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    かけはし2016.年1月25日号

生活改善とあらわになった亀裂


ポルトガル

社会党政権の最初の歩み

ジョアオ・カマルゴ

トロイカの年月
はまだ終らない

 ポルトガル新政府の最初の数週間は、いくつかの社会的課題に関する重要な前進を可能にし、継続されてきた貧困化政策の一時的な停止に、あるいはそこからの一定の前進にすら余地を与えた。しかし、EUが行使する圧力、今回はユーログループではなく、遠く離れた欧州中央銀行およびEU委員会の競争政策担当委員からやって来る圧力が、トロイカの年月から、またそこに終わりを告げることからわれわれが依然どれほど遠くにいるか、を示している。なおも破壊的なEU諸政策の社会党による受容は、EUの統治と社会福祉やポルトガル憲法との間にある諸矛盾を白日の下にし続けるだろう。疑いなくこれらの諸矛盾は遅かれ早かれ、左翼との間で作成された諸協定との衝突を生み出すにいたり、社会党を一〇月総選挙後の日々と同じ状況の前に置き去りにするだろう。うまくいけばその前にわれわれは、スペインとアイルランドでの大きな変化に出会うだろう。そこでは、欧州人民党(EU議会内の右派政党連合会派)と彼らが代表する一%の利益が行使するヘゲモニーが終わりになっていることを、諸々の選挙が明らかにするかもしれない。

緊縮中断強要を
めざし協定締結


昨年一〇月のポルトガル総選挙後、実際の結果が今のようなある種の堅固さをつくり出す可能性があるとは、とてもありそうに見えなかった。アントニオ・コスタ率いる社会党は、一方ではトロイカの年月ポルトガルを治めた右翼連合の相対的多数派から、他方で台頭する左翼から圧力をかけられ、中道右翼に向けた最終的な屈服か、それとも左翼に向けた一定の移行か、この両者の間での選択を迫られた。
右翼政権を終わりにし、共産党と緑の党の助けを得て社会党単独政権を維持するための左翼ブロックの圧力は、二八%の票をもつ社会党と二〇%近い票を代表する左翼が議会で合同し、右翼連立政権構想にノーを突き付け、右翼の大統領に彼の公表された意志に反して政権づくりをコスタに頼むよう強制したとき、完全に実を結んだ。
社会党と他の諸党各自とで結ばれた多者間協定は、新政権の計画の重要な部分を定めた。すなわち社会党は、福祉国家に関する支出をこれ以上削らず、賃金と年金の切り下げを回復させ、最低賃金を引き上げ、あらゆる私有化を停止し、労働者の集団交渉を元に戻す、こうしたことを保証した。さらに、労働の不安定化との闘い、住居追い立ての禁止、子どもに対し標準化された試験の停止、ゲイとレズビアンのカップルに対する全面的な養子縁組の権利の付与、前政権による妊娠中絶に対する制限の逆転、そしてパソス・コエロ率いた前政権による数多くの政策の逆転、これらがある。

諸々の生活改善
具体的着手開始


社会党政権は、議会で左翼に支持され一一月二六日に出発以後、左翼ブロック、共産党、緑の党との間で署名した諸協定を裏書きしてきた。公共航空会社TAPの私有化の逆転(この会社は、僅かな日数しかその座にいなかった前政権の閣議の中で私有化された)は、今テーブル上に載せられ、一方、公共交通のポルトとリスボンでの私有企業に対する利権譲渡は、全面的に逆転された。ゲイのカップルは今や養子縁組が可能であり、妊娠中絶に対する制限は取り除かれた。また多重債務家族を抵当流れや追い立てから保護する新たな立法があり、八、一〇、一二歳の子どもたちにはもはや数学とポルトガル語の試験義務がなく、前政権が実施した特別税は、ほとんどの中程度の賃金取得者の場合はその三分の二が減じられ、八〇一ユーロ未満の賃金取得者の場合はゼロにされるだろう。
最低賃金の引き上げが交渉され、雇用主団体の反対を押し切り、二〇一九年までに六〇〇ユーロまで引き上げる政策(最低賃金は二〇一五年には四八五ユーロだったが、二〇一六年に対しては五〇五ユーロへの引き上げが定まり、今後毎年少なくとも五%引き上げられるだろう)が確定した。これは、共産党と左翼ブロックが二〇一六年中の即時引き上げを求めたため、協定に関する最初の紛争の一つとなった。
そして、労働の不安定化との闘いに関する委員会が、主に自立的労働者の問題に焦点を絞って活動を開始している。
左翼ブロックは、共和国大統領(この選挙は一月二四日に予定されている)に助言を与える評議会である、国家評議会に対し左翼ブロックの元スポークスパーソン、フランシスコ・ルカを指名した。党がこの会議に代表を得るのは初めてのことだ。共産党、社会党、また今や解散した右翼連合の社会民主党(CDS)と国民党(PP、右翼連合の従属的パートナー)も、各々一人の委員を指名した。

