97・9%の不信任でも踏んばるキルKBS社長
新労組94・3%の賛成でストへ
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韓国のKBS(韓国放送公社)理事会(与党推薦7人、野党推薦4人)は6月5日、キル・ファニョン社長の解任決議案を7対4で可決した。セウォル号沈没事故についての報道に政府が圧力をかけ、それに会長が応じていたことからKBSの2つの労組が反発してストに入る中で理事会の決議案が採択された。以下の記事は、この事態に至る経過と背景を伝えている。(「かけはし」編集部)
辞職しないのだろうか、辞職できないのだろうか。やめるのが嫌なのだろうか、やめられないのだろうか。歴代のどの社長よりも社の内外の激しい退陣の圧迫を受けているキル・ファニョンKBS(韓国放送公社)社長は、本当に引き下がる時ではないと考えているのだろうか、それとも引き下がる時ではないとの答えをもらったのだろうか。
セウォル号の惨事が公営放送KBSの惨事として爆発している。セウォル号犠牲者の家族たちのKBS、青瓦台(大統領府)への抗議(5月8〜9日)→報道局長の退陣および社長の謝罪(9日)→報道本部長、各部門部長の辞任(16日)→記者協会が制作拒否(19日)→社内2大労組のスト賛否投票(21日から)へと連なってきた「KBSの事態」がキル社長退陣の山場を迎えている。全国言論労働組合KBS本部(新労組)は5月23日に「圧倒的賛成」によってストライキを可決した。キム・シゴン前報道局長の不適切な発言(「セウォル号の事故は300人が一挙に死んで数が多いように見えるが、年間の交通事故死の人数を考えれば、そう多いわけではない」)によって事態が触発されて以降、青瓦台に向かう怒りの要所をキル社長が「踏んばりながら」阻んでいる形だ。
「社内パワーゲーム」で判断
キル社長は何度か語った。「時が来れば喜んで引き下がるだろう」とか「政治的目的達成のための煽動や爆力には絶対に辞任することはないだろう」(5月21日、社内特別談話)として、退陣を求めている社内の構成員たちに向けて強硬対応を明言した。「政治的煽動によって再びKBSを奈落の底に落とそうとする不法な試図があるのならば、職を賭してでも誰よりも厳重に社規と原則に従って対応するであろう」(5月21日談話)。「青瓦台面接」で論難をひき起こした後、1週間にして辞任したペク・ウンギ前報道局長の後任にイ・セガン報道本部解説委員(MB政府時代に親イ・ミョンバクの放送指揮で論難となった人物)を据える「強攻人事」によって、退陣不可の意志をあらわにしたりもした。
彼の話法に従えばKBSの事態は因果の脈絡から離脱し、社内のパワーゲームへと転換される。「社長を媒介とした青瓦台による公営放送の報道への介入疑惑」という事態の核心を、キル社長は自身と反対勢力間の対決へと狭めている。
キル社長の「フレーム」がそのまま受け入れられているようではない。KBS内外では彼の「不退陣の事情」を異なって読み取っている見方が多い。キル社長が追い込まれた状況は、過去の社長退陣運動の時とはいろいろな点で異なっているからだ。
第1に、「2008〜09年、イ・ミョンバク政府のイ・ビョスン、キム・インギュ社長任命」の過程で展開されたKBS構成員らの闘争は、政権の「落下傘社長」任命と「放送掌握」の論難が発火点となった。キル社長退陣運動は、災難をあしざまに非難している災難主管の放送社に向かって被害家族や国民の怒りが爆発しつつ始まった。政権の放送介入が、前者は歴代政権ごとに繰り返される「悪循環の経路」にしたがったのだとすれば、後者はセウォル号の惨事という巨大な悲劇とあいまって「突出」した。見守っている目も多く、辞任を望んでいる世論も桁はずれだ。
