資本主義の危機の現段階と極右政治勢力の台頭(中)
複雑な諸要因の重層的分析が必要
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現在、世界情勢の重要な焦点となった地域にウクライナと中東(ガザ、そして「イスラム国」)がある。とりわけウクライナや「イスラム国」問題に関しては様々な要素が入り組んだ複雑な構造とダイナミズムを全体として捉えることが重要であり、「陣営論」的な問題の設定は大きな誤りを導くことになる。(編集部)
ウクライナ問題はロシアと
米欧の抗争なのか
昨年末から今年夏にかけてのウクライナの危機を契機に、NATOとロシアの対立と緊張が高まっている。ロシアはNATOとの対抗のため中国との連携、上海協力機構(〇一年に中国、ロシアと中央アジア四カ国で設立)への関与を強化している。
中東、とりわけシリアをめぐってもアサド政権を支援するロシアとイランが、反アサド勢力を支援するNATOと対峙している。
米欧諸国は、ロシアによるクリミア併合や東ウクライナへの支援に反発して経済制裁を発動した。
ウクライナ問題をめぐる西側(日本を含む)の大手メディアの反ロシア的報道は常軌を逸している。あたかも民主主義と西側世界への統合を求めるウクライナの人々に対してロシアとその影響下にある勢力が武力支配を行使しようとしているかのような報道が執拗に繰り返されている。ウクライナの西側におけるファシスト勢力の危険が意図的に軽視され、一方、東部における民衆の闘いや民意はすべて「親露派」として描かれている。ウクライナ東部に派遣された「民兵」の主力が極右・ファシスト組織の構成員であり(政府軍は士気が低く、戦闘力としては役に立たない)、残虐行為を繰り返していることが報道されることは稀である。
逆にロシアにおいては、プーチンのクリミア併合やウクライナ東部への介入が圧倒的に支持され、大ロシア主義が高揚している。
また、米国やNATOの好戦的な介入を批判する人々の間では、昨年末以降の民主化運動そのものが米国やヨーロッパの陰謀であるという主張や、キエフ政権に対する極右・ファシスト勢力の影響を過大視する傾向が顕著である。
ウクライナの歴史と民族問題、そして冷戦終結以降の地政学上の変化やエネルギー戦略をめぐる思惑……さまざまな解釈がそれなりの説得力を持つのは当然のことだろう。
しかし、現実に起こっている事態を事実に即して理解することが重要である。敢えて単純化すると、以下の基本的な事実に即して理解するべきであり、これらの事実の一つの側面だけを取り出して憶測や論理の飛躍を重ねる議論は不毛である。
プーチンの対応は
基本的には守勢
1 ウクライナは独立後も、ソ連邦時代の官僚支配階層を中心とするオリガーキー(寡頭支配階級)による腐敗と非効率が経済の発展を阻害してきた。〇四年の「オレンジ革命」を経た後も、これは変化していない。
2 〇四年以降、西側経済との結びつきを強め、ロシアへの依存からの脱却をはかってきたが、エネルギー危機や西側の経済の危機の影響もあり、不況が続き、一三―一四年にかけては債務がギリシャ並みの水準に達し、外貨準備も底をついた。
キエフで始まったマイダン(広場)運動は、経済危機下での人々の不満の増大を背景としており、その点では世界各地で起こってきた自然発生的な直接行動と共通した特徴を持っている。
3 マイダン運動は直接にはEUとの経済統合への期待を反映し、ヤヌコヴィッチ政権が(ロシアとの関係を配慮して)EUとの協定の締結を遅延させたことを批判した。
4 マイダン運動は当初はオリガーキーに反対し、民主化を求める市民の自主的な運動であり、左翼の活動家たちも積極的な役割を果たしたが、既成政党は参加していなかった。運動が拡大し、政権の崩壊へ至る局面で右派政党や極右勢力の影響力が拡大した。
