核発電所の安全、今スタート台
セウォル号惨事が突きつけた課題
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セウォル号惨事の痛みによって、安全に向けた社会的苦悩が、かつてなく高い。特に大都市を含め、狭い国土内に全部で23基の核発電所を挟んで暮らしているために、放射能事故についての憂慮の声が高まっている。5月2日、国会で「原子力施設などの防護ならびに放射能防災対策法」(以下、原子力防護・防災法)の一部改正案が通過するとともに事実上、核発電所の安全について本格的な社会的論議が始まった。これに対して〈ハンギョレ21〉は専門家たちと共に放射能防災をめぐる争点を探ってみた。原子力防護・防災法の限界、そして韓国版「双葉病院」の事態が生じる可能性など、現実的な防災対策について接近するための悩みを紹介する。(「ハンギョレ21」編集部)
談話発表の直後、原発外交へ
「原発の試験書類偽造事件は、国民の生命と安危を個人の私欲と変えた許されざることだ」(昨年6月3日、青瓦台首席秘書官会議)。
「数百人を放り捨てて逃亡した船長や乗務員の無責任な行動は事実上の殺人行為だ」(5月19日、大統領による国民への談話)。
惨事の後遺症的暴風が激しい。不正や無責任が招いた事故に向けて、パク・クネ大統領は間違いなく激しい砲門を開いた。セウォル号惨事の1カ月後に提起した国民への談話文の発表も同様だった。だが、その談話文を発表した直後、パク大統領が専用機に乗って向かった先は、皮肉にも国内でセウォル号惨事以降、最も至急に補完が必要だとして挙げられている核発電所だった。
「今回の事故を契機に本当の『安全な大韓民国』を作ろうと語ってから、わずか1日余りの時点で、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビ市内から西に207q離れたバラッカ核発電所1号機の建設現場を訪れたパク大統領の振る舞いをめぐって批判が起きた。ムン・ジェイン新政治民主連合議員は5月21日に特別声明を出し「(パク大統領の原発外交活動を見ると)セウォル号惨事を契機に安全社会に進むという意志が本当にあるのか、深刻な疑問を抱かせる。今は原発輸出が重要な時ではなく、セウォル号惨事以降、危険性の最も高い災難と考えられている原発事故の危険を調べてみなければならない」と指摘した。
核発電所をめぐる不正・ゆ着
このように核発電所の事故への憂慮が高まっている最大の理由は、セウォル号惨事を通して現れている「既視感」のせいだ。セウォル号惨事が繰り広げられていた4月16日、原子力安全委員会(原安委)は、これまで定期検査を受けるために停めていた釜山・機張郡長安邑の古里核発電所1号機の再稼働承認を発表した。建造20年を超えたセウォル号が旅客船の船齢制限緩和に伴って30年へと寿命を延ばしたように、古里1号機は当初に定められた設計寿命(30年)から、さらに10年延長して運営中だ。
国内核発電所23基のうち設計寿命を延長したのは古里1号機と慶尚北道慶州の月城1号機の2カ所だ。寿命延長の最大の理由はセウォル号と同様に経済性だった。その上、セウォル号が安全管理部分において海洋水産部(省)や韓国海運組合などとのゆ着関係があらわになったように、核発電所の運営にも韓国水力原子力(韓水原)や納品業者・監督機関との間の不正の前歴がある。
そういうわけで、セウォル号惨事の教訓は最近、国会や市民社会において放射能防災対策の下絵を描こうという動きへと結びついている。まずセウォル号惨事のほぼ半月後の5月2日、原子力防護・防災法の一部改正案が国会を通過した。この改正案には核発電所などの放射能事故に効率的に対応しようとして「放射線非常計画区域」(核発電所で放射能漏出事故が起きた場合、その被害を勘案し待避施設や防護物品など住民保護のための準備をしておく区域)を拡大し、区域の設定をより具体化する内容が盛り込まれた。
これまで核発電所の半径8〜10qと定めていた放射線非常計画区域を最大30qまで拡大し、この中には核発電所の半径3〜5qに「予防的保護措置区域」(PAZ)と、核発電所の半径20〜30qに緊急保護措置計画区域(UPZ)を置く、というものだ。PAZでは放射能災難(核事故)が発生すれば住民を退避させるなどの「予防的保護措置」を実施することになり、UPZ内では放射能の影響評価や環境監視を進め、住民の救護と退避など「緊急保護措置」を実施することになる。
キム・セヨン・セヌリ党議員とユ・スンヒ新政治民主連合議員が初めての発議をして以降、ああでもない、こうでもないとしながら2年余りを引きずってきた法案だった。これに先立ち3月、パク大統領は核安保首脳会議への参加を前にして改正案の通過を要請したりもしたが、改正案には放射線非常計画区域についての施行だけではなく、国際社会が関心を持っている核テロや核物質および原子力施設などの「防護」に対する内容も盛り込んでいるからだ。
放射能防災の特殊性
実際に国内で本格的に「放射能防災」についての悩みを始めてから、まだ幾らにもなっていない。本格的な放射能関連の非常対策についての必要性が提起されたのは、1999年9月の日本・東海村の核燃料株式会社(JCO)の核燃料加工工場職員らの被曝事故以降だ。福島核発電所の事故が起きて以降には原安委が発足するとともに「国家放射能防災計画」も作った。