第2に、労組や若い記者たちではなく、報道局の最高指揮者から「青瓦台による報道への介入」疑惑が噴き出してきた。かつて下から提起された報道の公正性をめぐる論難のたびごとに、報道本部の責任者たちは疑惑を否認しつつ社長を保護した。KBSのある記者は「報道局長が、青瓦台による介入の事実をまっ先に暴露するとともに社長退陣を要求し、部長やチーム長らが一斉に自らの役職の辞任によって合流するということはKBS史上、およそ類例のないこと」だと語った。キム・シゴン前報道局長は5月9日に続き16日にも「青瓦台の海警(海洋警察)に対する批判の自制指示および自身に対する辞任要求の状況」を追加暴露した。キル社長は記者会見や社内談話を通じてキム前局長の暴露を繰り返し否認した。すべて個人的判断であったのであり、青瓦台とは何の関係もない、との話だった。パク・ジュヌ青瓦台政務首席の電話(5月9日、パク・ヨンソン新政治民主連合院内代表の礼訪の場で、「事案が極めて深刻で、KBSに最大限の努力をしてくれ、と頼んだ」と明かしたこと)もキム前局長の辞任および自身の青瓦台前での謝罪とは関係ない、と語った。だがチョン・ホンウォン国務総理の国会発言(5月21日、「イ・ジョンヒョン青瓦台広報首席が、セウォル号の事態が重大かつ危険なので海警の士気を高めてくれという趣旨のつもりで要請した」)においてさえ、「報道統制」を「報道協力」だと考えている政府の認識があらわらなった。
味方のいない寂しい孤立無援
第3に、キル社長は孤立無援だ。かつてのどの社長よりも味方がいない。幹部らの大多数が社長に従い、社員たちの中でも意思が異なっていたイ・ビョンスン、キム・インギュ社長反対の時とは大きく違う。記者協会(5月19日から)、PD協会(23日)が制作拒否に踏み切り、以前にはない規模の幹部たち(23日まで、本社・地域の部長級が合計49人、チーム長級232人)が職を投げうち退陣要求の隊列に合流している。社長のスピーカーの役割をしていた広報室のチーム長2人が部署を放棄した点(22日)も象徴的だ。
ブラジルW杯の中継の責任者であるスポーツ局の部長たち(23日、5人)までが現場を離れ、メインニュースの進行者を含むアンカー(TVやラジオでの総合ニュースの進行者)たち(23日まで14人)や特派員らもマイクを手放した。KBSのある記者は「部長やチーム長らの大部分が制作現場に残ってブランクを埋めていた2012年の新労組のストの時とはまるで違う」と語った。報道本部の1関係者は「審議室のメンバーなどが〈連合ニュース〉に映像を重ねるというレベルでニュースを制作している。制作拒否の影響はかつてないほどに大きい」と伝えた。「これまでに経験したことのない大同団結」という言葉が出てくるほどだ。KBSの外部では言論学者137人がキル社長の退陣を促す声明(22日)を発表した。
記者―PD間の職種の葛藤を事態の原因と決めつけようとするキル社長(PD出身)の戦略(21日、「職種間の文化の違いから始まった小さな葛藤が時間の経過とともに積み重なることによって、とんでもない誤解や不信の対象となることがあり得る」)も効果は得られない。あるPDは、「笑わせるよ」と言った。彼は「KBSのPD協会がキル社長を会員から除名(19日)し、制作拒否に合流したのは、職種の利己主義が事態の発端ではないという事実を立証する」と語った。
第4に、労組の団結が決定的だ。KBS内の2大労組が社長退陣運動で力を合わせている。「2009年にKBS労組(第1労組)と新労組とに分かれた後、同時ストを推進したのは今回初めてだ。それぐれらいに社長退陣で社内の意見が一致しているという意味だ」。新労組関係者は語った。それぞれにゼネストの賛否投票に入った2大労組は5月26日前後にスト突入の日程を合わせるために調整している。
そこでだ。キル社長は辞任しないのだろうか、辞任できないのだろうか。新労組が最近実施した信任投票で、キル社長は97・9%の不信任を受けた。キル社長はコンテンツ本部長だった2011年、不信任率88%を記録した。イ・スンマンとペク・ソニョプを扱ったドキュメンタリーの制作を指揮し、PD協会内で「キル・ワニョン(注1)」という非難を受けたりもした。彼の退陣拒否をめぐってKBS内では「青瓦台の許可が下りないから」という見解が多い。ある記者は「キル社長はKBSを正常化させた後、時が来れば喜んで引き下がるだろうと言っているが、その『時』を青瓦台から得られなかったからではないのか」と話した。中堅記者も語った。「労組による出勤阻止のために、会社に出てくることも難しい。幹部たちも次々に背を向けている。会社は既に統制不能だ。記者とPDを失った放送社の社長が、今さら何ができるのか。社長の役割が果たせないのに引き下がらないのは、自ら身を引くことのできない状況だからと見なければならない」。
5月28日、解任案票決で合意
