もどる

    かけはし2013.年7月15日号

新人事・給与制度とは何か


経営効率の名で振り回される郵政事業現場 A

「成績」のための競争と分断

順位がすべて
という「訓示」


 今郵便局の現場では、かもメール販売ノルマの締め付けに悩まされている。会社はノルマではないといっているが、現場の管理者は「ノルマは目標ではなく達成すべき最低ライン」などと言い放ち、個人成績の振るわない職員に対して恫喝をかける。しかし年賀と違ってかもメールはそうそう売れる商品ではない。暗に自爆を強要しているに等しい。
 東京のある局、営業成績が支社管内ワースト一〇に入ったというので局長が全職員を集めて訓示を垂れる。「みなさん、この成績では来年から導入される新人事・給与制度によってみなさん自身の給与に響きますよ」と。実はこれは個人売り上げが業績手当に響くぞと言う以上の意味を含んでいる。新人事・給与制度のシステム設計では、各局ごとの成績によって配分される賃金原資に差が出ることになっている。管理者はこうも言ったという。「順位がすべてです。前年以上、それ以上の成績を上げなければなりません」。頑張った者が報われる制度と労使双方が言うが、例え前年以上に頑張って成績を上げても、それが順位に反映されなければ、賃金原資配分を減らされるシステムとなっている。
 さらに、その局ごとに配分された賃金原資はチームごとにもその成績によって相対配分されることになっている。

成果給与導入と
徹底的差別体制


 新人事・給与制度では基本給を「役割基本給」と「役割成果給」に分ける。その比率は八対二。当初〇九年に初めて会社が提案してきたそれは、七対三という数字だった。現在の基本給のうち三割が成果給に変わるというので、現場ではかなり抵抗が強く、その年のJP労組の大会でも批判が噴出した。〇九年という巡り合わせも幸いしたのだろう。この年、総選挙によって民主党が大勝し政権交代がなった。同時に郵政民営化の見直し議論が始まると共に、郵政有期雇用労働者の問題も亀井静香郵政改革担当相の「奮闘」によってクローズアップされていた。結果的にこれはスタンドプレーに終わってしまうのだが、いずれにせよこの政治状況下で新人事・給与制度に関する労使交渉も一旦ストップする。
 一二年二月、労使双方にとって潮目が変わってきたとの判断をしたのか、JP労組第九回中央委員会で交渉再開に向けた確認がなされた。改めて新人事・給与制度が会社から提案されたのは四月一六日。その年の一二月の総選挙で民主党は大敗、また自公政権が返り咲く。
 新たに提案されてきたものは先に書いたように成果給の割合が三割から二割に緩和されていたが、その埋め合わせをするかのように新たな手当の導入が提案された。業績手当という。六割が営業実績。業務実績については当初は減点主義によるポイント制で、例えば誤配をすると一五ポイントマイナス、交通事故を起こすと最大六〇ポイントマイナスなどとというものだったが、これは最終交渉によって会社が少し譲歩し、マイナスポイントは、部内者犯罪の発生、重大交通事故の発生、記録郵便物等の紛失の三項目のみとなった。人事評価はこれら業績評価も併せてAからEまでの五段階の評価となる。当初五段階すべて相対評価となっていたがこれも最終的にD、Eのみは絶対評価となった。が、正確には絶対評価・相対配分だという。
 これはどういうことかというと、例えばある局では絶対評価でE評価者がいなかったとする。しかしその局がもし低成績局だったら、D評価者の賃金は好成績局のE評価者の賃金と変わらないといったこともありうる。さらにチームごとの成績によって賃金原資も変わってくるので、チームごと班ごとに同じ評価でも賃金に差が出てくることも。どうなるか。「昼飯もそこそこに配達も営業も頑張り、三誤もなければ交通事故もない。順調にポイントを溜めてきた。にも関わらず給料はずっと頭打ち。何故か。班員に一人ダメな奴がいるからだ」。
 会社はファンドイーブンという言い方をしているが、ようするに決まった賃金原資の中で、局ごとにチーム(班)ごとに個人ごとにパイのぶんどり合戦をしろということだ。
 そしてこのぶんどり合戦の基礎となる評価基準に、前回書いたDOSSシステムが効いてくる。班長は業績手当の基礎データとなる業務日報を毎日記録しなければならないのだが、これにDOSSのデータが連動する。班員各人ごとの分単位の業務実績が自動的に業務日報に反映され、各人の能力差が数字として一目瞭然となる。郵便屋さんは一分ごとの業務実績がデータとして蓄積され、その差が相対評価されていくのである。このデータによって評価された業績は最終的に五段階の人事評価にも連動する。
 一挙手一投足及び営業成績が具体的に数字化され、それが人事評価に反映される。しかもその成果の配分は相対配分なので各局ごとに各チームごとに各個人ごとに……。
 なお、退職手当にもポイント制が導入される。勤続ポイントの他に、役割等級ポイント、人事評価に基づく加減算などに基づき、最終勤続年数が同じでも最高で五〇〇万円近い差が出ることになる。

