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    かけはし2016.年1月18日号

「最終的・不可逆的解決」とは何か


日韓外相会談

「慰安婦」問題―これは「おわび」なのか

傲慢の極致―「少女像」撤去の圧力

「合意」をもた
らした圧力


 一二月二八日、安倍政権と韓国のパク・クネ政権はソウルで日韓外相会談を開催し、日韓関係で最大の懸案となっていた「軍隊慰安婦」問題の「最終的かつ不可逆的解決」について合意した。
一九六五年の「日韓国交回復」から五〇年、そして日本の敗戦七〇年にあたる二〇一五年のぎりぎりの年末に「軍隊慰安婦」問題をめぐって悪化してきた日韓政府間の関係を「合意」に持ち込んだ背景には、米国の強い圧力があったことは間違いない。米国にとって、南シナ海・東シナ海で中国との軍事的緊張関係が高まる中で「同盟国」である日韓両国関係の対立が、これ以上ぬきさしならぬ関係におちいることを避けなければならなかったからである。それはパク・クネ大統領の名誉を棄損したとして起訴されていた産経新聞前ソウル支局長の裁判で無罪判決が出され(一二月二二日)、地検の控訴断念により確定したこととも関連している。

これで一件
落着ではない


岸田外相と韓国のユン・ビョンセ外相の共同記者発表の内容はどのようなものか。
岸田外相の記者発表は次の三項目から成っている。
@「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から日本政府は責任を痛感」。安倍首相は、「日本国の首相として、……心からおわびと反省の気持ちを表明」。
A「日本政府は……今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷をいやす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出」。
B「これらの措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」「あわせて日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」。
そしてAの資金拠出の規模については「おおむね一〇億円程度」とされている。
ユン韓国外相の発表内容も三項目から成っている。
@「日本政府が表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」。
A「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体と話し合いを行い、適切な形で解決されるよう努力」。
B「韓国政府は、……日本政府が表明した措置が着実に実施されるとの前提で、本問題について互いに批判することは控える」。
そしてユン韓国外相の発表は「両国の最もつらく厳しい懸案であった元慰安婦被害者問題の交渉が妥結したことを機に、来年からは新しい気持ちで、新しい日韓関係を切り開いていけることを期待する」と締めくくっている。

「前進」と評価
できるのか?


この共同発表についてマスメディアは、全体として好意的に評価した。また日本共産党も、志位和夫委員長名で、日本政府が「軍の関与」を認め、「責任を痛感している」と述べたことに対して「問題解決に向けての前進と評価できる」と歓迎した(「赤旗」2015年12月29日)。村山元首相も一二月二八日に大分市で行った記者会見で「良かった。日本政府が公式に責任を認めたことは評価できる。一歩も二歩も前進した」「安倍首相はよく決断した」と語った(産経新聞)。
しかしわれわれは、岸田外相が記者発表で述べた「責任を痛感」「おわびと反省」という内容が、被害当事者に向き合った「謝罪と補償」ではないことを批判しなければならない。それは日本政府が、一九六五年の日韓請求権協定で被害の賠償は解決済みで、法的責任は認められない、という立場を決して譲らなかったことに示されている。
さらに「今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決される」として、今後の「蒸し返し」は許されないことを韓国側に強要した日本政府の傲慢な対応は、加害者としての「おわびと反省」という言葉が、まったくのその場限りでのものでしかないことを示している。
とりわけ在韓日本大使館前の「少女像」=「平和の碑」撤去という圧力を韓国政府にかけたことは、「おわびと反省」なる言葉が「居直り」と裏表の関係にあることをあらためて明らかにするものだった。

当事者の訴え
に基づく解決を


安倍政権による今回の「慰安婦」問題での「おわびと反省」は、日本のグローバルな戦争国家化に対するアジア諸国と民衆からの不信というトゲを抜き、今年七月の参院選、あるいは衆参同時選で改憲に向けた足場を固めるための政治戦略に基づいている。その意味で、昨年八月の「戦後七〇年談話」と同様の国内向けのメディア・世論操作でもある。
この軍隊「慰安婦」被害者を足蹴にした「最終的・不可逆的解決」なるものに抗議して一月四日午後一時半から首相官邸前で「日本軍『慰安婦』銅像撤去要求を至急撤回せよ」アクション(呼びかけ:戦後七〇年ミニシンポ実行委有志)が行われ一〇〇人が参加した。
一月六日には、外務省前で韓日「談合」を憂慮する朝鮮女性有志が主催して、韓国で行われている水曜日アクションに連帯する行動が行われ、同日夜・首相官邸前でも水曜日アクションに連帯する国際行動が取り組まれた。
(純)