青瓦台がキル社長の退陣を阻んでいる理由。目前に迫った地方選挙(6月4日)と連係した解釈が出てくる。「キル社長と青瓦台の『関係』が現れた現在、KBSの事態は与党の地方選挙にもプラスになる訳がない。だがキル社長が引き下がり、KBSから権力批判の声がどっと出てくる状況は、はるかに負担だ」。KBS報道本部関係者の解釈だ。「キル社長が辞任すれば社長―社員間の葛藤ではなく青瓦台―社員・国民の衝突の構図になる。キル社長が、政権が受ける衝撃を吸収してくれるのが相対的に良い」。キル社長の「時」が地方選挙以降、遠からず迫ってくるだろうという観測が、この見解の根底にある。
彼の役割にいささか積極的な意味付与をする見通しもある。チョン・キュチャン言論連帯代表は、「ストの対応を口実に労組の力を削ぎ、社内の批判の声を鎮圧したキム・ジェチョル前MB社長の役割を政権が期待していることもあり得る」と考えた。キル社長の早期退陣を引き出せない時には、KBSがMBCのようになりかねないとの憂慮が社内にも少なくない。社長退陣の隊列に参加している記者は「事態が長期化すれば、『試用記者』の採用や懲戒・報復人事によって批判の声を除去しMBCの今日が我々に迫り来ることもあり得る」と語った。
青瓦台の意図は、KBS理事会のキル社長解任案の票決から読み取ることができるものと思われる。理事会は5月21日に臨時理事会を開き、26日にキル社長解任案を上程することで合意した。野党理事たち(4人)は当日の票決を要求しているが、与党理事たち(7人)は5月28日頃の票決を推進するものと伝えられている。社長の去就を決定する歴代の理事会では青瓦台の意中が与党理事たちを通して表れた。
解任案が上程されたという点から与党側理事たちの気流の変化を感知する展望もある。結果は予測しがたい。ある野党推進理事は「理事会が解任する方式でキル社長を整理してくれることを青瓦台は望むこともできる」と見通した。「キル社長はパク・クネ政権が任命した人物ではない。セウォル号の局面でKBSが『青瓦台放送』と烙印づけられた時に、地方選挙にもマイナスになると判断する可能性がない訳ではない。キル社長が自ら退陣すれば(彼が防いでくれていた)火の粉が青瓦台にそのまま降り注ぐので、理事会レベルでキル社長を整理する形式を取るということもあり得る」。ある与党推薦理事は「今の状況で個人の意見を語るのは難しい」と語った。
ストを阻む道、社長の選択
責任部署を辞任した一部の幹部たちや与党系理事たちの動きを「次期走者たち」と結びつけて考える見方もある。KBSの内外ではキル・ファニョン以後をねらっている人々の名前が既に取り沙汰されている。これらの人々は与党系理事たちとも利害関係が絡んでいることで知られ、票決にいかなる変数として作用するのか、条件や事情が一層複雑になっている。キル社長退陣をめぐる「同床異夢」を警戒する声が出てくる背景だ。
2大労組のストはキル社長にとって大きな脅威だ。キル社長は社内の談話で「4700人余の職員たちのうち、沈黙している多数が両労組の名分のない闘争を無力化させるだろう」と強弁した。KBS労組(技術職中心、2500余人が所属)の組合員を合わせただけでも3700余人に達する。解任案処理のカギは理事会が握っているが、ストのパワーによって理事会も圧迫を受けざるをえない。
5月23日まで進められた新労組のスト賛否投票の結果(在職組合員1131人中1052人が投票、投票率93%)94・3%の賛成でストが可決された。新労組は非常対策委員会を開き、ストの日程についての論議に入った。第1労組は5月27日まで投票が予定されている。新労組関係者は「26日に組合員総会を開き、直ちにストに突入することもできるが、第1労組との史上初の同時ストの実現のために相互間で日程を調整しようと思う」と5月23日に語った。新労組は5月28日にKBS理事会の理事長解任提唱案が可決されない場合、即時ゼネストに突入するとの方針だ。
KBSの事態が「頂点」にかけ上がっている。(「ハンギョレ21」第1013号、14年6月2日、イ・ムニョン記者)
注1 日韓併合の過程で重要な役割を担った親日派(=売国奴の意)官僚、李完用(イ・ワニョン)をもじったものと思われる。
注2 6月4日に投・開票が行われた統一地方選挙(主要8市・9道の広域自治体首長選挙)で、ソウルでは野党系現市長に惨敗したものの与党はセウォル号の逆風の中で、ほぼ現状を維持した。
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