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    かけはし2014.年3月31日号

労働法をブチこわす規制緩和


2.28 関西共同行動連続講演会 第2回

資本を縛る強制力が失われる

この暴走を止めろ西谷敏さんが講演



 【大阪】関西共同行動主催の連続学習講演会の第二回目が二月二八日、おおさかユニオンネットワークが協賛しエルおおさか南館で開かれた。
 中北龍太郎さん(関西共同行動共同代表)がはじめのあいさつをし、安倍政権の全面的な攻撃の中で連続学習講演会を持つことになったことと今後の講演会の日程を報告し、講演に移った。
 西谷敏さん(大阪市立大学名誉教授・労働法)が、「労働法の規制緩和攻撃と日本の社会・国家」と題して講演をした。西谷さんは講演の最初に、今年もらった同業の労働法研究者からの年賀状に、「労働法はこれからどうなるのだろうか」という憂いの言葉があったことを紹介し、労働法は危機的な状況にあることを述べた。「規制緩和要求があまりにも多様で、しかも矢継ぎ早に打ち出されているため、問題状況の把握そのものが難しい状況にある。できるだけ多くの人々に、今起ころうとしている事態を知ってほしい」と語った。これほど全面的な攻撃なのに社会(労働組合)はなぜ静かなのか、と西谷さんは嘆く。
 規制緩和攻撃に関係する法律はいずれも二〇一三年一二月に成立している。産業競争力強化法が一二月四日、国家戦略特別地域法が一二月七日、研究開発強化法改正・大学教員任期法改正が一二月九日。まさに、国民の目が秘密保護法反対の方に奪われていた頃だ。マスコミもほとんど報道しなかった。(講演要旨別掲)。

熱のこもった
質疑応答から
講演の後、郵政現場の三重構造の実態や、郵政の商品を職員が購入したうえで、勤務時間外に自分で安く販売している実態が報告された。また、次のような質問と応答があった。
Q1(ホワイトカラー・エグゼンプションについて)「労基法四一条二項(労働時間の規定の適用除外、管理の地位にある者)は、名ばかり管理職には当てはまらない。超過勤務の不払いは違法だ。現実的には、裁量労働制で対応できるのに、手続きが面倒だなどという理由でやろうとしている」。
Q2(労働組合の結成にいたらないスト集団とは?)「フランスとかドイツの例をイメージしている。市民や労働組合がネットワークを作る。労働法のことは労働組合の問題だ、市民は関係ないという対応でいいのかということだ」。
Q3(外国人受け入れはどのようにして)「受け入れているのは専門職のみ。他は二年間が限度の研修生制度の枠内だが、その制度の運用枠を拡大する方法を使うだろう。でもいずれ、それでは対応できなくなる」。
Q4(本当に労働力は足りないのか)「少子高齢化で客観的には不足する。日経連は二〇一一年、いずれ一五〇〇万人ぐらいは外国人に頼らなければいけないといっている。適正な条件で受け入れることを考えるべきだ」。
Q5(外国人の労災問題はどう考えるか)「不法入国者の場合は別だが、きちんと保険に入って対応すべきだ。どうしても危険な仕事をさせられることが多いが、外国人だから労災で損害額を低くするとかはできないだろう」。
まとめは、垣沼陽輔さん(ユニオンネットワーク代表)が行い、西谷さんの著書(『日本の雇用が危ない』(旬報社)、『人権としてのディーセントワーク』(旬報社)を紹介した。(T・T)

