米国 われわれはなぜ息ができないのか
経済的レイシズムと不公平な選挙区割
「アゲンスト・ザ・カレント」
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米国はどこに向かおうとしているのか。世界を覆う「地政学的カオス」の大きな構成要因の一つは、紛れもなく米国の、様々な側面にわたる弱体化だ。そしてそれと一体的に米国自身が自らを不安定化、不確実化させている。昨年一一月の中間選挙は、米国政治の共和党による主導体制を確定させた、かに見えた。しかしその直後から、 米国全土で民衆の社会的憤激が吹き荒れた。表層の政治と社会の断裂が一層深まっている。それは米国をどこに連れ出することになるのか。以下に、一般紙では伝えられることの少ない社会の現場での動きに焦点を絞り、先の問題に光を当てようとしている現地同志の観点を紹介する。(「かけはし」編集部)
警察の暴力と米国社会
残酷な不正義とファーガソンでの社会的爆発、そしてその後に続いたエリック・ガーナーのビデオ画像化された殺害と警察官の無罪放免をめぐる全国に広がった憤激は、米国の政治的空気を突然再形成しようとしている。「われわれは息ができない」と「手を上げた、撃つな」は、特に白人ではない若者たちの、鈍感なシステムへの反応として当然の怒りを表している。そのシステムは、政治的な封鎖の下に置かれ、資本主義の米国で最底辺に置かれた人びとが直面する絶望的な諸条件に、完全に無関心なのだ。
アフリカ系米国人の若者たちと全体としての非白人コミュニティに対する、狙いをつけ日常化された警察の嫌がらせと侮辱は、それらのコミュニティをゴミために投げ込むような抑圧と経済的緊縮というより深い諸政策の、毎日示される印だ。大量投獄、警察官の無罪放免、そして「法執行」による殺人の広がりは、広がるばかりの社会的惨害の不可避的で見ることができる結果にすぎない。そしてそれはまた帝国主義にも関係している。つまり、海外で囚人を拷問するシステムは、国内では民衆の殺害もやるだろう。
「われわれは息ができない」は間違いなく警察の殺人的暴力に関係しているが、しかしはるかにそれ以上のものにも関わっている。つまり、米国経済の構造的レイシズムという全基盤、並びにそのゲリマンダー(特定党派や候補者に有利になるよう選挙区割を人為的に引き直す不正:訳者)化され有権者を抑圧する政治システムに、だ。それこそが、エリック・ガーナーの死に際のあえぎが新たな市民権と人権の蜂起の中でその横断幕となった理由だ。それはおそらく、「われわれは九九%」が金融のギャングたちに反対するオキュパイ運動の抗議精神を駆り立てたよりも、はるかに劇的だ。
この新たな運動はいくつかの形で、以下のような多様な動乱と平行して、国際的な連なりの中で見ることも可能だ。つまり、民主主義志向の香港での占拠、石油パイプライン、および彼らの土地と森の破壊に対する先住民衆の抵抗、それに先立つアラブの春の諸決起、現在の警察と麻薬ギャングによる学生大量殺人をめぐるメキシコでの社会的爆発、そして他の多く、といったものとの連なりだ。そしてそれは、別立ての討論を要するもっとはるかに大きな主題だ。
『アゲンスト・ザ・カレント』今月号は米国を背景に、警察の暴力、大量投獄そして殺人的な白人のレイシズムにおける途方もない高まり、加えて第一次世界大戦期の黒人の抵抗に関し、一定数の論題を取り上げている。ファーガソン、ステイトン島、クリーヴランドその他における警察による殺人、またそれに反応するすばらしい盛り上がりを、二〇一四年一一月の中間選挙の諸結果並びにそれが予示するものをその中で検証する必要がある、そうした実生活上の諸関係として理解することもまた重要だ。
右翼は議会を接収しつつある。しかし街頭の民衆は、政治的エリートからは自立して、そしてバラク・オバマからの何らかの行動を強制する展開という形で、動こうとしている。その彼は彼の大統領任期のほとんどの期間、人種的不公正に関して決然と見解を述べる点で、最良でも悪名が知れ渡るほどに慎重さを保ってきていたのだ。
