大企業減税・大衆収奪の危機突破策
「増税分はすべて福祉へ」という嘘を暴け
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生活破壊の大増税だ 一〇月一日の夕、安倍首相は記者会見を行い、来年四月一日より消費税率を現在の五%から八%に引き上げると表明した。安倍首相が消費増税の根拠として持ち出したのがアベノミックスによってデフレからの脱却の兆候と「景気回復の兆しが見えた」という理由であった。
だが「回復の兆し」がどれ程いい加減なものかは、同じ一〇月一日に政府が発表した経済指標と比較すると明らか。今年八月の完全失業者数は二七二万人で前月比で二一万人も増加し、完全失業率は四・一%と前月比で〇・三%も悪化している。賃金もまた前月比で〇・六%も減少し、一五カ月連続で減少し続けている。
また「デフレからの脱却」の対象に持ち出された物価上昇率は、前年同比で〇・七%上がり、四年八カ月ぶりに高い上昇率になったことだけであり、その内実も小麦、豆、バターなどの食料品とガソリン、電気・ガス料金というような生活を直撃するものばかりである。そしてこの物価の値上がりの要因の多くは、安倍政権が推し進めている円安政策の結果であった。最大の値上がりは電気代で、東京電力管内では前年より五〇〇円も値上がりとなっている。
消費増税の内容を見てみよう。消費税の税率一%の税収は約二・七兆円と試算されており、三%の増税分は約八・一兆円となる。内閣府によると来年度に家計にのしかかるのは八・一兆円のうち、約六・三兆円となっている。単純計算すると国民一人当たり年間五万円余の負担増となる。
さらに物価上昇、増税という負担に加え、過去の物価下落を反映させると称して年金の減額(八〇〇〇億円)が始まり、他方では年金保険料が引き上げ(五〇〇〇億円)られ、その上来年度からは七〇〜七四歳の医療費の自己負担が一割から二割に引き上げられる。「消費増税、社会保障費の負担増、電気代などの値上げも含めると来年度の家計負担増は実質的に七兆円台の半ばに達する」(大和総研)。つまり国民一人当たりの負担増は五万円ではなく七万円近くに上昇する。
このように消費税率の五%から八%への引き上げは、政府・大企業が一体となって推し進めてきた新自由主義的政策の行き詰まり、破産を再び労働者人民の犠牲によって乗り切ろうとする攻撃であることは明白である。われわれはこの消費増税を絶対に許してはならない。これを許すなら、次は一五%さらにそれ以上を押しつけてくることは火を見るよりも明らかだ。
三分の二が「景気対策」に
一〇月一日の記者会見で安倍首相は、一方で「消費税収は社会保障にしか使いません」と言い切り、他方では「経済再生と財政再建は両立しうる」と強調した。前者の発言は昨年八月自民、公明、民主各党が消費税の増税分は年金、医療、介護、子育ての「社会保障四分野」にすべてあてるという「税と社会保障の一体改革」を意識したものである。後者は「税と社会保障の一体改革」に付帯事項としてつけられた「景気条項」と「税率引き上げの影響を踏まえ、成長戦略や防災に資金を重点配分する」という点を力説するためのものである。
現在、社会保障費四分野に使われている予算は、国と地方を合わせると約三八兆円、高齢者が増加し医療費や介護費用が膨らむと、二〇一七年には約四五兆円になると見込まれている。消費税を三%引き上げて八・一兆円、さらに税率を二%引き上げて一〇%にしても社会保障費のすべてをまかなうためには計算上は一九兆円も足りない。ここに学者たちが将来消費税率が一五%、二〇%だと叫ぶ根拠が存在している。
昨年八月、民主党野田政権は、「年間GDP(国民総生産)の二倍の一〇〇〇兆円にも達した国家赤字」の爆発を回避し、財政再建の道を切り開くことによって支持率の低下に歯止めをかけ政権延命を図ろうとした。逆に総選挙を前にして自らの手を汚したくなかった自民・公明は、「税と社会保障の一体改革」を承認する交換条件として「付帯条項」を成立させた。そして今、安倍政権はこの「付帯条項」を全面的にアベノミクスに利用し、自らの政治的基盤を強化するために動き始めたのである。