資料

日本軍「慰安婦」問題解決のための
日韓外相会談合意に対する挺対協の立場

  今日、日本軍「慰安婦」問題解決のための日韓外相会談が開催され、その合意案が発表された。日本軍「慰安婦」被害者と国民は、光復70年を数日残して開かれた今回の会談が、正しく速やかな日本軍「慰安婦」問題解決に至るよう切に願ってきた。
 今回の会談の発表によると、1 「慰安婦」問題に対し日本政府が責任を痛感、2 安倍首相の内閣総理大臣としてのお詫びの表明、3 韓国政府が設立する被害者支援のための財団に日本政府が資金を一括拠出し、その後両国が協力して事業を行うというものだ。
 やっと日本政府が責任を痛感したと明らかにはしたが、日本軍「慰安婦」犯罪が日本政府および軍によって組織的に行われた犯罪だという点を、今回の合意から見出すことは難しい。関与レベルではなく日本政府が犯罪の主体だという事実と、「慰安婦」犯罪の不法性を明白にしなかった。また、安倍首相が日本政府を代表し内閣総理大臣として直に謝罪しなければならないにもかかわらず、「代読お詫び」に留まり、お詫びの対象もあまりにあいまいで「誠意のこもった謝罪」だとは受け入れ難い。
 また今回の発表では、日本政府が加害者として日本軍「慰安婦」犯罪に対する責任認定と賠償などの後続措置事業を積極的に履行しなければならないにもかかわらず、財団を設立することでその義務を被害国政府に放り投げて手を引こうという意図が見える。そして、今回の合意は日本内ですべき日本軍「慰安婦」犯罪に対する真相究明と歴史教育などの再発防止措置に対しては全く言及しなかった。
 何よりこのあいまいで不完全な合意を得るため韓国政府が交わした約束は衝撃的である。韓国政府は、日本政府が表明した措置を着実に実施するということを前提に、今回の発表を通じて日本政府とともにこの問題が最終的および不可逆的に解決することを確認し、在韓日本大使館前の平和の碑について公館の安寧/威厳の維持のため解決方法を探り、互いに国際社会で非難/批判を控えるというものだ。小を得るため大を渡してしまった韓国政府の外交は、あまりにも屈辱的である。
 日本軍「慰安婦」問題解決のための合意に臨みながら、平和の碑の撤去というあきれた条件を出し、その真意に疑問を抱かせた日本政府の要求を、結局受け入れるだけでは足りず、今後日本軍「慰安婦」問題を口にしないという韓国政府の姿に心底から恥ずかしく失望した。
 平和の碑は、いかなる合意の条件や手段にすることができないことは明白である。平和の碑は、被害者と市民社会が1000回を越える水曜日を見守り日本軍「慰安婦」問題解決と平和を叫んできた水曜デモの精神を称えた、生きた歴史の象徴物であり公共の財産である。このような平和の碑に対し、韓国政府が撤去および移転を云々したり介入することはありえないことだ。また、被害者と市民社会が受け入れることのできない今回の合意で政府が最終解決の確認をすることは、明らかに越権行為であり、光復70年を数日残したこの重要な時期に被害者を再び大きな苦痛に追いやる所業だ。
 この間、日本軍「慰安婦」被害者と支援団体、そして国民の要望は、日本政府が日本軍「慰安婦」犯罪に対し国家的で法的な責任を明確に認定し、それに従って責任を履行することで、被害者の名誉と人権を回復し、再び同じ悲劇が再発しないようにせよというものだった。しかし、今日の日韓両国政府が持ち出した合意は、日本軍「慰安婦」問題に対する被害者たちの、そして国民のこのような願いを徹底的に裏切った外交的談合に他ならない。
 日本軍「慰安婦」問題は、日韓間の真の友好と平和のため解決せねばならず、被害者が一人でも多く生きているうちに解決すべき優先課題であるが、決して原則と常識を欠いてはならず、時間に追われてかたをつけるような問題ではないことを重ねて強調する。
 二〇一二年の第12回日本軍「慰安婦」問題解決のためのアジア連帯会議で各国被害者の思いを込めて採択した日本政府への提言、すなわち日本政府の国家的法的責任履行が必ず実現されるよう、私たちは今後も日本軍「慰安婦」被害者とともに、国内外市民社会とともに正しい問題解決のための努力をより一層傾けていくことを明らかにする。

