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    かけはし2013.年6月3日号

労働分野の規制緩和が狙うもの


「労働ビッグバン」との対決へ総決起を

遠藤一郎さん(全国一般全国協副委員長)の宮城全労協メーデー講演(上)


今年の宮城全労協メーデーは全国一般全国協副委員長の遠藤一郎さんを招いて、安倍政権が画策している「労働分野の規制緩和」攻撃についての学習集会として開催された。マスメディアでもさまざまに取り上げ始められたこの政策は、労働者に対する極めて重大な権利侵害と生活破壊の攻撃だ。労働者の垣根を越えた共同による総力での反撃をつくりだし、何としても打ち砕かなければならない。当日遠藤さんはこの観点から、この攻撃の全体的構図と、それを支えている論理を分かりやすく明らかにしている。これから始まる総決起に向けた貴重な学習素材であり、当日の講演への若干の補足を加えて、三回に分け以下に紹介する。(「かけはし」編集部)

持てる者のため
の露骨な政策

一ヵ月前に仙台で、東北全労協が主催した講演会があった。講師の浜矩子さんは、多様な側面から「アベノミクス」を批判した。そのことを前提に、安倍政権が策している労働規制への攻撃にしぼって報告したい。
 報告の要点は次の三点。
 第一に、政府が経済財政諮問会議のもとに産業競争力会議と規制改革会議を置き議論していることは、自民党政権時代の「労働ビッグバン」の継続・発展である。
 第二に、政府議論の多くが日本経団連の主張と共通している。
 第三に、六月「骨太方針」にそれらが盛り込まれる。参議院選挙の重大な争点として、労働側の反撃が必要だ。
 日銀新総裁の登場が、いわゆる「アベノミクス」の号砲となった。この半年、円安が進行し、株価は上昇している。野田首相が解散を持ち出した昨年一一月の局面では八八〇〇円だった。株を持っている人たちにとっては笑いの止まらない展開だろう。株を基礎にした企業の資産価値の観点からも、すさまじい成果だ。輸出企業大手は一円の円安で、たとえばトヨタでは二〇〇億円の「利益」、帳簿上の黒字が増えると言われている。
 日銀新総裁は三月に就任した時点では「インフレターゲット二%」を二年をめどに達成すると打ち上げた。最近の発表では「一五年度物価上昇率は一・九%となった」。
 消費税の三%引き上げ、さらに八%から一〇%へと二%の引き上げが予定されている。それらが当然、一層の物価上昇の要因になる。朝日新聞はこれらをもとに、物価は一七年の三月には一〇%上昇になると書いた。四年間で一〇%、単純に割れば年間二・五%。大変な物価上昇だ。
 すでに生活必需品の値上がりが進み、燃油も、電力とガス料金も上がっている。東京電力は三ヵ月連続引き上げた。こうして生活を直撃し始めている。
 一方、一三春闘での賃上げはどうか。政府による経団連への要請にもかかわらず、大企業の中でのごくごく一部の動きにとどまり、「賃金置き去り懸念」とマスコミも書いた。政権側は「物価だけ上がって賃金が上がらないということはない」(黒田総裁)、「物価が上がれば年金額も上がる」(安倍首相)と懸念解消に躍起だ。

「成長戦略」
とは何か?


 金融や財政出動はあくまで導入句で、それだけではどうしようもない、「三本の矢」の最後、「経済成長戦略」が決定的だと盛んに言われている。しかしそれは、真っ赤な嘘であることが赤裸々となっている「トリクルダウン」論を何の反省もなく前提にしている上に、考えられている中身もとんでもないものだ。
 安倍首相は、日本を企業が世界一活動しやすい国にすると強調した。資本が海外から日本に入ってきて、自由に動く、そういう国にすることが成長戦略であり、そのために「規制改革」が必要だという。しかし国内産業をどうするのか、依然としてはっきりしない。とにかく「規制緩和」「規制改革」と言うだけだ。
 首相を頂点に経済財政諮問会議が発足し、そのもとに屋上屋を重ねるように産業競争力会議と規制改革会議が組織され、そこに小泉政権時代に名をはせた人物たちが復活している。たとえば竹中平蔵元大臣は、規制を全部改革すればいいのだが、抵抗勢力がいてすべて撤廃というわけにはいかないので妥協しているのだと言っている。
 どんな議論がなされているのか。産業競争力会議、規制改革会議、そして日本経団連の資料を検討してみよう。聞こえのよい表現も多用されているので注意が必要と、あらかじめ注意喚起しておきたい。

