もどる

    かけはし2013.年6月3日号

プロテスタント教派が反対攻勢


国連が差別禁止法の制定を勧告

垣間見える自負心と危機感


 「パク・クネ政権と保守キリスト教の闘いを見守りましょう!」。
 ツイッター・アイディー「福祉の世の中」(@jk0027)があげた寸評だ。なぜ闘うのか。理由はその寸評の前の部分に出てくる。「政府が差別禁止法案を提出すれば、再び補完して提出するのだと言う」。キム・ハンギル、チェ・ウォンシク民主統合党議員が保守プロテスタント系の圧力に耐えられず撤回した差別禁止法案を法務部(省)が再び提出すれば、民主党が再び補完した案を提出すると言うのだ。
 当初、パク・クネ大統領職引き継ぎ委員会は国政推進の課題として差別禁止法の制定を挙げていたし、法務部も制定推進団を構成して政府案を準備する、と発表した。早ければ9月の通常国会に政府案が提出される可能性がある。国連・人権理事会などが2013年、韓国に対する「国家別定例人権検討」(UPR)で「包括的差別禁止法」の制定を勧告し、韓国政府が立法を約束したために、差別禁止法の制定は引き延ばしがたい状況だ。しかも韓国は今年、国連・人権理事会の理事国として活動を始め、責任感がより大きくなった。万一、差別禁止法にプロテスタント教界がそれほどまでに反対している「性的志向」に伴った差別の禁止が明示されるならば、「パク・クネ政府」と「保守キリスト教」が対立するという「厄介な」事態が発生するかも知れない。

スローガンは「従北ゲイ」に


 07年から13年まで、人権の時計は反対方向に回った。07年、ノ・ムヒョン末期に法務部は差別禁止法の制定を予告した。論難は一緒だった。同性愛者など性少数者への差別の禁止を意味する「性的志向」を差別禁止の例示項目に入れることについて、プロテスタント界の陣営が強く反発した。結局、08年に発議された法案は「性的志向」などを差別禁止項目から削除し、「ボロボロの差別禁止法」という批判を受けた。それでさえも、政権末期に「免責用」として発議された案は17代国会の任期切れとともに「自然死」した。
 教会の権能は時の経過につれて大きくなった。2007年、差別禁止法反対運動は「ヨメが男だなんて、同性愛とは何たることか」、という伝説的なキャッチ・フレーズを残した。そして2013年のスローガンは「従北ゲイ」に要約される。北韓(北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国)は同性愛者の存在さえ否定しているのに、「従北」と「ゲイ」が南側では一体を成した。超教派市民団体を標榜しているものの、プロテスタント教徒が中心を成している「正しい性文化のための国民連合」(パ性連)が配布した動映像「差別禁止法の隠された真実」は、こう語る。
 「国を愛している愛国者たちよ! 北韓が核で挑発している今/我々が『差別禁止法』を阻まなければ/国家保安法が無力化し、従北勢力によって結局はベトナムのように滅びることになるだろう/わが青少年たちは同性愛によって患い自殺するであろうし、逆差別によって社会的共感を持った大多数の国民が犯罪者となるだろう/南々葛藤をひき起こし社会的混乱を巻き起こす従北勢力に巻き込まれることなかれ!」。差別禁止法が通過すれば「牧師が説教の時間に同性愛を批判しても罰金を科されることになる」というような言葉などが流布された。さらには「米国で同性愛法が通過した州では小・中・高校の性教育の時間に同性間の性行為(肛門性交)を同時に教えている」というような、検証が必要なケースもある。
 実際のところ差別禁止法は強力な処罰条項を備えた法律ではない。差別を受けたと考えている人が国家人権委員会に陳情を行って調査をしている途中で、陳情人に不利益な措置を取る場合に罰金を科す程度だ。間接差別、ハラスメントなどについての条項はあるけれども、その実効性は立法内容によって大きく変わる。だがプロテスタント教界が感じている危機感は半端ではなかった。差別禁止法が発議されるやいなや「宗教の自由」を心配して街頭集会を開き、4万枚のビラを配布し、1千万人署名運動を繰り広げるという「熱情」が展開された。さらには「反同性愛」キャンペーンを通じて、分裂していた教会が再び1つになる「教会一致」の流れも現れた。昨年、役員選出の過程で葛藤を来たし組織が分裂した韓国キリスト教総連合会(韓基総)、韓国教会連合(韓教連)は「差別禁止法反対」で一緒の声を挙げた。

