の解体的再編という方針にほかならない。

誰のため「1億総活躍」

 次に「一億総活躍への挑戦」と名づけられた第三項はどうか。おそらく安倍政権にとって、最も強調したいところなのだろう。
ここでは「一人ひとりの事情に応じた、多様な働き方が可能な社会への変革」というキャッチフレーズの下に、「労働時間に画一的な枠をはめる、従来の労働制度、社会の発想を大きく変えていかなければなりません」「時間ではなく成果で評価する新しい労働制度を選択できるようにします」と、あたかも労働者に「自由」な選択の道を開くような装いをとって、労働時間の規制緩和、「生涯派遣」の強制、「生涯現役社会」という名目での貧困に直面する高齢者の低賃金労働者としての動員がうたわれている。
もちろん、その中には「希望出生率1・8の実現」をうたいながら「所得の低い若者たち」の「結婚生活への経済的支援」「子ども・子育て支援」、「ひとり親家庭への支援充実」などの政策もちりばめられている。しかしこれらすべての前提が「強い経済の実現」に集約されている。
安倍は述べる。「強い経済、『成長』の果実なくして、『分配』を続けることはできません」「『介護離職ゼロ』、『希望出生率1・8』という二つの『的』を射抜くためにも、またその安定的な基盤の上に企業収益の拡大を賃金の上昇へとつなげる。昨年を上回る賃上げを目指すことで、政府と経済界の認識が一致しました……」。
これらの安倍の主張に貫かれている一本の線は、労働者民衆の要求実現も、生活向上も、権利の獲得も、すべてが労働者民衆の闘いによってではなく、「強い経済」の実現をベースにした、政府と資本家の施策によって、その許容範囲内で可能となる、という主張なのである。「強い国家」「強い経済」によってしか、「国民」が生きていく道はないというイデオロギーがこのようにして叩きこまれていく。
「日本を『世界で最もイノベーションに適した国』としていく」という安倍の「決意表明」は、言うまでもなく「世界で企業が最も活動しやすい国」というスローガンの言い換えである。
しかし新しい「成長のビジョン」として打ち出されたアベノミクスは「第一ステージ」から「第二ステージ」に移る以前に、すでに大きな壁に突き当たってしまった。グローバルな新自由主義的資本主義の「成長」軌道が頓挫し、欧州をはじめ世界的に新たな危機が深まっている。中東・アフリカなどでのイスラム・ジハーディストの跳梁による国家・社会の解体と戦乱、欧州へのその波及、さらに株価の連続した急落に示される中国経済の不安定化と危機は、日本経済にとっても重大な不安定要因になっている。
アベノミクスの成長戦略自体の基盤が、今やきわめて危機的状況に陥っている。

