電力難強調の裏に潜む本当の理由
UAE原発の参照用発電所か? |
「新古里3、4号機の竣工に備え、来年夏以降の電力需給の安定のために、10月2日から密陽の送電線路工事を再開しようと思います。今夏のような電力難が再び繰り返されないようにするために、今やこれ以上、工事を遅らせることはできない時点に至ったという点を申しあげます」。
チョ・ファニク韓国電力社長が10月1日、ソウル三成洞の韓電本社で、固い表情のまま国民への訴えを読みあげた。5月末以降、止まっていた慶尚南道・密陽の丹場、山外、上東、府北の4つの面(行政の末端単位)区間の送電塔工事を再び始めるという瞬間だった。チョ社長は密陽の住民たちが要求していた迂回送電や送電線路の地中化について「国会で専門家協議会を構成し、その結果9人の委員の中で6対3の多数決で迂回送電や地中化は難しいという圧倒的な結論が出ました」として既存の立場を繰り返した。もはや妥協の余地はない、というのだ。
今夏、10基停止も大停電なし
だが韓電が提起した「切迫した工事強行の理由」は依然として社会的共感を作り出せてはいない。韓電が主張している最も代表的な根拠は「電力難の解決」だ。密陽送電線路は一般的な345kVの送電線路より4・7倍も多い電気を送る、いわゆる「超高圧送電線路」だ。釜山・機張の新古里3、4号機発電所で作った電気を慶南・昌寧郡の北慶南変電所までつなぐ。
これについてハ・スンス緑の党共同運営委員長(弁護士)は「新古里3号機で生産される電気は嶺南圏の需要管理などによって充分に解決できる水準」だと語った。実際に新古里3号機の電力生産量は時間当たり140万kWで全設備容量(8551万6千kW)の1・6%水準だと言う。しかも今年の夏は核発電所21基中10基が停止していた中で、需要調節などによってブラック・アウト(大停電)がなかったのを見れば、密陽の送電線路が電力難の直接的な原因だと説明するのは無理がある、というのだ。
韓電などが出している密陽送電塔工事強行のもう1つの理由としては、韓電コンソーシアムがアラブ首長国連邦(UAE)に建設している核発電所事業がある。ピョン・ジュニョン前・韓電海外担当副社長は5月23日、記者たちと会った際、「密陽地域は同郷意識が強く、(工事反対の側には)天主教(カトリック)や環境団体が介入している」と語って論難を呼び起こしたことがある。
当時、ピョン前副社長は「新古里3号機はUAE原発のレファランス・プラント(参照用発電所)だ。2015年までに稼働できなければペナルティーを支払うように契約されている」とし、密陽送電塔工事がUAEへの原発輸出と関連があるとの発言もした。その翌日に発言が問題になると、ピョン前副社長は辞表を出した。
現在、新古里3、4号機は6月に電力、制御、計測ケーブルの試験成績書偽造の事実が発覚し、完工しても稼働できずにいる。キム・ジェナム正義党議員室は「新古里3号機の商業運転を2013年9月に行うと明示されており、2年の猶予期間をおいて2015年9月までに商業運転ができない場合、工事費の0・25%の遅滞補償金を支払うようにする内容が契約書に明示されている」と説明した。新古里3、4号機とUAE核発電所には、1度も商業運転をしたことのない「韓国型加圧軽水炉」(APR1400)を使う。そのためにUAEが新古里3号機の商業運転を通して全般的な核発電所運営の品質を確認していく、という意味だ。 再検証が不合格なら延期不可避
最近任命されたチョ・ソク韓国水力原子力(韓水原)社長も、この事実を隠していない。彼は10月2日の就任直後の記者懇談会で「密陽の送電塔工事が来年2月までに終わらなければ、来年8月に竣工する新古里3号機の試運転さえできない」と語った。まだまだ超えなければならない山の多い新古里3号機の稼働を、既定の事実として受け入れているのだ。だがチョ・ギョンテ民主党議員室によれば現在、原子力安全委員会が新古里3、4号機の電力、制御、計測ケーブルの試験成績偽造とは別に、一部のケーブルで熱老化、放射線処理をしていない試製品が使用された事実を新たに確認した。
