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    かけはし2013.年11月11日号

アメリカ資本主義の衰退の新たな段階


債務危機と連邦政府機能停止騒動が示したもの

小林秀史

下院共和党によるオバマ
政権崩壊の策動

 米国議会において二〇一四会計年度(10月1日から)の暫定予算案が期日(9月30日)までに成立しないという事態の中で、連邦政府機関の一部機能が一六日間にわたって停止した。
 また、一〇月一七日には連邦政府の債務が上限の一六・七兆ドルに達すことが予想されていたことから、同日までに議会で債務上限引き上げ法案が承認されなければ、政府は新規借り入れができなくなり、債務返済が不能(デフォルト)になるという深刻な事態が想定された。
 米国では一九一七年に制定された公債法に基づいて、政府が発行する公債の残高の上限が設定されており、この残高は必要に応じて議会の承認によって変更される。
 債務返済が不能(デフォルト)になった場合、政府は新たな借金ができないため、政策の遂行が制限されるという問題だけではなく、米国国債への信頼が崩壊し世界の金融システムに重大な影響をもたらす。
 この事態は下院の多数を占める共和党がオバマ政権の医療保険制度改革を阻止するために引き起こしたものである。しかし、共和党も、そのスポンサーである大企業も、本気でデフォルトを想定していたわけではない。デフォルトの脅しによってオバマ政権に圧力をかけることが目的である。
 下院共和党は暫定予算を取引材料にして、ギリギリまで公的医療保険制度(オバマケア)の撤回または実施延期を迫った。
 オバマケアはオバマ大統領の最重要の公約の一つであり、オバマが成果を自負できる唯一の政策である。しかし、現実には、公約した国民皆保険制度は医療産業や保険業界の圧力によって無残に骨抜きにされ、その結果、あてにしていた低所得層の支持も得られず、オバマ政権のネックになりかねない状況に陥っている。
 下院共和党はここに攻撃を集中し、暫定予算を人質に取り、デフォルトの危機で脅すことによって、オバマ政権の政策遂行能力を奪い、実質的な政権崩壊へと攻め上ろうとした。
 しかし、下院共和党の作戦は成功しなかった。オバマケアの不人気にもかかわらず、共和党への支持は急落し、暫定予算を人質とした作戦は共和党支持層の中でも嫌悪感を引き起こした。
 こうして共和党は一〇月一六日に、債務上限引き上げと暫定予算を含む法案を受け入れ、デフォルトの危機はとりあえずは回避された。