「解雇自由」を
持ち出す議論


 産業競争力第四回会合(三月一五日)に「人材力強化・雇用制度改革について」(長谷川閑史、テーマ別会合主査)という提起がなされた。
 少子化対策、教育制度改革、若者・女性・高齢者の雇用・活躍、外国人の積極活用、国内雇用の確保の項目が並んでいる。最もスペースをとっているのが「雇用制度改革」だ。そこで三つの重点施策があげられ、そのための具体策が次のように五点、示されている。

1.多様な働き方を差別なく認める(画一的な正社員中心主義を改める)
2.労働市場の流動性を高め、失業を経由しない成長産業への人材移動を円滑にすると同時に、セーフティネットを作る
3.再就職に向けた労働者の教育・訓練・職業紹介
4.若年労働者の職業訓練・見習雇用支援
5.解雇ルールの明確化

 一点目で「多様な労働契約(三年超の有期雇用、地域限定、職種限定、プロジェクト限定など)の自由化」とある。労働基準法では有期契約の最長は三年と定められているが、それを延長する。そして「地域限定、職種限定、プロジェクト限定」の社員をつくる。さらに「過剰な派遣労働規制、有期雇用規制の見直し」を進めるとある。有期雇用規制(労働契約法新一八、一九、二〇条)は四月一日に施行されたばかりだが、早くもその見直しを持ち出している。
 五点目では「解雇ルールの明確化」を要求している。民法六二七条には、いわゆる解雇自由の原則がある。解雇自由と書かれているわけではないが、二週間の予告で契約は解約できるとある。それを労働契約法に明記しろと要求している。これはウルトラな要求だ。
 民法の「契約自由」のなかに労働契約も入っているというのが、解雇自由論者の基本的な考え方だ。しかし、労働基本権はきわめて大切だという視点から、特別法として民法の上につくられてきた。
 そこには実際の歴史的な経緯があり、労働者の闘争によって、解雇自由を認めないという判決を勝ちとってきた。解雇乱用は認めないのだと。整理解雇の四要件もそうだ。会社が経営上の都合で解雇する労働者にはなんの責任もない整理解雇は、それが絶対必要、努力を尽くしても解雇に代わる方策がない、人選基準を平等にしなければいけない、労使の話し合いが必要、という四つの項目を満たしてはじめて成立する。これも労働者の闘いを通じて積み上げてきたことだった。そのように労働者の解雇にはさまざまな制約や規制を加えてきたが、その歴史を反故にしようということだ。

「雇用改革」―
三つのシナリオ


 一方、規制改革会議(第四回、三月八日)はワーキング・グループによる検討項目と、それぞれの優先事項を示した。「健康・医療」「エネルギー・環境」「創業等」と「雇用」の四分野であり、「雇用」のワーキンググループは八つの検討項目をあげ、「働きやすい労働環境の整備」の中の二項目にあたる「勤務地や職務限定」型労働者の雇用ルールと、職業紹介事業の見直しを優先事項とした。
 このような議論の理解のために、規制改革会議の「雇用ワーキング・グループ」の資料、「雇用改革の「三本の矢」〜人が働くために」(三月二八日、第一回会合)を見てみよう。提出者は座長である鶴光太郎という慶應大学の教授だ。今の財界の主流とは言えないまでも、新しい考え方がそこにある。