現在、韓水原がこの製品の再検証試験を韓国機械研究院に依頼した事態であり、その結果は11月末に出てくる。チョ議員は「再検証に不合格となれば新古里3号機の稼働は少なくとも2015年以降に延びるのが不可避であるがゆえに、密陽送電塔の工事を強行するのは前後のつじつまが合わない」と指摘した。釈然としない理由をほったらかしにしたまま、韓電の密陽送電塔工事の強引なクワ入れは始まった。(「ハンギョレ21」第981号、13年10月14日付、キム・ソンファン記者) セマングム、扶安、江汀…
着工後に考える国策事業
送電塔工事を巡って深まる溝
慶尚南道・密陽の送電塔の事態には強い「既視感」がある。政府が地域住民と葛藤をかもした後、破局にかけ登った過去の国策事業と、その姿が似ているからだ。
国策事業を巡って激烈な葛藤が繰り広げられた代表的な事件は、2003年の「扶安での放廃場を巡る事態」だ。葛藤の始まりは、政府が放射性廃棄物処分場の建設予定地について難航している中で、キム・ジョンギュ全羅北道・扶安郡守が地域住民らの意見を反映せずに処分場誘致の申請書を出してからだ。当時、1万人を超える市民が激烈に反対集会を行い、コ・ゴン国務総理が乗り出したけれども仲裁に失敗した。6カ月余り続けられた扶安の事態によって地域共同体は放廃場誘致について賛成・反対と分かれることになり、2004年に行われた住民投票で投票者の91・83%が誘致に反対することによって幕が下ろされた。住民の同意を無視した事業推進の代価は極めて厳しいものとなった。
1991年から始められたセマングム(干拓)事業も同様だった。全羅北道・群山〜扶安を連結する33・9qの防潮堤を築造し、大規模な干拓地を作るとしていたこの事業に対して、環境団体などは水質の悪化や村落共同体の破壊を指摘した。社会的論難が高まってからやっと政府は1999年、遅ればせに環境関連の官民共同調査を推進した。2003年、裁判所が防潮堤工事の中止決定を下し、2回にわたって工事が中断された。2006年3月、環境団体と全羅北道地域の住民らが出した「セマングム事業」計画の取り消し請求訴訟が大法院(最高裁)で敗訴するとともに、15年ぶりに事業が再び進められた。
国防省が2007年から始めた済州・江汀マウル(村)での海軍基地建設事業は、現在まで基地建設反対運動が繰り広げられている。当時、国防省は済州道が実施した世論調査を根拠として工事を始めた。けれども基地建設予定地の江汀マウルの住民投票では全住民の70%以上が建設に反対している状況だった。それにもかかわらず、「安保に関わる国策事業」だという理由で、工事は引き続き進められた。
社会的に大きな葛藤をもたらした国策事業の共通する特徴は、事業の初期から地域住民の参与が排除された、という点だ。「政府主導の事業推進→地域住民の反発→無理な事業強行→遅ればせの地域の意見集約」式の過程を脱け出せずにいる。扶安の放廃場の事態を経験した後、国策事業を推進する公共機関長が葛藤の影響分析をする内容などを盛り込んだ「公共機関の葛藤管理に関する法律案」も発議されたけれども、国会を通過できなかった。
ユン・サンジク産業通商資源省長官は今年6月、「密陽住民たちの不満や心配など、葛藤の問題を事前に解決するために「葛藤調整協議会」を構成する方案を構想している」と語ったけれども、実践には移さなかった。その間に、密陽の送電塔を巡る葛藤の溝が一層、深くえぐられただけだ。(「ハンギョレ21」第981号、13年10月14日付)
〈密陽送電塔・日誌〉 2005年8月 韓電・送電線路建設事業予定地の密陽市の当該面(上東、府北、山外、清道、丹場)で住民説明会(総人口の0・6%出席)
07年11月 政府、新古里原子力発電所〜北慶南変電所765kV送電線建設事業承認
08年7月 慶南・密陽の住民ら、送電線路の白紙化要求で初の決起大会
11年5〜7月 密陽住民―韓電、対話委員会運営
12年1月16日 密陽ポラ・マウル住民イ・チウさんが抗議の焼身自殺
9月 密陽送電塔、区間工事中止
13年2〜5月 チョ・ギョンテ議員主管の住民―韓電1〜6次討論会
5月20日 韓電、送電塔工事再開
6月5日 密陽問題解決のための専門家協議体発足、工事中断
7月8日 専門家協議体送電塔建設推進を盛り込んだ報告書作成、住民・野党推せん議員が報告書の採択拒否