対決を回避し、危機を深めたオバマ政権


 米国では連邦政府機関の一部機能が停止するという事態そのものは特別なことではない。
 「基本的サービスについては心配ないし、特に、帝国を維持するための活動は大丈夫だ。軍の作戦には影響はない。無人攻撃機は今も飛んでいるし、巡航ミサイルはいつでも飛び立てる状態にある。NSAのスーパーコンピュータはいつもの通りあなたのEメールや電話を傍受しつづけている。……ほとんどの人にとって政府機関の短期的閉鎖は不便であり幾分かは不快であるとしても、しかしはっきりと破局的というわけではない(本紙10月21日号、デイヴィッド・フィンケル論文)
 実際、一九八〇年代から九〇年代にかけても四度起こっており、最近ではクリントン政権の下で一九九五―九六年に起こっている。
 また、オバマケアの問題は、昨年の大統領選挙において共和党が最大の争点の一つとして取り上げ、共和党の敗北によって決着がついている。憲法違反という主張も、最高裁判所によって却下されている。昨年の下院議員選挙でも得票総数では民主党が勝利しており、恣意的な選挙区の区割りのために共和党が多数の議席を確保したに過ぎない。
 オバマ政権にとっては、共和党の脅しを真に受ける必要はないし、共和党が債務上限引き上げを拒否した場合でも、フィンケル論文が言及しているように、「(大統領は)米国の『完全な信用と信望』を維持することに責任を負うという憲法のあいまいな条項に依拠して、債務上限を大統領の責任で引き上げるという一方的行動」(同)を選択することも可能だった。共和党の理不尽な要求を拒否することによって支持を回復する大きなチャンスだった。
 現実には、危機回避後に行われた世論調査でもオバマの支持率は回復せず、過去の最低レベルまで落ち込んでいる。それはオバマと民主党が共和党の宥和に腐心し、対決を避けたからにほかならない。
 バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出、無所属)は次のように指摘している。
 「一七兆ドルの国債と七〇〇〇億ドルの財政赤字は対処しなければならない深刻な問題だ。しかし、実質失業率が一四%近く、しかも雇用されていても貧困状態にある人々が数千万人おり、貧富の格差が主要国の中でもっとも著しいという問題もある。われわれがどこへ向かおうとするのかについて、適切な選択をするためには、このような状態に至った原因を見なければならない。
 われわれはどのようにして健全な黒字財政から恐るべき赤字へ至ったのか? そんなに複雑なことではない。二〇〇一年にクリントンが政権を去った時、二三六〇億ドルの黒字が残っていた。超党派の予算局は一〇年間で五兆六〇〇〇億ドルの黒字を予想しており、それは二〇一一年に国債を完全に償還するのに十分な額だった。しかし、そのようにはならなかった」(「ロサンゼルスタイムズ」10月28日付)。
 ブッシュ大統領が開始し、オバマ政権が継続したアフガニスタン、イラクの戦争は六兆ドルを費やした。富裕層や法人に対する大幅な減税は税収を枯渇させた。そして財政危機をもたらすこのような政策を支持した共和党議員たちが今日、財政規律を要求しているのである。
 「では、われわれはどこへ向かおうとするのか? 雇用を創出し、われわれの国の生産力を高め、働く者とその家族を保護し、赤字を削減する予算をどのように確立するのか? 出発点として、われわれは、すでに苦しんでいる人民にこれ以上の緊縮政策を押しつけることはできない。〇九年から一二年の間に生まれた新たな所得の九五%が上位一%に集中し、何千万人もの労働者の所得が減っている時、労働者家族にとって不可欠の公共プログラムを削減することはできない。社会保障やメディケア、メディケイドを削減するのでなく、大企業の四分の一が連邦所得税を全く払っていない(政府の監査局の〇八年の報告書による)という異常な状況をなくすべきだ。多国籍企業や富裕層はケイマン諸島などのタックスヘイブンへ資産を隠すことによって年間約一〇〇〇億ドルの税を逃れている。議会は一月に、上位一%の富裕層に対する減税をようやく廃止したが、年収二五―四五万ドルの富裕層(上位2%)に対する低税率はそのままにしている。これも廃止しなければならない。世界の他の国の合計を上回る法外な国防費も削減するべきである……」(同)。
 オバマ政権と民主党は、このような現実的な解決策を示し、共和党との対決を呼びかけるのではなく、当面の危機の回避のみを目的として共和党との協調を追求した。しかし、次には来年の一月一五日(暫定予算の期限)、さらには二月七日(債務上限の暫定引き上げの期限)に向けて、共和党は手ぐすねを引いている。オバマ政権はますます窮地に陥っていくだろう。

米国の議会制度と二大政党体制の危機の新たな段階

 今回の一連の騒動では、「草の根保守」のティーパーティーに支持された共和党右派の議員たちがオバマ政権への攻撃の主役を担った。
 ティーパーティーは、リーマン・ショックの中での銀行や大企業救済のための公的資金の投入に対する広範な人々の反発を基盤にして支持を拡大し、「市民の政治参加」という装いで、二大政党への不満の受け皿を提供してきた。しかし、そのリーダーとなっているサラ・ペイリン(元アラスカ州知事)やテッド・クルーズ(テキサス州選出上院議員)をはじめとするグループは、右翼キリスト教原理主義の宗教集団と緊密に結びつき、また、コーク兄弟をはじめとする大富豪からの潤沢な政治献金を活用して共和党を実質的にコントロールしている。
 彼らは「小さい政府」を掲げ、社会保障の削減、減税、移民の排斥、銃保持の権利、中絶の禁止等を訴えている。今回のオバマケアをターゲットとした策動は、彼らにとってはイデオロギー戦争であり、彼らの背後にいる資本家勢力にとっては、新自由主義の下で進めてきた「階級戦争」の一環である。決して一過性のものではない。
 米国の二大政党体制の下では、大部分の選挙区は共和党または民主党が安定的な優位を確保しており、「安定区」の議員にとっては選挙そのものよりも党の予備選挙での勝利の方が重要である。そのため、有権者の要求や批判よりも、予備選挙での党内の支持、より直接にはそのための政治資金の獲得が主要な関心事となる。実際、ティーパーティーやそれを支援する企業を敵に回しては予備選挙での勝利が見込めない。
 その結果、わずか数十人のティーパーティー系の議員たちが共和党議員団を牛耳り、政府機関の機能を停止させるまでの影響力を保持しているのである。
 一〇月五日付の「ニューヨークタイムズ」によると、予算を人質にしてオバマケアの撤回を迫るという計画はエドウィン・ミーズ元司法長官(レーガンの側近)とヘリテージ財団を中心とする保守派のグループが今年初めから準備していた。同紙によると「多くの米国人にとって政府機関の機能停止は思いがけないことだったが、多くの保守派の人々とのインタビューでわかったことは、危機を促進した対立は、二〇一〇年に医療保険制度改革法が成立して以降の、この法律を撤回させるための長期にわたる活動の延長だったということである。それは保守派の錚々(そうそう)たる面々によって組織され、一般に知られているよりも強力な資金力、組織された戦術、相互の連携を有している」。
 たとえば、ヘリテージ財団は、共和党の「動揺派」の議員たちの選挙区をターゲットに集中的なインターネット広告作戦を展開した。各地でタウンミーティングが開催された。コーク兄弟の財団だけでも昨年、二億ドル以上の資金を、この種の活動に関与しているNPO団体に提供し、今年七月以降の三カ月間に五億五千万ドルをオバマケアに反対するテレビ広告に支出している。
 保険制度改革法の下で設立されるオンラインの保険取引所(エクスチェンジ)が一〇月一日から営業を開始することから、保険未加入者、とくに若者をターゲットに、「オバマケア・カードを燃やそう」キャンペーンなども組織されている。
 ただし、金権政治という点ではオバマ支持派も負けてはいない。オバマケアを通じて新たな保険契約の獲得を狙っている保険会社は、オバマケアを支持するキャンペーンに巨額の資金を提供し、また保険未加入者にエクスチェンジを通じた保険加入を呼びかける広告に数十億ドルを投入している。
 予算を人質にして政策変更を迫るという戦術は、過去にも成功例がある。近年では、一部を除く中絶手術への連邦財政からの支出を禁止するという議会での決定(予算の承認の条件として「ハイド修正条項」を適用)が繰り返されている。
 こうして一部の右翼的なキリスト教原理主義集団が、議会によって制定され、最高裁判決で合憲性が確認され、選挙でも支持された法律を、予算の不成立やデフォルトの脅しによって無力化する試みや、政権そのものを無力化させる動きが活発化し、二大政党の一方である共和党が事実上この勢力に支配され、もう一方の民主党もこの勢力との対決を回避するという状況は、米国の議会制度と二大政党体制の危機の新たな段階を示している。オバマ政権の残り三年余の任期期間、一四年の中間選挙をはさんで、この危機はますます深まるだろう。