教派の進歩派も沈黙

 太平洋の彼方、米国の韓人教会も韓国の差別禁止法反対運動を展開した。韓国のプロテスタント教派は、その胎生からして米国の強い影響を受けた。堕胎と同性愛を社会悪と考えている米国式原理主義教会の影響が韓国の差別禁止法反対にも強く刻み込まれている。だが米国では保守教会が競争している多数だとするならば、韓国では圧倒的多数だ。同性愛反対に関しては中立地帯が見えない。韓国キリスト教教会協議会(NCCK)の所属教団である大韓イエス教長老会統合(イ長統合)は今年3月、京畿道平沢市の双龍自動車鉄塔前で「双龍自動車解雇労働者のための祈祷会」を行った。このように「治癒と和解」を強調したイ長統合派4月、「性のアイデンティティーについての差別禁止は普遍的倫理に深刻に反する条項」であるとして差別禁止法反対の声明を総会長名義で発表した。ここで、プロテスタント教界の進歩と言われるNCCKの沈黙が深くなっていく。
 さて、再び戻って「従北ゲイ」という、およそ同居が不可能な組み合わせはどのようにして出てきたのだろうか。差別禁止法反対の先頭に立っているプロテスタントの団体としてしばしば名前が登場するエスダー(エステル)祈祷運動、聖詩話運動本部、議会宣教連合などのホームページを探ってみよう。エスダー祈祷運動の掲示板には「差別禁止法案が撤回されました」「連邦制統一…あなたの選択は?」のような掲示物が並んで載っている。聖詩話運動本部のホームページにも「韓国教界、同性愛、同性婚の国会立法措置非常対策委員会記者会見」「韓(朝鮮)半島平和と統一のための救国祈祷会」の掲示物が一緒にある。
 全く関連がなく見える差別禁止法反対と脱北者に対するイム・スギョン民主党議員の発言を糾弾する声明にエスダー祈祷運動、明るいインターネットの世の中作り運動本部のような団体の名前が同時に出てくる。反北・反同性愛は「愛国キリスト教」の活動において、そのように1つとなった。ハン・チェユン韓国性的少数者文化人権センター代表は「2010年、軍刑法の鶏姦条項の改正が論議されているころ、枯れ葉剤戦友会のような団体が反同性愛陣営に結合して『同性愛が国家の安保を揺るがす』というフレームが出てきた」と分析した。

民主党は1つの条項に4議案


 韓国をキリスト教倫理の最後の堡塁と自慢しているプライドも、それに加わる。パ性連が配布したパンフレット「同性愛についての不都合な真実」は、こう主張する。「米国の幾つかの州やヨーロッパなどの幾つかの国で同性愛を認める法律が作られたのは事実だけれども、同性愛を認めている国々はポルノを合法化し、性的に堕落した国だ。韓国が極めて重要な位置にいると思う。なぜならば、大部分の国々は経済的に豊かになるとともに性的に堕落した。現時点で経済的に豊かであるとともに、それでもある程度の健全な性倫理をもった国家が韓国だ。だからこそ、経済的に豊かでありながらも健全な性倫理をしっかり維持している模範国家にならなければならない」。
 この文章には自負心と共に危機感もかいま見える。韓国キリスト教が渡ってきた米国でも同性婚が広がっているのだから、消滅していく価値を守る国という「選ばれた国」である韓国以外にはそれはないという考えが、同性愛反対の熱情の根底には横たわっている。差別禁止法反対を代表しているプロテスタント教組織の正式名称は「韓国教界、同性愛、同性婚の国会立法措置非常対策委員会」だが、名称からして韓国には存在していない現実としての「同性婚の立法」と闘っている。
 同非常対策委員会の常任代表は民主党議員出身のキム・ヨンジン長老だ。差別禁止法問題を見ると、民主党は「ムジゲ(虹)政党」として再評価される。ホン・ソンス淑明女大・法学部教授は「少数者関連の立法を推進する時は多数の立場を説得する倫理と戦略があらねばならない」と指摘した。民主党の議員たちは2008年の廃案になった経験が何を意味するのか理解することもできず、関心もなかった。差別禁止法案が発議された後になって初めて性少数者団体についても知ったほどだ。準備されていない発議は性急な撤回によって終わりを告げた。
 ホン教授は「パク・クネ政府の国政の課題に入っているのだから、少しばかり政治力を発揮すればセヌリ党をも説得できる状況だった」と指摘した。差別禁止法の共同発議者として署名したキム・ジンピョ議員は自家撞着の表象だ。彼は2012年の大統領選を前にして民主党宗教特委・キリスト教委員長の資格で「同性愛・同性婚を許容する法律が制定されないように、一切の努力を尽くすことを約束申しあげる」と語った。このような彼がキム・ハンギル議員の差別禁止法に共同発議者として署名した。再び反転、最近、彼は「同性愛、同性婚が許容される法律が制定されないように努力する」というメールをプロテスタント教界の人々に送ったものと伝えられる。
 軍刑法92条についての民主党の分裂は漸入佳境(しだいに佳境に入る)だ。差別禁止法撤回の論難のまっただ中で、軍事法院長出身のミン・ホンチョル民主党議員は軍刑法92条の改正案を提出した。違憲性の論難があった軍刑法92条の「鶏姦」の項目を「肛門性交」と変えた改正案がキム・グワンジン民主党議員の発議によって、この3月に通過した後だった。ミン議員が出した「軍刑法の一部法律改正案共同発議要請」を見ると、92条6項の名称が「醜行」から「同性間の姦淫」に変わる。内容も「軍人または準軍人に対して肛門性交やその他の醜行をした人」が「軍人または準軍人が同性間で肛門性交や口腔性交、その他の類似性行為をした時には」という文句に代替される。
 こうなれば同性間が合意した性行為も2年以下の懲役に処せられる可能性が大きくなる。処罰の対象も男性の同性愛から女性の同性愛へと拡大される。この条項を「同性愛者の性的自己決定権を侵害する違憲」だとして批判してきた性少数者団体は4月25日、民主党本部前で記者会見を行い、改正案の撤回を主張した。一方、ある民主党議員は軍刑法92条の廃止案を準備中だった。これに先立ってキム・グワンジン議員の改正案が出された当時、ナム・ユンインスン民主党議員による、合意された性関係は処罰しないという案も出てきた。このように1つの条項について4つの法律案が出てきた民主党は、実に多様性が保障されている衆口難防(多くの人の話をやめさせるのは難しい、の意)の「ムジゲ政党」だ。