金融めぐる対立
底に戦略的分岐


特に新たな銀行瓦解スキャンダルが起こってから、右翼による暴力的な新政府攻撃は、実際的にはゼロにまで低下した。前政権は、マデイラ諸島を拠点とし元の社会党閣僚であるルイス・アマドによって経営されていた私有銀行のBANIFに、一一億ユーロをつぎ込んできていたのだ。二〇一二年にこの銀行は、トロイカの「ローン」から一一億ユーロを受け取ったが、そのうちの二億七五〇〇万ユーロしか返済しなかった(二〇一四年一二月以後でもまだ一億二五〇〇万ユーロの借りがある)。
最終的にこの銀行が破産したということが明らかにされた昨年一二月、その株価はほとんど無価値にまで崩落した。この銀行は、パソス・コエロ前首相がトロイカの計画からの「完全退出」を勝ち誇って公表した後、債務不履行を続け破産していたのだ。この状況は、選挙のためにポルトガル銀行(ポルトガルの中央銀行)総裁と共謀の上で、新政府着任の三週間後に最終的にそれが爆発するまで隠された。
この銀行は二二億ユーロと引き換えに国家資金で救出されるべきだ(新たなEUによる救出資金注入策が実行されるのを待たず一ヵ月以内に)、との政府に対する欧州中央銀行からの公然たる圧力があった。その後欧州委員会は、僅か一億五〇〇〇万ユーロで、その上二億八九〇〇万ユーロ以上の国家への納付義務を免除して、スペインの巨大銀行であるサンタンデールにこの銀行を引き渡すよう強要した。欧州委員会はポルトガル政府に、ポルトガルの公的な(そして最大の)銀行であるカイクサ・ゲラル・デデポシトスへのBANIF統合という政府の提案を拒絶して、サンタンデールにカネを提供するよう指令したのだ。
議会では、左翼ブロック、緑の党、共産党がこの新たな救出策に反対投票した。それが公的資金でまかなわれる以上その銀行を公的な統制下に置いておく代わりに、いつも通りのEUの銀行救済策を再度公的資金で遂行させたものは、社会党のイエス投票と、右翼の社会民主党の棄権だった。
新政府支持者内の最初の重大な亀裂は極めて妥当なものだが、それはまた、以前のCDS―PP連合の指導者であり前副首相であったパウロ・ポルタスの辞任をもって、右翼連合の終わりを刻み付け、右翼の一サイクルの終わりも告げた。
しかし社会党は、それが銀行と金融の問題になると、銀行を国家資金で救済しながら民衆を打ち砕くという欧州支配の支持に対する、その執着を明らかにすることになった。以前に国家資金で救済され政府管理下に置かれているもう一つの銀行(以前のバンコ・エスピリト・サント、今はノボ・バンコ)の問題に関しても、それを私的な管理に移す前に、新たに形成された無価値になる危険をはらんだ資産(今や私的なカネで)を清算することが再び決定された。EUは、ポルトガルの金融システムを欧州の大金融グループに完全に引き渡すよう、永続的に圧力をかけているのだ。左翼ブロックは、何人かの造反社会党議員の支持の下に、この決定に反対を明らかにした。

