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    かけはし2014.年9月8日号

今こそ謝罪と補償の実現を


「軍隊慰安婦」強制連行否定論の大合唱

被害者をこれ以上辱めるな


「朝日」の検証記事を契機に


 八月五日、六日の朝日新聞朝刊は、日韓両国で重大な外交問題となっている日本軍「慰安婦」問題に関して、過去の報道を検証する特集記事をそれぞれ二面分にわたって掲載した。とりわけ八月五日の記事は、@「強制連行」の有無、A済州島(チェジュド)で若い朝鮮人女性を「狩り出し」的に連行したという吉田清治証言の掲載、B「慰安所」設置への軍関与報道のタイミング、C「女子勤労挺身隊」の動員と「慰安婦」との「混同」、D元「慰安婦」の初の「証言」掲載、の五点にわたって検証を行い、「吉田証言」については記事を撤回し、「挺身隊」と「慰安婦」との「混同」を認めた。
 朝日新聞が、この日本軍「慰安婦」記事の検証を行った理由として、同紙は「記事の一部に事実関係の誤りがあった」ことを認めることで「慰安婦問題は捏造」とか「元慰安婦に謝る理由はない」といった右派言論の言説に反撃するとともに、歴史的な犯罪・過ちに対する真摯な謝罪を行い、女性への性暴力や人権侵害を許さないという「今日的なテーマ」に生かし、日韓両国の間に「未来志向」の「和解」の関係を築く必要がある、としている。
 しかし今や、「産経」「読売」や「週刊新潮」「週刊文春」「週刊現代」などの週刊誌、さらに多くの月刊誌などは、朝日新聞の「謝罪・撤回」に鬼の首を取ったように凱歌を上げ、「慰安婦は捏造」「証言はすべてウソ」「日本は犯罪国家ではなかった」など、まさに正視にたえないほど醜悪で、排外主義・レイシズム、女性蔑視・反フェミニズムに貫かれた言説をまき散らしている。石破自民党幹事長は、朝日新聞の責任者を「誤報」に関して国会に召喚すべき、などという言論弾圧の脅しをかけている。橋下大阪市長も「朝日が白旗を掲げた。強制連行の事実はなかった」とはしゃぎまわっている。
 そしてこの「日本軍慰安婦」と朝日新聞に対する右派メディアの集中攻撃は、安倍政権の政治姿勢と密接な関連を持っていることは言うまでもない。

「女性国際戦犯法廷」報道と安倍


安倍晋三は、故中川昭一とともに、二〇〇〇年一二月に開催された「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」に関するNHK教育TVの報道特集番組(二〇〇一年一月三〇日放映、「戦争をどう裁くか」シリーズ第二回)の内容をズタズタに改ざんさせる圧力をNHK幹部にかけた張本人だった。
安倍は二〇〇六年に成立した第一次内閣の時にも、「いわゆる慰安婦強制連行の証拠はない」といった言辞を繰り返し、二〇〇七年に当時のブッシュ米大統領からも釘を刺されて、ブッシュに「謝罪」するといった醜態を演じていた。その安倍が二〇一二年の総選挙で首相に復帰した時、「産経」を代弁者とする極右派は、宮沢自民党内閣の下での一九九三年八月四日の河野洋平官房長官談話を「見直す」よう強く要求した。
「河野談話」は述べている。
「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり。慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したことがあったことも明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」。さらに河野談話は「当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われたこと」を認めた上で、「心からのお詫びと反省」を表明し、「このような歴史の真実を回避することなく、むしろ歴史の教訓としてこれを直視していきたい」としている。
この「河野談話」について、日本維新の会(現「次世代の党」)衆院議員の山田宏が、「事前に韓国政府とのすり合わせを行った」「元慰安婦一六人の証言の裏付けを取らなかった」ことが当時の石原信雄官房副長官の発言で明らかになった、として見直しを求めた。しかし今年三月、安倍首相が「安倍内閣として河野談話見直し」を行わないと国会で答弁し、六月二〇日に発表された政府の「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯――河野談話作成からアジア女性基金まで」において、「河野談話見直し」を要求する極右派の主張は、当の安倍政権によって拒否されるという結果になった。

