もどる

    かけはし2013.年9月16日号

アサドの打倒をこそ可能にせよ


シリア民衆の蜂起支持、英議会の票決歓迎

自力での勝利を可能とする武器含む支援が必要だ

ジルベール・アシュカル

 米政権がシリアへの攻撃意志を明らかにしたことをめぐって、世界の帝国主義が大きく足並みを乱している。そのことがまた、米政権の攻撃決定にも重大な圧力をつくり出した。その根底には間違いなく、その攻撃が露骨に米国の帝国主義的利益を映し出したものであることが隠しおおせなくなっていること、加えて世界の帝国主義諸勢力が総体として政治的に弱体化したことがある。この事態に対して左翼にも、シリアの民衆蜂起並びにアラブの民衆蜂起を支持するとは何を意味するのかが、実践の問題として突き付けられている。それを考える一つの問題提起として、アシュカルの提起とアラブ地域左翼諸グループによる共同声明を紹介する。(「かけはし」編集部)


 シリア政権に「罰を与える」最良の方法は、この国を爆撃することではなく、民衆蜂起がその政権を倒すことを可能にすることだ。
 もっとも早くに「議会制民主主義」を取り入れた西側帝国主義国家の行政においてはまれな事例として、英国政府は、シリア政権への軍事行動に関し、支持を得るという前もっての確実性がないまま議会に諮問した。そしてその計画を否認するという結果を、尊重すると決定した。私は、根底的な民主主義という展望の観点からの、シリアバース党体制に対する断固とした敵対者として、この結果を歓迎する理由をいくつかもっている。

ともあれ帝国主義の制限は前進


 第一の理由は、ほとんどの西側大国では今や当たり前のパターンとなっている帝国的行政権力に押しつけられる制限はどのようなものであれ、民主主義の観点からは疑いなくプラスであり、無条件に歓迎されるべきだ、という点にある。この場合における決定は一見したところ、もっとも冷酷で殺人的な独裁体制を延命させたとはいえそれでも、「制限付き」と主張された軍事行動への着手の正統化に向けて英国政府が議会に回答を求めたという事実は、英国政府と議会制民主主義を採用しているその仲間にとって、これからはそれを無視することがもっと困難になるはずの一つの基準をつくり出している。
 ワシントンでの英国シナリオの繰り返しはまったくもってありそうにないとはいえ、米国政府それ自身に対する圧力は、英国での票決の結果として、高まりつつある。こうしたことは、米国行政権力の議会承認なしの戦争発動権限を六〇日に「制限した」、ポストベトナム戦争権限決議があるにもかかわらず起きている。もっともその決議は、ホワイトハウスが繰り返し侵犯してきた代物だ。
 しかしそうだからといって私は、多くのタカ派議員が今回軍事行動に反対投票した理由に関してはまったく幻想をもっていない。確実なこととして彼らは、「反帝国主義」からは言うまでもなく、「平和主義」からそうしたわけではなく、シリアの民衆的蜂起の原因に対するあからさまな共感の欠如を西側の世論形成者に圧倒的多数という形であらわにさせている、そのような同じ理由からそうしたのだ。この理由は何よりも、米軍統合参謀本部議長のマーチン・デンプシーがつい最近あけすけに認めたように、シリア人の蜂起に対する不信だ。
 これは、リビアでの直近の経験がそれに関し全面的な大失敗となった以上はなおのこと人を動かさずにはおかない一つの考えだ。つまりNATOの介入はただ、彼の君臨の最後の年月を通じてカダフィの下であったものより、西側への友好度が低下するようリビアを変える手助けをしたにすぎなかったのだ。そしてもちろんリビアは、大原油輸出国であるという魅力を差し出していた。しかしシリアはそれをもっていないのだ。

国際関係への限界つき法の支配


 英国議会の票決を歓迎する第二の理由は、それが明確に国連による正統化を求めることに関係していた、という点だ。そしてこのことが英国政府の背中を押し、議員多数を納得させる試みとして、国連安保理に決議草案を提出させた。国連並びに現行の国際法がもつ明らかな諸限界にもかかわらず、法がたとえ不十分だとしても、強力な国家が、何よりも米国がいつ誰に対して力を行使するかを一方的に決定する自由を感じるという、そのような「ジャングルの法」によって支配されているよりも、国際関係が法の支配という何らかの形態の下に制度化されることの方がもっと健全だ。
 法の支配は、ロシアや中国が真に人道的な諸々の行動が起きることを阻止できる束縛だといった考えは、西側の介入は全体として高潔な意図から出ているという観点に基づいている。しかしそれらの介入はまったくそうではない。それは、もっともあからさまに国際法を侵犯した冷戦終焉後の西側の二つの軍事介入――一九九九年のコソボ、そして二〇〇三年のイラク――を心にとどめるだけで十分だ。双方において、帝国的なもくろみに対する覆いとして人道上の口実が使われ、破局的な人道上の諸結果に導いた。

