アイルランド
水の民営化、堪忍袋の緒を切る
新企業廃止を強制できる力必要
労働者、資本と対決の道探査中
ジョーン・マクナルティ
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アイルランドは新自由主義的グローバリゼーションによる経済急成長がもてはやされてきた国だ。しかしリーマンショックがその外資依存の弱点を貫き、もっとも重篤な金融破綻国の一つとなった。その後銀行救済のためトロイカの緊縮を受け容れたが、それにより経済回復を達成したとして、今度は緊縮の成功例とされた。しかしその国で今、水の民営化を端緒に、緊縮に対する民衆の不満が激しく吹き出している。以下は、その水をめぐる闘いの現状を伝えている。(「かけはし」編集部)
何年もの犠牲
強要の果てに
何年にもわたる緊縮を受動的に受け容れてきたと見られていたアイルランドの労働者はなぜ突然、水利用料金賦課に反対して蜂起したのか(注)?
まったく単純なことだが、それは、ギリギリまで重荷に耐えていたらくだの背骨をへし折った、まさに最後の麦わらだったのだ。それは、生き残りのために闘っている労働者階級に対して、アイルランド政府が経済回復を宣言したその時に強要された、何年にもわたる諸々のサービスカット、追加の料金、職の喪失、また移住に続く、最後の賦課強要だった。
それでも経済活動における一定の限定的上昇は、部分的には労働コストの残酷な切り下げに、部分的には欧州中央銀行からの低利資金に、そして部分的には選挙を前にした政府による作為的な計算に基づいている。現実には、緊縮計画は二〇五四年まで続くことになっている。
緊縮の圧倒的な成功は、当地の盗人階級が富を一手に集中する中で、アイルランドを世界の中でのもっとも不平等な社会にすることを宿命付けてきた。
民衆の怒りに付け加えられたものは、アイルランドの基準から見てさえ例外的な腐敗のレベルだった。アイルランドの国民年金準備金は水道メーター設置のために襲われた。アイルランドの通信産業の民営化を通して富裕になったデニス・オブライエンは、彼の新聞帝国が水道料金に抗議活動する者たちに攻撃を加える中で、メーター据え付けの契約を勝ち取った。コンサルタント料金には何億ユーロもが支払われた。その背景には、水道サービスを何十年間も腐るに任せてきた決まり仕事のようになっていた腐敗があった。いくつかの地域では、水漏れによる水の損失は六〇%以上であり、飲料には適しなくなっていた水に人びとが料金を払うべき、ということが提案された。
労資協調緊縮管
理が闘争を抑圧
したがって説明されるべきことは、アイルランド人がなぜ反乱したのかではなく、爆発がもたらされるまでなぜ六年もかかったのか、だ。
答えは複雑だ。一九八〇年代の「社会的パートナーシップ」の発展によって、労働組合の下部組織と職場闘争は鋭い下降を見せた。北アイルランドにおける闘争の解決は、左翼共和派の一定層に士気阻喪を与え、有力なイデオロギーとしてアイルランドの独立を強調した民族主義の一形態を残した。銀行救出のための財政投入以後アイルランド政府の主な心配事は、多国籍企業に対する課税優遇(アイルランドはタックスヘイブンと目される国の一つ:訳者)を維持することとなり、この政策は大方気づかれず、また反対を受けることもなく進んできた。
特別な要素は公営賃貸住宅の欠落だった。人びとが家を持つためには住宅ローンを組まなければならなかった。そして人びとは、彼らこそが資産バブルを引き起こしたのであり、「われわれ」資本家と労働者はすべて等しく責任がある、と説得された。
実際には労働組合が率いた諸々のデモやストライキがあった。しかし各々のデモの後には、政府並びに雇用主たちとのパートナーシップ協定が、そしてさらなる緊縮とさらなる士気阻喪が続いた。
中心的な労組指導者たちは事実上、銀行債務に保証を与えるアイルランド政府の決定に関する討論に中心的に関与した。労組指導部は、政府並びにトロイカと手を取り合って緊縮路線を管理したのだ。労働者が反対投票をしたとしても、彼らは、彼らが正しい答えを出すまでまた投票を強要された。
アイルランドの社会主義者多数はこうした環境に順応し、いわばケインジアン経済綱領と、トロイカ綱領の狭い限界の枠内で一定の富裕税を支持した。
しかしながら士気阻喪は労組指導部とのある種の絶縁には導かず、むしろ、より大きな絶望と一体となった伝統的諸組織への労働者のしがみつきに導いた。
伝統的指導部通
じた反乱に弱点
こうした理由のために、有料水道反対の反乱は、現存指導部を通じて登場し、それらの弱点を引き継いだ。強さを増す嵐に対応した第一の勢力は、「ライト2ウォーター」運動を始動させた左派の諸労組だった。
諸労組は、反乱の火花を切った一〇万人を超える自然発生的運動を結集する権威をもっていた。しかしながらそれらは、諸労組の社会パートナーシップ諸組織の枠内にとどまっていた。明らかとなったことは、それらがアイリッシュウォーター社の設立に協力し、それらの組合員がアイリッシュウォーター社従業員になるために、公務員契約からの移行を監督した、ということだった。
そのためにそれらは狭い道を歩いた。それらの要求は無料は支持したが、アイリッシュウォーター社廃止の支持ではなかった。それらの唯一の戦術は政府への請願であり、譲歩が行われた時には街頭の抗議活動から距離を取り、決起が継続していると実感した際には戻った。それらは、労組官僚の右翼が決起に攻撃を加えた時でも彼らの声を無視したが、デモ隊が政治家や水道メーター取り付けチームを困らせた時には、右翼による非難に加わった。
