安倍「成長戦略」で大きく浮上
環境・健康破壊の「カネ喰い虫」
工事着工反対! 計画を撤回せよ
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リニア新幹線とは?
巨額の税金をつぎこんで
ふくらまされる「悪夢」
どのような走行
システムなのか
リニア新幹線と呼ばれているが、旧来のようにレールの上を車輪が走行する鉄道とは全く違う原理で走行する。リニアは走行路に並べた磁石コイルと車輪に搭載された超電導磁石の反発したり、引き合ったりする力で走行する。車体は地上から一〇センチメートルほど浮上することによって超高速走行が可能となり、最高時速五〇五キロに達すると言われている。停車する時には速度を低下させる。そうすると車輌に収納されていたゴムタイヤが下に出てきて着地走行するとJR東海は説明している。リニアは車輌に運転士などは同乗せず、すべて地上より制御するシステムになっている。
「磁石は通常、電気を流した時だけ磁力を生む。これに対し、マイナス二六九度の超低温までコイルや電線を冷やすと電気が極めて流れやすくなる超電導状態が生まれる。この状態にある磁石が超電導磁石だ」(日経産業新聞、5月9日号)。通常の電磁石を使った常電動リニアの場合、浮上する高さは一センチメートルで愛知県の常滑や中国・上海で運行されている。
構想から 年
以上経過して
リニア中央新幹線は東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知の七都道府県を通り、品川―名古屋間を最短四〇分で走る。この全長二八六キロのうちトンネル部分は全体の八六%を占める。リニア中央新幹線構想は東海道新幹線開業前の一九六二年に始まり、一九九七年からは山梨県で実験と試験走行が開始されている。二〇二七年に品川―名古屋間の開業が予定され、二〇四五年に大阪まで延伸されるという。
建設費は東京―名古屋間が五兆四三〇〇億円、東京―大阪間では九兆三〇〇億円と試算され、このリニア中央新幹線は計画と工事、建設資金の両方をJR東海が企業として責任を持ち単独で進めることになっていたが、今年六月安倍政権は名古屋―大阪間も二〇二七年の東京―名古屋間の開業にできる限り前倒しして開業することを条件に「成長戦略」に盛り込むことを発表し、「国家的プロジェクト」として推進する立場を明らかにした。建設を既成事実化した上で税金投入の流れをつくりだしたのである。 (松原)
年内着工に向け
工事実施計画
昨年九月にJR東海は、リニア新幹線の環境影響評価準備書で初めて「予定ルート」を明らかにした。そして関係自治体に詳しい説明も報告もないまま、今年六月五日には環境影響評価書(アセスメント)を環境省に提出し、八月二六日には矢継ぎ早にリニア新幹線の工事実施計画を国交省に申請した。マスコミによると国交省は今秋にも工事を許可し、これを受けてJR東海は年内にも工事に着工すると報じている。
この動きと並行して今年四月一二日には、山梨県都留市のリニア実験線に安倍首相とケネディ駐日米大使が試乗した。案内したのはJR東海の葛西敬之名誉会長。これは中止となったが、四月末来日したオバマ米大統領を試乗させるための布石であった。この政治的ねらいは、JR東海がリニアの技術をアメリカに無償提供し、日本政府が資金の半分を国際協力銀行(IBIC)を通して融資し米ワシントン―ボストン間を結ぶ高速鉄道への「リニアの輸出」である。アメリカでリニアを走らせることによって日本の技術を世界中に売り込もうというのがその目的。政府が日立、東芝、三菱と手を結んで「原発輸出」を進める構造と全く同じである。
これを裏付けるように安倍政権は六月の「成長戦略」の重要政策としてリニア中央新幹線を組み入れた。今や「リニア」は交通問題という領域を超えて政治的問題になったと言える。
自治体や住民
から批判の声
リニア中央新幹線のアセスメントが提出されて以降、ルート沿いの自治体や住民たちから次々と批判や反対の声が上がり始めている。
第一は「発生残土」の問題である。走行路の八〇%がトンネルであり、掘り出される残土の量は東京ドーム五〇杯分に匹敵する五六八〇万立方キロメートルに達すると計算されている。しかしJR東海が発表した残土の置き場は駅が一つもない静岡県の七カ所と山梨県の一カ所だけである。この八カ所の置き場に置くことが可能な残土の量は、最大でも全体の二割にしかならないという。かつ静岡県の七カ所は東海製紙が提供する場所だという。南アルプスの地図を開くと分かると思うが、東海製紙は静岡市側の登山口から赤石岳や聖岳に至る南アルプスの南部一帯を所有している。つまり静岡県の七カ所とは東海製紙が所有する南アルプスに残土を積み上げることだ。それは山崩れを起こし、植生を破壊し、オオタカなどの希少動物の住み家を奪い、環境破壊を招くことは明白である。現在南アルプスは「ユネスコのエコパーク」に国内推薦されているがこの静岡県の推し進めている計画を足元から掘り崩す可能性もある。