攻撃の目的は市民と無関係


 議会の票決を歓迎する第三の理由は、シリアの民衆蜂起に対する私の断固とした支持にもっとも直接に基づくものだ。ワシントンが熟考しつつある軍事行動は、殺人的なシリア政権に僅かばかりの軍事的打撃を与えることを中心としている。その目的は、市民に対する化学兵器の使用を理由にその政権に罰を与えること、とされている。
 シリア政権がシリアの民衆に対する残酷な攻撃に際してそうした兵器に頼ったということに、私はいかなる疑いもほとんどもっていない。本当のところ、それが犯されたほんの数日後に犯罪現場に入ることを許された国連査察チームが、何らかの確実な証拠を見つけ出すことは難しいだろう。しかし、シリア政権が化学兵器、並びにそれらをもって打撃を加える諸手段を所有している(過去に起きたように、大規模なロケット攻撃や砲弾の攻撃を準備するために)という事実は、それらを市民に使うという冷血な連続殺人者的素養が事実であることと同じく、確かなことだ。
 市民的目標(学校の運動場)へのジェット戦闘機から落とされた記録に残された焼夷弾の使用を見ればよい。この例では少なくとも、シリアの内戦において政権が空軍能力を独占しているという事実に、合理的に異議を差し挟むことなど誰にもできない。
 しかし問題をここに留めることは、ある重大な問題を避けることになる。すなわち、化学兵器を用いて一五〇〇人にのぼる人々を殺害することは、「通常」兵器で一〇万人以上を殺害すること以上に深刻な犯罪となるのか? 次いで、ワシントンは、猛攻を受け続けているシリアの人々を、荒廃させられたその国を、さらに難民に変えられた何百万人という生き残りや追い立てられた諸個人を静かに見守った後に、今になって突然なぜ攻撃したいのか?
 真実は次のことにある。つまり、これから来る攻撃の意図はただ一つ、譲歩を求める米国のあらゆる呼びかけがあるにもかかわらず、シリア民衆への戦争エスカレーションに全面的な自由をふるってきたシリア、イラン、ロシアの諸政権連合と対峙する点で、米国およびその同盟勢力の「信頼性」を回復すること、攻撃をその一つの手段とする、ということだ。攻撃は、米国の帝国的地位を復帰させるためにこそ必要とされている。米国はここ数年、イラク、アフガニスタン、イラン、さらにはイスラエルのネタニエフによってさえ、相当程度恥をかかされてきたのだ。

アサドなきアサド体制の強要

 これらの攻撃がシリア民衆を助けることはないだろう。すなわちそれらは、シリアの民衆が彼らの専制者から逃れることを可能とはせずに、破壊と死者の数だけを増やすだろう。攻撃はこの専制者の打倒を意図してはいないのだ。事実においてワシントンは、シリアの民衆が独裁体制を覆すことを望んでいない。つまり彼らは、シリアの反政権派に、アサドをマイナスした政権の大半部分との取引を押しつけようとしている。
 これはいわゆるイエメン型解決であり、バラク・オバマ大統領はそれを、昨年以来精力的に押し進めてきている。さらにジョン・ケリー国務長官もまたそれを、よく似たもの同士のロシアの片割れに取り入ることで、押し進めようと試み続けてきた。
 しかしながら米政権は、一方でロシアとイランがシリア政権に諸々の兵器を潤沢にあつらえ続けてきた中で、シリア反政権派の主軸勢力に、ほぼこの二年彼らが求め続けてきた防衛的な対空、対戦車兵器を拒絶することによって、ただ二つの結果を何とか達成したにすぎない。
 すなわち米政権は一方で、シリア政権が軍事的な優位を確保することに、こうして彼らが勝利できると信じることに、余地を与えた。それゆえこの政権は、どのようなものであれ譲歩に向かうことに対しては、いかなる動機を抱くこともなかった。
 他方で、隣国のイラクに既に存在していた(シリア政権自身がそこで以下の勢力の発展に力を貸した)聖戦主義者のネットワークは、ワッハービ派(スンニ派のもっとも保守的な部類に入る一宗派、サウジ王家が属する:訳者)の財源から来る惜しみのない資金供与で利益を受け、さらに、シリア政権自身による当初の後押し(民衆反乱をスンニ派原理主義者によるものと描き出そうとした政権の熱望による、蜂起の初期局面における聖戦主義者のシリア監獄からの解放を含む)を経て、シリア人の蜂起の重要な構成要素として自身を押しつけることができた。