安倍首相は記者会見でそれを次のように説明した。「社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するためには、財源の確保は待ったなしだ」「増税だけを優先すれば、景気は腰折れしてしまうリスクが極めて高い。経済再生と財政健全化の同時達成しか道はない」「投資を促進し、賃金を上昇させ、雇用を拡大させる未来への投資だ」。
安倍首相は第一次内閣では規制緩和を税収増につなげる「上げ潮派」の塩崎恭久官房長官や中川秀直幹事長を起用した。再登板の際にも「税率を上げて税収を増すことなら誰でもできる」と発言している。それと比較すると記者会見での発言は彼なりの「強気」な弁解ともとれる。
一九九七年自民党橋本政権は消費税率を三%から五%に引き上げた。しかし、直後から不況に見舞われ景気は大幅に後退した。安倍政権が予定通り増税すると来年の四〜六月期にはかつてと同じように実質成長率が年率でマイナス五〜六%に落ち込むと見られている。この「景気の腰折れを防ぐ経済対策」こそ安倍政権の「未来への投資」に他ならない。
景気の一挙的後退を防ぐために、増税分八・一兆円のうち五兆円超を経済対策に振り向けようとしているのである。「消費税は社会保障にしか使わない」という発言とはほど遠い。経済対策の主要な内訳を見ると復興法人税の廃止のための穴埋め財源九〇〇〇億円、住民税を払えない人を対象とした現金支給三〇〇〇億円、東京五輪のためのインフラ整備などの公共事業に四兆円、住宅ローン減税の恩恵が及ばない人に数百億円となっている。さらに減税として企業の設備投資や事業再編を促す減税が七三〇〇億円、賃上げ企業への減税拡充一六〇〇億円となっており、減税分でも企業対象分が一兆円を超えている。増税によって労働者人民が負担させられる六・三兆円はそのまま企業を支える「後押し」費用になっており、「大資本には減税、民衆には大増税」という構図が数字の上でも明らかである。
「賃上げ要請」は当然無視
安倍政権は「企業に対する税負担を減らすことで企業が儲かるようにすれば、雇用が拡大し賃金も上昇し、家計の下支えにつながる」と力説し、「法人実効税率の引き下げによる賃上げ効果」を政策の中心にすえている。だが、企業が利益を上げ、その「力」を背景にして労働者の賃上げや雇用を拡大させるという「企業経由」の家計支援政策は、二重の意味ですでに破産している。
破産の第一の理由は、企業が政府の要請を最初から受け入れないという事実である。政府の要請に対し経団連の米倉弘昌会長は首相を頼もしい「後ろ盾」と持ち上げながらも「企業業績が上向きになれば給料の改善につながり、好循環が生まれる」と「企業」次第であると強調した。豊田章男トヨタ自動車社長も「企業の競争力を持続的に維持できるレベルでの賃上げはどうあるべきか各社が判断し……決断なさること」と発言し、賃上げよりも「競争力の強化を優先」させた。
また日商会頭の岡村正は「企業収益が増えて初めて賃金は上がる」と述べ、賃上げは「利益次第」であると強調し、利益が上がる前に賃上げ問題の話はできない」とけんもほろろに回答。
さらにこうした大企業の姿勢は、法人税への対応の仕方に最も露骨に現れている。今回法人税率の引き下げを行わなかった大きな理由のひとつが、法人税率を引き下げても多くの企業には影響がないことが明白になったからである。なぜなら法人税を納めている企業は全企業の二七・三%しかなく、残りの七割強は「赤字」を理由に法人税を納めていない。この中には電機、銀行などわれわれが知っている「有名」な大企業が数多く並んでいる。この結果、政府は「被災地の切り捨て」という言葉を浴びてもほとんどの企業に網をかけることができる復興増税の終了を一年前倒しし、実質的な法人税率を引き下げる方針を選択した。安倍政権の景気対策がいかに企業頼みであるかの端的な例証である。法人税の復興増税分を含めた実効税率は二〇一二年四月から三年間三八・〇一%(東京都の場合)となっているが、一年前倒しすると来年四月からは三五・六四%に引き下がる。これによって生み出される額は九〇〇〇億円であり、この九〇〇〇億円を財務省は年末の補正予算で一般財政から穴埋めし企業負担分をそのまま民衆に肩代わりさせる魂胆だ。記者会見で安倍首相は「五兆円規模の経済対策」と繰り返したが、復興増税の前倒しの穴埋め分も含めれば実質は六兆円の経済対策だ。
消費税引き上げと企業利益 破産の第二は、第一要件の裏返しであるが「企業が政府の要請を受け入れない」というだけではなく、すでに新たな選択を決定し実践し始めているという歴史的経過である。