第二も南アルプスにトンネルを掘ることにより、引き起こされる「水資源」の問題である。JR東海のアセスメントによるとトンネル工事が南アルプスを一一キロ通過するだけで、大井川の流量は毎秒最大二トンも減少すると説明している。この毎秒二トンという水量は、牧の原、藤枝、焼津、島田、菊川、掛川、御前崎の七市と吉田、川根本町の二町が使用する水量に匹敵する。これだけで七市二町の生活用水や農工業用水の「水枯れ」は必然だ。
すでにリニア実験場が動き始めてから都留市周辺の沢や井戸が枯れ、ある程度離れた大月市や上野原市でも水枯れが始まっている。箱根越えの丹那トンネル、黒部ダム建設、青函、清水、飛騨などの極めて困難なトンネル工事の経験によってトンネル工事の技術は進んでも、水問題をどうするのかは全く別の問題で、せいぜいトンネル内が水浸しになることを回避するだけの技術に過ぎない。
断層・電磁波
健康被害も
第三は、リニア工事区域には今も一〇〇年間で四〇センチも隆起し続けている糸魚川―静岡の大断層帯(フォッサマグナ)が存在することである。仮にトンネルが完成しても、地震や断層活動によって耐えずトンネルが歪んだり、破壊される危険が伴う。しかし、JR東海のアセスメントでは予想される東南海トラフ巨大地震が起きるとこの大断層がどう動くのか全くシミュレーションされていない。
第四は、アセスメントが出されてから山梨、長野、岐阜などの各知事より指摘された磁界(電磁波)の問題だ。「昨年八月から走行実験が再開された都留市川茂地区。『時速五〇〇キロで走行すると、家の中でも風圧を感じ、地震のようだ』『朝から晩まで走られたら暮らせない』」「中津川市にできる中間駅と隣にできる車輌基地も高架です。駅から一〇〇メートルには小学校があり、電磁波や日照阻害など影響がでないか不安」(赤旗、6月3日付)。
環境省は環境アセスについて「規制ではなく、開発をする事業者に自主的な配慮を促す手段」と強調するだけで具体的方策は結局のところJR東海にゆだねている。まさに環境省とJR東海は一体となっていることは明白である。
リニアは絶対
「ペイ」しない
リニアが交通問題から政治領域に転化した最大の問題は、「カネ」である。リニア新幹線計画は、全国新幹線鉄道整備法に基づいているが、それによると@全国的鉄道網の整備A全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結B地域振興推進の三点が目的とされている。
来年三月開業予定の北陸新幹線を始めとして計画されている北海道新幹線、長崎新幹線もレールの上を走る旧来の鉄道であり、リニア中央新幹線だけが全国のどの鉄道とも互換性、融通性がない。「駅」として指定された相模原、甲府市大津、飯田市、中津川の五つの各地域も振興はほとんど考えられないのが実情だ。品川駅の次の駅になる神奈川駅は相模原市にあるがわざわざ高い料金を払ってまでリニアに乗る人がいるとは思われないと学者や専門家は指摘している。つまり、互いに乗り入れできないし、乗降客がいない駅周辺が振興対象にはならないことは明白。
二〇一三年一〇月の朝日新聞が行ったアンケートによると「必要」「どちらかといえば必要」と答えた人は三七%、どちらかといえば「不要」と答えた人は五四%、時速五〇〇キロに乗っても移動時間を短縮したいと希望した人は一〇%しかいない。車輌内は完全に密閉された空間で全く外を見ることができず、駅の半数以上が地中であるから当然といえば当然である。
アンケートや調査を行うとこうした結果が出ることをすでにJR東海は理解していたと思われる。JR東海の山田佳臣社長(現会長)は二〇一三年九月の記者会見で「リニアは絶対にペイしない」と述べている。なぜなら現行の東海道新幹線の乗車率は五八%であり、東京―名古屋間で「こだま」を利用している人は、ほぼ一〇〇%リニアに移動する可能性はない。現在東海道新幹線を利用している客をリニアと東海道新幹線が奪うだけである。その上、日本の人口減は利用者数を減少させることがあっても東海道新幹線とリニアを両立させる増加は見込めない。九〇年代ドイツでもリニアの計画が進められたが、採算性と国際性との連携の双方の観点で政府は厳しい制限を行い、さらに二〇〇六年の実験段階で多くの死者を出す大規模事故が発生し、最終的にリニアは中止された経過がある。これを見るとドイツと日本の「原発建設問題と似ている」ことに気付く。