背後で笑う財界とセヌリ党

 強力な反対者やさまよっている政党はあるものの、差別禁止法賛成の世論は広がることができていない。女性や障がい者たちが共に行動している「差別禁止法制定連帯」があるものの、賛成の世論を組織する重荷は性少数者団体が大きく負っている。これは「異常な国」の現象だ。差別禁止法制定の必要性は本来、労働から出てくる。他の国の事例を見れば、差別による解雇に対して闘っている過程でこれを判断する法的根拠の必要性が、まず提起される。
 公益人権弁護士の会である「ヒマン(希望)を作る法」のハン・カラム弁護士は「大部分の国で労働界が50%、女性界が30%、少数者たちが20%の役割を果たした」と伝える。けれども現在、労働界は非正規問題の解決も手に余り、差別禁止法に関心を傾ける余力も意志もないようだ。けれどもプロテスタント教が強力に乗り出した今が、むしろチャンスだとの意見もある。ハン・チェユン代表は「韓国において差別は存在するけれどもキチンと表面化しなかった」し、「差別禁止法の発議さえ阻んでいるプロテスタント教のゆえに差別の実体があらわになったし、重要な社会的イシューにもなった」と語った。
 ハン・カラム弁護士は「問題の核心は憲法上の政教分離の原則が揺らいでいること」であり「宗教的信念や圧力が政策に反映されてはならないという公職者の倫理の問題だ」と指摘した。このような差別禁止法論難の背後で笑っている人々もいる。2007年、法務部の差別禁止法推進に強く反発していた韓国経営者総協会などの財界は、2013年の論難では姿が見えない。「差別禁止法は企業活動の自由を制約する」と再び主張する必要もなく、プロテスタント教界が代理戦を遂行しているからだ。民主党がプロテスタント教の攻撃を受けている状況を楽しんでいる与党・セヌリ党もいる。
 差別禁止法の撤回が知られるころの4月23日、フランスでは同性結婚の法案が通過した。法案が可決されるころ、反対している人々が議事堂に進入し野次・からかいを浴びせた。クロード・バルトロン・フランス下院議長は彼らを指して、「あの、どうしようもない人々を国会から追い出して下さい。民主主義の敵は国会に入ってくることはできません。追い出して下さい!」と語った。彼は法案上程の前日、弾薬の粉が入った脅迫状を受け取った。どこが正常な国会であり、誰が有能な政治人なのか。(「ハンギョレ21」第959号、13年5月6日付、シン・ユンドンウク記者)

 


もどる

Back