   2015年12月28日

韓国挺身隊問題対策協議会

声明

被害者不在の「妥結」は
解決ではない

日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

 12月28日、日韓外相は日本軍「慰安婦」問題について会談し、共同記者会見を開いた。
その内容についての評価は、本来、被害者がどう受け止めたかによって判断されるべきであるが、私たちは昨年来、政府に、各国の被害者と支援者が集まった「アジア連帯会議」で採択した、解決のための「日本政府への提言」を提案し、日本軍「慰安婦」問題解決のために取り組んできた団体として、日韓外相会談の結果について以下のようにコメントする。

1 今回の協議は終始一貫、被害者不在で進められた。それが本日の結果に如実に表れており、「最終的な解決」にするには、被害者にとってあまりにも課題の多いものとなった。とりわけ安全保障政策を重視する米国の圧力のもとで日韓政府が政治的に妥結し 、最終的合意としてしまったことは、50年前の日韓基本条約の制定過程を彷彿とさせ、 東アジアが現在もなお、米国の支配下にあることを痛感させるできごとであった。

2 日本政府は、ようやく国家の責任を認めた。安倍政権がこれを認めたことは、四半世紀もの間、屈することなくたたかって来た日本軍「慰安婦」被害者と市民運動が勝ち取った成果である。しかし、責任を認めるには、どのような事実を認定しているのかが 重要である。それは即ち「提言」に示した
@軍が『慰安所』制度を立案、設置、管理、統制した主体であること、
A女性たちが意に反して「慰安婦」にされ、慰安所で強制的な状況におかれたこと、
B当時の国際法・国内法に違反した重大な人権侵害であったことを認めなければならないということだ。「軍の関与」を認めるにとどまった今回の発表では、被害者を納得させることはできないであろう。

3 韓国外相は「平和の碑」(少女像)について、「適切に解決されるよう努力する」 と述べた。日本政府が、被害者の気持ちを逆なでする要求を韓国政府に突き付けた結果である。このような勝手な「合意」は、被害者を再び冒涜するものに他ならない。

4 さらに、教育や記憶の継承の措置についてはまったく触れず、国際社会において互いに批判・非難を控えると表明したことは、日韓両国が日本軍「慰安婦」問題を女性の人権問題として捉えていないことの証左であるとともに、被害者の名誉や尊厳の回復に反する発言であり、とうてい認めることはできない。

5 この問題が「最終的かつ不可逆的に解決される」かどうかは、ひとえに今後の日本政府の対応にかかっている。問題が解決されず、蒸し返されてきたのは、被害者が納得できる措置を日本政府がとらず、安倍政権が「河野談話」の見直しを図るなど、政府として歴史の事実を否定する発言を繰り返してきたためであることを認識しなければなら ない。

6 日本政府は、被害者不在の政府間の妥結では問題が解決しないことを認識し、以下のような措置をとらなければならない。

@ 総理大臣のお詫びと反省は、外相が代読、あるいは大統領に電話でお詫びするといった形ではなく、被害者が謝罪と受け止めることができる形で、改めて首相自身が公式に表明すること。

A 日本国の責任や河野談話で認めた事実に反する発言を公人がした場合に、これに断固として反駁し、ヘイトスピーチに対しても断固とした態度をとること。

B 名誉と尊厳の回復、心の傷を癒やすための事業には、被害者が何よりも求めている日本政府保有資料の全面公開、国内外でのさらなる資料調査、国内外の被害者および関係者へのヒヤリングを含む真相究明、および義務教育課程の教科書への記述を含む学校及び一般での教育を含めること。

C アジア・太平洋各地の被害者に対しても、国家の責任を認めて同様の措置をとること。

2015年12月29日

日本軍「慰安婦」問題解決全国行動



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