西谷敏さんの講演から

労働組合の存在意義
が問われる全面攻撃

産業競争力会議
の議論の中から
竹中平蔵などが主張していた雇用特区構想とは、国の成長戦略を実現するため、大胆な規制改革を実行するための突破口として『国家戦略特区』を創設することをさす。これまでの特区では実現できなかった、世界からの投資を惹きつけるインパクトのあるものに限って対象とする。
昨年九月二〇日の産業競争力会議の会合で、特区構想に労働・雇用の規制緩和が含まれていることがわかった。構想の中にあげられていた規制緩和項目は、@労働契約法一八条の緩和(有期労働契約が反復更新され五年を超えると、無期契約に転換する権利が行使できるが、この権利を労使合意で行使しないことを認める)、A解雇制限の特例(労働契約法の特例規定として、特区内で定めるガイドラインに適合する契約条項にもとづく解雇は有効とする)、B労働時間規制の特例(年収などの一定の要件を満たす労働者が希望すれば、労働時間・休日・深夜労働の規制をはずして労働条件を定めることができる、の三項目だ。
これを推進する内閣官房・経産省に対して厚労省は激しく抵抗した。抵抗の論拠は、労働条件の基準は全国一律に法律で定める(憲法二七条二項)べきで、一定地域だけの労働条件は認められないとするもの。特区は憲法一四条(法の下の平等)にも違反する。結局、特区項目から雇用ははずされた。しかし、Bについては、全国的な問題として労働政策審議会で検討することになり、残り二つは法律に書き込まれ、国家戦略特別区域法は成立した。つまり、@については労働契約法一八条の特例措置に必要な法律を一四年度通常国会に提出をめざすとされた(附則二条)。Aについては、労働契約に関する判例をもとに作成する「雇用指針」にもとづいて、国が指導・助言することとなった。
規制緩和が全国的に検討される方向が示されたことで、突破口を開くという狙いは達成されたともいえる。以下規制緩和のもくろみを具体的に見ていく。

労働者派遣法
の全面改悪へ
リーマンショック後の派遣切り、年越し派遣村の取り組みを経て、現行法は二〇一二年一〇月に施行され、法律の名称にも「派遣労働者の保護」が明記された。その主なものは、親企業などの「関係派遣先」への派遣割合は八割に限定、事業所ごとのマージン率の公表、日雇い派遣の禁止、違法派遣の場合は、派遣先が労働契約の申込みをしたものとみなす制度の創設、である。
改正されてまだ一年ほどだというのに、厚労省は「今後の労働者派遣制度のあり方に関する研究会」報告(一三年八月)で、考え方の根本的な転換を主張した。報告書は労働政策審議会の建議として一四年一月二九日に厚労大臣に提出された。厚労省は、派遣法改正案を一四年に通常国会に提出し、一五年四月の施行をめざすという。
その内容は、@登録型・製造業務派遣は禁止しないA派遣はすべて許可制B政令二六業務とその他の区別を廃止C派遣元に無期雇用されている労働者の派遣は期間制限なしDその他の労働者は同一部・課での受け入れ期間は三年(部・課を変えれば期間制限なしも可能)E同一事業所全体で三年を超えて継続して受け入れる場合、三年ごとに過半数代表の意見を聴取すれば延長も可能、というもの。明らかにあらゆる業務の派遣の恒久的利用が可能になる。これは、派遣労働者を利用する企業と人材派遣業者(産業競争力会議のメンバーである竹中平蔵は、人材派遣業会社パソナグループの会長を務める)の利益のみを考慮した改正案だ。

有期労働契約
の規制緩和
改正労働契約法が二〇一三年四月に施行された。その一八条では、有期労働契約が反復更新され五年を超えると、無期契約に転換する権利が行使でき、企業はそれに従わなければいけない。
ところが、一三年一二月に成立した特区法や改正研究開発強化法・大学教員任期法では、無期転換申込み権は五年ではなく一〇年とされた。労働契約法一八条に大きな例外を認めようとしている。きわめて強引で看過できない。

労働時間規制
も緩和される
政府の規制改革会議は一三年一二月五日、「労働時間規制の見直しに関する意見」において、一律の労働時間管理がなじまない労働者に対する新たな適用除外制度の創設を要求している。その骨格はホワイトカラー・エグゼンプションと同じだが、異なる点は、適用除外の範囲の決定を労使協定に委ねている点、一定期間における長時間労働時間の設定や翌日の労働開始までの最低限のインターバル・休暇取得のための強制的取り組みをセットにしている点だ。現行制度でも裁量労働制度が認められているから、ホワイトカラー労働の特殊性を理由として、時間外割増賃金の支払いを免れさせようとする制度に正当な根拠はない。企業間競争に巻き込まれる企業別組合が、労働時間制限の有効な役割を果たし得ないことは、現在の異常な長時間労働がまさに三六協定に基づいていることで明らかだ。

そして解雇
制限も……
一般的な解雇制限(労働契約法一六条)の特例を認めるという構想だ。解雇が無効であっても、一定の金銭の支払いによって、労働関係を終了させるという制度の導入も執拗に要求されているが、これは認められない。