▼筆者は非正規労働者運動の活動家であり、「トロイカをつぶせ」プラットホームのメンバーでもある。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年一月号)

デンマーク

国民投票結果歓迎

国際的協力と民主主義
の二者択一を拒否する

赤緑連合

 デンマークは、ユーロ(通貨同盟)に加盟せず、EUの共通政策からも選択的に離脱するなど、EUとの間では独特の「離脱モデル」を採用してきた。しかし昨年総選挙で形成された政権はこのモデルの解消をめざし、まず司法関係でのEU共通政策への復帰を求め、一二月三日の国民投票に臨んだ。ところがデンマーク民衆はここで再び明確にノーを表明、政権のねらいを頓挫させた。FIの同志たちが参加する赤緑連合は、ノーの組織化に奮闘した。(「かけはし」編集部)

 二〇一五年一二月三日デンマーク国民は、司法と内政に関するEU諸規則からの離脱を終わりにしない、という国民投票を行った。赤緑連合はこの結果に極めて満足している。われわれはこの結果を、より低い民主主義とより小さな法的確実性に対するノーと、しかし国際協力に対するノーではないと理解している。
 デンマーク人は、投票数の五三%と有権者の七二%という高い投票率をもって、デンマークのイエス派政党とEU両者に明確なメッセージを示した。デンマーク人は、離脱モデルを維持し、デンマークの司法政策の重要な部分についてEUに決定的な力を渡さない、ということを決めたのだ。人びとは、そうしたやり方で民主主義と法的確実性を強調している。

反民主的なEUに対する左翼的懐疑
ノー票の半分は、普通は赤陣営諸政党(社会民主党、社会人民党、赤緑連合)に投票する有権者から現れた。これは、その陣営内部ではノーを推奨した政党が赤緑連合だけだった、という事実にもかかわらず現実化した。この国民投票後、赤緑連合の支持率は、二〇一五年六月総選挙における七・八%という得票率に対比して一〇・二%へと上昇した。裕福な住民地区ははるかに高い比率でのイエス投票によって親EU諸政党を支持し、その一方貧しい住民地区がノーに投票したことも、また際立つものだった。
ノーの重要な部分は、反民主的なEUに対する左翼的懐疑の成長だ。そのEUは、緊縮の側に立ち、危機の後に何百万人という欧州人を失業のままに放置しているのだ。赤緑連合内部でわれわれは、より民主的な国際的協力を強調しつつ、左翼のEU懐疑主義に一つの声を与えることをわれわれの責任と見ている。
欧州の他の部分、実際には世界の他の部分との協力が重要である、とわれわれは確信している。われわれは、多国籍企業の犯罪に対する闘いにおいて相互に合同しながら、難民の状況や気候の危機に対する共同の諸解決策を見つけ出さなければならない。しかしながらわれわれは、民主主義が協力の核心であることを強調しなければならない。民主主義と国際協力は、いかなる形でも相互に排他的となってはならない。

新しいEU政策
民主主義が基礎
今回の国民投票によって有権者は、親EU諸政党を拒絶した。そして、デンマークには新たなEU政策があることが鮮明となった。
首相と親EU諸政党は住民の思いを読み間違えることになった。そして今や、EU諸政策を再考し、新たな政策を交渉するために全議会諸政党を召集しなければならない。
赤緑連合は、欧州におけるより透明でより民主的な協力を強調している。緊急性があることは難民危機に対する連帯的な回答を見つけ出し、EUの自由主義的内部市場が引き起こしているソーシャルダンピングに終止符を打つことである、とわれわれは確信している。われわれはまた、ユーロポール(EUレベルでの警察機構)に関する並行的な協定に関する提案をも押し進めてきた。
赤緑連合は欧州規模の協力を強く確信している。しかし、その協力は民主主義、法的確実性、そして自己決定が基礎になる、ということが決定的であると認識している。(「インターナショナルビューポイント」二〇一五年一二月号) 


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