シリア民衆の根拠ある米国不信

 それらを理由に、シリアの人々はワシントンを少しも信用していない。これを例証するものがワシントンポストに掲載された以下のルポルタージュだ。

……シリア人は、外国の助けなしにアサドを打倒する方を好んでいるように思われる。しかし西側がこの攻撃を敢行するとすれば、自由シリア軍は、自身の立場を前進させるために、政権軍の隊列中に生じる混乱のすべてを利用するつもりだ、FSAの政治とメディア調整担当者のルワイ・アル・モクダードはこう語った。
 「確かなこととしてわれわれは、今回の作戦のほとんどを、現地でのわれわれの状況を改善させるものに、もっと多くの地域を解放し支配させるものにしようとしている」「これはわれわれの権利だ。現地のわれわれの戦士は、それが彼らの助けとなるのであれば風向きの変化であっても、そしてあなた方の敵がもう一つの相手と向き合っているとすれば、何でも使うべきだ」、彼はこう語った。
 しかしながら介入を支持する人々は、問題の攻撃がどのように展開し、一〇万人以上が殺害されたこの破滅的な戦争に加えて今後彼らに降りかかると思われる――もしあるのであれば――作用がどのようなものかについて、いくつもの懸念を明らかにした。
 「ここの人々は、攻撃がむしろ政権を助けることになりかねないと心配している」「この手法が惨事を終わりにするのであれば、もちろん私は攻撃を支持する。しかし殺人は二年半の間続いてきたのだ。そうであれば、米国が今になって真剣になったなどと、なぜ私が信じなければならないのか?」、ダマスカス近郊のダライヤの活動家であるアブ・ハムザはこう語った。ここでは、もっとも苛烈な戦争が、五〇万人近い人口をもつ町に破壊と人気のない荒廃を残したのだ。「人々は米政権への信頼をなくしている」「米国は自分自身の利益のためだけに行動すると彼らは考えている」と彼は付け加えた。
 西側の大国はシリアの人々を本当に気づかってきたのか――あるいはワシントンは、彼らが追求してきた譲歩のための諸条件を生み出す点でだけでも、もっと賢明であろうとしてきたのか――。シリア反政権派に防衛的武器を装備させ、こうして政権崩壊を早めるような形で、戦争の流れを蜂起が変えることができるようにする方が、彼らにとっては容易だったかもしれない。シリアの内戦において政権側の守勢に向けた決定的な移行が不足する中で、政権は非妥協的なままに、アサド一族を中心に団結したままにとどまり、戦争は、その恐るべき結末を伴いつつだらだらと続くだろう……

民衆への武器支援拒絶は無意味


 死者数が増大するがゆえにシリア反政権派への武器は拒否されるべき、とする多くの好意から発する主張を論駁するものこそこの現実だ。それとは逆に、戦争の進行を維持し、死者数を増大させているものこそまさしく、兵器類における政権側の優位さだ。ここに、フランスの革命家、グラックス・バブーフの言葉(一七九五年)を引用させて欲しい。

……あらゆる殺人者を一方に置き、防衛手段をもたない犠牲者を他方におく、というようなもの以上に不愉快な内戦は何かあるだろうか? 犯罪を犯しつつある殺人者に対抗して犠牲者を武装しようとする誰かを、人は責めることができようか?……

 ロシア、イラン、イランの連携相手の支援を基にアサド政権によって犯されている恐るべき犯罪を前にして、シリアの民衆が彼ら自身を守る手段を得る手助けをすることは、民衆の自己決定権を支持すると主張する者すべての義務だ。(「インターナショナルビューポイント」二〇一三年九月号)


もどる

Back