オバマ政権の政治的限界
事実として、諸々の社会的危機に関する民主党の行動の全パターンは、それが行動の機会をもっていた間も、いわば悲しむべき見せ物となってきた。彼らは、二〇〇八年のオバマ選出後に米国議会で相当な大きさの多数を確保していた時、ひどく質を落とした「利用可能な医療法」の議会通過以上には、そうした多数をほとんどまったく利用しなかった。
金融システムを打ち倒した銀行家連は何の処罰も受けないできた。彼らの「水没した」担保付き住宅ローンで債務破綻に直面している何百万人という家族は、何らかの援助があるとしてもほとんど何も受けずにきた。「首尾一貫性のある移民制度改革」という言葉の綾は、記録的な大量国外追放を隠した。
大恐慌と何十年という構造的なレイシズムで荒廃させられたアフリカ系米国人コミュニティには、まったく何の助けもなかった。オバマ選出の支援に殺到した教員たちは、「トップへの競争」と利潤志向のチャータースクール(公的資金による私営学校:訳者)という伝染病の広がりをもって、ひどい仕打ちによって報いられた。「われわれは息ができない」ということに何か不思議はあるだろうか?
移民制度改革や「オバマケア」
当初のオバマの約束ははるか以前に蒸発した。大統領は最終的に中間選挙後、部分的な移民制度改革に関し、長い間の約束であった行政上の行為に乗り出す機会を得た。しかしそれは不十分で、使い勝手が悪く、何よりも勝負をかける点で遅い。そしてオバマと彼の共和党の敵対者たちは両者とも、移民政策に関わる危機の背後にある基礎的な諸現実にふれることを無視している。
犠牲者に責を帰す大統領の章句――無資格移民は彼らの非合法という地位に対して埋め合わせを受けることを認められるべきだ――は、特に鼻持ちならない。まったく逆に、米国が破壊した諸国にこれまで埋め合わせをしてこなかったのは、その米国なのだ。
一九七〇年代と八〇年代の中米における、米国が後援者となった諸々の皆殺し的な弾圧と戦争による破壊があった。米国のコミュニティでの大量投獄をも生み出しつつ、メキシコ、コロンビア、エルサルバドルの殺人にまみれた麻薬シンジケートを太らせてきた、その常軌を逸した「麻薬戦争」による破壊があった。そしてその仕上げとして、大いに称賛された二大政党一致による「自由貿易協定」による破壊があった。その協定はメキシコの家族農民を一掃したのだ。彼らは息ができない!
それでも、米国市民である子どもをもつおそらく四〇〇万人ないしは五〇〇万人の長期滞在無資格移民(この国にいる無資格移民人口のおそらく四〇%)に対する、オバマが約束した国外追放延期は、今日の共和党右翼の主な政治的資本である悪性のレイシズムがつまった壺をかき回すには十分だ。オバマの移民に関する行動は、共和党が議会を接収する中で、今後に浮上する戦闘の一つとなるだろう。
オバマが移民に関して何らかの行動を取るにいたり、警察の軍事化と残酷さについても少なくとも何かを行う約束を行ったことは、影響が及ぶコミュニティの、特に若者たちの、勇敢さ、決意、また自立した諸闘争を示す証拠だ。ファーガソンとステイトン島での残虐行為の場合と同じく移民問題に関して、変化への推進力となっているものは、二党選挙体制という汚水溜めではなく、街頭の熱気だ。
他の閃光点は、キーストーンXLタールサンドパイプライン――資本主義が地球を駆り立てつつある環境の強制的死の行進を指し示す先導的な象徴――、および中東における内的に結び合った諸々の危機と戦争だ。オバマ大統領は、中間選挙後の不定の未来までキーストーンXLの決定を繰り返し先延ばしした後で、彼に反対する用意ができている彼自身の党のかなりの部分によって、彼自ら作ったタールサンドの政治的ワナに今やとらえられている(「オバマケア廃止」は右翼のスローガンとして残るだろうが、私的な健康保険業界が今ではそこから莫大な利益を刈り取りつつあることを前提とすれば、実のある立法対象ではもはやない)。