限定正社員制度
先取り導入か

 新人事・給与制度にはもう一つ新しい制度が目玉として用意されていた。新一般職という新職階制度だ。前回にも触れたが六月一四日にマスコミ報道された限定正社員制度の導入という報に対して、JP労組はその日のうちに文書を発出し会社にその真意を問い質している。確かに限定正社員制度はまだ法制化すらされていない。
 しかし、会社はこの「誤報」に対して未だ何一つ釈明すらしていない。いつもはマスコミ報道に敏感な郵政広報室が、会社に少しでも不利な報道にはその取材をした記者に対して配達証明付きで警告書を送りつける広報室が、または出入り禁止を通告した記者の顔写真をわざわざ掲示までしている広報室が、今回は一切何の反応もしていない。これは明らかに意図的な会社によるリークだったのだろう。限定正社員制度が国会で制度化された暁にはこの新一般職は同時にそれに移行する、という願望を述べたものだろう。
 新一般職とは何か。会社の説明では、業務内容・勤務地を限定するコースとして、役職登用及び転居を伴う転勤を行わない「コース」とされる。給与水準は具体的には三〇代中堅の職員で平均年収約二三〇万円強、年収が頭打ちになる五〇台なかばで、最高四五〇万円弱、と試算されている。
 この条件は「職種や勤務地、労働時間が限られ、事業場の廃止などに伴う解雇条件を緩和することを目的とした制度」とされる限定正社員制度とうり二つである。解雇条件の緩和、この一点が違うだけ。会社は当然この制度の導入を射程に入れているだろう。
 ちょっと話は戻るが、この制度が具体的に提案される前の一二年五月八日、日本郵政前齋藤社長は記者会見で以下のように述べている。
 「うちの給与体系は国営時代から変わっておらず、勤続年数が高いと(賃金の高さを示す)カーブが上がる。(年功部分の給与水準を下げるなどして)カーブをなだらかにし、業績手当として頑張った社員に報いる財源に充てるのが基本的な考えだ。それに加えて、正規社員と非正規社員だけではなく、正規社員に新しい職種を作る。将来もあまり給与が上がらないが、転勤がなく定型的な作業の職種だ。これで非正規社員も吸収できるし、経営負担も軽減できる。まずは郵便事業と郵便局で実施したい。将来的には大きな改革になるだろう」。
 これを見る限り、今回導入される新一般職は有期雇用社員を吸収するために導入すると読める。実際JP労組もこれまでそのような期待を持たせるような説明をしてきた。ところが会社が出してきた社員構成推移による「あるべき姿」というグラフには、依然全社員のうち四割以上が有期雇用社員が占めることになっている。新一般職の採用はほぼ新採を対象としてもので、有期雇用社員からの登用はこれまで通り、時給制→月給制→正社員(=新一般職)という高いハードルを設けたままなのだ。しかも、労働契約法の改正によって五年後には有期雇用社員を正社員に転換しなければならず、それが新一般職への登用になるのかと思いきや、会社はそれに向けてはまた新たな職階を考慮中というのである。それは無期雇用ではあるがそれ以外の条件は今までと同じものになると。「無期契約社員」といった呼称になるだろうか。
 職場はどのようになるか。具体的なイメージとして、例えば郵便集配のある班に班員が一二名いるとする。班長、副班長の二名が基幹社員(これまでの正社員)、五名が新一般職。他二〜三名が「無期契約社員」、さらに二〜三名の有期雇用社員。
 まるで身分制度である。そしてそれぞれの「身分」ごとにこれまで以上の足の引っ張り合いがはじまるだろう。「身分」ごとではない、その各「身分」内でも、熾烈な競争環境が準備されているのである。(丸池忠努)

 


もどる

Back