ドイツ
今なぜメルケルの勝利なのか
連帯に向けた民衆動員だけが
反資本主義突破を可能にする
マヌエル・ケルナー |
九月二二日に投開票されたドイツ連邦議会選では、メルケルのキリスト教民主党が勝利を収めた。しかし新自由主義が生み出す社会的格差と分断に対する不満は、メルケル政権与党であったFDPに集中し、FDPの議席がゼロとなった結果メルケルは連立の組み直しを余儀なくさらせれている。欧州では断トツの勝ち組と目されるドイツでも、政治の機能不全化はさらに一歩深まった。以下は、この状況を分析している。(「かけはし」編集部)
SPDの政治的対抗には弱さ 保守派のキリスト教民主党(CDU/CSU)と彼らの首相であるアンゲラ・メルケルが、得票率四一・五%をもって今年九月二二日に行われたドイツの連邦選挙における勝者となった。この得票率は、二〇〇九年の同選挙よりも七・七%上回っていた。
なぜだろうか? ドイツにおいてメルケルの諸政策は、民衆に対立的とは見られていない。そこでは、フクシマ後の核エネルギーからの撤退、義務兵役制の廃止、同性カップルの地位改善、そして社会的公正というテーマに対する相対的な踏み込みのような事例を挙げて、メルケルの下でのある種の「社会民主主義化」に言及する議論までもある。
これに加えて、温かみのないテクノラートであり、アジェンダ二〇一〇(失業給付などの社会保障水準を大幅に引き下げ、労働規制の緩和も導入したシュナイダー政権時の一連の構造「改革」政策:訳者)のあからさまな容認派、さらにビジネス界に近い政治屋が抱く高い生活への熱望のシンボルである、そうしたペーテル・シュタインブリュック率いるSPD(社会民主党)が提案するオルタナティブの弱さがある。そのような彼には、社会的公正に関するSPDのメッセージを信頼性を保って送ることはできなかった。それにもかかわらずSPDは、前回に二・七%上乗せし、二五・七%に達する得票率を獲得した。
議席を獲得するために必要とされる五%の敷居に届かなかった諸政党は、合わせて一五%近く得票した。すなわち、FDP(自由民主党)は四・八%を得、その一方新党である「ドイツのため連合(AfD)」は、その運動をユーロ離脱に集中した後に四・七%を獲得、他の小政党は全体で約五%となった。
有権者登録済みのドイツ人六一八〇万人の内、七一・五%が投票した。二〇〇九年には、その投票率は七〇・八%だった。新勢力の立候補が一定の有権者にエネルギーを注ぎ込んだとしても、棄権はかなりの程度のままであり、政治システムに対する信頼性が腐食している程度の高さを証明している。
左右二党への政治的収れん遠のく
FDPの敗北は圧倒的だった。この党は、ヘッセン州で得票率五%をもって議席獲得に成功したとしても(連邦選挙と平行してこの州では州議会選挙が行われた)、連邦レベルでは二〇〇九年比では九・八%も失い、国会下院に代表を送ることに失敗した。四〇〇万票というその喪失分は主にAfDに利益をもたらした。この新党はまた、左翼党からもおよそ三〇万票を、CDU/CSUからもそれよりやや少ない票を得た。AfDは、ユーロ離脱は経済的に不利な位置に置かれている欧州諸国の利益になると主張することで、その排外主義的動機を隠した。左翼党は、トロイカの枠内にあるEU政策に対する自身の反対を鮮明に断言できたのかどうか、自分自身に問わなければならないだろう。
今回の選挙に現れたもう一つの劇的な事実は、緑の党の八・四%という得票率だった。この党は二〇〇九年比では二・三%の落ち込みでしかなかった。しかしフクシマそして反核の大動員の後には、世論調査はこの党に二〇%以上の支持率を与えていたのだ。
左翼党は八・六%をもって、下院における第三勢力となった。前回左翼党は一一・九%を得、それゆえこの結果はいわば敗北と見られる可能性があった。しかし現実を見ると、二〇一二年春にはその世論調査結果が六%以下となり、左翼党はその時以来ドイツ西部の州議会選すべてで敗北してきた。そのことを前提とすれば、この結果はまったくのところ成功だった。
ヘッセン州でも左翼党は五%以上を獲得し、それは三回目となった。また左翼党は、東部よりもはるかに弱体である西部諸州で、平均で五%以上を得票した。それゆえわれわれは、左翼党はその位置を打ち固めるにいたった、また、一定数の社会的、民主的、そして軍事活動反対の要求を提起することによって、しかしながら資本の権力に対する全体としてのオルタナティブを明確に定式化しないまま、選挙の場で上昇の過程にある、このように言うことができる。
議会諸政党の戦略家たち(もしくはむしろ戦術家たち)は、今何をしようとしているのだろうか? 下院ではヘッセン州議会におけると同様、SPD、緑の党、左翼党が一つの多数派を確保している。そしてそれは彼らに、CDU/CSUを打倒し、政権をつくり出す余地を与えている。しかしSPDと緑の党は左翼党との連立を望んではいない。そして、左翼党がさらに前進するとするならば、同時にこの党は、その深い違いを強調しているだろう。
