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    かけはし2014.年6月16日号

環境破壊を加速するエネルギー戦略と農業政策を止めよう


略奪性を深め、人々を棄民化する資本の論理


IPCC第5次報告書  


  IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、〇七年の第四次評価報告書(AR4)に続き、一三年から一四年にかけて一連の第五次評価報告書(AR5)を発表している。
 昨年九月二七日に第一作業部会(自然科学的根拠)の報告書、今年三月三一日に第二作業部会(将来の変動、影響、リスク)の報告書、四月一三日には第三部会(適応策と緩和策)の報告書がそれぞれ発表され、統合報告書は一〇月に発表される。
 第一作業部会の報告書だけでも数百人の科学者と専門家が執筆、校閲に関わり、本文が約二五〇〇ページにわたり、数百万回に及ぶ観測と、気候モデル・シミュレーションによる二〇〇万ギガバイトを超える数値データに基づき、九二〇〇点を超える学術書が引用されているという(IPCCの一三年一〇月一日付プレスリリース)。
 第一作業部会の報告書は次のことを明らかにしている。
@人間が地球温暖化に影響を与えていることは、九五―一〇〇%の確度で間違いない。
Aそれによって極端な気候が引き起こされており、極端に暑い日が多くなり、寒い日が少なくなり、熱波の頻度と持続期間が増し、極端な豪雨の頻度と雨量が増え、洪水が頻発する。
B氷床が融解している。この二〇年間にグリーンランドと南極の氷床が縮小し、全世界的に氷河が縮小している。一度から四度の気温上昇でグリーンランドの氷床は不可逆的に融解し、その後の一〇〇〇年間に海面が七メートル上昇する可能性がある。
C二一〇〇年までに地球の温度が最大で五度上昇する可能性がある(国際的な環境NGO、「地球の友」のウェブ、一三年九月二七日付より)。
 ICPPのデータに基づく「地球の友」(FoE)による試算では、温度上昇を二度以内に抑制するためには、欧米諸国は二〇三〇年までに温室効果ガスの排出を八〇―九〇%削減しなければならない。

化石燃料の使用削減を


今年三月二五―二九日に横浜でIPCC第38回総会が開催され、同三一日に第二作業部会の報告書が発表された。気候ネットワークの三月三〇日付の声明によると、「この報告書では、気候変動の影響が現在、陸域、海域のあらゆる場所で表れていることが明らかにされ、これまでに予測されていた気候変動の影響が現実に起きていることが再認識されました。気候変動の適応策がフォーカスされると同時に、気候変動の影響が私たちの適応の限界を超えうることも示されました」。
この報告書はまた、気候変動のリスクが「不均等に配分されており、一般的に、あらゆる発展レベルの諸国において不利な条件にある人々やコミュニティーでより大きくなっている。気候変動が特に作物生産に及ぼす影響に地域差があるため、リスクはすでに中程度に達している。気温上昇が二度を超えた場合、予想される地域的な作物生産量や利用可能な水の減少を基に判断すると、影響の不均等な配分のリスクは一層高くなる」と指摘している(同報告書の「政策立案者向け要約」より)。
第三作業部会の報告書は、温室効果ガス排出削減の方法に焦点を当てている。この報告書から五つの厳然たる事実が明らかになっている。
@化石燃料の使用が最大の問題で、温室効果ガス排出の四分の三以上を占めている。温暖化を二度以内に抑えるためには、二〇四〇―七〇年の間に化石燃料の消費を九〇%以上削減する必要がある。
A発展途上国において化石燃料から低炭素燃料への移行を進めるために、富裕国がそのコストを負担するべきである。
Bエネルギー効率の良い、低炭素燃料への投資を増やすべきである。
Cバイオ燃料の役割は限定的であり、適切に規制されていなければならない。
Dまだ危険な気候変動を回避することは可能である。そのためには温室効果ガスの排出削減のための迅速な行動と、大気中から二酸化炭素排出物を除去する技術の開発、行動の変化(より健康な食生活への転換など)が求められる(「地球の友」のウェブ、一四年四月一三日付より)。
IPCCの報告書には、いくつかの重大な問題が含まれている。原子力エネルギーの段階的削減を視野に入れているものの、原子力を自然エネルギーと並べて、低炭素エネルギー源として試算の中に組み込んでいる。また、二酸化炭素回収貯蔵技術などの未確立の(長期的な環境への影響が不明)技術への投資を奨励している。これに便乗する形で、日本政府(経産省と環境省)は二酸化炭素回収貯蔵技術を利用した「世界最大級」の設備の実用化に向けて、二〇二〇年をめどに候補地を選定することを計画している(「毎日」六月六日夕刊)。
しかし、報告書は全体として、気候変動の影響についてのこれまでの予想が現実となりつつあること、事態がますます切迫していることを圧倒的な事実によって明らかにし、各国政府の怠慢に対して、あらためて警告を発したという点で画期的と言えるだろう。

