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    かけはし2016.年1月25日号

露骨な生活破壊と軍拡攻撃


2016年度政府予算案批判

大資本のための「一〇〇兆円予算」にNO

 安倍政権は、昨年一二月二四日、二〇一六年度政府予算案を閣議決定した。一般会計総額は、一五年度当初比〇・四%増の九六兆七二一八億円となり過去最大だ。二〇一五年度補正予算とあわせれば、一〇〇兆円を越える。
 予算案は、大企業のための「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)2015年版と「日本再興戦略」改訂版(一五年六月)を反映したものとなっている。つまり、社会保障を抑制し、農業・雇用破壊を押し進め、グローバル派兵国家にむけた軍拡費、ゼネコンのための大型開発予算を作り上げた。「経済・財政再生計画」を策定したが実態は、一七年四月の消費税一〇%への大増税を前提にした民衆からの収奪強化を基本にしているにすぎない。

社会保障・雇用の破壊

 安倍政権の民衆生活に敵対する居直り姿勢は、社会保障・雇用・教育・農業・震災復興予算などに現れている。
 社会保障費は、「骨太の方針2015」が打ち出し
た三年間で一・五兆円の圧縮方針に基づいて三一兆九
七三八億円となった。政府は、社会保障費が年間一兆円規模の自然増になることを試算でわかっていたから、あえて自然増をターゲットにして削減を四九九七億円に抑えた。これは小泉「構造改革」路線の社会保障費の毎年二二〇〇億円削減方針によって医療サービス削減・崩壊へと導いたように、その手法を踏襲した再現である。
 その具体化の一つが診療報酬の「本体部分」(医師らの技術料)を〇・四九%引き上げ、「薬価部分」(医薬品や材料の価格)は一・三三%引き下げたことだ。マイナス改定は、医療機関や薬局を直撃し、医師・看護師不足、病床の削減へと影響を広げ、民衆への医療サービス低下へとつながっていく。入院給食費も患者負担増(一食二〇〇円増、月一万八〇〇〇円増)だ。
 生活破壊予算はこれだけではない。一五年度の消費税増税時の「低所得者対策」として設置した福祉給付金を半減、年金給付を自動的に削減する「マクロ経済スライド」による年金給付の抑制、「希望出生率一・八」と主張していながら「子育て世帯臨時特例給付金」廃止など真逆的な予算配分を行っている。
 中小企業対策費は、資金繰り対策費なども含めて同一・七%減(三一億円)の一八二五億円にした。大企業に対しては大減税優遇制度で手厚く保護しながら中小企業に対しては、あいかわらずの冷遇だ。さらに派遣労働者の使い捨てに向けた改悪労働者派遣法実施予算に一三億円、金銭解雇制度を射程にした「再就職支援奨励金」と称する労働移動支援助成金に一三二億円を配分した。企業のリストラ応援予算でしかない。
 事業主が一時的な雇用調整を実施することで従業員の雇用を維持した場合に支払われる雇用調整助成金は一一〇億円から八三億円へと減額してしまった。労働者の雇用維持へと繋げる対策であり、増額が求められているにもかかわらず削減してしまった。規制改革会議、「経済白書」で打ち出した「失業なき労働移動の促進が重要」を根拠にしたリストラ推進、労働法解体、資本のための政策予算でしかない。
 文科省予算は前年度比〇・二%減の五兆三二一六
億円となった。無駄な原発関連・オリンピック関連予算は横ばいか増額しているにもかかわらず、教育関連予算は、軒並み圧縮した。
 少人数学級(不登校・いじめ対策、手厚い学習環境)が求められているにもかかわらず財務省の少子化を理由にした教職員削減を受け入れてしまい、公立小中学校教職員定数を二〇一五年度比三四七五人も削減してしまった。教職員給与の義務教育費国庫負担金は一兆五二七一億円となった。
 大学等奨学金事業は、八
八〇億円を計上したが、その対象人数は一万四〇〇〇人ほどで、これでは学生貧困化にブレーキがかからず、貧困ビジネスの活動を促すたち振る舞いでしかない。国立大の運営費交付金は一五年度と同額の一兆九四五億円だが、「成長戦略」に基づく予算配分でしかなく、文科省の統制下に従う大学作りへと再編していく真っ只中にある。軍拡の一環である宇宙産業の拡大も含めて軍産学複合体への傾斜を強めている。
 幼稚園の保育料を第三子以降の無料化のために三四
五億円を計上したが、第一子からの無償化にむけた予算配分が求められている。保育予算は、一二三一億円を計上したが、認可保育所整備の比重を低下させ、民営化へとシフトし、公的保育制度を投げ棄てることに拍車をかけている。