日本の人権状況への批判


「朝日」の「検証」記事に対する、「産経」や週刊誌による攻撃と、日本軍「慰安婦」への全否定キャンペーンは、安倍政権取り巻きグループの焦りの表現でもある。しかし、この「反韓」レイシズムと「慰安婦」への罵倒・誹謗の嵐が、安倍個人の意に反するであろう「河野談話継承」の立場をひっくりかえす結果をもたらす危険性もある。
七月一五日、一六日にジュネーブで開催された国連人権委員会自由権規約委員会の日本政府報告書審査では、河野談話検証作業についての質問も行われた。日本政府は「今後も河野談話を継承する」と語ったものの、「慰安婦」を「性奴隷」と呼ぶことを拒否した。
同委員会に日弁連代表として参加していた海渡雄一弁護士は「このセッションには、慰安婦は強制連行されておらず『売春婦』だったと主張する日米の団体関係者約一〇人が参加しており、セッションで『慰安婦は性奴隷ではない』とした日本政府代表の発言に一斉に拍手し、マジョディナ委員(彼女は性奴隷制という表現を擁護した――筆者)をセッション終了後に取り囲んで糾弾するという事件が起きた。これに対してロドリー議長は被害者を辱める拍手は許されない行為であると言明した」と書いている(『世界』九月号「日本の人権状況に示される国際的懸念」)。
八月六日「朝日新聞」特集の「日韓関係 なぜこじれたか」の部分は、二〇一一年以後のイ・ミョンバク政権、さらに二〇一三年に発足したパク・クネ政権の姿勢に「慰安婦」問題を通じた「日韓関係」悪化の責任を負わせる主張となっている。
日本の労働者・市民は、なによりも自らの歴史的責任において「謝罪と補償」の世論と運動を作り出していく必要がある。
(平井純一)

資料

要請文:朝日新聞「慰安婦」報道の検証をめぐる一連の報道に抗議し訴えます

アクティブ・ミュージアム
「女たちの戦争と平和資料館」(wam)


 朝日新聞は8月5日・6日の朝刊で、これまでの「慰安婦」報道の検証結果を発表しました。一部のメディアやネット上に、「『慰安婦』問題は朝日新聞の誤報・捏造によって作られたもの」という中傷や批判があることへの反論です。
 特集記事では、故吉田清治氏による強制連行の証言は虚偽として記事を取り消し、「慰安婦」と「女子挺身隊」を混同した誤用を認め、取材記者による事実の歪曲を否定しました。「強制連行」に関しては、朝鮮半島や台湾に限れば「軍による強制連行を直接示す公的文書」は見つかっていないが、他の地域には証拠もあること、問題の本質は軍の慰安所で女性たちが自由を奪われ、意に反して「慰安婦」にされたという強制性にあることだとしています。
 これらの内容は、「いまさら…」と嘆息したくなるほど、日本軍「慰安婦」問題を少しでも知る者たちには常識となっていることばかりです。このような検証なら、もっと早くに行ってもよかったのに…と思いましたが、事実確認も検証も全く行わずに暴論と虚報を垂れ流している産経新聞などの一部メディアが跋扈している現状を考えれば、朝日新聞の姿勢と自己批判は真っ当で、意義あるものと言えるでしょう。ただ、朝日新聞が相変わらず「女性のためのアジア平和国民基金」を評価していることには、失望を禁じえません。「国民基金」による負の影響をもっと学ぶべきです。そして、「慰安婦」被害を朝鮮半島に極小化し、問題を矮小化しようとしてきた日本政府の“下心”にも迫ってほしいと願わずにはいられません。

 ところがこのような朝日新聞の検証記事を受けて、一部のメディアや政治家たちが、これを政治利用しようと動き出しました。彼らは朝日新聞の報道が全部間違いであり、「慰安婦」被害という戦争犯罪に当たる歴史的事実までなかったような言い方をしています。朝日新聞の報道が日韓関係を悪化させ、国際緊張を招いたと言わんばかりです。
自民党の石破茂幹事長は国会での検証まで言い出しました。これはまさに報道の自由への国家介入にあたります。橋下徹大阪市長は「産経が頑張って、朝日が白旗あげた」と大はしゃぎで、「国家をあげて強制連行をやった事実がなかったことがほぼ確定した」などと述べました。彼らは白を黒と言いくるめるつもりなのです。恥ずかしげもなく、何と犯罪的なことをしようとするのでしょう! 日本国内では言いたい放題の彼らの滅茶苦茶な暴論は国際社会では全く相手にされず、ただ危険視され蔑まれるだけだということに、まだ気がついていないようです。
彼らは、10代から20代の頃に慰安所に監禁され、毎日数人から数十人もの日本兵に強かんされ続けた女性たちの残虐な被害と、半世紀を経て勇気を持って名乗り出、日本政府に対して裁判を起こし、謝罪と賠償を求めて立ち上がった彼女たちの存在を一顧だにしないのです。
被害女性の国籍は10ヶ国以上に上ります。開館から9年が経つアクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)では、1年ごとに各国・各地の被害を伝える特別展を開いてきました。展示の中心は、被害女性たちひとりひとりの被害と人生を伝える個人パネルです。これらの個人パネルを読んでいくと、あまりにも深い傷跡とそれをも乗り越えた女性たちの勇気と決断に心打たれると同時に、戦争が終わってから69年、被害女性が名乗り出てから20年以上も経つというのに、被害者の訴えに耳を傾けないできてしまった日本政府の非情さと犯罪性を痛感せざるをえなくなります。