エネルギー産業との攻防

 米国政府は五月六日に「第三次アメリカ気候評価」を発表し、「地球温暖化に伴う諸問題が、既に一般のアメリカ人にも影響を与えている」と警告し、「この結論が示唆することは、気候変動の脅威と戦い、今日のアメリカ市民と地域社会を守り、子や孫の世代までも持続可能な未来を残すために、緊急の対策が必要であるということだ」という声明を発表した(ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイトより)。
実際、米国においても、気候変動が原因で、西部の干ばつや東部での洪水による道路損壊、頻発し大規模化する山火事など、経済、公衆衛生、生態環境に実質的な被害が出ている
六月二日には同政府は、二〇三〇年までの目標として、国内の発電所が排出するCO2を〇五年の水準から三〇%削減すると発表した。環境保護庁の長官ジーナ・マッカーシー氏はプレス発表において、「CO2排出によって気候変動が進行すれば、われわれの健康や経済、生活が多大なリスクにさらされる」と述べた(同)。
国防総省も、安全保障の観点から、気候変動問題に大きな関心を示してきた(エネルギー・ロビーの圧力によって、連邦議会では国防総省の予算を気候変動問題の調査に使うことを禁止する修正法案が可決された)。
一方で米国政府はシェールガス開発と輸出を戦略的な重点として設定している。
シェールガスは組成の九〇%がメタンであり、メタンは二酸化炭素の十数倍の温室効果があると言われている。しかも大量のシェールガスが供給されることによって燃料の市場価格が下がれば、自然エネルギーへの転換の誘因が失われることも予想される。
米国ではすでに三一の州でシェールガスの開発が実施または計画されており、すでにフラッキング(水圧によって岩石を破砕する工程)や採掘に伴う廃棄物による飲料水や大気・土壌の汚染が明らかになっている。
連邦レベルでは、石油・ガス企業は飲料水安全法や大気汚染防止法など七つの環境関連の法律の適用を除外されている。さらに、現在米国とEUの間で交渉が進められているTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)においては、締結国の政府の環境規制がエネルギー企業の利益を妨げる場合に、エネルギー企業が政府に対して提訴することができるという規定が導入されようとしている。TPPにおけるISD(投資家・国家間紛争)条項も同様のことを意味している。
米国にとってシェールガスは、中東の石油への依存を減らすだけでなく、ヨーロッパ諸国のロシアからの石油・ガス輸入への依存を減らすという点でも、戦略的価値が高い。そしてエネルギー産業はIPCCやCOPにおける気候変動問題への取り組みそのものに反対してきた。
ヨーロッパ各国政府も、化石燃料の開発に巨額の補助金を出しつづけている。
世界のCO2排出量の最も多い九〇の企業(合計で世界の総排出量の三分の二を排出している)のうち八三社が石油・ガス企業である(「地球の友」のウェブ、一三年三月三一日付)。気候変動抑制のためのイニシアチブであったはずのCOP会合は今やこれらの企業に乗っ取られてしまった(本紙一四年一月一日号掲載の拙稿を参照)。
温室効果ガスの排出削減への各国政府の取り組みの後退の中で、今やエネルギー企業はわがもの顔に振る舞っている。
信じがたいことに、二〇一〇年にメキシコ湾で大規模な石油流出災害を引き起こした英国のBP社(旧ブリティッシュ・ペトロリウム)は、米国環境保護局による新規入札参加資格はく奪を不当であるとする訴訟を起こし、さまざまなロビー活動を通じて、オバマ政権に同社の入札資格を回復させた。
エクアドルで長年にわたって石油開発に伴う廃棄物を放置してアマゾンの環境と住民の生活を破壊したシェブロン(旧テキサコ)は、エクアドル国内の裁判で賠償命令が出されたにもかかわらず、ニューヨークの裁判所に逆提訴し、賠償命令は無効とする判決を勝ち取った。シェブロンはすでにエクアドルから撤退し、同国には差し押さえるべき資産がないため、住民側はカナダ、ブラジル等でシェブロンに賠償を求める裁判を起こしており、カナダではオンタリオ高裁で住民側の主張を支持する判決が下されている。
このような背景の下で、エネルギー産業・企業に対する直接的な闘いが拡大している。一一年の米国におけるウォール街占拠やヨーロッパにおける広場占拠の闘いを通じて広がった「一%」のエリートによる支配に反対するラディカルな直接行動は、気候変動をめぐる「クライメート・ジャスティス」の運動と結びつき、米国・カナダ間のキーストンXLタールサンド・パイプライン建設反対の闘い(米国政府による認可を二年以上にわたって阻止している)や、欧米各地におけるシェールガスのフラッキングに反対する運動をこの問題における攻防の頂点へと押し上げている。
本紙五月五日号の投稿で、たじまよしおさんは次のように提案している。「尖閣周辺の石油開発をストップさせる、東アジアのまさに草の根の運動をともに組織してゆくべきであると思う。このことは東アジア諸国の経済活動、大量生産・大量消費の経済の有り様を問い、私たちの日々の生活の有り様をも同時に問うことになる」。筆者はこの提案に大賛成である。