7月20日 ユン・サンジク産業通商資源省長官、住民と対話
9月11日 チョン・ホンウォン国務総理が密陽を訪問し工事強行を示唆、1世帯当たり400万ウォンの個別補償など確定
10月1日 チョ・ファニク韓電社長、工事再開発表、密陽市庁・行政代執行予告
10月2〜6日 警察・密陽市庁の公務員と住民が衝突
フクシマ事故で増大した原子力保険
韓国にも引き上げ要求
実態とかけ離れた保険設計
問題はカネだ。天文学的な費用で立てた核発電所は、なおのことそうだ。2011年3月、日本の福島第一原発の事故は「誰が、どのぐらい弁償できるのか」という「カネの問題」を深く印象づけた。核発電所23基のうち東海(日本海)側だけで15基の原子炉が回っているわが国も例外ではない。
核発電所は原子力保険によって「カネの脅威」を避ける。種類もさまざまだ。原子力保険としては、発電所施設などに対する「原子力財産保険」と「核燃料運送賠償責任保険」、それに福島事故のように原子炉の問題によって被害を受けている人々に賠償する「原子力損害賠償責任保険」が代表的だ。
わが国の原子力保険の商品は、すべて「韓国原子力保険プール」でのみ販売する。国内9つの損害保険社とソウル保証保険、コリアンリーなど11の保険社が出資して作ったコンソーシアム(協同、組合)的性格の保険会社だ。規模が大きな核発電所の事故の危険を分散しようとして保険各社が「プマッシ」(本来、労働力の相互扶助=結い、の意)をしているのだ。この会社は英国、フランス、スイスなど30カ国の「原子力保険プール」に再保険をかけて危険の負担を減らす。
保険料の単位からして異なる。韓国水力原子力(韓水原)は毎年200万ドル(約22億ウォン)の保険料を払っている。韓水原が核発電所事故の1件ごとに最大3億SDR(国際通貨基金特別引き出し権)まで弁償できるように定めてある。約5340余億ウォンの水準だ。損害賠償額が3億SDRを超える場合、「国家が必要だと認めれば」原発の事業者(韓水原)に援助するとなっている。義務事項ではない、ということだ。また日本のように住民らが放射能にさらされて財産上の被害が生じる時に支給する「原子力損害賠償責任保険」の限度額は最大500億ウォンだ。
原子力保険に適用する保険料率は知りようがない。最も影響力の大きな「英国原子力保険プール」が定めているが、国際的に核発電所の事故が起きる確率を100万分の1として保険を設計しているものと伝えられる。だが全世界の436基の核発電所は約11年ごとに1回の割で事故があった。日本の〈東京新聞〉が2011年の日本の原子力損害賠償責任保険の資料を入手して分析した報道を見ると、日本の核発電所で重大事故が起きる確率を「2100年分の1回」と計算していたという。
東電の賠償額
1年で2・5兆円
だが福島の事故以降、原子力保険も激しく揺らいでいる。東京電力は事故によって、2011年だけで2兆5249億円(約34兆2800億ウォン)の損害賠償額を支給した。今後、さらにどれほどのカネがかかるか分からない。そんな訳で昨年1月、日本の原子力保険プール側から契約の延長を拒否された。福島の火種はわが国にも及んできた。海外の再保険各社が、韓水原が払う保険料の引き上げを要求しているからだ。これとは別に原子力安全委員会は原子力損害賠償責任保険の限度額を最大5千億ウォンに上げる方案を推進している。このために国内では日本やドイツのように、賠償責任の限度額を定めてはならないとの指摘がある。ともあれ、福島の災央が原子力保険業界の財布をぶ厚く膨らませている。
最近では国境を越える放射能汚染についての悩みも大きくなっている。この場合、国家単位で適用している「原子力保険」が何の役にも立たないからだ。特に88基(日本54基、韓国21基、中国13基)の原発がびっしりと立ち並ぶ東北アジアの3国いずれもが「損害賠償条約」(CSC)に加入していない。核発電所の事故が勃発しても、隣国に損害賠償を要求するこれといった方法がない、というわけだ。どうやらこうやらカネが最大の問題だ。(「ハンギョレ21」第981号、13年10月14日付、「キム・ソンファンのエナ+ディック」)
|