連邦レベルでSPD並びに緑の党と共に統治の任に当たるためには、左翼党は、世界的な軍事干渉へのドイツ国防軍の参加を受け入れなければならない。しかし今のところそれは想像できない。したがってもっとも現実性のある仮説は、SPDとCDU/CSUの「大連立」であるように見える。こうして、左右対立という伝統はドイツではさらに遠くなっているように見える。
連立政権形成の道には諸困難
CDU/CSUにとってその勝利は、その好みの連携相手であるFDPが敗北したことにより相対的なものだった。選挙最終盤で後者は、首相としてメルケルを望む人たちがFDPに投票すると期待しつつ、ドイツで「票借り」として知られているものを頼りとすることになった。しかしCDU/CSUはこうしたことを受け入れず、各党は自身の得票を最大化するために闘うべきと言明した。そして今彼らには、最低賃金の分野で妥協するか(SPD)、それともエネルギー政策の分野で妥協するか(緑の党)、この二つの選択肢がある。そしてCDU/CSUはまだ、この二つの選択肢のどれが実現可能か、あるいは新たな選挙が必要となるかを明らかにしていない(現時点では、緑の党との連立協議は不調となり、SDPとの間で協議が続いている:訳者)。
五%をあわや通過しそうとなったAfDの躍進は、CDU/CSUにとっての脅威となろうとしている。この勢力が用意した候補者や指導者のリストには、大学教員、法律家、医師、さらに指導的企業の管理者たちが含まれている。AfDは、偽装された極右勢力として非難されているがそれは、その反ユーロという立場だけが理由になっているわけではない。たとえばそのポスターの一つは、「社会的保護というわがシステムへの移民」をののしっている。そしてそれこそ極右ポピュリストやネオナチの典型的なテーマなのだ。これに対しAfDの指導者たちは、バイエルン州のCSU(キリスト教社会同盟、同州だけで組織されているCDUの兄弟政党:訳者)の綱領を引き合いに出して反論した。確かにその綱領には、同じような悲しむべきかつ不快を催す言葉を読み取ることができる。キリスト教民主主義者が恐れていることは、その新しい政治勢力が中期的に彼らの右の支持者を食い破る、ということだ。
SPD内では、再度CDU/CSUの劣位の連携相手になるという「責任ある」回答に傾く者たちと、こうした選択肢を拒絶する者たちの間で論争が激化している。首相候補者であるシュタインブリュックは、自分自身極めてはっきりと先の選択肢に反対して現れていた。そして、アンゲラ・メルケルの下での閣僚に再度なることはない、と語っていた。そして現在、かなりの数の都市支部、さらにSPDの威信ある地方代表(たとえばノルトラインウェストファーレン州首相であるハンネローレ・クラフト)は、CDU/CSU―SPD連立を公然と拒絶してきた。
これにはさまざまな理由があるが、SPDの指導者たちにとってもっとも重要なものはおそらく戦術的なレベルにある。つまり、そのような勢力配置の中では、いわば党の基本姿勢を保つ可能性がまったくなくなり、その選挙基盤の深刻な腐食を再び味わうことになるという怖れだ。おそらくSPD指導部はその賭け金をつり上げようと試み――すでに彼らは、政権綱領の中で最低賃金の変更と高収入に対する課税調整を要求しているだけではなく、CDU/CSUと同数の閣僚をも要求している――、「責任ある」道を選ぶだろう。しかしそれは確定していない。
緑の党の中では志が後退している。今回の結果は深刻な敗北と見られている。責任は、党と下院議員団指導部、中でもジルゲン・トリッテンに帰せられ、彼らは党を「左翼に偏らせすぎた」として非難されている。この非難は主に、課税政策に関係している――緑の党は、大金持ちに対してだけではなく、言葉の最も広い意味における相対的な富裕層に対してもより高い税率を求めた(住民の三分の一近くが影響を受けると思われた)が、それは彼らの選挙基盤の重要な部分だ――。世論調査は、緑の党がこうした層の中で票を失った、ということを示している。
こうして緑の党内の論争は、彼らを右へと導く可能性がある。緑の党は社会政策の分野で左翼党と競争しすぎるべきではない、このように主張されている。党は、エコロジーと経済を結び付けるテーマに基づき、「有権者の政治的中道」にもっと向かうべきだというわけだ。さらに、党はSPDといかなる対価を払っても連携するという牢獄から抜け出るべきだとも論じられる。その連携の非多数派的性格は選挙以前にすでに極めてはっきりしていたというわけだ(左翼党を含む選択肢が排除されている以上)。