5 ヤヌコヴィッチ政権が崩壊した後、新政権はNATOへの接近とロシアの影響力の排除、国内のロシア人に対する差別的政策(ロシア語の非公用語化など)を打ち出した。これに対してロシアは、対抗的あるいは予防的にクリミアを併合した。また、東部のドンバス地方を中心にロシア人たちが反キエフ政権の運動を始めた。クリミアや東部の諸州でロシア人たちが多数民族となっている歴史的経過は別として、東部諸州におけるロシア人たちのキエフ政権に対する抵抗は正当な民族的権利である。
6 闘いが武力による抗争に発展する中で、東西の両方で民主主義的闘争の要素は後退し、東部ではロシアからの人的・物的支援を得たオリガーキーが支配体制を立て直し、軍事的優位を確立し、その力関係の下で停戦が成立した。
現時点でも東部における選挙の実施をめぐって緊張が高まっているが、ただちに内戦が再開されることはないだろう。
この一連の経過、特にロシアの介入をめぐって、左派の間でも大きな対立が発生している。
キエフを中心とする左派の間では、マイダン運動をめぐって、民主化運動を発展させるという観点からこの運動に全面的に参加してきたグループと、極右勢力と同じ運動に参加するべきでないと主張するグループがあり、この分岐が他の諸国の左翼の間で増幅されている。
また、東部諸州における反キエフ政権の運動についても、これがロシアによって直接にコントロールされた運動であると主張する人たちと、基本的には民衆の自発的運動であると主張する人たちが対立している。後者を代表しているのは、ロシアのマルクス主義的左翼のリーダーのカガルリツキー氏である。
ウクライナ問題をめぐる論争は多くの重要な教訓を提供しているが本項では詳しくは立ち入らない。本稿では、今日の世界情勢を分析する上で重要と思われるいくつかの点を指摘しておく。
第一に、ウクライナ問題で顕在化したロシアと米欧の対立は、冷戦終結後のNATO拡大をめぐる攻防の新しい展開であり、NATO諸国にもロシアにも、意図的に緊張を高めようとしている勢力が存在していることは間違いない。しかし、ロシアのプーチン政権の対応は基本的に守勢である。プーチンは東部の運動が思惑を超えて発展し、ロシア国内に政治的不安定要因をもたらすことを最も恐れている。一方、NATO諸国も、キエフ政権がウクライナ東部を制圧できるとは考えておらず、むしろ極右勢力の台頭によって事態がコントロール不能になることを恐れている。また、ロシアへの経済制裁はロシアよりもEU諸国にとって、より大きな打撃となっている。
第二に、米欧諸国にはキエフ政権の下のウクライナの財政危機・経済危機を救済する余力はない。一方、ウクライナ東部はロシアとの経済的結び付きが強く、ロシアとの関係を悪化させてまでEUとの統合を急ぐメリットがない。ウクライナの人々がEUとの統合に託した期待が失望に変わった時、再び政権の危機が始まるだろう。
第三に、現在、ウクライナの東部においても西部においても、民主化の運動は頓挫し、左派は孤立状態にある。内戦的な局面で双方の左派勢力は一層無力な存在となった。しかし、少数であっても政治的独立性を維持し、本質的な問題が米ロの対立でも、民族的対立でもなく、階級的対立であることを粘り強く主張しつづける左派の存在は、ウクライナの統一を維持し、次の局面に備える上で決定的に重要である。とりわけドンバス地方の鉱山労働者を中心とする階級的な闘いがそのための基盤を提供している。
第四に、この複雑に入り組んだ状況の中で最も危険なことは、「陣営論」、つまりロシア対米欧という枠組の中で思考し、「より小さい悪」と手を組むという発想である。問題の根本には旧ソ連時代における民族的権利の抑圧と経済的収奪が残したロシアに対する不信がある。NATOやEUの思惑を批判するだけではなく、ウクライナのロシアへの依存あるいは従属からの自立を支持するべきであり、それは当然にもロシアの覇権主義的民族主義(大ロシア主義)に反対することを含む。問われているのは旧ソ連圏における真のプロレタリア国際主義の復活である。
イスラム国の恐怖支配と闘う勢力への武器援助を支持するべきか?