この運動にはらまれた矛盾した性格は、民主的な全国的組織がまったく作り出されていない、ということを意味した。いわば緩やかな連携というものが諸労組にフリーハンドを残した。社会主義的グループは、彼ら自身が選挙に焦点を絞ったセクト的な展望にとらわれていたがゆえに、この状況を受け入れた。社会党は不払いキャンペーンを焦点化し、無言のままの分裂を企てた。シンフェイン党(元々はアイルランド共和国軍――IRA――の政治組織:訳者)はこのキャンペーンと連携したが、その結果として主に期待されたことは、水道料金の無料化という約束をもって政府に身を置くことだった。
営利企業化の防
衛と強硬な弾圧
政府の戦略は、人参とムチの組み合わせを通して運動の志気を削ごうと試みることとなった。この問題での政府の対応は、水道メーター即時使用の回避、低額均等料金の約束、利用を登録した利用者へのある種の賄賂提供、そして水の私有化を行うつもりはないという保証の提供だった。
この変更の目的はアイリッシュウォーター社の救出だった。この企業が営利ベースの政府企業として保持される可能性が生まれれば、トロイカ綱領は維持されるだろうし、長期的には民営化も確実となるだろうというわけだ。実際アイリッシュウォーター社には、借り入れで調達される六〇億ユーロのインフラ修復業務が課されている。こうしてこの企業が銀行や株主に対しいったん質に入れられれば、そこから戻ることなど決してないだろう。
料金引き下げという人参と並んで、弾圧計画が政府によって解き放たれた。労働者地区では、メーター設置の一団に立ちはだかろうと住民たちが出てきた。与党の政治家たちが催しに出席した際には、その地のグループもまたピケを張り、彼らを困らせると思われた。政府は、メーター取り付けチームを護衛するためにガルダ(アイルランド国家警察隊)を使い、抗議を行う者たちに差し止め命令を送達し、メーター取り付けチーム周囲の二〇メートルに立ち入り禁止ゾーンを設定するために裁判所を使った。そしてガルダは一連の夜明けの急襲を派手に演じた。差し止め命令を破った者たちは即座に投獄された。
逮捕者には、社会党や共和派グループの被選出代表たちも含まれていた。国家は、抗議参加者は重大犯罪に類別される可能性がある、と暗に示した。何と、一台の政府リムジンの通行を妨害したことが、拉致並びに不法な拘禁と表現されたのだ!
実行可能な対応は唯一、政府や司法や警察を混乱させることに焦点を絞った、市民的不服従キャンペーンを築き上げることとなったように思われた。
抵抗の民主的な
諸構造創出が要
不幸なことだが、活動家たちが投獄された時ある種重要な決起があったにもかかわらず、この運動は依然、様々な政策を追い求める緩やかなネットワークにとどまっている。労組左派は新しいデモを組織したが、その焦点は依然ロビーイング戦略に絞られている。左翼は不払いキャンペーンに焦点を当てている。そして双方とも、選挙への介入に焦点を絞っている。
キャンペーンはもちろん、選挙への介入策をもっていなければならない。しかしながら課題となっていることは、社会主義者が前にする昔からのジレンマだ。すなわち、水道のキャンペーンは選挙キャンペーンに奉仕するためにあるのか、あるいは選挙は決起を広げるために利用されるべきか?
民衆の不満は、諸与党支持率の急下降と社会党並びに共和派諸グループ支持率の上昇で迎えられることになった。有権者のおよそ三分の一は無所属候補に投票すると思われる。しかしながら不満の多くは、ポピュリストあるいは右翼グループによって獲得されている。実行可能な候補者リスト構想にはシンフェイン党を含めることが必要となるだろう。彼らは今、北アイルランドで入閣して緊縮を支えたという一つの歴史に関し諸々の危機にあり、サービスカットをもっとはっきりと一掃することに同意しないとすれば、政治的崩壊の脅威に直面している。
今圧倒的に必要なことは、この運動の民主的な諸構造を設立するために、抵抗の全国会合と一連の戦略的目標を求めることだ。直接の目標はアイリッシュウォーター社の閉鎖を強制させることでなければならない。もしこの企業が営利会社として生き延びるとすれば、その後水の民営化が続くことになるだろう。
われわれはもっと民主的な組織体制の中で、諸々の労組指導者たちに問いただすことができ、地方自治体との契約から事実上一時的に配置転換されている、そして彼らの元々の契約に戻ることによって明日にもこの会社を閉めることができると思われる、そうしたアイリッシュウォーター社の労働者の多数に直接に接触することを追求できるだろう。
アイルランドの労働者階級は今多くの形で、欧州の労働者運動で主流の中にいる。今となっては反攻以外に選択肢はまったくない。伝統的な指導部が破綻した、ということについての理解は広がっている。今階級は、抵抗の様々な形態を使って実験中であり、資本家の抑圧と対決する有効な武器を探し求めている最中だ。
▼筆者は、アイルランドの第四インターナショナルシンパサイザー組織である「社会主義的民主主義」の指導的メンバー。
注)本管から家庭への水供給に対する料金賦課は、二〇一四年一〇月一日に初めて導入された。(「インターナショナルビューポイント」二〇一五年三月号) |