農漁民・被災者切り捨て


介護対策費は、補正予算と合わせて一三四四億円計上。しかしその実態は、特別養護老人ホームの充実化ではなく、在宅サービス、サービス付高齢者住宅によって補っていこうとする姿勢が強い。厚労省は、介護労働者が二〇二〇年代に二五万人足りなくなると推計(確報値)している。介護労働者不足を補うために介護労働者の待遇改善にむけた手厚い予算配分が求められている。だが介護職員処遇改善加算を一人当たり月額一万二〇〇〇円相当の賃上げを指示していたが、介護組合などの調査によれば六〇〇〇円弱しか上がっていないことが判明している。この現実だけでも安倍首相の「介護離職ゼロ」「一億総活躍」が空疎なスローガンであることを証明してしまった。
農林水産業関係予算は、
TPP対策を柱に二兆三〇
九一億円(一五年度比一億円増)を計上した。その実態は、中小農業を排除し、「総合的TPP関連政策大綱」に基づく農産物輸出促進関連に予算配分をしている。
主なものでも土地改良の農業農村整備事業は、補正予算と合わせて四〇〇〇億円へと膨らんだ。農地耕作条件改善事業(一二三億円)、水田活用直接支払交付金(三〇七八億円)、農山漁村地域整備交付金(七三五億円)なども増額し、大規模農水事業の拡大にむけて踏み出している。
すでに食料自給率は三九
%に下降し、TPP政策推進によって食料主権を投げ棄てようとしている。政府は、農産品一九品目などの生産減少額試算は一三〇〇億〜二一〇〇億円だとデッチアゲた(一五年一二月)。こんなインチキな額に対して生産者から抗議が集中したのは当然だ。TPP調印・批准阻止の一環の闘いとして農林水産業関係予算のトリックを暴露し、農林水産業の自給率向上、食料主権の確立を打ち立てていかなければならない。
東日本大震災の復興特別会計は、三兆二四六九億円で一五年度当初から六六一八億円減った。岩手、宮城で高台移転が進んだとして復興交付金を減額した。また、「復興・創生期間」と称して一六年度から岩手、宮城、福島に事業費を約八〇億円を負担させる。
被災地域・被災者の生活再建は不十分であり、さまざまな被災者に合わせた予算支援が求められている。重負担・「復興格差」を促進する予算配分は修正されなければならない。「被災者支援総合交付金」「子ども・被災者支援法」の予算充実化が求められている。