小泉政権時代の二〇〇二年一月から〇八年二月まで「戦後最長の景気拡大」が続き、企業の経常利益は約二倍に膨らんだが、その利益のほとんどは企業の内部留保金にまわされ、一〇年間で内部留保金は一五〇兆円から三〇〇兆円超にまで増えた。しかし逆にその一〇年間、労働者の賃金は一〇%も減収となり、さらに非正規雇用者は二倍に増加し、今年八月には一九〇六万人に膨れあがり全労働者の三六・五%を占めるまでになっている。しかもその歴史的経過は消費税の増税過程とも深く結びついている。
消費税は売り上げから仕入れを差し引いた差額に消費税率をかけて計算され、その額を事業者が納税するシステムになっている。その際、派遣・請負などの「外注」した額は仕入れと見なされるために売り上げから差し引くことができ、消費税の対象とはならない。また多くの企業では「派遣」を物品費として扱うことによって同じように消費税の対象からあらかじめ除外されるようにしている。このような税制上のカラクリを使い、企業は労働者を派遣や請負に置き換えてきたのだ。その意味で不安定雇用の拡大と消費増税は表裏一体の構造をなしているのであり、その結果年収二〇〇万円にも満たないワーキングプアが一〇〇〇万人も形成されたのである。物価が下がり続ける長期的デフレ状況が作り出されたのは購買力の弱い貧しい層を膨らませたことと無関係ではない。消費増税問題はこれらのことと切り離して考えることはできない。
さらにもうひとつ大企業と消費増税の関係を示す重要なものとして「輸出還付金制度」というものが存在する。これは「戻し税」とも呼ばれ、企業が国内で原材料などを仕入れる際に消費税を払っているのに、その分を海外の消費者に転嫁できないための救済措置だ。一言で要約すると「輸出企業が納入した消費税分をその企業に戻す」という制度である。しかし「戻し税」は決して小さな額ではない。第一のトヨタは一八〇〇億円、二位の日産が九〇〇億円で住友商事、ソニー、三井物産と続き、第一〇位のキャノンでも約四〇〇億円で、還付金の総額は三兆一八三〇億円にも達する。
経団連を始めとして大企業が「消費税をドイツ並みの一九%まで上げるべき」と主張する根拠はここにある。大企業は消費税をあまり負担せず、逆に「戻し税」などで利益を上げているのが実体だ。ここでも民衆が負担した分を大企業が「還付」という形で手に入れる構造が二重三重に散りばめられている。
安倍政権は消費増税を契機に法人税の軽減をはかり、他方では東京五輪の開催をテコに公共事業(国土強靭化)などのバラまき政策を一層推し進めようとしているのである。
新自由主義と対決する闘いを
新自由主義の破産は各国ごとに違った形を取ってはいるが世界中に財政再建か景気重視かという課題を突きつけているようにみえる。しかしその実体は緊急経済政策や消費税(付加価値税)という形で民衆に犠牲を押しつける攻撃という点で共通している。
スペインでは二〇一〇年に付加価値税が一六%から一八%に上がり、さらに政府は二〇一二年に二一%に引き上げると提案したことをめぐり政府と労働者民衆との激突が始まった。イタリアでもモンティ前政権が緊縮財政路線をとり、付加価値税を二一%から二二%に引き上げ民衆の反撃にあって政府を形成してきた与党が分裂し政治的混乱が拡大している。ギリシャではオリンピックバブルが破産し、政府を支援するドイツのメルケルなどが緊縮財政路線を取るように圧力をかけ労働者に攻撃をかけている。
イギリスでは保守党のキャメロン政権が付加価値税を一一%から二〇%に引き上げ、二八%であった法人税を日本と同じように二〇一五年から二〇%まで段階的に引き下げるという攻撃をかけている。フランスでは年金の削減という攻撃で緊張が作り出されている。
イタリア、スペイン、イギリス、フランスなどEU全体に広がる政府・資本によってかけられている攻撃は、日本で安倍政権が開始している攻撃と同質である。それは消費増税―法人税減税という形や緊急経済対策という形をとって労働者の権利のはく奪に始まり、不安定雇用を押し広げ、福祉の切り捨て、貧困を強制する点では全く共通している。
今こそ全世界の労働者民衆と同じように、新自由主義と対決する闘いを開始することが問われている。
(松原雄二)
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