選挙の大々的盗み取り
民主党は選挙で尻に蹴りを入れられたが、彼らはそれに値していた。そして民主党は企業派中道へと動き、その間共和党は、オバマの大統領任期を難破させるとの意図を公然と宣言しつつ、右翼へと早足で向かった。共和党は中間選挙の下院選で、投票数の五二%という僅かの多数を得たにすぎないとはいえ、今や両院をがっちりと支配するだろう。
もっと重要なことだが、共和党は基本的に、「下院選挙区の一四%だけを潜在的な勝負可能なものとして残し、三七三区での勝利の確実化」に基づき、二〇一六年での、さらにおそらくはその先も、下院の支配を保証されている。二〇一〇年の選挙後の州議会によって引かれたゲリマンダー化された選挙区のおかげで、共和党は、全投票数の四八%だけで二〇一二年に下院を支配することができ、二〇一四年には同四五%という少数で彼らの多数を維持できたと思われる。
米ブルジョア政党政治の反動状態にもかかわらず、民衆の気分は、自身を表現できる時は、右に揺れつつあるわけではない、ということを示す指標はいくつかある。ニューヨーク州では、ホーウィー・ホーキンスとブライアン・ジョーンズの緑の党州知事候補者名簿は、敬意に値する四・八%以上を引き寄せた――その中では、破綻した現職のアンドリュー・クオモを自身の投票用紙の並びに載せた労働者家族党を追い越して――。
ウィスコンシン州では、ミルウォーキー郡保安官への独立社会主義派候補者、バス運転手であり労組活動家のアンゲラ・ウォーカーは、印象的な得票率、二〇%を引き寄せた。戦闘態勢に置かれたカリフォルニア州の町であるリッチモンドでは、市長部局と市議会の支配を取り戻すための、シェブロンによる三〇〇万ドルないしは四〇〇万ドルの中傷キャンペーンは、リッチモンド進歩連合の活動エネルギーと鋭い洞察力によって打ち破られた。
われわれが主張していることは、何らかの種類の左翼に向かう大衆的動きがある、ということではない。実際に、オバマの約束の空虚な結果は、前向きの変革可能性についての広く行き渡ったシニシズムを生み出すことになった。しかし、米国の民衆がレイシズム、戦争、そして地球温暖化否認の政治を支持して投票しつつある、ということではない。そのように見えるようにさせることを可能にしているものは、基本的に、二つの資本家政党が保持している基盤、および百万長者が推進する政治キャンペーンのための現金の山々だ。
その一方で共和党の右翼政治家たちは、議会の不正操作では、また何十万人というほとんどが貧しい人びとと不釣り合いに対象とされた白人ではない人びとの公民権をすでに剥奪してきた大量の有権者抑圧諸法では満足せず、「選挙の大々的盗み取り」という新たなゲームをもてあそぼうとしている。
ここでその方式を詳細に述べる余裕はないが、たちが悪く残酷で長く続く二〇一六年の選挙サイクルがすでに浮上している中で、それはまず最初に、大統領選挙では民主党への投票に傾いている州の、ミシガン州議会で提案されようとしている。その州政府は現在共和党によって支配されていて、その共和党は、ミシガンの大統領選挙人団(米国の大統領選出方式は間接選挙、有権者が選択できるのは州毎に割り当てられた投票人団だけ:訳者)一六票は大統領選挙では比例的に分割されるべき、と提案しているのだ。この方式の明らかな目的は、そうした諸州に十分に広がるとして、接戦となる大統領選挙を盗み取ることだ――共和党に投票する州では、ただ一つの共和党州議会もそのような方式を提案しようとしていない以上は――。