中東においては、シリア内戦が長期化する中で、ISIS(イラク・シリア・イスラム国、ダーイシュ)が勢力を拡大し、シリアとイラクにまたがる広範な地域を支配して残忍な恐怖支配を行っている。
「インターナショナル・ビューポイント」誌九月三〇日付でフランソワ・サバド同志は次のように指摘している。
?これは新しい状況であり、今や地域全体が戦争と混沌に飲み込まれている(イスラム国によって体現されるバーバリズムの登場、イラク、シリア、リビアなどの国家の解体、さらにはレバノンへの波及……大量殺戮、独裁、西側の介入)。
?西側帝国主義の介入は、〇一年、〇三年におけるアフガン、イラクへの介入の繰り返しではない。あらかじめ用意されたプランがない。戦争目的そのものがコントロール下にない。
?米国と西側の大国の歴史的・政治的責任は明白。アラブ民族主義体制の失敗も、イスラム国やアルカイダのようなグループの爆発的成長の原因を作ってきた。
?しかし、今日の状況の分析を西側帝国主義の批判に単純化することはできない。今日の状況は、複数の重層化された要因を考慮することによってのみ理解できる。つまり、@イラク国家の解体と、腐敗したシーア派主導の政権(その結果、イスラム国が一部のスンニ派部族と、旧サダム・フセイン体制の軍の残存勢力を吸収)、Aシリアにおける自由シリア軍の弱体化、民主主義的な反乱を粉砕することを目的としたイスラム国とアルヌスラ(アルカイダ)の策動、Bサウジ、カタール、トルコなどの地域大国の介入 (イスラム国を含むジハード勢力に武器を提供してきた)、Cイスラエルのガザ攻撃、イスラエルの政治・社会の極端な右傾化(入植者団体がその先鋒)。
「このような錯綜した紛争は、帝国主義の破壊的な介入の結果であるだけでなく、この地域における彼らの弱体化と衰退 ―それがさまざまな反革命勢力に独立的な活動の余地を与えた ―の結果でもある」(同誌、サバド論文)。
重要な点は、この地域における米国の政治的影響力の決定的後退である。米国のイラクとアフガンにおける政治的敗北はこの地域の地政学に決定的な変化をもたらしている。米国は自らが育成したイスラム武装勢力をコントロールできず、今やイスラム国は米国の中東支配そのものを脅かす存在となってしまった。イラク北部のヤジーディー、クルド人、キリスト教徒も対するジェノサイドが切迫した危機となっている。
現在、イスラム国との攻防の焦点はシリア北部コバニである。クルド人たちが一カ月以上にわたってイスラム国による包囲と猛攻撃に耐えている。
本紙一〇月二七日号掲載のデンマークの同志による報告によると、デンマークの同志たちはデンマーク政府のイラクへの戦闘機派遣に反対すると同時に、クルド人の抵抗運動への軍事的・人道的支援(武器援助を含む)を提案している。
先に紹介したサバド同志の論文でも、イスラム国は「イスラム・ファシスト」(厳密な規定ではないが)であり、「われわれはバーバリズムの犠牲になっている人々とあらゆる手段で連帯する必要がある。これは政治的支援、人道的支援、および(シリアの抵抗運動およびクルド民族の抵抗勢力の組織への)物資および軍事的支援を含む」と主張している。
米国の政治的影響力の後退と軍事介入をめぐる迷走の間隙を縫ってファシスト的勢力が台頭し、ジェノサイドの危機が現実となっている時、帝国主義の軍事介入に反対するだけでは不十分であり、人民自身の抵抗(自衛武装を含む)を支援し、人民自身の力でファシスト的勢力や独裁者を倒すための国際的条件を作り出すことが求められている。
アブ・ヤザン同志の戦死と革命的左翼の困難な闘い
「シリア革命的左翼潮流」は八月一九日付の声明で、同組織の青年活動家アブ・ヤザン同志(仮名)が八月一日にイスラム国との戦闘の中で死亡したことを伝えている。アブ・ヤザン同志はアサド政権による徴兵を拒否し、地下活動に従事していたが、逮捕され、最も危険な戦場へ送られた(「インターナショナル・ビューポイント」誌、同日付)。