グローバル派兵国家へ飛躍

 安倍政権は、このような民衆生活破壊予算を作り上げながら、以下のように無駄に満ちた予算をデッチ上げた。
軍事費は、SACO関連経費、米軍再編関連経費を含めて前年度比七四〇億円増(前年度比一・五%増)の五兆五四一億円で過去最高額となった。この巨額な予算は、戦争法制発動を前提とし、グローバル派兵国家へとひた走る軍装備を整備するためだ。「財政健全化」や社会保障費増額負担など言いながら軍事費にいたっては削減の対象にしないのだ。主なだけでも超高額な戦争のための武器を買い上げようとしている。
南西諸島の島嶼防衛戦略に向けて垂直離着陸輸送機オスプレイ四機で四四七億円、水陸両用「AAV7」一一両で七八億円、機動戦戦闘車三六両で二五二億円などの高額軍備費の投入だけではなく、奄美大島、宮古島への部隊配備費にも一九五億円を計上した。
対中国シフトとしてステルス戦闘機F35を六機で一〇八四億円をはじめイージス艦建造費が一七三五億円、対潜水艦戦用のSH60Kヘリコプター一七機で一〇二六億円、新型空中給油機一機で二三一億円、無人偵察機「グローバルホーク」導入にむけて一四六億円など米軍需産業が大喜びする超高額軍備一括購入のために予算配分した。
辺野古新基地建設費(五九五億円)を含めて在日米軍再編事業に一七六六億円、辺野古周辺地区補助金七八〇〇万円、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)は一九二〇億円に増額し、日米軍事同盟のレベルアップを予算においても具体化している。
戦争のための軍事装備はいらないし、こんな巨額な軍事予算は社会保障費、民衆の生活予算のために組み替えろ!
原発関連予算も安倍政権の成長戦略を根拠にして再稼働加速に向けて予算配分した。原子炉の安全技術の強化等に九一・五億円、電源立地地域対策交付金(再稼働した原発がある自治体に手厚く配分)に八六三億円、廃炉しかない高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の維持・安全管理費用に一八五億円も計上した。原発の再稼働アンケートに反対が五五・三%、賛成三六・九%(東京新聞/一五年一二月二七日)という脱原発の声に真っ向から対決する予算だ。再稼働にむけた暴挙を裏付けた予算を厳しく批判していかなければならない。
文部科学省のスポーツ関連は、二〇二〇年東京五輪・パラリンピックに向けて三二四億円を計上し、オリンピックマフィア・族議員・ゼネコンのための儲けも含めて増額した。国威発揚、ナショナリズム強化の一環としてメダル大量獲得競争のために競技力向上事業(八七億円)、基盤的選手強化(七〇億円)、戦略的選手強化(一七億円)、ハイパフォーマンスサポート事業(三五億円)など取り上げればきりがないほど多額のカネをばらまいている。予算倍増圧力は、当面の時期、なりふりかまわずに強まっていく。民衆の生活を犠牲にした国家主義スポーツに反対し、不当な予算配分も含めて暴露し、「オリンピックはいらない!」の取り組みを強化していこう。

大型公共事業とマイナンバー


公共事業関係費も二六億円増の五兆九七三七億円。三大都市圏環状道路、羽田空港の駐機場や誘導路の整備、国際コンテナ戦略港湾などあいかわらずの環境破壊・乱開発の大型公共事業、ゼネコン・族議員・地元土建業などを潤すためのカネのバラマキだ。同様に整備新幹線建設費も二〇五〇億円を計上した。北陸新幹線、九州新幹線・長崎ルート、北海道新幹線の延伸区間を前倒しで建設するための予算を配分した。
総務省は、一月からのマイナンバー運用開始に向け一八九億九〇〇〇万円を計上した。セキュリティー対策も不十分なまま見切り発車し、「通知カード」が五五八万世帯分が発行元の市区町村に返されている(日本郵便)ことが明らかになっている。要するにマイナンバーが本人に通知されないまま運用してしまっている状態なのだ。個人情報管理の軽視もはなはだしく、杜撰な管理、運営実態が明らかになっているにもかかわらず、総務省は「制度全体に支障はない」と居直っている。運用強行のうえで後追いであわててネットワーク構築とセキュリティー強化事業に一八億八〇〇〇万円を計上する始末だ。あくまでも運用ありきでマイナンバーカード五〇〇万枚を発行する予算一三八億九〇〇〇万円、情報提供事業費一二億二〇〇〇万円を計上してしまった。
「通知カード」問題、運用開始強行の実態に対して検証する姿勢もない。次から次へと発生する数々の問題点はすでにマイナンバー反対運動が指摘してきたことだ。マイナンバー制度導入をめぐる汚職事件(一五年一〇月)で収賄罪で起訴された厚生労働省職員は、別の男性職員も贈賄側のIT関連会社から現金を受け取っていたことが明らかになっている。汚職事件は「一兆円市場」に群がるIT業者と官僚の癒着、族議員の繋がりの氷山の一角にすぎない。利権構造とセットであるマイナンバーはいらない。個人情報とプライバシーを侵害する制度はただちに中断し、廃止せよ。