確かに、選挙人団という方式は廃止されなければならないだろうし、大統領選挙は人びとの直接投票で決定されなければならない(主には、そうした方法では全国選挙を盗み取ることは基本的に不可能ということだ。例として、二〇〇〇年の選挙は、米国と世界にあのような破滅的な諸結果を伴う形で、ジョージ・W・ブッシュのためにフロリダ州で盗まれた)。しかし右翼の意図はそこにはほとんどない。
米・世界に警報が鳴っている
米国議会とホワイトハウス間の感情的軋轢の激発、また各資本家政党内部の諸々の戦闘は、前向きの変化がいかにして起きるかについての基礎となる現実から、われわれの注意をそらすものとはならないだろう。自立的に組織し闘うことによって成果を得ている運動の実生活上の実例が諸々ある。それこそが、殺人的警察に反対する爆発によって、また「無資格で恐れず」として立ち上がり、行進し、オバマの選挙運動事務所で座り込み、最後にはこの政権を言い逃れの断念と何ごとかをやる――それ自体としては遅く、不十分だが――ように強制した、その「ドリーマーズ」によって、今や確定されようとしている実例だ。
また、以前の機会にわれわれが言及してきたことだが、LGBT運動も、少なくとも反差別と結婚の平等という市民権の分野で、実のある成果をつくり出した――民主党に加えて共和党の行政権力の下で――。まだ完結していない巨大な闘争は、特にトランスジェンダー、および経済的「主流」の外部に周辺化されているクイアーの人びとに対して、数々残っている。しかし、あからさまなゲイバッシングが一つの得票戦略としてこのような短期間にいかにして衰えたかは、注目に値する。
生計賃金をめぐる諸々の闘争は、数々の州や市を貫いて吹き抜けてきた――四つの地区が一一月に最低賃金の引き上げを支持する住民投票結果を出した――。そしてその闘争は今、ウォルマートやファストフード業界のような巨大企業に挑戦中だ。オキュパイ運動は不平等のはびこりという問題を政治的課題に載せた。そしてその盛り上がりに対する弾圧にもかかわらず、「最賃一五ドルの戦闘」や反住宅抵当流れキャンペーンやその他の現場での奮闘は、その場での闘いを維持してきた。
またわれわれは、いくつかの主流的環境組織が企業と基金の現金を詰め込まれ、それに応じて綱領と諸政策を都合のいいように変えてきた一方で、キーストーンXLパイプラインだけではなく、生態系破壊のタールサンド採掘計画全体にも対決する強力な草の根の押し戻しがある、ということにも留意している。そしてこの草の根の押し戻しは、カナダの先住民コミュニティと活動家の抵抗によって刺激を受け、励まされたのだ。
テキサスのデントンにおけるその禁止を求める投票が示すように、シェールオイルとシェールガスフラッキング(それらの資源を取り出すためには、深層の岩盤に細かな割れ目を広範囲に入れる必要があり、その作業をフラッキングという:訳者)に対する怒りは深まりつつある。とはいえ、フラッキングが、運動がそれを抑えることができるよりも早い速度で、米国だけではなく世界中で広がろうとしていることは真実であり、いわば警報が鳴っている。
権力のホールの中では、カードが不正な切り方でそろえられ、票が操作されるところでは、「われわれは息ができない」。常のように、そして今ではかつて以上に、ファーガソンからフラッキングの現場まで、進歩的なエネルギーと生き残りに向けたわれわれの希望を保持するものは、運動にほかならない。(『アゲンスト・ザ・カレント』二〇一五年一・二月号)
▼当誌は、米国の急進的社会主義派の再結集体であるソリダリティーの機関誌。(「インターナショナルビューポイント」二〇一五年一月号)
【訂正】本紙前号(1月26日付)1面沖縄県議団報告集会記事の上から8段目右から6行目の「名護市」を「那覇市」に、3面九電東京支店抗議行動記事の最下段右から1〜2行目の「経産省テント前ひろば」を「経産省前テントひろば」に、4面沖縄インタビュー最下段右から15行目「有銘正夫さん」を「有銘政夫さん」に、同じく18〜19行目の「ピケット」を「ゲート」にそれぞれ訂正します。 |