このような歴史を勘案し、セウォル号惨事以降、既存のマニュアルももう1度点検し「最悪の状況に備えた放射能防災対策を作らなければならない」という主張が続けられている。単純に放射線非常計画区域を拡大したり、既存の法体系を改めることだけではなく、現実的な災難への対応が可能なシステムを構築しようということだ。まず、放射能防災業務を統括する専門的で独立的な機関を強化しなければならないという点が挙げられる。現行の法律体系では核事故が発生すれば、放射能災難の特殊性を勘案し、原安委が担う「中央放射能防災対策本部」に指揮体系を一元化するようになっている。他の災難の場合、安全行政部を中心とした中央災難安全対策本部と中央事故収拾本部(対応主管部署)に指揮体系を分けていることとは異なる、という訳だ。
だがセウォル号の事故以降、パク大統領が提起した収拾案は、新たに作る国家安全処を中心とした災難業務の統合に言及しており、放射能防災の特殊性が保障され得るのかが不透明だ。パク・クネ大統領は5月19日の対国民談話文で今後、発足する国家安全処に消防本部と海洋安全本部、特殊災難本部など3つの本部を設置して運営していくと発表した。
これは米国の連邦災難管理庁(FEMA)を見習った形で、中央政府が各種の災難の責任をとり、各州政府に実務を委ねるものだ。特にパク大統領が「各部署が主管してきた航空、エネルギー、化学、通信インフラなどの災難をすべて国家安全処に移管する」と発表した点からして、これまで原安委がやってきていた防災業務を国家安全処に移管する可能性もあるのだ。
少ない事故対応予算・人員
各地方自治体に放射能防災計画をまかせるやり方も補完しなければならないとの声が高い。放射線非常計画区域の拡大に合わせて、核発電所のある地域の自治体が積極的に防災関連のインフラを確保できるように、具体的な方案を組み立てなければならない、ということだ。核発電所に隣接した自治体は来年5月までに非常計画区域を拡大しなければならないが、改正案には区域拡大に伴って需要が増加することになる防塵マスクや防護衣類、事故発生後に直ちに体内に浸透した放射線の解毒に使わなければならない甲状腺防護薬品、放射線監視測定器具などの救護物品をどう準備するのかについての内容は抜け落ちているからだ。
ソ・トドク環境と自治研究所企画室長が昨年発表した「古里原発安全および防災対策の現況」報告書によれば、2008〜12年に古里核発電所の近隣地域を対象に支給している「原発支援金」5077億ウォンのうち、放射能防災予算として使われた金額は2・6%レベルの133億ウォンだった。また事故が発生すれば防災計画を立てて住民の退避などを担当する核発電所付近の自治体防災専担人員も釜山(9人)を除けば、大部分が1〜2人にすぎず、この人々でさえも民防衛や化生放(注)関連の業務を兼ねて担当している。
常設防災機構の用意を
したがって放射能防災と関連した対策を官民が共に白紙状態から1つずつ点検する作業が必要だ。キム・ヘジョン原安委非常任委員は「わが国の放射能関連の対策の歴史は、まだまだ日が浅いという仮定の下で作業を行わなければならない。国家機関である原安委だけではなく、韓水原や地方自治体、そして市民全体がそれぞれの役割を果たす構造を作るコンテンツを満たしていく作業が必要だ」と指摘した。
実際に日本・福島の事故のように原子炉の幾つかで異常が発見された場合、そして核発電所が密集した大都市や産業団地などで事故が起きた場合にどう対処しなければならないのかなどを想定して、現場にふさわしい現実的な対策を求めなければならないのだ。「ひとたび事故が発生すれば退避地域外の人々も退避を始める、いわゆる『影の退避』(Shadow Evacuation)現象が起きるために混雑などによって一層、大きな被害が現れる可能性が高い。したがって放射能防災対策が平素から、しっかりやられていなければならない。退避時間、退避輸送路、自発的退避者はどのぐらいになるのかなどを組み立てることが現実的な戦略だ」。
5月21日、キム・ジェナム正義党議員の主管でソウル・汝矣島の国会議員会館で行われた、放射線非常計画区域の実効性をテーマとした討論会に出席したイ・セヨル韓国原子力安全技術院(KINS)非常対策団長は「今回、改正された原子力防護・防災法によって、住民の保護措置の実効性を担保しようとするのならば、単純な区域の再設定にとどまらず、防災体系全般に対する総合的で綿密な検討を通じて改編案を用意しなければならない。改編の過程にあっては利害当事者間に葛藤も生じ、多様な意見の交流も欠かすことができないし、専門機関が技術的根拠を提供することに努力しなければならない」と語った。
現在、国会では核発電所の安全を強化することのできる多様な意見があふれ出ている。原安委のほかにも原発の安全を強化することのできる官民合同の防災システムを作ったり、常設の防災専担機構を新設するための法的制度を用意しようという意見もある。引き続き運転をしていこうとしている古里1号機や月城1号機などの稼働中断についての具体的な原則や手続きを盛り込んだ「老朽原発の廃炉推進手続き法」についての主張もある。
セウォル号惨事の教訓を刻むための放射能防災論議がスタート・ラインにある。(「ハンギョレ21」第1013号、14年6月2日付、キム・ソンファン記者)
注 民防衛 民間による非軍事的防衛行為および訓練。組織として地域民防衛隊と職場民防衛隊がある。
化生放―警報 化学、生物、放射能兵器が使用されたときに発せられる警報。
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