しかしこう言ったからといってそれは、「黒―緑」政権(CDU/CSUプラス緑の党)という仮説が極めてありそうな仮説となる、ということを意味するわけではない。第一に緑の党はSPD同様、この選択肢を選挙運動の中では非常にはっきり除外してきた。第二に、現与党連合諸政党中のもっとも保守的な右翼、中でもバイエルンのCSUを遠ざけるこの党の遺伝的な政治文化を前提とすれば、これは「早すぎる」と言ってよい理由がいくつかある。第三に、中でも石炭が関係する限り、エネルギー政策に関する違いはまだ相当に大きいままだ。つまりSPDとの間と同じく、政権形成交渉の結果を予想することは誰にもできない。それが分かるまでにはおそらく数週間、あるいは数カ月かかるだろう。
左翼党はどこへが再度問題に
左翼党はその政治的基本姿勢の再調整を選挙運動以前に終えた。グレゴール・ギジのSPDと緑の党に対する、より「現実的な」接近路線と、オスカー・ラフォンテーヌが体現するより対立的な路線との間で一つの選択があった。党大会で勝利したのはギジだった。彼は、「党に打撃を与えるあからさまな紛争の終了」を訴えつつ、連邦レベルにおけるただ一人の主要な党スポークスパーソンとして登場した。サーラ・ヴァーゲンクネヒトは、彼に続くナンバーツーだった。彼女は人気があり、メディアでもいい政治的印象を与えているとしても、触れなければならないこととして彼女は、たとえばルドウィッヒ・エアハルト(一九六〇年代のSPD指導者、六三〜六六年に西独首相:訳者)の遺産や社会的市場といった理念を、新自由主義と闘うために再生されなければならないものとして語りながら、左翼党内で彼女が占める「左派」的政治基本姿勢を水で薄めた。
もちろんだが左翼党のスポークスパーソンたちは、SPDと緑の党について、下院におけるSPD、緑の党、左翼党の多数派を基礎として統治するよりもメルケル政権の方をよりマシと考えている、という事実を強く非難しつつ攻撃した。ヘッセン州左翼党のヤニネ・ヴィスラーは同じことを語っている。彼女は左翼党内の左派の立場にある。
しかし何よりも連邦レベルで、左翼党内部の「リアルポリティーク」派が抱く夢の実現はさしあたりまったく現実的とは見えない。これは、SPDと緑の党の絶対的な「ノー」だけが理由ではない。世論調査もまた、「赤―赤―緑」連立を支持するものがドイツ有権者のほんの小さな少数派にすぎない、ということを示している。そして左翼党の主な指導者たちは、ギジのようなより「右翼的」な者ですら、いくつかの組織された潮流を抱えた党といった背景の下で、左翼党とSPD/緑との間にある重要な違いを強調している。
これらの違いの内でもっとも重要なものは外交政策に関わっている。左翼党は、「圏外」の軍事任務への、並びに国連という覆いの下での任務に対してもドイツ国防軍の参加に反対している。党はまた武器輸出にも反対している。しかしそれは、ドイツ資本主義にとっては重要なのだ。さらにまた、社会、経済政策の分野にも違いがある。とはいえそれらは、さまざまな妥協の下に置かれる可能性がある。
外交政策に関して妥協が行われた暁には、左翼党は、党自身の支持者内と党内で深い支持をもつ諸見解を犠牲に差し出すこととなるだろう。それは党内の左翼潮流だけを攻撃するのではなく、たとえばドイツ東部のその基礎をも攻撃するのだ。実際ここの有権者内の傾向が政権参加という「リアルポリティーク」に向いているとしても、ドイツ国防軍に割り当てられる攻撃的な世界的役割に対する敵意は、依然として優勢な状態にとどまっている。しかし中長期的に見た場合、連邦レベルでの上に見た「リアルポリティーク」に向かう流れはもっと強くなる(左翼党が共同統治の任に着いているブランデンブルグ州のような、州レベルだけではなく)。欧州の経済的にもっとも弱い諸国の賃金労働者や失業者に対するものを含めて、諸回答を基礎とした連帯に向けた民衆的動員だけが、それを逆転することを可能にするだろう。
▼筆者は第四インターナショナルのドイツにおける二つの公然分派の一つであるisL(国際主義社会主義左翼)の調整委員会メンバーであると共にケルン左翼党メンバー。また教育協会、SALZe.V.の教育責任者でもある。この協会は、連邦レベルで活動し、ノルトラインウェストファーレン州の「WASG(左翼党に合流する以前、ドイツ西部でSDPから左翼分裂し活動した政治潮流:訳者)と近い」と見られていて、現在は左翼党からの公式認知を求めている。
(「インターナショナルビューポイント」二〇一三年一一月号)
連邦選挙結果
CDU/CSU 41・55% 311議席(+72)
SPD 25・74% 192議席(+46)
左翼党 8・59% 64議席(−12)
90年・緑の連合 8・44% 63議席(−5)
FDP 4・76% 0議席(−92)
AfD 4・70% 0議席(±0)
海賊党 2・19% 0議席(±0)
NPD 1・28% 0議席(±0)
その他 2・75% 0議席(±0)
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