「成長戦略」に
かけた思惑
リニア実験場などの工事費や試験走行のために現在までJR東海が投入した額は五〇〇〇億円を超えている。それにはバブルを期待し今も進められている品川や名古屋でのビル建設費などは含まれていない。こうした建設費の上昇傾向に危機感を持ったJR東海が、安倍政権の「成長戦略」の中心環をなす「インフラ輸出」の柱のひとつにしようとしたのである。
ある週刊誌が七月第二次安倍政権で官邸に出入りした財界人について特集している。その第一位にランクされたのがJR東海の葛西名誉会長である。「第二次政権になってから二人はますます接近。一三年度は『首相動静』に表われただけで一三回面会し、月に一回以上のペースで顔を合わせた」(東洋経済、5・31号)。加えて葛西は菅義偉官房長官とは国鉄民営分割化を遂行した時の「戦友」である。安倍と菅、葛西は「国家プロジェクト」にすることによって税金を注ぎ込む構造をつくり出し、リニア中央新幹線の行き詰まりを救おうとしているのだ。名古屋―大阪間の前倒しは自民党内の対策であり、口実に過ぎない。
アメリカ政府は現在一一の高速鉄道路線を予定しているが、その受注をめぐって中国、フランス、日本が激しくしのぎをけずっている。この「競争」にリニア新幹線の技術を持ち込んでなんとか売り込もうと安倍とJR東海が手を結んだのだ。昨年九月の渡米時、安倍はニューヨーク証券取引所で「ガソリンの浪費や渋滞から解消される愛の技術だ」と叫んだが、アメリカでの攻防は次のベトナムやインドをはじめとするアジア諸国のインフラ整備に直結する。アメリカやアジア諸国に進出できなければ、他に国内で市場を持たないJR東海のリニアは部品の調達ひとつでも「高い値段」が強制されることは明らかだ。さらに大震災の復興、東京五輪で材料費や人件費は高騰し、当初予定していた五兆円の建設の大幅な修正を突き付けられ始めている。リニア中央新幹線が「成長戦略」にはめ込まれたのは、安倍にとって「アベノミクス」の行き詰まり、JR東海にとっては建設費の不足という理由からに他ならない。
「安全性」が
担保されない
リニア中央新幹線が抱えている問題は環境保全、建設費と維持費だけではない。一番決定的なのが「安全」問題である。リニアについて多くの論文や本を出している千葉商科大学の橋本禮治郎教授は次のように述べている。
「経済性と並び危惧されるのは、技術的信頼性である。超電導磁気浮上技術は日本のみ開発中で、実証済みの技術ではない。地震や停電・事故、テロなど異常時対応力がどれだけ備わっているのか。全体の八六%が地下と山岳トンネルの走行で、遠隔操作によって乗客を無事救出できるというが、会社側の“絶対安全神話”。これをどれだけの人が信用するだろうか。電磁波による人体の被曝、新幹線の三倍といわれる大電力消費も問題である」(東洋経済、5・31号)。すでに大電力消費を証明するように山梨のリニア実験線には東京電力・柏崎刈羽原発から一〇〇万ボルトの超高圧送電線が施設されている。すでにリニアと原発再稼働は政府・財界では一体となっている。
いくら「夢の技術」「安全」と強弁しようとも、たかだか四二・八キロの実験走行だけでの話でしかない。事故が起きても五キロに一本だけある脱出口から救出するしかないし、運転士も車掌などの乗務員も同乗せず地上からのコンピュータだけで本当に制御できるのか東電福島第一原発事故を見ればそれは明らかだ。
すでに述べたようにドイツでは二〇〇六年実験中に走行車輌が止まっていた保守車輌と衝突し二三人もの死者を出してリニアを断念した。リニア開発を進めていた中国も火災事故を起こして上海―北京間計画を断念し、かろうじて残った実験場的な空港と上海の中心部の間三〇キロで運行を続けているだけだ。安倍政権と財界は、予想される「大事故」の可能性を無視して国際競争に打ち勝つことだけのために国民を犠牲・人質にしてリニアにしがみついている。
鉄道や交通システムを研究している学者や専門家は、互換性も含めて「新幹線の進化」を主張している。すでに新幹線は時速三二〇キロ程度まで引き上げることが可能になっており、多くの危険性や事故のリスクがあり、安全が保障されないリニアを止めるべきだと主張する。ましてリニアは一〇〇年以上にわたって蓄積された鉄道技術から断絶され、全国の鉄道マンの経験も全く役に立たないのだ。
私たちはリニア計画が持つ危険性、問題点を明らかにしながら、山梨、長野、静岡で始まっている反対闘争と連帯し、さらに全国の鉄道労働者と共にリニア中央新幹線建設中止の闘いを築いていくことが必要である。 (松原雄二)
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