●「シナリオ1」〜「デフレ脱却と賃金上昇のために」

 彼は、企業は雇用調整に関して「数量調整」よりもあまりに「価格調整」に頼りすぎたのではないか、労働者の数の調整よりも、賃金の調整つまり「賃金の抑制・低下及び非正規雇用の活用に頼り過ぎたのではないか」と「失われた二〇年」を振り返っている(このような分析はいくつか公表されている)。非正規雇用の拡大はまずかったのではないかと聞こえなくもない、そういう表現を使って彼らなりの総括をしている。
 「春闘」にも言及している。「日本のマクロ経済の大きな特徴であった『春闘』という言葉も形骸化」し、「基幹産業の賃金引上げが国全体に均てんしていくプロセスの消滅」と現状を評価している。
 春闘はもともと大企業での賃金引上げが中小企業の闘いに引き継がれ、公務員闘争と合流し、それが年金にまで波及していった。労働者の春闘は、六月から七月にかけて米価を中心とする農民の闘争に大きな影響を与え、事実において二つの闘争は連動した。
 こうした基幹産業の賃上げが国民全体の生活の引き上げにつながったという意味での「春闘」はなくなった。だからどうすべきなのか、こう向こう側が指摘している。
 こうして「今こそ、『価格調整』に偏り過ぎた雇用を巡る調整のバランスを取り戻すべき時では」と課題を組み立てる。そこで強調されているのは、「賃金を上げるのであれば、雇用の柔軟性を高める政策を実行すべき」だというもの。そして企業・経営側にとって「六重苦」の一つと(デマとして)宣伝されている労働規制への対処を求める。
 実はこの出発点的論理が分からない、というよりもデタラメだ。資本主義の下では労働力も商品だから(世間的には労働力市場という言葉が当たり前のように通用している)、その動きには市場の論理が働く。その市場の論理では、雇用が柔軟化されれば買い手市場化が強まり、賃金は下落する。そうしたメカニズムは経験的にも十分に実証済みだ。だから労働組合自身、労働力カルテルとして出発している。つまり、賃金を高めるための雇用柔軟化、という理屈は、最初から嘘をごまかす御都合主義の作文にすぎない。
 しかしいずれにしろ、こうしたことの結論として「雇用改革の三本の矢」と称し、「出」(企業から人が動く、正社員改革)、「入」(企業に人が入る、民間人材ビジネス規制の見直し)、「中」(就業までのサポート、セイフティネット・職業教育訓練の強化)が提示されている。

●「シナリオ2」〜「人口減少に負けない成長力強化」

 また「長期的な観点からは、人口減少社会への対応が重要」であり、「成長力強化のためには、女性・高齢者等の労働参加促進と就労者すべての生産性向上が必要」と主張している。
 「女性・高齢者の労働力率」を高めるためには「多用な働き方」が必要であり、生産性向上のためには「人的資本強化」「労働再分配の促進(人が動く)」の方策が求められるという。

●「シナリオ3」〜「労働市場二極化是正」

 ここでレポートは再度、「労働市場二極化是正」に戻る。「数量調整」より「価格調整」に頼った結果、正規社員と非正規社員に二極化した。非正規社員は今三五%、ある統計によると三七%までになっている。このような労働市場の二極化を是正する必要があり、「有期雇用など正社員になれなかった不本意な非正規雇用の増大、雇用形態による処遇格差」が問題になっているとして、このような非正規雇用の増大は「訓練・能力開発機会の減少等による生産性低下や、社会的一体性の喪失につながる恐れも」あると指摘する。
 そういう問題を克服するために、非正規雇用を正規雇用に転換させる必要があり、そのための「転換サポート」が問われていると、このレポートはつなげていく。「合理的理由のない不利益取扱い禁止など、非正規雇用対策を進める必要がある」と書かれていて、ここだけ見ると、なかなかいいことじゃないかと思われるかもしれないが、しかし「正規雇用への改革も含めて行われなければ二極化の抜本的な解決なし」という文が結論として続く。
 つまり二極化は問題だが、是正のためには非正規雇用ではなく、正規雇用を改革する必要があるということになる。  (つづく)

 


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