開発主義・土地強奪への抵抗

 気候変動・地球温暖化は大量消費・大量廃棄を特徴とする資本主義的な経済成長モデルが限界に達していることを、多くの人々の意識あるいは潜在意識に刻み込んできた。このことから「脱成長」のさまざまなモデルが提唱され、エクアドルやボリビアの先住民族の価値観を象徴する「よく生きる」というスローガンが注目されてきた。
気候変動問題に即して言えば、これは資本主義的な経済成長モデルに沿って、市場原理の導入によって温暖化対策を進めるのか、そのようなモデルを拒否し、資本の活動を大幅に規制し、共同体や「公」の領域を保全・拡大することを通じて温暖化を抑制するのかという選択を提起している。
IPCCの報告においても、温暖化がとりわけ「発展途上国」の農業、食糧、水に及ぼす影響が詳細に取り上げられている。しかし、「発展途上国」農民たちを困窮に追いやっているのは、自然環境や災害だけではない。
小農民を支援しているNPO、GRAINが五月に発表したレポートによると、世界の食糧の大部分を生産している小規模農民は、世界の耕作地の二五%以下に押し込められている。農業企業やバイオ燃料企業、土地投機商によって数百万人の農民が土地を奪われている。GRAINのコーディネーターのヘンク・ホベリンクさんは「小規模農民たちはすさまじい勢いで土地を失っている。これは逆農地改革運動だ」と指摘し、「これを放置しておけば、世界は必要な食糧を賄えなくなる」と警告している(「インタープレスサービス」五月二九日付)。
国連食糧農業機構(FAO) は二〇一四年を「国際家族農業年」と位置付け、家族農業が世界の食糧生産に重要な役割を果たしていることを認めているが、ホベリンクさんによると、FAOは土地所有権の実態について正確に把握していない。また、小規模農業の生産性は、一般的に考えられているよりもはるかに高く、多くの場合、大規模農場をはるかに上回っている。
ジンバブエ政府は二〇〇〇年に大地主(白人)の土地を小規模農民に分配したことによって激しい国際的非難を浴びたが、土地分配の結果、現在、食糧自給率が当時の六〇―七〇%から九〇%に向上している。国際的な農民運動団体、ビアカンペシナの事務局長のエリザベス・ムポフさんは「ジンバブエの女性は自分の土地を保有するようになった。それこそが食糧主権のカギだ」と語っている(同)。
隣国のモザンビークでは、UNAC(モザンビーク全国農民連合)の農民たちが、同国と日本、ブラジルの三カ国によるプロサバンナ計画に反対して、自分たちの土地と共同体を守るための闘いを続けている。この計画はブラジルの大規模農業をモデルにしたもので、この数年、アフリカ、アジアなど各地で猛威をふるってきた「ランドラッシュ」の流れの中にある。

南米先住民族の闘い


小規模農民と共に、地球環境と生態系を守る最前線に立っているのが先住民族の運動である。
特に、南米のボリビアとエクアドルで、左派政権の下での一連の進歩的な環境政策は、先住民族と環境運動・市民運動活動家の共同の闘いの成果であった。「自然の権利」や「よく生きる」を謳った画期的な憲法、二〇一〇年にボリビアで開催されたコチャバンバ会議、エクアドルのヤスニ計画は、クライメート・ジャスティスを掲げる運動のシンボルとなってきた。
しかし、この間、ボリビアとエクアドルの両国で、左派政権が進める開発をめぐって、政府と先住民団体の間で、また先住民の居住地域の中やさまざまな運動団体の中で、重大な対立が起こっている。
エクアドルでは、コレア大統領が昨年、国際社会からの協力が得られなかったことを理由に、ヤスニ計画を中止し、石油開発を進めると発表した、これに反対するグループが、石油採掘について国民投票を実施することを求めて、七八万人の署名を集め、選挙管理委員会に提出した。ところが選挙管理委員会は不当な理由で三〇万人余の署名を無効とし、国民投票の請願を却下した。
エクアドル政府はまた、五つの鉱山開発計画を強引に進めようとしており、アンデスの先住民が居住するインタグ地区では、開発計画に反対するリーダーを逮捕し、多数の警官を常駐させて、反対の声を封じ込めようとしている。
ボリビアにおいても、高速道路の建設をめぐって先住民団体が政府に抗議している。
ブラジルでは先住民族が巨大ダム開発等に反対する戦闘的な闘いを継続している。
筆者は、「南」の諸国が開発の権利を主張することには、たとえそれが環境破壊を伴っているとしても、一般的に反対する立場には立たない。「北」の諸国による徹底した収奪と破壊の歴史を不問にして「南」の諸国に「脱成長」の考え方を押し付けることや、経済的自立の手段として開発を進めようとする政権を一方的に断罪することには違和感を覚える。しかし、左派政権と当該の先住民族や住民が対立する局面において、左派政権であることを理由に、開発を容認することは誤りであると考える。
開発主義に対するわれわれの批判は、日本における開発主義・消費主義的な生活や文化のあり方を変えていくことと一体でなければならない。そしてその観点から、インタグ、ヤスニをはじめとする開発計画と抵抗する先住民族を先頭とした運動に連帯することが重要である。
気候変動の抑止は、市場原理によってではなく、このような住民の直接的な行動の拡大を通じて可能となるだろう。  (小林秀史)


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