同志が仮名となっているのは、家族や知人に累が及ぶのを避けるためであるという。
中東地域の革命的左翼の同志たちは、このような過酷な条件の下で闘い続けている。この同志たちが今いかに少数で、孤立しているとしても、この同志たちが目指す非宗教的・民主主義的・反帝国主義的な政治勢力の形成にこそバーバリズムの連鎖を断ち切る道がある。
ガザ虐殺とイスラエル国内
のファシズム的状況
米国の中東政策の破たんのもう一つの結果が、イスラエルのネタニヤフ政権の下でのガザ攻撃・パレスチナ人の大量虐殺と入植地拡大である。
入植地拡大は、一九九三年のオスロ合意に基づく和平を事実上不可能にしている。
米国政府はエジプトの軍事政権、パレスチナ自治政府と連携することによって中東和平のイニシアチブを発揮しようと試みてきたが、イスラエル政府はオスロ合意が同国を拘束する協定であるとは考えていない。シオニスト国家イスラエルの存在が危険にさらされるとみなせば、いかなる行為も正当化される。実際、米国政府は常にイスラエルのいかなる蛮行も、「イスラエルの自衛の権利」として容認してきた。
オバマ政権はガザ攻撃による犠牲者の数が多いことに懸念を表明し、また入植地拡大に反対を表明したが、それは口先だけであり、イスラエルへの軍事援助と経済的支援を継続することによって、この政策を追認している。
イスラエル国内においても、ファシズム的状況が深刻化している。
七月二日に東エルサレムでパレスチナ人の十六歳の少年が焼殺された。 先にユダヤ人の青年三人が誘拐・殺害されたことへの報復としてである。これに抗議するパレスチナ人に対する弾圧で七六〇人のパレスチナ人が逮捕された。その後もパレスチナ人に対する暴力や脅迫は続いており、パレスチナ人たちは日常的に危険にさらされている。
ヨルダン川西岸地区では一部のバスがユダヤ人入植者専用となり、パレスチナ人労働者の乗車を拒否することになった。「安全上の理由」によってである。これは米国の公民権運動のきっかけとなった公営バスでの人種隔離と同様の民族差別である。
イスラエル国内におけるアラブ系住民に対するレイシズムについては、ルーベン・リブリン大統領が国会で憂慮を表明している。同大統領の発言に対してネタニヤフは「嘘つきのユダヤ人」(注1)、「アラブの手先」などと罵倒した。
イスラエルの「オルタナティブ・インフォメーション・センター(AIC)を主宰しているミシェル・ワルシャウスキー同志は、一九六〇年代から二〇〇〇年代初めまでのイスラエル社会の変化と自らの闘いの経験を克明に記録している『国境にて』(柘植書房新社)の中で、とりわけ一九九三年のオスロ合意以降、平和運動の後退とシオニスト左派の衰退、極右勢力の台頭と全般的な右傾化が進んできたことを指摘している。〇二年の著作であるが、その後十年余を経た現在のイスラエルの状況を理解する上で示唆に富んでいる。
イスラム国の台頭とイスラエルにおけるファシズム化は、中東地域にとどまらず、ヨーロッパや米国にも影響をもたらしている。
ヨーロッパ諸国の政府は、パレスチナ民衆との連帯、特にBDS(イスラエルへのボイコット、投資引き上げ、制裁)を反ユダヤ主義と結びつけ、批判している。特にフランスのオランド政権は、ガザ攻撃反対のデモを不許可にするという暴挙を行った。
一方、パレスチナ連帯のデモでイスラム国やシリア・アサド政権との連帯のスローガンが掲げられるケースも目立っているという。また、ハマスの軍事冒険主義や人権侵害に対する批判がタブーとされている。
パレスチナ問題、そしてシオニズムの問題は植民地主義とファシズム、そして戦後処理の欺瞞(パレスチナへの犠牲の押し付け)、アラブ民族主義の破たんと左派の敗北の歴史の全重圧を集約した問題であり、その歪みの集積が今日のイスラム教反動勢力や極右シオニストの台頭の基盤となっている。(つづく)
注1 後出のワルシャウスキーの著書によると、「ユダヤ人」というのは差別や迫害に耐えてきた弱い者を連想させる蔑称とされている。 |