私たちは日本政府に訴えます。今、求められているのは「河野談話の作成過程の検証」ではなく、日本軍「慰安婦」制度についての第3次政府調査です。第2次調査以降、慰安所の設置や運営、「慰安婦」の移送などについて、研究者や市民によって膨大な数の公文書や証拠文書が発掘されています。これらの検証と、聞き取り調査が進められてきたアジア各国の被害者の証言と目撃者や元兵士の証言を収集し、「慰安婦」制度の実態について更なる真相究明を行うべきです。高齢となった被害女性への聞き取りは、今が最後の機会になるでしょう。

 この7月にジュネーブで開かれた国連の自由権規約委員会は、「慰安婦」問題(「慰安婦」に対する性奴隷慣行)について日本政府に対し、以下のような所見を出しました。

14.委員会は、締約国が、慰安所のこれらの女性たちの「募集、移送及び管理」は、軍又は軍のために行動した者たちにより、脅迫や強圧によって総じて本人たちの意に反して行われた事例が数多くあったとしているにもかかわらず、「慰安婦」は戦時中日本軍によって「強制的に連行」されたのではなかったとする締約国の矛盾する立場を懸念する。委員会は、被害者の意思に反して行われたそうした行為はいかなるものであれ、締約国の直接的な法的責任をともなう人権侵害とみなすに十分であると考える。委員会は、公人によるものおよび締約国の曖昧な態度によって助長されたものを含め、元「慰安婦」の社会的評価に対する攻撃によって、彼女たちが再度被害を受けることについても懸念する。委員会はさらに、被害者によって日本の裁判所に提起されたすべての損害賠償請求が棄却され、また、加害者に対する刑事捜査及び訴追を求めるすべての告訴告発が時効を理由に拒絶されたとの情報を考慮に入れる。委員会は、この状況は被害者の人権が今も引き続き侵害されていることを反映するとともに、過去の人権侵害の被害者としての彼女たちに入手可能な効果的な救済が欠如していることを反映していると考える(2条、7条、及び8条)。

 国際社会が問題視しているのは暴力的な連行の有無ではなく、「被害者の意思に反して行われた」行為なのです。上の文章に続く、日本政府への6項目の勧告(「慰安婦」被害の訴えについての捜査と加害者処罰、完全な被害回復、証拠の開示、教育、公的な謝罪表明と国家責任の認知、被害者の侮辱や事件の否定への非難)もたいへん厳しいものです。しかし、日本は規約の締約国として勧告を順守する努力義務があります。アジアの被害国だけでなく、世界中がこの戦争犯罪の実態を知るに至り、一向に問題解決に乗り出そうとしない日本政府、むしろ問題そのものを否定したがっている日本政府に厳しい目を向けています。新しい調査の結果をもとに、これら勧告にしっかりと対応してください。

そして朝日新聞、産経新聞も含めた全てのメディア関係者に訴えます。各国・各地で「慰安婦」にされた女性たち(多くは故人になってしまいましたが)の証言や被害にあった時の状況を、今からでも遅くはないですから丹念に取材し、それをメディアを通して多くの日本人に伝える努力をしてください。また、自由権規約委員会をはじめとする国際社会の勧告に、日本政府がどう対応するのか、これもしっかり取材して、私たちに伝えてください。

 日本政府も日本人も日本のメディアも、「慰安婦」問題をタブー視して避けて通ろうとしたり、歴史修正主義者たちのでたらめな暴論を許したり、沈黙したりすることが許されなくなってきました。今こそ私たちは、未解決の戦争被害である日本軍「慰安婦」問題に、真正面から真摯に向き合わなければなりません。
2014年8月10日
アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)



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