止めよう!戦争国家・改憲の道

 安倍の施政方針演説の「4 より良い世界への挑戦」と「5 おわりに」は、分量で言えば全体の約四分の一程度だ。しかし、この部分は昨年の「安保法制国会」を受けた、改憲への決意表明で締めくくられている。
安倍の施政方針演説は、この部分で昨年の「安保関連」法強行成立を通じた、地球の裏側にまで自衛隊を派兵し、武力行使することを可能にした戦争国家への道を正当化している。
「地球儀を大きく俯瞰しながら、積極的な平和外交、経済外交を展開する。そして、アジアから環太平洋地域に及ぶ、この地域の平和と繁栄を確固たるものとしていく。日本こそがその牽引者であり、私たちはその大きな責任を果たしていかなければなりません」。
安倍政権は、昨年の戦争国家法成立にあたって、中国の軍事的脅威という認識を最大限に利用した。また安倍自身、軍隊「慰安婦」問題や戦後七〇年の歴史認識をめぐって「反韓・嫌韓」のレイシスト勢力との親和的関係を維持していた。
だが今回の施政方針演説では、韓国との関係については「慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認し、長年の懸案に終止符を打ちました」という認識の下に、「戦略的利益を共有する最も重要な隣国として新しい時代の協力関係を築き、東アジアの平和と繁栄を確かなものとしてまいります」と述べた。また中国との関係についても「中国の平和的な台頭は、日本にとっても、世界にとっても大きなチャンスです」と改めて確認せざるを得なかった。
われわれは、対中・対韓関係において「日本会議」ら極右勢力に支えられた安倍政権であったとしても、当面これ以上の関係悪化のエスカレートをできるかぎり回避せざるをえないという状況を見ておかなければならないだろう。
外交展開の基軸としての「日米同盟」を維持するためにも安倍政権は対中・対韓関係のさらなる悪化を可能な限り抑えざるをえない。それは米国の利害をそこなうからである。
日本の死命を制する日米同盟のために不可欠なものとして沖縄の米軍基地がある、という論理に安倍演説はしがみついている。
したがって安倍は、「名護市辺野古沖への(普天間基地の)移設による埋め立て面積は、現在の普天間の三分の一に縮小します。普天間が有する三つの機能のうち、二つは本土に移転し、オスプレイの運用機能だけに限られます。日常の飛行経路も海上へ変更され、騒音対策が必要な住宅はゼロになります」と、米軍にとって最新鋭の戦略的な機能を擁する辺野古新基地の意味を隠蔽する言辞をもてあそばざるをえないのだ。
安倍の所信表明演説は、最後に「憲法改正」に言及し「逃げることなく答えを出していく」と彼の悲願を鮮明に打ち出した。
われわれは安倍の挑戦に正面から立ち向かっていかなければならない。安倍の腹心であり、TPP推進で、安倍内閣の屋台骨を担っていた甘利明経済再生相の金銭授受事件での辞職は、安倍内閣にとって重大な危機の始まりとなる可能性がある。
労働者民衆は、戦争法廃止、沖縄辺野古新基地阻止、反改憲、原発再稼働ストップなど、さまざまな課題を結びつけ、七月参院選で安倍内閣を打倒するために全力をあげよう。
(一月三一日 平井純一)

12.16

四国電力東京支社に抗議

伊方原発再稼働止めろ!

住民投票実現し、廃炉へ


 一二月一六日、再稼働阻止全国ネットワークは、東京・大手町の四国電力東京支社に向けて伊方原発再稼働に反対する月例行動を行った。
 一一月以後、伊方原発3号機再稼働に反対する人びとは「住民投票を実現する八幡浜市民の会」を結成し、伊方3号機再稼働の是非を問う住民投票の実現を求め、愛媛県伊方町に隣接する八幡浜市民から署名を集める活動を一カ月間、集中的に行ってきた(本紙一一月一六日号1〜2面記事参照)。
 大城一郎八幡浜市長は九月二日に伊方3号機の再稼働を了承する意向を中村愛媛県知事に伝えており、八幡浜市議会も九月の市議会本会議で議長を除く市議一五人のうち八人の賛成(一票差!)で「伊方3号機早期再稼働」を求める決議を可決している。
 しかし「住民投票を実現する八幡浜市民の会」は一カ月の集中的な市民との対話を通じて、一万一一七五筆の署名を集め、一二月七日に八幡浜市選挙管理委員会に提出した。この数は八幡浜市の有権者数の三分の一を超え、市長に「直接請求」を求めるのに必要な六一六人(選挙人名簿登録数の五〇分の一)を大きく上回るとともに、二〇一三年四月の八幡浜市長選で再選された大城市長の得票数(一万一二一九票)に匹敵する。
 また伊方原発立地自治体である伊方町でも、住民アンケート調査で五三%が再稼働に反対の意思を表明するなど、地元住民の意思は大きく疑問と反対の方向を指し示している。住民投票条例案を審議する八幡浜市の臨時市議会では、この住民投票の重みをテコにして、「地元同意手続き」は終わっているという四国電力や愛媛県知事、八幡浜市長、伊方町長らを逃さない、住民自治の本領が問われる闘いとなるだろう。
 一二月一六日、一〇〇人以上の人びとが集まった四国電力東京支社前行動での行動では、まともに申し入れに対応しようとしない四電の姿勢を厳しく批判し、住民の意思に真剣に向き合い、再稼働を断念せよという訴えが相次いだ。 (K)
 【追記】一月末の八幡浜市議会で住民投票条例は不当にも9対6で否決された。


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