雇用調整助成金
大幅増額の意味
一一七五億円から五四五億円に削減する一方、労働移動支援助成金を二億円から三〇〇億円に増加させるという予算編成でもわかるように、安倍政権は衰退産業から成長産業への労働力移動を積極的に促進する方向を明確にしている。
産業構造の転換にともない、労働者が移動することは中長期的には不可避だ。労働者が移動しやすいように、充実した職業訓練・訓練中の生活保障・移動により不利益とならない退職金や年金制度などの整備をした上で、基本的には労働者の自己決定に委ねるべきだ。

限定正社員
とはなにか
規制改革会議によると、限定正社員の定義は、「職務・勤務地・労働時間のいずれかが限定される正社員」となっている。解雇制限との関係では、事案ごとに事情を考慮して判断されるべきだが、労働契約上合意していた特定の職務や特定の勤務場所が廃止された場合は、相対的には解雇は容易になる。しかし、その場合でも、使用者は解雇回避努力義務から解放されるわけではない。
限定があると、無限定がある。無限定正社員(従来の正社員)の働き方に影響が出てくるとか、女性は限定だという新たなジェンダー差別の原因になることも考えられる。職場が、格差解消ではなく、正社員・限定正社員・非正規労働者の三重構造になり、競争が激化することも考えられる。

一体何がもた
らされるか
規制緩和攻撃は、労働法上の原則(雇用保障・直接雇用・八時間労働制)への攻撃だ。安倍政権は、規制緩和を戦後レジュームからの脱却の中に位置づけている。規制緩和と規制緩和論は区別すべきだ。規制緩和論は、競争力強化や経済成長に最大の価値を置き、労働法的規制は少なければ少ない方がよいという新自由主義的な「哲学」にもとづいているため、その要求には際限がなく、労働法がどこまで掘り崩されていくのかが見通せない。
規制緩和論は、企業が身軽になり、成長すれば雇用も増え、労働者も潤うという「トリクル・ダウン」の理論にもとづいているが、これは本当なのか。二〇〇一〜〇七年にかけ日本経済は戦後最高の景気を経験したが、ほとんどの労働者・市民にはその実感がなかった。実に、この七年間平均賃金は年間五〇万円下がり、企業は二〇〇兆円ともいわれる内部留保を増やし、株主配当は大幅に増加した。格差社会が深まり、労働者も、雇用が不安定で低賃金の非正規労働者と過労死やメンタルヘルス不全に至る異常な長時間労働に駆り立てられる正社員の両極に分化した。このまま行けば、いずれ不満が増大し、社会集団(家庭・地域社会・企業)の崩壊や社会不安が深まる。
安倍は、それをナショナリズムに吸収しようとしているのであろうが、安倍内閣の政策は相矛盾する政策の組み合わせだ。日米同盟と大国化志向の対立、右翼層や靖国参拝と米国の批判、新自由主義でありながら金をばらまく手法などなど。日本社会は少子高齢化による深刻な労働力不足になっていく。右翼排外主義の高まりやナショナリズムは、外国人労働者を受け入れるときの障害となるだろう。
それでも、安倍内閣の支持率は下がらない。有権者はどうなっているのか。政治参加するには、一定の余裕がいるのかもしれない。痛めつけられすぎると、立ち上がれなくなる。
政治的関心が低下し、無関心が広がっていく。

今こそ反撃の
のろし上げよう
「資本は、社会から強制されることのないかぎり、労働者の健康や寿命について顧慮するものではない」(マルクス・資本論第一巻)。
労働法を発展させてきた力は、社会からの強制だった。ドイツと日本とではどこが違うか。経営者は違わないだろう。社会からの強制に違いがある。労働法は資本を規制するものだ。資本主義社会で、なぜ労働法が存在するのか。労働者を使いつぶすと労働力不足になるからという説。労働者の抵抗の結果としてつくられるという説。前者のことを理由にするような日本企業は出てくるだろうか。外国人はたくさんいるのだから。
首相が賃上げをお願いするという異例の事態だ。非正規の賃上げが大きな課題だが、労働組合が何もせずに春闘が終わったら、労働組合の存在意義はなくなるだろう。とにかく、賃上げと規制緩和反対で短時間でもいいからストを打ってほしい。そうしないと、労働組合の見識が問われる。労働運動と労働組合運動とは違う。フランスでは組合の組織率七%でもストを打つ。ドイツでは、スーパーマーケットの労働者がインターネットで支援を呼びかけ、市民団体と連携してストライキを成功させた例もある。日本でも社会的な運動は重要で多様だ。個々の市民の政治意識・一人ひとりの生き方が問われている。(講演要旨、文責編集部) 


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