債務危機とドル体制の危機

 財政危機、債務危機を背景に、連邦政府の機能停止は今後も繰り返されるだろう。
 「ニューズウィーク」誌日本語版一〇月二九日号で、マシュー・イグレシアス記者は、債務上限を法律で決めること自体が時代遅れで、撤廃するべきだと論じている。実際、財政危機や債務危機は政府の機能や米国経済全体を脅かすような問題ではない。この点では、共和党と民主党のブルジョア二大政党が結託して、財政危機と債務危機を政治ショーとして演出し、労働者階級のための支出を削減し、一層の負担を強制しようとしているという点に注目するべきだろう。
 しかし、一方で、債務の果てしない増大と、忍び寄るデフォルトの脅威は、ドルに対する信頼を低下させ、米国債の格付けの引き下げに直結するし、それは世界通貨としてのドルの特権的な地位を掘り崩す。
 米国「ソシアリスト・アクション」のジェフ・マックラー同志は次のように指摘している。「衰退する米国経済と、その信用の価値[世界にばらまかれているドルおよび米国債の価値-引用者]の乖離の拡大は資本主義のエリートたちの最も賢明な層に危機感をもたらしている。しかし、彼らにとって唯一の解決策は、世界中のライバルたちがやっていることと同じで、彼らがもたらした危機を労働者人民の犠牲によって解決することであり、その一方で[実体的な裏付けのない―引用者]ドルや国債を印刷し続けることである。……(こうして)アメリカ資本主義のグローバルな支配は急速に終焉に近づいている。ドルと米国経済に対する 『完全な信用と信望』は今日、現在の議会における債務上限をめぐる喧騒の過程でのデフォルトへの懸念だけでなく、その基本的な安定性そのもの[の不在―引用者]によって掘り崩されている「インターナショナル・ビューポイント」誌、11月1日付)。
 中国政府は、ドル支配の衰退に対応して、IMF・世界銀行に対する「新興国」の発言力の強化を要求し、ドル一元支配に代わる新しい国際準備通貨制度の確立を目指している。すでにBRICS諸国間の貿易の大部分は関係国の通貨で決済されている。「アジアタイムズ」誌のペペ・エスコバル記者は、「脱アメリカの世界の誕生」と題するレポートで、中国の人民元が二〇一七年から二〇年の間に、完全な兌換性を実現するだろうという見方を示している(「Zネット」10月17日付)。中国は米国債の最大の保有国であり、中国のドル離れが進めば、米国債の発行は困難になる。
 一〇月の一六日間にわたる連邦政府の一部機関の機能停止は、危機の新たな段階における攻防の序幕に過ぎない。そして、フィンケル同志が言うように、「……この全過程の中で恥ずべきことは、米国労働者階級が基本的に受動的な観客にとどまっていることだ。人々の現実の生活が打撃を受けている時、そして資本[の攻撃―引用者]を機能停止させる大衆行動こそが真に必要である時にである」(前掲論文)。

 


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