アベノミクスの露骨な本質

 安倍首相は、七日の参議
院本会議で「安定的な恒久財源を確保することにより、社会保障と税の一体改革における二・八兆円程度の社会保障の充実に必要な財源は確保する考えだ」と発言し、消費増税による増収をあてにしていると居直った。「安定的な恒久財源を確保」と言うなら、なぜ法人実効税率を三二・一一%から二九・九七%へ引き下げる
のだ。一八年度には二九・
七四%まで引き下げることも強行しようとしている。大企業減税の優遇は、内部留保が増えるだけであり、すでに三〇〇兆円以上も膨らんでいる。民衆から収奪するのではなく、膨大に内部留保している大企業からカネを没収すれば、財政破綻は一挙に好転する。
政府は、歳出総額が膨らんだのは社会保障費が増加したためだと繰り返しデマキャンペーンを行っている。だが、軍拡・大型開発・無駄に満ちた予算を削減、凍結し、民衆のために組み替えるだけでいいのだ。だが安倍政権は、「企業が一番活動しやすい国づくり」を目指しているため絶対にこんなことはやらない。一月四日の年頭会見でも安倍は、「成長と分配の好循環という新しい経済モデルに挑戦していかなければならない」と言い放ったが、要するにアベノミクスによってトリクルダウン(大企業が儲かれば好循環が起きる)は起こらず、その焦りと民衆をだますために財界に「賃上げ」「設備投資を行え」とパフォーマンスを繰り返すだけだ。
あげくのはてに消費増税と同時に導入する「軽減税率」は、食料費、新聞などの税率を八%に据え置くと言っているが、民衆にとっては実質的に四・五兆円もの負担増、一世帯四万円以上の大増税だ。低所得者ほど負担が重い逆進性は、増税によって強まる。しかも必要な財源をどうやって確保するのかが未定というのだからほとんど参議院選挙対策を優先したものでしかない。そのいいかげんなところを安倍首相は、一二日の国会で一兆円規模の財源に関して、「医療や介護などの自己負担に上限を設ける総合合算制度の見送りで四〇〇〇億円を確保する。残りの六〇〇〇億円をどうするか議論する必要がある」と述べ、社会保障関係を優先的に削っていくことを強調した。
安倍政権の民衆生活破壊への姿勢は、借金である国債発行額の全体像をまともに直視できないところにも現れている。新規国債発行額を一五年度より二兆四三〇〇億円少ない三四兆四三〇〇億円に抑えたと「自慢」しているが、すでに国債発行残高は八三八兆円であり、長期債務と合わせると一〇六二兆円に膨れあがっている。民衆一人で約六六四万円の借金という計算になる。
しかも財務省は、「異次元の金融緩和」によって「長引く金融緩和で生まれている市場のひずみ」を認め、「前倒し債」の上限額を一六年度は過去最高額の四八兆円に引き上げると言い出している。なんとその理由が「投資家の需要に応じて前倒し債を柔軟に発行することで、市場を安定させたい」(産経新聞/一月一二日)などと根拠がない願望でしかないのだ。これは明らかに雪だるま式で膨れあがる借金をまともに阻止する態度ではない。つまり、財政赤字を前提にした日銀が国債を買いまくる大規模金融緩和策の破綻である。
以上のように主な予算をチェックするだけで民衆の生活破壊予算は明らかだ。二〇一六年度予算案の成立を許してはならない。
(遠山裕樹)



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